「ハァッ……ハッ……」
呪詛師達への通達を終えた裏梅は作戦後の合流地点へ向かおうと渋谷を歩いていた。
しかし、その額には冷や汗が浮かび、足取りはフラフラとおぼつかない。
「は……腹が……」
異変が起きたのは数分前。
呪詛師達に帳を降ろすように伝えた直後、少し熱っぽさを感じてからだった。
あれだけめちゃくちゃな生活を送っていたのだから少し体調を崩すこともあるだろうと思っていた。
だが、それから急激な腹痛。
連鎖するように猛烈な吐き気。
働き詰めで寝不足だったところにこれだ。
とうとう歩くこともできなくなり、裏梅はその場に座り込んでしまった。
(何だこれは……ただの過労じゃない。病気……? いや、毒……!?)
そう、禰々によるトラップは既に仕込まれていた。
無茶が日常茶飯事だったこの数ヶ月。
裏梅達にとってエナジードリンクは手離せないものになっていた。
最初は一日一本程度だったものが次第に二本、三本と増え、今では一日に五本以上飲むことも。
大量の仕事を前に用量、用法の注意書きなんて気にしていられなかったのだ。
今日もそうだった。
朝に一本、昼に一本、夕方に一本──そして渋谷で事を起こす直前にも一本。
何の疑いもなく、いつも通り禰々から渡されたものを。
その中に禰々が
「何とか解毒を……」
裏梅は反転術式で解毒しようとするが、それができるほどの余裕はない。
なぜなら解毒には原因物質の特定と除去のために通常より高度な反転術式の運用が求められる。
ただでさえ疲弊していたところに一気に押し寄せた発熱、腹痛、吐き気。
裏梅の集中を乱すには十分だった。
そして、裏梅の不幸は更に続く。
「おい、大丈夫か」
「あ?」
突然、踞った裏梅の頭上から声が降ってきた。
低い男の声。
どうやら道路のど真ん中で踞っている裏梅を不審に思い、声をかけてきたらしい。
「おい?」
「うるさい……私に構う……な……」
なおも声をかけてくる男に裏梅は苛立ち、思わず顔を上げるが、そこで裏梅の目が見開かれる。
「なぜ……オマエがここに──」
それ以上言葉を紡ぐより早く、裏梅の胸に走る衝撃。
それに続いて熱さにも似た痛みが広がっていく。
視線を下げると、見えたのは自分の胸を貫く血に塗れた刀身。
「ごふっ……」
口から血が零れる。
それからようやく攻撃されたのだと頭が動き出すが、あまりにも遅すぎた。
術式を使うより早く。
呪力で体を強化するより更に早く。
裏梅の首は切り落とされていた。
「《体調が悪そうなヤツに声をかけろ》──確かに俺の顔見て反応するのは呪術関係者だけだからな」
武器庫呪霊に裏梅の死体と用済みになったメモを放り込むと、裏梅を倒した人物は悠々とした足取りで帳の降りた渋谷駅へと向かっていく。
「さて、次の指示は──」