私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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47.彼女は九相図兄弟に提案する

呪霊側(アイツら)にはつかない」

 

 そう言ったのは黒と白の法衣を纏った気だるげな雰囲気の青年。

 呪胎九相図の長男──脹相である。

 

「胡散臭いから?」

 

 それに返したのはモヒカンに蝶ネクタイ、女性物のボディハーネス、Tバックという奇抜な格好をした褐色肌の男。

 呪胎九相図の次男──壊相。

 

「それもあるが……オマエ達、受肉してから何をしていた?」

 

「五条悟が任務で破壊した建物や調度品の修復依頼の書類を作っていました」

 

「俺は血で書類が汚れるからって……五条悟がぶっ壊した建物の瓦礫の片付けしてたぁ」

 

 最後に口を開いたのは青緑色の肌にずんぐりとした胴体、ボタボタと血を垂れ流す巨大な口が特徴的な呪胎九相図の三男──血塗。

 

「そうだ。百五十年ぶりに目を覚まして以降、俺達は仕事しかしていない。しかも、アイツらは衣食住を提供してやるからと言ってバカげた量の仕事を平然と押し付けてくる」

 

 呪霊達が望む世界のほうが脹相達にとっても都合がいいのは確かだ。

 脹相、壊相はまだ人間に近い見た目だが、血塗は一般人が見れば一様に化物と呼ぶだろう。

 しかも、脹相達は呪霊と人間の混血児ということもあり、肉体が存在するため、呪力のない人間にも視認できてしまう。

 三人揃って人間に混じって生活するのは無理だ。

 それならいっそ呪霊が中心の世界のほうが生きやすい。

 

「だが、このままだと世界云々以前に俺達が死ぬ……!」

 

 純粋な人間より頑丈な呪胎九相図兄弟だが、それでも限界はある。

 連日積み上げられる大量の仕事に脹相達はすっかり疲弊していた。

 必死に終わらせたのに「前回はできたんですから今回もできますよね」と逆に増えていく書類の山。

 当然だが睡眠時間はゴリゴリと削られる上、五条が壊した建造物の修理費で金が飛んでいくため、食事は栄養補助食品と水。

 百五十年待ってこの扱いとはあんまりだ。

 

「縛りがある以上、逃げることは難しい。あの男と交渉して縛りを解いてもらうのが一番だが……」

 

 あの大量の仕事がある以上、脹相達を逃がしてくれるとは思えない。

 いくら受肉直後で頭が働いていなかったとしても安易に縛りを結ぶべきではなかった。

 

「それに、そもそもあそこを牛耳っているのはあの縫い目の男じゃない。仕事を持ってきているのは禰々と名乗ったアイツだ。壊相、最初にあの女を見てどう思った?」

 

「随分と華奢な女だと思いましたが……」

 

「そうだろう。あの見た目に誰もが騙される。仮に戦ったら術式どころか武器なしでも勝てるだろう。反撃されたところで怖くもない」

 

 だが、それは純粋な戦闘の場合だ。

 禰々の本質が生きるのはそこではない。

 

「別の何かがある……と?」

 

「ああ、あの女は恐ろしく頭が切れる。それも悪い方向に」

 

 禰々の望むレベルで仕事をこなすという縛りを盾にやりたい放題。

 縛りの内容にはその量も内容も制限がない。

 脹相達がそうだったように、一介の事務員の作業量など……と考えていればあの書類の山だ。

 

「もちろんただ仕事を押し付けるだけならどこかで切り捨てられる。縛りを結んでいない呪詛師に殺させればいいだけだからな」

 

「しかし、彼らはそうしない……」

 

「何でだぁ?」

 

「ヤツが自分の価値をわかっているからだ。縫い目の男とのやり取りを聞いていたが、あの女は高専の機密情報から上層部の老人達の弱味まであらゆる情報を手に入れてくる」

 

 禰々によって堅牢極まるセキュリティが組まれてしまったため、羂索が高専内の情報を手に入れられる機会は著しく減ってしまった。

 今ここで禰々を失えばもう新しい情報は得られないし、何より高専に感付かれるのは絶対に回避しなければならない。

 

「だから無茶を強いられても殺せない……」

 

「それにヤツらは俺達よりも長くあの環境に耐えてきた」

 

 するとどうなるか。

 羂索達は「ここまでやったのだから今更やめるなんてことはできない」と完全にやめ時を失ってしまった。

 もう彼らは宿願を果たすまであの環境からは抜け出せない。

 

「あの女は狙ってこの状況を作り出した。そして、まだ何か企んでいると考えていい」

 

 ここまで気付けたのも、まだこの環境に身を置いて日が浅かったからこそ。

 

「俺達が抜け出すなら今しかない。このままでは死ぬまで使い潰されるぞ。何かないか、オマエ達……三人寄れば文殊の知恵と言うだろ」

 

「と言われても……」

 

「思い付かねぇなぁ……」

 

 そんな簡単に抜け道が見つかるなら脹相達はとっくに逃げている。

 何でもいい。あの大量の仕事から逃げられるなら何でもする。

 すると──

 

「一つ提案があるのですが」

 

「「「なっ……!?」」」

 

 突然、背後からかけられた声に振り向くと、そこには禰々が立っていた。

 

(マズい……!)

 

 脹相達に緊張が走る。

 脱走の算段を立てていたのを聞かれてしまった。

 もしも今の発言が、禰々が望むレベルの仕事をこなすという縛りに抵触すると判断されてしまえば、ここで三兄弟全滅もありえる。

 

(ヤツを害さないことも縛りのうちだが……刺し違えても弟達だけは逃がす!)

 

「百歛──」

 

「ストップ。脹相さん、アナタの望みは兄弟三人で生きていくことでしょう? なら、ここでバカな真似はしないほうが賢明だと思いますが」

 

「何?」

 

 訝しむ脹相に対して禰々はニコリと綺麗な笑みを浮かべてみせた。

 

「さて、先ほども言いましたが、そんなアナタ達に一つ提案があるのです。兄弟三人で生きていくための素敵な提案が」

 

「……俺達に何をさせるつもりだ」

 

「別に難しいことを言うつもりはありませんよ。少しお遣いに行ってもらうだけですから」

 

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