私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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56.彼女の影響を受けた人間を相手にするとどうなるのか

「冥冥さんから追加で情報提供があったそうです。帳の外に術者がいる可能性が高い、と」

 

 伊地知からのメールを受け取った七海。

 確かにそれは盲点だったと考えを改める。

 嘱託式の帳なんてものを作る相手だ。

 今回も結界術の基本を無視していることを考慮するべきだった。

 

「その理屈なら帳の基をより見つかりやすい場所に配置することで更に強度を上げている可能性が高いですね」

 

「となると……」

 

 三人は揃って周辺で一番高い建物──渋谷Cタワーに目を向けた。

 

◆ ◆ ◆

 

「まさかオガミ婆が過労で心臓発作起こしてそのままポックリ逝っちまうとは……孫も資金稼ぎでマグロ漁船に乗せられてるし」

 

 呪詛師──粟坂は渋谷Cタワーの屋上でぼやいていた。

 あの五条悟を封印できると聞いて策に乗ったのが運の尽き。

 五条を封印するために必要なことだと縛りを結ばされた後、毎日毎日発狂しそうになるほどの仕事を押し付けられる地獄の日々が始まったのだ。

 還暦を迎えた体で連日徹夜の上、食事はゼリー飲料やエナジードリンクのみとはさすがに無茶が過ぎた。

 体重は減り、筋肉も痩せ細り、不整脈や眩暈は当たり前に。

 おかげで待ち望んだ日がきたというのにコンディションは最悪だ。

 

「まあ、いい。五条悟さえ封印できればまた俺達の時代が──」

 

 粟坂の言葉は最後まで続かなかった。

 伏黒が出した鵺が、いきなりタワーの真下から現れたからだ。

 更に鵺の脚に掴まっている猪野が自らの術式を発動させる。

 

「竜!」

 

 猪野の術式──来訪瑞獣。

 顔を隠し、自らが霊媒となることで四種の瑞獣の力を使役できる降霊術系の術式である。

 竜は猪野の術式でも最大火力を誇るもの。

 出し惜しみはしないとばかりに竜型の獣が粟坂めがけて突進した。

 

「おう゛っ!?」

 

 吹き飛ばされ、タワーから転落していく粟坂。

 竜の攻撃。更に地上四十一階からの落下。

 術師と言えどただではすまないはずだ。

 

「猪野さんの奇襲は成功したみたいですね」

 

「これで術師を入れない帳が上がれば少しは自由に動けます。まだ電波が断たれているのがネックではありますが──」

 

 念のためビルの下で待ち構える伏黒と七海。

 接地の瞬間を確認するまで気は抜けない。

 すると、そこへ──

 

「キサマら何をやっている! 我々は五条悟単独で事を収めろと通達したはずだ!」

 

 現れたのは顔の下半分を黒い布で覆い隠した男。

 伏黒には覚えがなかったが、七海はその言動から男の正体に気付いた。

 

(上層部の子飼いの部下ですか……)

 

 七海達が上層部の指示を無視して動いているのに気付いたらしい。

 ここで逆らえば七海達が処刑対象に認定されるのは確実だ。

 だが、そんなことよりも七海にとっては禰々の指示のほうが重要である。

 七海はチラリと落ちてくる粟坂に目を向け、刹那の間で思考を働かせる。

 

(あの呪詛師……まだ生きていますね)

 

 猪野が手持ちの中で一番火力の高い式神で攻撃したというのに目立った負傷はなし。

 何か仕掛けがあると七海は見抜いていた。

 

(呪詛師を倒しながら彼にも対処するなら……)

 

 粟坂の落下地点に七海は素早く走る。

 そして鉈を真横に振り抜くと、部下の方向めがけて粟坂を吹き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

 突然のことに部下は対応が遅れ、そのまま粟坂と衝突。

 二人で縺れ合って数メートルほど転がっていく。

 

「キ……キサマどういうつもり──」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 部下の言葉を無視して七海は突然そう言った。

 確かに部下は粟坂がすぐに攻撃できる範囲にいるため、無理矢理そういう解釈をすることはできなくもないだろう。

 そして、その意図を伏黒は即座に察する。

 

「どうしますか?」

 

「彼も呪術師です。呪術師たるもの、どんなことがあろうと呪詛師に屈したりすることはないと()()()()。たとえ自分の身を犠牲にしてでも呪詛師を討つという呪術師の本分を果たせと考えている()()

 

「は? おい、さっきから何を言って──」

 

「そこまで覚悟が決まっているなら仕方ありませんね。俺も覚悟を決めます」

 

 七海と同じく部下の言葉を無視して棒読みの芝居に白々しく乗っかる伏黒。

 さすが禰々と甚爾による英才教育を受けただけはある。

 

「脱兎!」

 

 まず伏黒が出したのは大量の脱兎。

 こちらを目隠ししつつ、牽制として粟坂達のほうにも展開。

 相手の意識が前方に集中した瞬間を狙い──

 

「万象!」

 

 上から万象を落として押し潰す。

 

「ぐあぁぁっ!?」

 

 直撃は何とか免れたものの、自分から五センチと離れていない位置に万象を落とされた部下は堪ったものではない。

 衝撃波が脳を揺らし、高速で吹き飛んだアスファルトの欠片がいくつも体に突き刺さる。

 だが、血塗れになりながら悲鳴を上げて悶える部下とは違い、万象が直撃した粟坂からは一滴の血も流れていない。

 竜の攻撃、七海の斬撃、万象による押し潰し──普通なら原型をとどめていないはずだ。

 

「起きろ、たぬきジジイ」

 

「まったく──」

 

 さすがにこれ以上の狸寝入りは無理があると思ったのか粟坂は平然と起き上がる。

 

「若者は年寄りを労らんかい」

 

 まるで攻撃が効いた様子がない。

 

「攻撃の無効化ですかね?」

 

「いや、そこまで便利な術式ならもっと有名になっていてもおかしくありません。何か条件があるか無効化と似た術式でしょう」

 

 このまま普通に攻撃しても無駄に消耗するだけ。

 ただ威力の高い攻撃では意味がないと二人は判断した。

 

「こういうときは──」

 

「──禰々さんならどうするか、ですね」

 

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