「うおっ!?」
そんな叫び声とともに私の目の前に倒れこんだのは五条先輩です。
昨日、初対面にも関わらず《禪院筋が後輩とかマジありえねーんだけど》などと言ってきたあの先輩です。
「ああ、見事に引っかかりましたね」
隣にいた夏油先輩は何が起こったのかわからないと言うように呆然とした様子ですが、別に私の仕掛けたトラップは大したものではありません。
廊下の角を曲がってすぐの床に強力な両面テープを三十センチ四方ほどの大きさで張り付けておいただけ。
呪力も何もない市販品ですから五条先輩の呪力探知でも気付けなかったようですね。
両面テープを踏んでしまった五条先輩は、いきなり靴が床に貼り付いたことでたたらを踏んで転んでしまったというわけです。
「何かできるならやってみろと言われたのでやってみたのですがどうですか?」
しゃがみこんで五条先輩の見事な白髪をちょんちょんと啄いてみます。
「あんまり初対面で人をザコザコ言うものじゃないですよ。そのザコにやられてるんですから」
「禪院……テメェの仕業かよ」
顔を上げてジロリと睨み付けてくる五条先輩ですが、私はアナタに言われた通りにしただけですよ。
恨むなら昨日のアナタを恨んでくださいね。
「ああ、それから昨日言い忘れていましたが名字で呼ばないでください。その名字嫌いなんですよ」
「うるせぇ。ザコが指図すんな」
「おや、謝るならこれで手打ちにしようかと思いましたけど、どうやら足りなかったようですね」
「ハッ、誰がてめぇなんかに謝るかっての」
そう言って五条先輩は靴を脱ぎ捨てて勢いよく立ち上がるなり、私に向かって手を伸ばしてきました。
ですが、捕まればそれこそ私になす術はないのでトラップ第二弾を発動します。
「えい」
「っと!?」
五条先輩が踏み出しかけた足元に今朝食べたバナナの皮を滑り込ませ、体勢を崩した隙に全力でダッシュ。
まともに五条先輩の相手をするほど私はバカではないのです。
「両面テープの次はバナナの皮かよ……! ふざけやがって……」
おや、足元に術式を展開して倒れる速度を極限まで遅くしたようですね。
すぐに体勢を立て直して追いかけてきました。
「中々器用なことするじゃないですか」
「ザコのオマエとは違うんだよ!」
この先輩は私のことをザコと言わないと死ぬ病気なんでしょうか。
それにしてもやっぱり脚が長いだけあって速いですね。というか呪力で脚を強化して追いかけてくるとは。大人げない先輩です。
とりあえず追い付かれそうなので事前に開けていた一階の窓から飛び出します。
続いて五条先輩も私と同じ窓から飛び出してきますが──
「──ッ!?」
窓枠を越えようとしたところでもんどり打ったように体勢を崩して頭から地面に落ちていきました。
窓枠の上から数センチのところに張っていた極細のワイヤーにまんまと引っ掛かりましたね。
「身体が大きいと大変ですね、五条先輩」
「てめぇ……! こんなので勝った気になってんじゃねぇよザコが!」
「ふーん? まだ言いますか」
今度も術式を使ってスレスレで地面に頭をぶつけることはなかったようですが、逆さまになった状態で言われても可笑しいだけですよ。
「まあ、それならそれでいいですよ。アナタの心が折れるまで私は私のやり方を続けるだけです」
「へっ……こんなショボいやり方で俺が負けを認めるわけねぇだろバーカ!」
それはどうでしょうね。今の仕掛けはそこそこ五条先輩を動揺させたと思いますが。
今まで五条先輩は散々暗殺の危険に晒されてきたはずです。
しかし、それゆえにこういうやり方は経験がないでしょう。何せ呪力を全く使わない──呪術師の土俵の外のやり方ですから。
「覚悟してくださいよ? 私、性格悪いので」
星漿体の件が終わったところでストックがなくなるんですが、参考までにお聞きします。後の展開としてメロンパンをボコるために夏油の闇堕ちは──
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あり。メロンパンはボコろう。
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なし。夏油様の闇堕ちなど許さない。