私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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63.彼女は性格が悪い

「さて……」

 

 一分程度で特級呪詛師一人と特級呪霊三体を葬った甚爾は次に脹相のほうへ目を向ける。

 それを受けて脹相は敵意がないことを示すように両手を挙げてみせた。

 

「俺に敵対の意思はない。さっきまで見ていたならわかるだろう?」

 

「まあな。ってことはこれで俺の仕事も終わりか」

 

「そうですね。お疲れ様でした」

 

 すると、今までどこに隠れていたのか無量空処の影響で硬直している一般人達の間から禰々が現れる。

 

「脹相さん。これが弟さん達の居場所です」

 

「ああ、ありがとう」

 

 地図の書かれたメモを受け取ると脹相は赤鱗躍動まで使って全速力で駅から去っていった。

 これで脹相との約束は問題なし。

 駅の中に残存戦力もいない。

 ミッションコンプリート。

 数ヶ月に渡る削りがようやく実を結んだ。

 

「残る問題は……」

 

「これをどうするか……だな」

 

 禰々と甚爾が見下ろした視線の先にあるのは地面にめり込んだ獄門疆。

 

「いっそこのまま放っておきたいところですが……」

 

「そういうわけにもいかねぇだろ」

 

 渋々といった様子で甚爾は武器庫呪霊から取り出した天逆鉾を獄門疆に突き刺した。

 獄門疆の封印が解除。

 再び開いた獄門疆から五条が姿を現す。

 封印されていた時間が短かったためか、特に錯乱している様子はない。

 

「僕が封印されてどれくらい経った?」

 

「五分も経ってないですよ。その間に全部終わりましたけどね」

 

 禰々が示した先には既に事切れた羂索の首が。

 五条はその首に近付くと、そっと持ち上げた。

 中身は違うが親友の遺体だ。

 雑には扱えない。

 

「あ、中身は乙骨君がコピーするのでこちらへ」

 

「徹底的に搾り取るねオマエは……」

 

 禰々が術式で作ったガラスケースに五条は頭蓋から取り出した脳髄をぞんざいに放り込んだ。

 夏油の遺体を乗っ取るようなやつには相応しい末路だ。

 きっちりガラスケースに蓋をした上で厳重に鍵までかけた禰々は続いて五条に目を向けた。

 

「一応言っておきますが二度目はないですよ?」

 

「わかってる。今度こそ確実に硝子に処理してもらうよ」

 

 さすがに羂索のやったようなことを起こせる人間が何人もいるとは思えないが、それでも用心は必要だ。

 禰々は夏油の首を入れるために新たなケースを作り出すと五条に渡す。

 呪術的な封印と物理的な封印の二重ロックにGPS付きの特別頑丈なもの。

 その上、取っ手には鎖と手錠まで付いている。

 

「オマエさぁ……絶対信用してないだろ」

 

「するわけないじゃないですか」

 

 未だに五条の信用は回復していない。

 多分今後回復することはないだろう。

 五条は夏油の頭をケースに収め、鎖と手錠で腕に固定する。

 ここまでやれば盗もうという輩もいないだろう。

 

「後は諸々の事後処理ですね。死体の処理が大半になるでしょうけど」

 

「あー……うん。頑張ったけど犠牲者なしはさすがに僕でも無理」

 

 割り切っていたことではあるが。

 あの状況で全く犠牲者を出さないのは五条でもできない。

 当然ながら禰々でも無理だが、彼女は一味違った。

 

「ちゃんと犠牲者は選別しましたよ」

 

「選別?」

 

「帳を降ろす前に電話をしてもらったんです。警察などと平行して夏油さんが隠れ蓑にしていた宗教団体──元盤星教の人達に」

 

 美々子と菜々子は警察などに嘘のテロ予告の電話をかけまくるのと平行して元盤星教の信者達にも電話をかけていた。

 夏油様が帰ってきた、と。

 あのホームにいた人々はただの一般人ではなく、元盤星教の信者達。

 盤星教が解体された後も表向きの名前を変えて信者達が集っていた団体はいくつもあったのだ。

 高専としては盤星教が解体された時点で解決と判断して、解体後の動向を追うことはしなかったが、禰々はそこまで甘くはない。

 

「……もしかして昔の星漿体の件の憂さ晴らし?」

 

「そうですよ。代表役員の園田茂は夏油さんが団体を乗っ取る際に殺害。他にも高齢の信者は既に何人か亡くなっていましたけど」

 

 渋谷でテロを起こすという情報を流しても来てくれるとはまったく狂信的というしかない。

 おかげで渋谷から逃げる一般人と渋谷に向かう盤星教の信者達をごっそり入れ替えることができたのだが。

 もちろん完全に入れ替えることはできなかったが、それでも美々子と菜々子に手伝ってもらい、ホームにいた人間と地上から落とされた人間は元盤星教の信者達になるように調整した。

 

「なら、後から追加された改造人間も……」

 

「元盤星教の別団体の信者達です。明治神宮前駅に誘導してそこで真人さんと合流させましたよ。つまり本当に呪術と関係ない人間の犠牲者はゼロです」

 

「徹底しすぎでしょ……」

 

「それに一般人だと遺族への説明などが厄介ですが、彼らならイカレた宗教団体が暴走して死亡したということで片付きますからね」

 

「うっわ……」

 

 どうせ犠牲を出すなら、より犠牲になってもいい人間を。

 そして、憂さ晴らしや事後処理の手間など全て考えた上で、あくまでも全ては羂索達がやったことにして片付けるとは。

 彼らは夏油が呪詛師に堕ちた原因の一端であるため五条にとっても許せない相手ではある。

 しかし、あまりの容赦のなさに五条は「マジかコイツ……」と言わんばかりの顔でドン引きしていた。

 

「それから……甚爾さん。途中に白髪おかっぱのかたがいたはずですが。あの人はどうしました?」

 

「ん? ああ、アイツか。しっかり殺した。あの模倣(コピー)の術式持ちのガキに後で食わせておくさ。後、ソイツが持ってたんだが……」

 

 甚爾がポケットの中を漁ると出てきたのは数本の宿儺の指。

 それを受け取り、禰々は更にホームに落ちていた漏瑚の上着を漁る。

 すると、そこには高専から奪取されたとおぼしき宿儺の指が。

 

「後は八十八橋で伏黒君達が回収したものが一本。それから美々子さんと菜々子さんが持っていたものを偽夏油さんの計画を潰す対価として一本受け取りました。そして、虎杖君が既に食べている分が二本」

 

 それらを合わせれば十九本。

 ならば最後の一本はどこかというと──

 

「最後に五条さん。虎杖君の死刑を回避するために一本隠し持ってますよね?」

 

「何で知ってんの!? 誰にも言ってないのに……」

 

「私に隠し事をしようなんて無駄なんですよ。とにかくこれで宿儺の指全二十本コンプリートです」

 

「ってことは……実質、悠仁の死刑はなくなったってことだよね?」

 

「ですね。これらの所在がバレなければですが」

 

 一応交流会で奪われた宿儺の指の捜索指示は出ているが、そこは万年人手不足の呪術界。

 日々の任務を消化するのが手一杯で、まともに探している者など誰もいない。

 況してや特級呪霊に奪取された以上、誰も捜索したくないというのが現状だ。

 ならば、後は食べさせるも隠すも禰々達次第。

 

「オマエってホント仕事できるよねぇ!」

 

「やめてください。セクハラです」

 

 頭を撫でようとする五条の手を払い除けて禰々はため息を吐いた。

 こんなことをしている場合ではないのだ。

 

「それにまだやることが山積みですよ。恐らく地上は今、逃げ出そうとする呪詛師で大変なことになっています」

 

 羂索が死んだことで強制労働の縛りは無効になった。

 その上、五条の封印計画が失敗となれば渋谷に残る理由はない。

 我先にと呪詛師達は逃げ出しているはずだ。

 

「それからまだ帳の中に残っている一般人達を集めて乙骨君と狗巻君の呪言で記憶消去もしなければ。帳のおかげでSNS等に情報が出ていないのは幸いですが、記憶はそうはいかないので」

 

「メン・イン・ブラックかよ」

 

 甚爾が呆れたように言うが、さすがに巻き込まれた人間が多い上に誤魔化しが利かない。

 開き直って呪術の存在を公にする手もあるが、それには時間がないし、大きな混乱を招くだろう。

 結局、記憶消去が一番平和的な解決策なのだ。

 

「とりあえず甚爾さんは地上の呪詛師掃討をお願いします」

 

「はいはい。報酬弾めよ?」

 

「もちろん。五条さんの財布からいくらでも」

 

「ちょっと!? 何でコイツの報酬が僕持ちなわけ!?」

 

 五条が声を上げるが、禰々と甚爾は顔を寄せ合ってヒソヒソと話し始めた。

 

「あれだけ情報渡して色々と準備を整えたのにまんまと封印された間抜けな人が何か言ってますね」

 

「俺が天逆鉾で封印を解いてやらなきゃ獄門疆に一生閉じ込められてたヤツが何か言ってるな」

 

「ぐぬっ……!?」

 

 五条の顔がこれ以上ないくらいに歪む。

 確かに封印されたことについては何も言い訳できない。

 あれは明らかに五条のミスだった。

 

「払ってくれますよね?」

 

「……わかったよ」

 

 苦々しい顔で頷く五条。

 ここで変に渋れば何を言い出すかわからない。

 禰々と甚爾は五条にとって天敵とも言えるコンビなのだ。

 報酬が確約されたことで意気揚々と駅を出ていく甚爾の背中を見送ってから禰々は五条へ振り返った。

 

「では私達は総督府へ行きましょうか」

 

「あ?」

 

 疑問符を浮かべる五条に禰々は袖口から一本のUSBメモリを差し出す。

 

「上層部が偽夏油さんと繋がっていた証拠です」

 

 潰すなら徹底的に。

 五条を封印できるということで話に乗った上層部の人間は少なくない。

 ならば今が好機だ。

 

「これで上の連中を引きずり下ろそうって? でもソイツらがいなくなったところで──」

 

「私の主義は生かさず殺さずですよ。弱みを握ってお飾りになってもらいます」

 

 ついでにすぐにでも財産などを押さえられる手筈は整えてある。

 あっさり殺してしまうよりもじわじわと力を削いでいくほうがあの手の人間達には効くのだ。

 

「まったく……よくここまで陰湿なやり方できるね」

 

 呆れた顔を向ける五条に禰々はいつも通りの綺麗な笑みを返して言った。

 

「私、性格悪いんですよね」




私、性格悪いんですよね これにて完結です。
宿儺へのイタズラだとかゼロの話だとか書ききれなかったところはありますが、ここがいいポイントかなと思ったので。
ここまで読んでくださった皆さんに感謝を。
本当にありがとうございました。

去年の四月から書き始めて一年と半年。中々難産だったときもありましたが完結できてよかったです。
前話の感想を見ていると、五条に金を要求するとか、上層部を消しにいくとか結構先読みされてて思わず笑いました。
前から思っていましたが感想欄の皆さん洞察力鋭すぎませんかね……。

今回は全体を通して楽しく書くことができました。
次回作を読んでいただけることがあればそのときはまたよろしくお願いします。
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