私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

9 / 63
9.彼女は勘違いされる

 本来、二日目の午後には高専へ避難するはずだった予定を引き延ばし、もう一日滞在することになったその日の夕方。

 

「送信完了っと」

 

「ん? 誰にメール?」

 

「禪院に自慢してやろうと思ってさ」

 

 夏油が五条の携帯を覗き込むと昼間の観光中に撮った写真が並んでいた。

 

「まさか応援に禰々を呼ばなかったのは……」

 

「こうやって写真を送りつけてやるために決まってんだろ。《俺達は沖縄満喫してるけど、オマエは高専で寂しく過ごしてろ!》って飯の写真と一緒に送ってやった」

 

「それ、硝子にも飛び火してないかい?」

 

「あ……」

 

 沖縄に来られないのは家入も一緒だったということに今更気付く五条。

 

「……明日、どこか適当な店で古酒(クース)買っておくか。それで硝子の機嫌はとれるだろ」

 

 夜になり、経費ということで五条達は遠慮なく辺りで一番高いホテルに泊まることにした。

 ビュッフェで腹を満たし、温泉に浸かって疲れを癒し、ベッドでスヤスヤと寝ている天内と黒井。

 五条と夏油は寝ずに部屋の外で警護に当たっている。

 だが、普段とは勝手が違う護衛任務。しかも気を張りっぱなしだ。派手に動くことはなくても疲れは出てくる。

 

「ふぅ……さすがに肩が凝るね。温泉もカラスの行水だったし」

 

「ああ。なぁ、今何時だ?」

 

「えーっと……二時を過ぎたところ」

 

「もうそんな時間かよ。傑もそろそろ休んだら?」

 

「いいのかい?」

 

「ただでさえ沖縄は呪詛師の数が少ねぇんだし、もし何かあっても俺だけで十分だよ」

 

「なら、お言葉に甘えて休ませてもらおうかな。おっと?」

 

 すると夏油がアロハシャツの胸ポケットに入れていた携帯が小さく震えた。

 見てみると禰々からのメールが一件。件名は《五条先輩には内緒で》。何かの画像が添付されている。

 

「ふっ」

 

 その画像を見た夏油は思わず小さな笑いを溢した。

 画像の内容は禰々が高専に仕掛けたトラップの位置を示すマップ。

 よくもまあこれだけ仕掛けたものだと言いたくなるほどトラップを示すマークがあちこちにびっしりと付けられている。

 三日間も空白がある以上、五条も禰々の報復を警戒しているだろうが、これは予想以上だ。食べ物の恨みは恐ろしいというのは本当らしい。

 

「自業自得だよ、悟」

 

「ん? 傑、何か言った?」

 

「いや? 別に何も。じゃ、おやすみ」

 

「おう」

 

◆ ◆ ◆

 

 護衛最終日の夕方。星漿体の暗殺を盤星教から依頼された伏黒甚爾は高専に入った五条達を見ながら困惑していた。

 

(何で警戒を解かない?)

 

 もう高専の敷地内。しかも天内に懸けた懸賞金は既に取り下げている。三日間も術式を維持し続け、五条は疲弊しているはずだ。高専に到着した直後など一番気が緩むタイミングではないのか。

 しかし、五条の表情を見るに、警戒は緩むどころか引き締まっていた。

 

()()のヤツが狙ってくるとすれば俺達が一番油断しそうなここだからな。たっぷり策を練る時間はあっただろ」

 

「────!」

 

(俺に気付いてやがる……)

 

 甚爾と五条が会ったのは遥か昔の一度きり。その気配を覚えていたのか。既にこちらの素性までバレているとは。甚爾の頬を一筋の冷や汗が伝う。

 実際のところ、五条は甚爾のことなど記憶の隅に追いやっていてほとんど覚えていない。

 しかし、今この状況で《禪院》と呼ばれれば、甚爾が勘違いするのも無理はなかった。甚爾が事前に調べていたのは天内の護衛に付く五条と夏油のことだけ。数年前に出ていった実家の、しかも分家の娘が今は何歳で、どこへ進学したのかなど知らないに決まっている。

 

(どうする……)

 

 甚爾は頭の中でリスクとリターンを素早く天秤にかける。

 

(行くしかねぇだろ)

 

 手付けで三千万の大仕事。

 誤算はあったが、まだ巻き返せる。ここで退いては三日間の削りが水の泡だ。

 呪具ではない普通の日本刀を取り出し、五条の背中目掛けて目にも止まらぬ速さで突進する。

 高専には天元の結界が張られているが、呪力のない甚爾はあらゆる結界を素通りできる。

 後五十メートル……三十メートル……そして甚爾が後一歩まで迫ったとき。

 

「そこか!」

 

 咄嗟の勘で繰り出された五条の回し蹴りが日本刀を真っ二つにへし折った。

 

「チッ……!」

 

(やっぱり警戒されてたか!)

 

「あ?」

 

(トラップじゃねぇ? つーかコイツ……今、天内を狙わずに俺を狙ってきたよな? 禪院め、ついに殺し屋まで雇いやがったのか?)

 

 甚爾が五条を狙ったのは単に一番厄介な五条を先に殺しておいたほうがいいというだけの考えだ。

 勘違いに次ぐ勘違い。見事なまでのすれ違いが発生していた。

 

「悟!」

 

 初撃をしくじって飛び退いた甚爾を夏油が出した巨大な芋虫型の呪霊が飲み込んだ。

 

「何だアイツは……呪詛師か?」

 

「さあな。買った恨みが多すぎてわかんねぇ。可能性が高いのは禪院絡みだけど」

 

「いや、そんなまさか……」

 

 だってこんなことは禰々のメールには書いていなかった。そもそも禰々のトラップは嫌がらせの域を出ないもの。殺し屋なんて雇うだろうか。

 しかし、わざわざ賞金の取り下げられた天内を呪詛師が狙う理由はない。

 賞金の取り下げに気付いていない間抜けな呪詛師でもいたのか。

 それとも盤星教の独自戦力か。

 夏油まで色々と勘違いした思考を巡らせ始めたが、それを止める者はこの場にいない。

 

「まあ、何でもいいや。とりあえず天内優先。傑、先に天元様のところ行け。すぐ追い付く」

 

「油断するなよ」

 

「誰に言ってんだよ」

 

 夏油と天内、黒井を先に行かせて五条は甚爾と向かい合う。

 既に夏油の呪霊は切り裂かれていた。

 

「出来ればオマエはさっきので仕留めたかったんだが……ナマったかな」

 

「もう遊びじゃ済まさねぇぞ、禪院……!」

 

「最初から遊びのつもりはねぇよ」

 

 世界唯一の呪力ゼロの天与の暴君──伏黒甚爾。

 六眼と無下限呪術の抱き合わせ──五条悟。

 何も持たなかった者と全てを持ち合わせた者。

 対極的な二人がこの日、初めてぶつかり合った。

 

◆ ◆ ◆

 

「家入先輩、コーヒー入りましたよ」

 

「ん、ありがとう」

 

 そんなことになっているとは露知らず、禰々と家入は談話室でのんびりと雑談に興じていた。

 

「今日だったっけ? 五条達が帰ってくるの」

 

「そうですね」

 

「古酒買ってきてくんないかなぁ」

 

「未成年なのに……」

 

「何を今更」

 

「まあ、そうですけど……ああ、アルコールを使ったトラップもありですねぇ。あ、でも一応パッチテストしておかないと。在庫ありましたっけ?」

 

「真面目かよ。保健室の棚にあったはずだけど」

 

「人殺しにはなりたくないので。生かさず殺さずがいいんじゃないですか」

 

「禰々って性格悪いよね」

 

「何を今更」

 

 

星漿体の件が終わったところでストックがなくなるんですが、参考までにお聞きします。後の展開としてメロンパンをボコるために夏油の闇堕ちは──

  • あり。メロンパンはボコろう。
  • なし。夏油様の闇堕ちなど許さない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。