「ぶぇっくしょい!」
「どうしたんだい? 花粉症?」
「違ぇよ。ここに来る途中で禪院のヤツが風上で胡椒撒きやがったんだよ。そのせいでくしゃみが止まんねぇ。せめて呪力使ってかかってこいっての。ヘックシッ!」
「ハハッ、テープ、バナナの皮、ワイヤーときて今度は胡椒か」
そんな話をしながら二人揃って食堂へ向かっていると少し先に家入が歩いているのが見えた。
「硝子も今から昼飯? 遅くね?」
「急患が立て続けに入ったんだよ。あー……疲れた」
昼のピークがとっくに過ぎているということもあり、食堂には三人の他に誰もいない。
「おっ、今日の日替わり、ローストビーフサンドイッチだってよ。俺これにしよ。コーヒー追加で」
「じゃあ私もそれにするかな」
「私も」
サンドイッチとコーヒーを注文し、出来上がりを待っている間に「で、さっきの話だけど」と五条が話を続ける。
「アイツのトラップなんてオートにできりゃどうってことねぇんだけどな」
「術式対象の自動選別か?」
「そう。でもオートにしようとして術式出しっぱなしにすると脳が焼ききれるからなー。反転術式ができればいいんだけどさ。硝子、コツとかねぇの?」
「んー……? ひゅーとやってひょいっだよ。ひゅーひょいっ」
「なるほどわからん」
「センスねぇな」
「センスねぇのはオマエの説明だよ」
サンドイッチとコーヒーを受け取り、軽口を叩きながら適当な席に三人で座る。
席に着くなり五条がコーヒーにドバドバと砂糖を入れていると、横にいた夏油から何か物言いたげな視線が飛んできた。
「何だよ」
「悟、前から言おうと思っていたんだが、君のその砂糖の入れ方はコーヒーに対する冒涜じゃないのかい?」
「うるせぇな。俺は頭使ってるから糖分の補給が必要なんだよ。大体、そんな苦ぇもんそのまま飲めるオマエらのほうが舌おかしいんじゃねぇの?」
「お子ちゃまだね、悟は」
「あ?」
「おい、クズども。食堂で暴れるな。埃が舞う」
一触即発の空気だったが、任務終わりで疲れていたのもあって二人とも本気ではなかったらしい。
五条の「さっさと食おうぜ。腹減った」という言葉に夏油も頷いてそれ以上は何も言わなかった。
三人揃ってサンドイッチを一口齧り、続いてコーヒーを──
「オッエ゛!?」
「え?」
「うわ、汚な……」
しかし、コーヒーに口をつけたところで五条だけが突然コーヒーを吐き出した。
同じようにコーヒーを飲んでいた夏油と家入は何ともない。元々は同じコーヒーポットから注いだものなのに。
「五条、毒でも入ってた?」
「いや、それなら私達だって……」
「別に毒は入れてませんよ。砂糖と塩の蓋を入れ換えただけです」
その声に振り向くと、そこにはいつの間にか禰々が立っていた。
そのまま禰々は手を伸ばして、さっきまで五条が使っていた砂糖と書かれた容器の蓋と、隣に置いてあった塩と書かれた容器の蓋を入れ換えてみせる。
つまり五条は砂糖を入れるつもりで大量の塩をコーヒーに入れてしまったわけだ。
「エチオピアではコーヒーにひとつまみの塩を入れて飲むらしいですよ。苦味が抑制されて奥深い味わいになるとか」
そんな雑学を披露しつつ、禰々は他の机にある砂糖と塩の蓋を戻していく。
五条を嵌めるためだけに全ての机にある砂糖と塩の蓋を入れ換えたのか……と夏油と家入は若干引いていた。
「もしも私達が砂糖を使うタイプだったらどうしたんだい?」
「家入先輩が甘いもの苦手なのは知っていますし、夏油先輩も以前ブラックで飲んでいたのを見かけたので大丈夫だと思ってましたよ。でも夏油先輩が気まぐれで砂糖を使ったら……それは最強としての連帯責任ということで」
二人で最強なんですから──と振り返った禰々は恐ろしいほど綺麗な笑顔を向けてきた。
「悟、さっさと謝ってくれ……このままでは私にまで被害が及ぶ」
「やなこった。誰がザコに頭下げるかよ」
このとき五条の頭の中に一瞬だけ「もしかして俺とんでもねぇミスしたか……?」という考えが過ったが、プライドや意地が邪魔をしてそれ以上考えることはなかった。
星漿体の件が終わったところでストックがなくなるんですが、参考までにお聞きします。後の展開としてメロンパンをボコるために夏油の闇堕ちは──
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あり。メロンパンはボコろう。
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なし。夏油様の闇堕ちなど許さない。