私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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59.彼女からの指示は「適当に邪魔をしてください」

「来たな」

 

 東京メトロ渋谷駅 B5F副都心線ホーム──そこで漏瑚、花御、脹相の三人は待ち構えていた。

 

「準備バッチリってわけだ。これで負けたら言い訳できないよ?」

 

 漏瑚達を煽りながらも五条は素早く周りを観察する。

 ホームには多数の一般人。

 真人の姿は確認できず。

 

(黒幕の気配もなし……)

 

 まあ、それはそうだろう。

 これで気配を悟られるなら五条は真っ先に殺しにいく。

 

(禰々も見当たらない……まあ、アイツは裏で何か動いてるだろうから問題ないか)

 

 あの禰々のことだから縛りを結んでいるなら己の保身に関する内容も含んでいるだろう。

 殺されているという心配はいらないはずだ。

 

(地上の一般人をどう使うつもりなのかわからないってことも気がかりではあるんだけど)

 

 すると、五条が視線を上に向けたことで逃亡を警戒したのか、花御の伸ばした木の根が吹き抜けを塞ぐ。

 

「んなことしなくたって逃げないよ。僕が逃げたらオマエらここの人間全員殺すだろ」

 

「逃げたら……か」

 

 すると、ニヤリと漏瑚の口が弧を描く。

 

「逃げずとも、だ」

 

 同時に左右のホームドアが開き、ホームにいた一般人達が線路に雪崩れ込んできた。

 わざわざハロウィンの渋谷でテロを開始したあたりで大体予想はしていたが、やはり一般人を盾にしようというつもりらしい。

 

(まずはコイツらの相手をしてからってわけね)

 

 混乱している一般人達に「下がって」と声をかけつつ、まずは漏瑚達の動きを観察する。

 正直なところ、今回の懸念は獄門疆の一点のみ。

 特級呪霊が相手だろうと火力も技術も五条が上。

 そうでなければ最強など名乗っていない。

 そして、周りにいる数多の一般人。

 これも五条にはあまり関係ない。

 戦いが始まってしまえば全員助けるのは無理だ。

 どう動いたところで漏瑚達の攻撃に巻き込まれて死ぬ者は出てくるだろう。

 ある程度の犠牲は割り切ってしまわなければ。

 

(とは言うものの、僕が一般人を殺すわけにはいかないから蒼も赫も使えない。当然だけど領域も)

 

 無量空処は領域内の対象に膨大な情報の知覚と伝達を強制させる。

 一般人がそれを受ければ、ほぼ確実に何か後遺症を負うか廃人だ。

 仮に漏瑚達だけを領域内に閉じ込めたとしても、領域の外殻と一般人を閉じ込める帳の間で押し退けられた一般人は圧死する。

 

(体術と呪力操作で押し切るしかないか)

 

 動き方は決まった。

 なるべくコンパクトに攻めつつ、一般人が逃げて空いたスペースで戦う。

 

(それにアイツらも結構削られてる。交流会のダメージに加えて不眠不休で大量の仕事を処理させられたんだろ。そりゃ特級呪霊だって疲弊するか)

 

 六眼で漏瑚達を見ると呪力量はまだそこそこあるものの、明らかに無駄な漏出があり、制御しきれていない様子だった。

 五条は術式を封じられたが、漏瑚達も万全の状態ではない。

 それでも、ここまで自信満々ということは何か対策があるのだろう。

 その疲弊しきった様で何ができるのか。

 

(さあ、どう来る?)

 

 蒼と赫、茈、無量空処は封じられたが五条には絶対防御の無下限がある。

 それを攻略しない限り五条を倒すどころか傷一つつけるのも不可能だ。

 しかし、漏瑚達も効かないのがわかっていて普通に攻撃するほど馬鹿ではない。

 無下限への対策は練ってあった。

 

「「領域展延」」

 

 漏瑚と花御が同時に放った拳が無下限に触れた瞬間、ゴリゴリと妙な音を立てる。

 

「んー……なるほど」

 

 その反応を見て五条は漏瑚達がやっていることの正体に見当がついた。

 シン・陰流の簡易領域を更に練り上げたものに近い。

 身に薄く纏った術式を搭載できるだけの領域に、あえて術式を付与せずに容量を空ける。

 空いた容量に五条の術式を流し込ませ、無下限を中和。

 結果、五条にも攻撃は当たる。

 理屈としてはそんなところだろう。

 だが、当たるようになっただけ。

 五条が距離をとれば意味はない──が、それを漏瑚は許さない。

 

「逃げるなと言ったはずだぞ」

 

 そう言って手近にいた一般人に手を伸ばす漏瑚。

 

「こうでもせんと──」

 

 その首をちぎる様を五条に見せつけてやろうとするが──

 

「おっと」

 

「わから──ぬおっ!?」

 

 突然、漏瑚の眼前を高速で横切る赤い線。

 何事だと飛んできた方向を見れば、その先には両手を合わせた構えの脹相が。

 漏瑚を貫きかけたのは脹相が放った穿血だった。

 

「何をしている脹相!」

 

「手が滑った」

 

「邪魔をするのであればキサマから殺すぞ!」

 

「過労で狙いが安定しないんだ。働かせ過ぎたオマエ達が悪い」

 

 怒鳴る漏瑚だが脹相は素知らぬ顔である。

 一応、過労は本当だ。

 漏瑚達より与えられた仕事は少なかったが、脹相は肉体があるぶん疲労が抜けにくい。

 

(アイツが受肉した九相図か? やる気がなさそうっつーか……いい感じに邪魔してくれてるな)

 

 その動き方を見て五条は何となく察しがついた。

 あの禰々のことだ。

 敵を裏切らせてこちらの手駒にするのはお手のものだろう。

 

(なら、アイツは無視でオーケー。警戒するべきはコイツらと黒幕の横槍か)

 

 とりあえずは漏瑚と花御に集中できる。

 

「ほら、来いよ。逃げんなって言ったのはオマエらのほうだろ」

 

 ズカズカと五条は漏瑚達に近付いていく。

 それに対して蹴りを放つ花御と拳を突き出す漏瑚。

 しかし、体術一つとっても他の術師の上をいくのが五条だ。

 花御の蹴りは少し頭を下げるだけで簡単に躱され、漏瑚の拳は打ち終わりの腕が伸びきった瞬間を押さえられる。

 

(今、触れ──)

 

 その際、漏瑚が感じた違和感。

 かつて襲撃したときに阻まれた無下限の感覚がなかったのだ。

 漏瑚が驚愕している間に五条はその肩に跨がると──

 

「せーのっ」

 

 軽いかけ声とともに漏瑚の腕をへし折る。

 

「ツッ!」

 

 堪らず距離を取る漏瑚。

 そして五条がそれを追う。

 

(今、腕を折ったとき……五条悟は確かに漏瑚に触れていた……)

 

 更にそれを後ろから追う花御は確信した。

 

(やはりこの男……無下限の術式を解いている!)

 

 どうせ中和されるなら──と開き直って術式の微調整を捨て、呪力操作のみのコンパクトな攻めに回るつもりか。

 しかし、五条が術式を解いたのなら人混みに紛れてチマチマと攻撃する必要はない。

 

(こちらは術式を使うまで!)

 

 領域展延を解除すると木の根を伸ばし、漏瑚を追いかける五条を背後から狙う花御。

 その気配に漏瑚が振り向くが、そこでハッと気付いた。

 振り向いた際、目が合った五条が笑っていたのだ。

 それを待っていたと言わんばかりの凶悪な笑み。

 瞬時に五条は身を翻すと花御へと肉薄する。

 無下限の解除は五条がわざと作った隙。

 その誘いに花御はまんまと乗せられてしまった。

 

「展延を解くな! 花御!」

 

 漏瑚が思わず叫ぶが既に遅い。

 五条は伸ばされた枝を容易く躱して花御の肩に着地。

 続いて五条の両手が花御の顔面に生えた枝をガッチリと掴む。

 

「ここ、弱いんだって?」

 

 言うが早いか、五条は掴んだ枝を思い切り引っ張り出した。

 

「やっぱりな。展延と生得術式は同時には使えない」

 

 領域展延は体に纏って運用するため、自らの生得術式さえも中和してしまう。

 しかし、術式を使うために領域展延を解いたのはまずかった。

 漏瑚達が今まで大きく負傷しなかったのは領域展延で身を守っていたから。

 それがなくなれば五条の攻撃が諸に響くのは当然。

 現に今の一撃はタフな花御と言えど、かなり堪えた。

 それでも花御は再び領域展延を使って五条に迫ろうとする。

 

「いいのか? オマエが展延で僕の術式を中和しようとするほど、僕はより強く術式を保とうとする」

 

 しかし、悲しいかな。

 花御自身の疲労、それにともない展延の運用もいささか粗雑。

 対して五条は六眼による圧倒的な呪力効率と天性の呪術のセンスで展延による中和が追い付かないほどに無下限を保っていた。

 オマエとは何もかもが違うのだ──そう言わんばかりに五条は領域展延をものともせず花御のほうへと踏み出す。

 それに押されてホームの壁へと後退させられていく花御。

 

「こっちを見ろ! 五条悟!」

 

 漏瑚が何とか花御を助けようと一般人達のほうへ炎をちらつかせてみせるが──

 

「苅祓」

 

「うおっ!?」

 

 脹相の攻撃が漏瑚の腕を切り飛ばす。

 

「すまん。五条悟と見間違えた」

 

「ふざけるな! わざとだろう!」

 

「この状況でふざけるわけがないだろう」

 

 何を言っているんだコイツは──そう言わんばかりにすっとぼけた脹相の顔が更に漏瑚の怒りを煽る。

 

「キサマいい加減にせんか!」

 

「俺は真剣だ。これ以上ないくらいに」

 

「その顔のどこが真剣なのだ!」

 

「漏瑚、助け──」

 

 今まさに死にかけているというのに一瞥もされない花御。

 そのまま誰にも助けられることはなく、花御は壁と無下限に挟まれて押し潰される形となり──グシャリ、と。

 体液を派手に壁にぶちまけて圧死した。

 続けて蒼く輝く六眼が漏瑚へ向けられる。

 

「次」

 

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