私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

8 / 63
8.彼女は己の過去を語る

学生時代の五条悟は語る──

 

 何で禪院を叩き潰さねぇかって? あー……まあ、アイツがザコ過ぎてちょっと殴っただけで死にそうってのはあるけど……一番はあれだな。

 アイツは基本的に逃げるのうまいけど、一回だけ任務終わりでフラフラのときに捕まえたことあるんだよ。

 さあ、今までの恨みを思い知れ! って思ったんだけどさー……アイツ、そのとき何て言ったと思う?

 謝るでもなく、逃げるでもなく、泣き叫ぶわけでもなく、つまらなそうに俺のほうを見て《あーあ……五条先輩も禪院の方々と同じことするんですね》って。

 何であそこまで人の嫌がるポイントを的確に突けるんだろうなアイツは。

 一秒前の、目にもの見せてやるって気持ちなんて一瞬で吹っ飛んじまった。

 禪院のヤツらと同じなんて俺にとっては最大の屈辱だ。

 マジで不本意だったんだけど、それでも禪院のヤツらと同列にされるよりマシだって拳を収めたんだよ。

 アイツがそこまで見越してそう言ったのか、それともただ口から出た本音だったのかはわからねぇけどな。

 

◆ ◆ ◆

 

 ある日の放課後。珍しく任務がなかったので歌姫先輩から頂いたどら焼きをつまみながら三人でお茶でもしようという話になりました。

 

「まったく……あの五条さんに堂々と喧嘩を売れるのはアナタくらいのものですよ」

 

 お茶を飲みながらポツリとそんなことを呟いたのは七海君です。

 人聞きが悪いですね、七海君は。私は何かできるならやってみろと言われたので、その通りにしているだけなのに。

 

「灰原君がたまに言ってるじゃないですか。《自分にできることを精一杯やるのは気持ちがいい》って」

 

「ものは言い様ですね……」

 

 七海君のジトッとした視線から逃れるように私はお茶のおかわりを淹れようと急須に手を伸ばします。

 

「ん?」

 

 すると、先ほどまでどら焼きを頬張っていた灰原君がジッと私の手元を見ていました。

 お茶は……まだ残ってますね。おかわりではないようですがどうしたのでしょう。

 

「灰原君?」

 

「ん? 禰々ってお茶淹れるのうまいなぁと思って。七海もそう思わない?」

 

「そうですね。所作も綺麗ですし」

 

「ああ……家事は本家に預けられてから厳しく仕込まれましたからね。小さい頃からずっとやっていれば慣れるものですよ」

 

 もっとも料理も洗濯も掃除もお茶汲みも、やっていたというよりやらされていたというのが正しいのですが。働かなければ食事はなしだ、なんて言われたものですから嫌々でもやるしかなかったんです。

 まあ、それをわざわざ言う必要もないでしょうと思っていたところ──

 

「ねぇ、禪院家ってどんなところなの?」

 

「え……?」

 

 灰原君の言葉に一瞬だけお茶を淹れる手が止まります。

 呪術界の闇や澱を凝縮したような場所の話なんて伝えるつもりはなかったのですが。

 

「どんなところ……ですか」

 

 さて、どうしたものでしょう。

 灰原君も七海君も一般家庭の出身です。

 呪術界の御三家なんて聞いても想像がつかないのでしょう。

 どんな家なのかという単純な疑問なのでしょうが……さっきの話の通り、ろくでもない話ばかりなので、正直あまり答えたくないんですよね。

 しかしまあ、後から望まない形で知るより、私から伝えたほうがいいのでしょうか。

 ふぅ、と動揺を鎮めるために一つ息を吐いてから口を開きます。

 

「禪院家に非ずんば呪術師に非ず。呪術師に非ずんば人に非ず」

 

 その言葉に七海君は目を見開き、よく意味がわかっていないのか灰原君はきょとんとした顔でした。

 

「禪院家の家訓ですよ。幼い頃から洗脳のように聞かされてきました」

 

「それはつまり……禪院家の呪術師でなければ人間ではない……と?」

 

「古い家ですから……現代とは思えないほど封建(ほうけん)的でしてね。男尊女卑が普通に罷り通りますし、術式至上主義ですから相伝の術式を継いでいなければ、その時点で落伍者扱いです」

 

 術師の家なら大なり小なりそういう部分はありますが、御三家は特に顕著なんですよね。

 

「せめて優秀な子を──なんて両親から嫌というほど聞かされましたよ。あの人達は私のことを道具としか見ていませんでしたから」

 

 生まれたときに女というだけで落胆され、術式が判明したときに二度目の落胆。

 その時点で両親にとって私の価値はほとんどなくなりました。

 そこから先はまともに育てられた記憶なんてありません。

 

「半ば育児放棄のように本家に行かされた後は女中として顎で使われて、本家の人間に八つ当たりや面白半分で痛め付けられることもザラでしたから、どちらにしてもろくでもない生活でしたけどね」

 

 どちらを選んでも大差ない地獄だったというだけの話です。

 逃げるという選択肢もなくはなかったですが、まだ中学生の身分では大した距離は逃げられなかったでしょうね。

 一応、高専生という身分を得た今なら……と考えたりもしましたが、最悪の場合、禪院家がやっている後ろ暗いことを体よく押し付けられて呪詛師扱いもあり得ます。

 

「まさかとは思いますが……禪院家でも痛め付けてきたヤツらに五条先輩と同じようなことを……」

 

「分家の人間が本家の人間に逆らったら面倒が起こるのは目に見えていますから。()()()()()()()()()()()()()()

 

「こっそりやったんですね……」

 

 やってない、とは言っていないところに気付くあたり七海君は鋭いですね。

 やられっぱなしはさすがに我慢できなかったので少々仕返しはしましたが。

 

「……ちなみにどんなことを?」

 

「そうですねぇ……今の当主の息子が八つ当たりを鍛練と称して私をボコボコにしてきた挙げ句、男の三歩後ろを歩かれへん女は背中刺されて死んだらええ──と言ってきたことがあったんですが」

 

「私ならアナタに背後をとられるほうがゾッとしますよ」

 

「七海君? 喧嘩売ってるなら買いますよ?」

 

 にっこり笑ってそう言えば七海君はプルプルと首を横に振りました。

 おやおや、何をそんなに怯えているのでしょうか。

 じー……と顔を覗き込むと気まずそうに目を明後日の方向に逸らしながら「で、仕返しに何やったんです?」と話の続きを促してきます。まあ、いいでしょう。

 

「後日、会合でお茶を頼まれたときに、彼のお茶だけ強力な下剤を混ぜてやりました」

 

 それを聞いた途端、お二人はすごい勢いで自分の手元にあるお茶を覗き込んでいますが、別に私は見境なくそんなことをする人間ではありません。

 

「別に何も入れてませんよ。お二人は私に酷いことなんて何もしてないじゃないですか。もしも私を苛めてきたりすれば考えますけど」

 

「そうですか……」

 

「大丈夫だよ。僕達、絶対禰々を苛めたりしないから!」

 

「いい子の灰原君にはもう一つどら焼きをあげましょう」

 

 「わーい!」と無邪気に喜んでくれる灰原君はかわいいですね。どこかの性格が終わっている先輩に爪の垢を煎じて飲ませたいです。

 

「まあ、その程度が私にできる精一杯の反抗だったんですよ。術式、フィジカル、権力、どれをとってもまともにやりあえるところはありませんでしたから」

 

「そうでしたか……すいません、不躾なことを聞いてしまって」

 

「いえいえ、要するに呪術師はクソというだけの話ですから」

 

 すると軽快な音楽がスピーカーから聞こえ、続いて流れたのは七海君と灰原君の呼び出しでした。今すぐ夜蛾先生のところへ行くように、と。

 

「緊急の任務でしょうか?」

 

「さあ? とりあえず行ってみようよ。禰々、ごちそうさま!」

 

「お粗末様でした」

 

 数分後、二人は飛行機のチケットを手に戻ってきました。やはり呼び出しの理由は緊急の任務だったようです。ですが、いつものような討伐任務ではなかったらしく。

 

「護衛任務の応援ですか?」

 

「うん!」

 

 灰原君の説明によると、今日の昼前から五条先輩と夏油先輩の二人で星漿体の護衛任務を行っていたところ、星漿体の世話係の方が拉致されてしまったのだとか。星漿体本人のガードが固いとみて搦め手に出たようですね。

 

「それでは次は人質交換でしょうか」

 

「さっき夏油さんから連絡があって犯人が交渉の場に沖縄を指定してきたらしいよ!」

 

「沖縄……?」

 

 東京で拉致しておきながら、わざわざ海を越えますか。時間稼ぎをするなら交通インフラの整っていない地方のほうがいいでしょうし……わざわざ沖縄を指定するメリットと言えば──

 

「──空港を占拠するつもりですかね?」

 

「正解! それを防ぐために僕達を呼んだんだってさ!」

 

 灰原君は眩しいほど燃えていますね……大方、夏油先輩にいいところを見せたいのでしょう。あの二人が他人を頼るなんて滅多にありませんから。

 夏油先輩の呪霊を配置するという案もあるでしょうが、見えない人々の多い空港で暴れさせるのはあまりよくないですからね。

 そこで、ちらりと先ほどから黙っている七海君に目を向けます。

 いつも以上に渋い顔をしていますね。考えていることは大体わかりますが。

 

「必要なこととわかっていても、あまり気分のいいものじゃないですよね。人一人を殺しているのと同じですから」

 

「星漿体なんて言い方をしていますが、要するに人身御供でしょう」

 

「さっきも言いましたよ。呪術師はクソだ、と」

 

 天元様の術式の初期化。

 東京と京都の高専に張られている結界の運用と補助監督が使う結界術の強化を行っている天元様ですが、一定の周期で肉体を更新しなければ人間でなくなってしまうという厄介な部分があるのです。

 そして天元様と同化してしまえば星漿体自身の意志や心はなくなってしまいます。

 それは大切な家族や友人とはもう二度と会えなくなるということ。まだ中学生の少女には酷な話でしょう。

 

「まあ、先輩達は結構甘い部分があるので一騒ぎあるかもしれませんがね」

 

 本人が同化を拒否するなら星漿体の味方につく、とか。

 天元様が、呪術界の未来が、なんてことはあの二人には些細なことです。

 天上天下唯我独尊──何せ最強の二人ですから。

 

「では、行ってきます」

 

「お土産楽しみにしてて!」

 

「はい。お気をつけて」

 

星漿体の件が終わったところでストックがなくなるんですが、参考までにお聞きします。後の展開としてメロンパンをボコるために夏油の闇堕ちは──

  • あり。メロンパンはボコろう。
  • なし。夏油様の闇堕ちなど許さない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。