赤い砂で覆われた不毛な大地を青い閃光が走る。
挨拶代わりの先制攻撃。
俺たちは同時にスラスターを噴射し、着弾点から飛び退く。
正確な射撃──砂漠に刻まれた足跡が跡形もなく吹き飛ぶ。
なんてこった!
「レーザーじゃねぇ!?」
≪ナガサワか…当たるなよ。一撃でやられるぞ≫
マジかよ。
ナガサワさん、とんでもねぇな。
スラスターをカット、慣性で砂漠を滑りながら手動で照準。
スティックのトリガーを引く──灰色の巨人が空中を横に滑った。
すかさず反撃が飛んでくる。
制動のため、相棒が硬直する瞬間を狙って。
だが──
「照準が雑だなっ」
ペダルを踏み込み、スラスターを噴射して突っ込む。
着弾点から半径10mほど、それ以上ならダメージは無い。
スラスターの噴射方向を変え、次弾も回避──正確に見えて大雑把な射撃だ。
命中すればいい、そういう甘えが見える。
この精度があれば、奴はパーツ単位で狙ってきたはずだ。
ナガサワさんは
≪ふっ…少年にご執心とは、妬けるな≫
通信越しに涼しい声を響かせる師匠。
俺と逆方向へ跳んだ武骨なPV機体は、レールガンのチャージを終えている。
その発射に合わせてスラスターをカット──ナガサワさんもか。
ロマンの軌跡が、ガス雲で曇った空を虚しく横切った。
師匠の一撃を避けるとは、やるな!
落下位置へライフルのAP弾を叩き込めば、スラスターを再噴射して射線から逃れる。
「行ったぜ、ヘイズ!」
≪見えてる≫
逃れた先には、高速で肉薄する白い影。
左腕の複雑な機構が、杭を弓のように
構えられた左腕は──振り抜かれない。
フェイントだ。
灰色の巨人、その肩部で補助スラスターが火を噴く。
それを読んでいたヘイズは、後退する相手に追従。
≪もらった≫
左腕が振り抜かれ、火薬が杭を撃ち出す──機体前部のスラスターが瞬く。
≪避けた…だと?≫
驚愕。
「あの距離でか…!」
紙一重で機体を回転させ、ロマンの一撃を空振りさせた。
恐るべしナガサワさん!
≪離れたまえ……私がやろう≫
鉄色のティタンが視界の端で、青い光を蓄えたレールガンを構えていた。
無言、されどヘイズは射線上から最短距離で離脱する。
その背中を大型のレーザーライフルは──狙わなかった。
エネルギー不足だ。
飛来するレールガンの光線だけ回避し、スラスターの閃光が途絶える。
そこを逃す俺じゃない。
「おらおらおら!」
ライフルを叩き込みながら、落下地点まで走る。
ナガサワさん、器用に機体を捻ってレーザーライフルへの被弾を阻止。
傾斜した装甲がAP弾を
砂丘の影に落下──同時に砂煙が高く舞い上がった。
レーダー上の赤点は、師匠の方向へ高速移動。
≪いいぞ、来い…!≫
レールガンの砲身は、既にチャージを終えていた。
師匠の渋い呼び声に応え、砂丘を飛び出す灰色の影。
レールガンとレーザーライフルの砲口は──同時に、エネルギーを解放した。
青い閃光が交差し、砂塵が舞う。
≪ほぅ…そう来るか≫
焼け焦げたレールガンの砲身が砂漠に突き立つ。
師匠のPV機体は右腕が失われ、鉄色の装甲が黒く変色していた。
かっこいい──違う、そうじゃない。
俺たちのレールガンが折られた!
そして、師匠のピンチだ!
≪下がれ、J・B≫
ヘイズのティタンが砂丘を飛び越し、右腕のショットガンを連射する。
対して、乱数機動で散弾の雨を潜る灰色の巨人。
赤い光を背負って空中で躍ってやがる。
「師匠、大丈夫ですか!」
ヘイズと挟撃する俺の射撃は、数発の命中弾を得る。
しかし、レーザーライフルへの被弾だけは回避された。
急加速で射線から逃れる灰色の影。
レーザーライフルの砲身が次なる照準を──狙いは師匠か!
≪今が好機だ≫
警告より早く、師匠は砂の大地を滑走して光線を回避。
まるで別機体のような俊敏さだ。
速い、速いよ!
レールガン、諸元表で見ても相当な重量だったもんな。
≪仕掛ける──付いてきたまえ!≫
赤い光を引き、砂塵の中を疾駆する隻腕のティタン。
その両肩からミサイルが一斉発射される。
ミサイルの回避が難しく、3人が同時に攻撃できる絶妙な距離。
師匠は
「付いていきますぜ、師匠!」
≪いいだろう≫
スティックを倒し、ペダルを踏み込む。
急加速する砂の世界。
2人の位置を確認しながら、俺はエネルギーの残量を睨む。
ミサイルの白い軌跡がターゲットを追う──補助スラスターをパージした?
命中、爆発。
補助スラスターを囮にした灰色の巨人が、俺へ突っ込んでくる。
スティックを操作、エネルギーの供給を左腕へ。
「来い!」
砂塵を蒸発させ、レーザーブレイドを同時に振り抜く。
エネルギー同士の反発──10mの巨人を弾き飛ばす。
相棒がエネルギー不足を訴える中、砂漠の大地に着地。
ナガサワさんの背後では、PV機体の青いレーザーブレイドが一閃──
≪ふっ…やるな≫
咄嗟に膝を落とし、光の剣を潜った。
まるで背中に目が付いているみたいだ。
微かに赤熱化した頭部で赤い眼光が揺らぐ。
≪少年!≫
「うっす!」
ペダルを蹴り、相棒は跳ぶ。
レーザーブレイドを振り抜き、全速で離脱するPV機体へ突っ込む。
衝突などしない──超高速で師匠と交差。
そのまま、レーザーライフルを構えた灰色の巨人へ吶喊。
エネルギーを左腕へ集中、スティックを握る。
ここで決めさせてもらうぜ!
「食らえ!」
砲口で青い光が収束。
だが、それより俺の方が速い!
振り抜き、確かな手応え──宙を舞っていたのは、灰色の
光の剣はコクピットまで届かない。
あの一瞬で、奴は半身を逸らしていた。
その反動を殺さず、機体を回転させて俺の背面へレーザーライフルが向く。
「待ってたぜ──」
その紙一重のカウンターを!
「ヘイズ!」
≪任せろ≫
灰色の影の背後に白い影。
スラスターの噴射が間に合わない必殺の間合。
左腕の番えられた杭は──火薬の推進力を受け、投射される。
文字通りの横槍が右背面から灰色のティタンを捉えた。
鈍い金属の悲鳴。
「やったか…?」
赤い砂が衝撃で舞い上がり、勝敗を覆い隠す。
≪ああ、終わりだ≫
砂煙が晴れ、そこには動きを止めた2機のティタン。
鳥脚の白いティタンが、無造作に杭を引き抜く。
≪…どうした?≫
支えを失った灰色のティタンは、砂漠の大地に伏す。
コクピットに大穴が穿たれ、頭部のカメラに輝きは無い。
「いや、うん…知ってた」
レーダー上から赤点は消えてたからね。
様式美を守るために、ゲームシステムが覆ることはない。
知ってるとも──
≪ミ…ションの失──確認≫
温度の感じない無機質な声が響く。
≪機能を移──ます…≫
それは
ノイズが酷く、断片的な単語しか聞き取れない。
まさか、本当に再起動なんてことがあるのか?
≪──情報を更新…対象A31を高脅威と認識≫
非人間的な声で、明確な意思が紡がれる。
それを最後に、通信は途絶えた。
なるほど──さっぱり意味が分からない。
戦闘の痕跡を覆い隠すように風が吹く。
赤い砂が舞い、沈黙する鋼の巨人たちに降り積もる。
≪ふむ…プレイヤーではなかったようだ≫
≪正しくイレギュラーか≫
何やら考え込んでいる様子の師匠とヘイズ。
あの白熱したロボットバトルから一瞬で思考を切り替えたのか。
風邪ひかない?
「次に会う時、聞いてみようぜ」
乱入者ナガサワさん、いい腕だった。
次の機会があれば、1対1で勝負をお願いしたい。
≪ふっ…そうだな≫
≪はぁ…今、追及することでもないか≫
かわいそうなものを見る視線を感じたぜ。
ティタン・フロントラインのおかげで第6感が開花しちまったらしい。
≪それで…≫
「お?」
ゆっくりと振り向くヘイズの機体へカメラを向ける。
鋭利な流線型で構成された白い機体で、異形の左腕だけが黒く染まっていた。
≪どうだった、私のロマンは?≫
改まって聞くから何かと思ったぜ。
言うまでもない──
「最高だった!」
≪そうか…!≫
相棒の武器候補に飛び入り参加だぜ。
クレジットが貯まるまで待ってろよ!
「レールガンと一緒に買っていい?」
≪ふっ…欲張りだな、少年≫
≪まさか、両方を装備するつもりか、お前?≫
「ゑ?」
夢は過積載して
そんな和やかな会話をしつつ、俺たちは集団ストーカーの拠点へ脚を向ける。
積み上げたものぶっ壊して──気分爽快に、砂漠を後にした。
◆
≪そろそろ業務に復帰してもらえませんか、チーフ?≫
放棄された採掘施設の一角に潜む全高10mの巨人。
そのコクピットに感情の希薄な声が響き渡る。
「これも立派な仕事だよ、君」
真紅と黒、ツートンカラーの装甲を纏ったティタンが鈍い駆動音と共に立ち上がる。
ナガサワの名称で知られるレーザーライフルから砂が零れ落ちていく。
「娘の成長を見守る、ね」
≪データの収集は完了しています。観察の必要はないと思いますが?≫
「情緒ってものがないね、君」
頭部のスリットから覗く青い眼光が、静寂に包まれた戦場を睥睨する。
そこには6機のティタンが鉄の躯を晒していた。
いずれはサルベージされ、細かく解体されて市場へ流れる運命だ。
「やれやれ……あっちの進捗は、どんな感じだい?」
≪停滞中です≫
「相変わらずだね、彼女も」
3機の輸送ヘリコプターが爆音を轟かせ、頭上を通過していく。
≪なら、こっちにも考えがあるよ──≫
それを静かに見送る巨人は、舞い上がる砂塵の中に消えた。
2023/4/17 投稿。
2023/5/22 改訂版に差替。