私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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7.彼女はコツを伝授する

「お? このコーラ名前書いてねぇじゃん。もーらい」

 

 悟の背中越しに冷蔵庫を覗いてみると確かにペットボトルのコーラが一本入っている。

 寮の共用の冷蔵庫に入れるものは名前を書くルールだが、蓋にもボトルにもそれらしきものは見当たらない。

 

「灰原かな? よくコーラ飲んでるし」

 

「知りませーん。ルールを守らないやつが悪いんでーす。まあ、これで社会の厳しさを学んで──ぶっ!?」

 

 しかし、キャップを開けた瞬間、吹き出したコーラが悟の顔面を襲う。

 あ、灰原じゃないなこれ。

 コーラは悟の白髪を茶色く染めて、更に制服の前面をまんべんなく濡らしたところでようやく止まった。

 

「今回のトラップは……ああ、こういう感じか」

 

 よく見ればペットボトルの中には小さな茶色い風船が入っている。

 中身のコーラを一旦取り出して、空になったペットボトルの口に風船を取り付ける。その中にコーラを戻して再びキャップをしておく。すると次にキャップを開けた瞬間、風船が縮むのに合わせてコーラが勢いよく吹き出す──という仕組みらしい。

 

「傑……灰原はこんなことするやつじゃねぇよな?」

 

「ああ……というかこんなことをするのは一人しかいないだろ」

 

 よくもまあ、毎回こんなトラップを考え付くものだ。

 

「チッ……傑、何か拭くものねぇ?」

 

「ああ。えーっと……」

 

 ハンカチでは追い付かないだろうと周囲を見ると大きめのタオルが机の上に置いてあった。しかも新品の。

 

「いい感じのタオルがあったよ」

 

「サンキュ」

 

 緊急事態だし拝借させてもらおうと悟に渡した直後、私はふと気付く。

 待て。何かおかしくないか?

 こんなところにたまたま都合よく新品のタオルがあるものだろうか。 

 

「さと──」

 

 声をかけようとしたが一瞬遅かったらしい。

 既に悟は私が渡したタオルを何の疑いもなく顔に当ててしまっていた。

 

「──ッ!?」

 

 次の瞬間、弾かれるようにタオルを離した悟の顔は一面薄緑色。 

 見ればタオルの内側にベッタリとワサビが塗ってあった。

 

「二段構えとはね……やるじゃないか」

 

「感心してんじゃねぇよクソが!」

 

 タオルを床に叩きつけ、悟は水道のある調理場へ駆け込んでいく。

 

「まったく……あの子も悟相手によくやるよ」

 

「ちゃんと加減はしてますよ。本気でやるなら漆を仕込んでます」

 

「漆ならアイツの自慢の顔は腫れ上がって目も当てられなくなってたな」

 

 さらりとえげつない案を出してくる禰々。

 ケラケラと笑う硝子。

 というか二人とも今までどこに隠れていた。

 

「さっきの五条の顔いい感じに撮れたから禰々にも送っておくよ」

 

「あ、お願いします」

 

 しれっと隠し撮りまでしていたらしい。油断も隙もないなこの二人。

 

「夏油は? 写真いる?」

 

「もらおうか」

 

 しかし、私も面白いことには便乗する性格なので隠し撮りの写真はしっかりもらっておく。

 そのまま二人に混じって談笑していると、どうやって禰々は悟の術式を攻略しているのか、という話になった。

 

「何かコツとかあんの?」

 

「確かにそれは私も気になるね。悟があそこまでやられることなんて滅多にないし。どうやって悟の術式を攻略しているのかな?」

 

「んー……実を言うと厄介なのは術式よりも目のほうなんですよね」

 

「目?」

 

「ええ。私が五条先輩用のトラップを作るときに重要視していることは三つあるんですが……」

 

 まず一つ目、と禰々が人差し指を立てる。

 

「さっき言った通り五条先輩の厄介なところは術式よりも目なんですよ。五条家に稀に生まれる六眼という特異な目」

 

 それは私も聞いたことがあった。

 呪力の流れを詳細に把握でき、相手の術式を看破できるという目。

 敵対する術師にしてみれば見られた時点で持っている手札が透けてしまうのだから厄介なことこの上ない。

 

「呪力を帯びた仕掛けでは六眼に看破されてしまいます。だから呪力が関係する仕掛けはなしです」

 

「だからテープやワイヤーなんかの呪術が関係ないトラップが基本なのか」

 

 市販品で作れてしまうような呪術師らしからぬトラップ。

 しかも、禰々はそれを術式を使って作るのではなく、わざわざ買って組み立てていた。

 なぜ術式を使わないのかと思っていたが、そういうことだったのか。

 

「次に五条先輩が攻撃だと認識しないもの。食材を使ったトラップがわかりやすいでしょうか。これは術式の防御を抜けるためです」

 

「あー……食材防御してたら食えないからね」

 

 確かに悟の防御も万全ではない。

 六眼で見て、悟自身が防ぐと判断して、それから術式の防御が発動するのだ。

 悟が防ぐ必要があると判断しなければ防御も何もない。

 そして最後の一つ。

 

「死なないけど平気でもいられないという絶妙なバランスでダメージを与えることですね」

 

 そんなことをさらりと言うあたり、悟に対する敵対心は相当根強いものらしい。

 そうやって話しているうちに調理場からコーラとワサビを流し終えた悟が帰ってきた。

 

「毎回毎回ふざけたトラップ仕掛けやがって……」

 

「言ったでしょう? ザコにはザコのやり方があるんですよ。それとも最強でも自分の土俵の外でやられると弱いですか?」

 

「テメェ……マジで一回痛い目みせてやろうか」

 

「あ、それよりもちゃんと顔拭いてくださいよ。床が濡れてるじゃないですか」

 

「チッ……うっせぇな。指図すんじゃ──」

 

 禰々が差し出したタオルを引ったくるようにして奪い取り顔を拭いた悟だが──

 

「──ッ!?」

 

 渡されたのは、まさかのワサビタオル第二弾。

 再び悟は調理場に駆け込んでいった。

 

既視感(デジャヴ)……」

 

「手渡されたものを素直に受け取るなんて……危機感が足りてないですねぇ」

星漿体の件が終わったところでストックがなくなるんですが、参考までにお聞きします。後の展開としてメロンパンをボコるために夏油の闇堕ちは──

  • あり。メロンパンはボコろう。
  • なし。夏油様の闇堕ちなど許さない。
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