私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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44.彼女の目の前で仕事をサボろうとするのは愚の骨頂である

「真人さん。ちょっといいですか?」

 

「何!? また五条悟が何か壊したの!? もうこれ以上魂刻めないんだけど!?」

 

 真人の悲鳴がオフィスに響き渡る。

 魂を分割して分身に仕事を任せてしまえば自分はサボれるのでは? なんてことを考えたのが間違いだった。

 禰々の指示によって真人は魂を刻めるだけ刻まされ、分身一人一人に大量の仕事を割り振られる羽目に。

 

「一人だけ楽をしようとするからこうなるんだよ」

 

「フン、いい様だな真人」

 

 そして羂索や漏瑚もそれを止めようとはしない。

 人員は喉から手が出るほど欲しいところだし、何より書類だらけのオフィスに一日中閉じ込められている身としては自分よりひどい目に遭っている者を見て憂さ晴らしするくらいしか楽しみがないのだ。

 

「まあ、そうカリカリせずに。今回は朗報です。呪詛師に協力していた方々を適当に見繕ってきたので呪胎九相図を受肉させますよ」

 

「え! マジ!?」

 

 そこへついに待ち望んだ増員の一報。

 真人達は思わず飛び上がったり叫び出したりするが、同じ顔が一斉に狂喜乱舞し始めるというのは絵面としてはかなりホラーである。

 

「さあやろう! 今すぐやろう!」

 

 真人は人員が増えることに喜んでいるが、もちろん禰々は楽をさせるつもりはない。

 人員が増えたならその分仕事も増やすだけのこと。

 真人達にやらせている仕事は氷山の一角。

 補助監督の仕事はまだまだあるのだから。

 別室に移動すると禰々は連れてきた三人の男のうちの一人を壁に釘で固定する。

 

「おいっ! オマエ! 金……金!? 俺! 渡しただろ!? 依頼してきたヤツからもらった金も! 貯めてた金も! さっきサラ金から借りた金も全部! 情報だって吐いて──」

 

「そうすれば助けるとは言ってませんよ? というかどの道アナタは死刑なので諦めてください」

 

「前から思ってたけど君ってホントさぁ……いや、やっぱりいいや」

 

 徹底的に搾り取るだけ搾り取って無慈悲に男に死を宣告する禰々に真人は軽く引いたが、彼女の性格が悪いのはわかりきっていることだったと口を噤んだ。

 今は他にやるべきことがある。

 

「はい、あーん」

 

 真人は保管用のカプセルから呪胎九相図を取り出すと男の口にねじ込んだ。

 

「お゛っ……おっ……!?」

 

 ゴクリ、とそれを飲み込んだ瞬間、男の目からボタボタと血が流れていく。

 そして男の苦悶の声と肉体が変形する音がしばらく続いた後、そこには緑青色の化物が立っていた。

 

「や、起き抜けに申し訳ないんだけどさ。ちょっとこの書類捌くの手伝ってくんない?」

 

「……は?」

 

◆ ◆ ◆

 

 密かに呪胎九相図が受肉してから数日後──。

 とある事件の調査のため、虎杖、伏黒、釘崎の三人は補助監督の新田が運転する車で埼玉県へ向かっていた。

 

「最近、禰々さんってどこ行ってんだろうな? 今朝も大量に書類詰めた段ボール箱車に積んで出ていったけど」

 

「あ、それ私も気になってたのよね。しかも連日」

 

「禰々さんが忙しいのは年中っすけど、交流会の特級呪霊乱入事件のこともあって色々走り回ってるみたいっす」

 

「あれから何かわかったんですか?」

 

「いや、それがさっぱりなんすよ」

 

 宿儺の指や呪胎九相図が盗まれたこともあり、事件の内容はほとんどが伏せられてしまっている。

 新田が知らされたのは交流会に特級呪霊が乱入してきたこと。それによって生徒数人が負傷したことだけ。

 禰々に聞いても「知らされている以上のことは話せない」と言われた。

 

「まあ、それはそれとして今回の事件の内容なんすけど──」

 

 事件の概要はこうだ。

 被害者は金田、島田、大和という三人の男性。それぞれ自宅マンションのエントランスで呪霊による刺殺。しかも全員揃って殺害される数週間前からオートロックの自動ドアが開きっぱなしだと管理会社に苦情を入れていた。

 そして被害者三人の共通点を調べたところ、同じ中学に二年間在籍していたことが判明。

 

「今からその中学と三人の被害者の共通の知人に話を聞くので三人にも術師視点で色々と探ってほしいっす」

 

 しかし数分後、被害者達の共通の知人──森下の家に着いた虎杖達の目に飛び込んできたのは御霊灯。

 

「葬式……」

 

「ここがその知人の家?」

 

「そう……なんすけど……」

 

 両親に話を聞けば、会うはずの共通の知人は既に亡くなっていた。

 他の三人と同じように呪霊による刺殺。

 被害者は数日前から家族に「鍵が開いているのにドアが開かない」と言っていたらしい。

 まさかの一足違いで貴重な情報提供者を失ってしまうとは。

 

「ああー……唯一の手がかりが……」

 

 がっくりと新田は肩を落とす。

 こうなれば頼みの綱は被害者達が通っていた中学校だ。

 四人は再び車に乗り込むと中学校へ移動。

 だが、あまり治安のいい学校ではないらしい。

 適当に校内へ入っていくと、見るからに不良ですと言わんばかりの少年達が二人で屯してタバコを吹かしている。

 

「お?」

 

「あ?」

 

 不良達は虎杖達に気付くなり睨みを利かせてくるが、次の瞬間二人の態度は一変した。

 まるで猛獣にでも会ったかのように「ヒィッ!」と声を上げると、きっちり九十度の角度で勢いよく頭を下げたのだ。

 

「「おっ、お疲れ様です!」」

 

 更に続けて──

 

()()()()()()()()()()()!」

 

「「え?」」

 

 名前が呼ばれたことで虎杖達の視線が一斉に伏黒に集中する。

 

「俺……中学……ココ……」

 

 そして、なぜか突然伏黒の口調は片言になり、視線は明後日の方向へ。

 普段冷静沈着な伏黒にしてはあまりにも怪しすぎる。

 

「それも驚きだけどそうじゃねぇだろ。こっち見ろ」

 

「何した!? お前、中学で何した!?」

 

 釘崎と虎杖が二人がかりで問い詰めるが、伏黒は口を真一文字に結んで決して答えようとしない。

 

「アイツらに聞いたほうが早いな」

 

「おい、バカA、バカB! 伏黒に何された!」

 

 釘崎が怒鳴ると、不良達はお辞儀したまま顔だけを上げ、少し気まずそうに口を開いた。

 

「俺ら……っていうかこの辺の不良、半グレ、その他諸々伏黒さんにボコられてますから」

 

「え? え?」

 

 その言葉に再度伏黒に視線が向く。

 やはり本人の顔は明後日の方向であったが。

 

「…………。ボコ……った……」

 

「何でさっきからカタコトなんだよ。こっち見ろって」

 

「何してんの? お前何してんの?」

 

 釘崎が顎を掴んでこちらに顔を向けさせようとしても、虎杖が肩を掴んで揺さぶっても、伏黒は無理矢理顔を背けてしまう。

 

「コラ! 何だ君達は! 他校の生徒が入っちゃいかん!」

 

 すると突然、背後から声がかけられる。

 その声に四人揃って振り向けば、こちらに駆け寄ってきたのは作業服を着た男性。

 用務員の武田だった。

 

「あっ……伏黒君か?」

 

「……ども」

 

 武田は伏黒の顔を覚えていたらしい。

 まあ、あれだけ暴れていた伏黒を忘れるというほうが無理な話か。

 伸した不良達を山積みにしたり、横断幕に吊るしたことは近隣では有名な伝説だ。

 何にせよ顔見知りが来てくれたのはありがたい。

 この学校に勤めて長い武田なら何か知っていることがあるかもしれない。

 伏黒は呪い関連のことは誤魔化しつつ、ここまでの経緯を説明する。

 

「金田、島田、大和……それに森下か。亡くなったことにも驚きだが、彼らが卒業してもう二十年近くたつのか。昨日のことのように覚えているよ。伏黒君ほどではないが問題児だったからね。何が聞きたい?」

 

「変な噂、黒い噂、悪い大人との付き合い……後、罰当たりな話とかあれば」

 

「黒い噂? 問題児とはいえ並の中学生の域は出んよ。だが待て。罰当たり……」

 

「あれじゃないですか? 八十八橋のバンジー」

 

 すると、まだその場に残っていた不良の片割れが口を開いた。

 

「八十八橋って?」

 

「自殺の名所。この辺で有名な心霊スポットだ」

 

「おおっ、そうだ。八十八橋で深夜バンジージャンプするのが不良少年の間で流行ったんだ。いわゆる度胸試しだね」

 

 武田の話によると、ある日、四人が揃って無断欠席したらしい。それ自体はそう珍しいことではなかったのだが、家に連絡してみると前日から帰っていないという。さすがに結構な騒ぎになったが、幸いにも四人はすぐに橋の下で倒れているところを発見された。

 しかしその後、四人に話を聞いても「何も覚えていない」の一点張り。

 何があったのかは全くわからないという。

 

「当たり……っスかね」

 

 駐車場に戻ってきた四人は事前の情報と武田から聞いた話を擦り合わせる。

 被害者四人は二十年前、八十八橋でバンジージャンプをした際に呪いを受けた。

 それが今になって発動──呪殺されたという流れで確定したと考えていいだろう。

 

「八十八橋なら俺も行ったことありますけど、そん時は何ともなかったです。有名っちゃ有名ですけど普通に使われてる橋ですし」

 

 呪いを受ける条件があると考えるべきだ。

 だが、これ以上話を聞ける人間がいないため、その条件を絞れない。

 

「でも行ってみるしかないわよね」

 

「そっすね」

 

「──伏黒君」

 

 車に乗り込もうとしたとき、後ろから名前を呼ばれて振り返ってみればそこにいたのは武田だった。

 何か忘れていたことでもあったのだろうか。

 

「すまない。気になることがあってね」

 

「どうしたんすか?」

 

「学校にいたときは色々世話になってたんでな。津美紀君は元気か?」

 

「ああ……元気ですよ。たまに電話してきたかと思えば喧嘩してないか確認してくるくらいには」

 

「ははっ、そうか。ならいいんだ」

 

 すると伏黒の両側から虎杖と釘崎が顔を出す。

 

「ツミキって誰?」

 

「……姉貴」

 

「はぁ!? アンタ、自分の話をしなさすぎじゃない!?」

 

「そうだそうだ!」

 

「いいから行くぞ。武田さん、ありがとうございました」

 

「ああ。気を付けて」

 

 文句を言う虎杖と釘崎を車に押し込んで四人が次に目指したのは八十八橋。

 恐らくそこに一連の事件の原因がある。

 

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