初期機体≠初心者   作:バショウ科バショウ属

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ラボラトリー
リクエスト=依頼


 今日も今日とて宿題を片付けた俺は、ティタン・フロントラインの世界に──

 

「兄者、今夜もやるの?」

 

 リビングのドアに手をかけた俺を、可愛い妹が呼び止める。

 おいおい、兄が恋しくなったか?

 止めてくれるな、優華。

 

「ふっ……相棒が俺を待ってるからな」

 

 レールガンとパイルバンカーを購入するため、相棒と戦場へ赴かねばならんのだ。

 それを聞いた風呂上がりで薄着の優華は、一拍置いてから相槌を打つ。

 

「ああ、藤坂さん」

「藤坂は相棒じゃないだろ」

 

 妹よ、相棒と友人は違う──なぜ、そんな残念そうな目で兄を見るんだ。

 

「兄者、頭いいのに馬鹿だよね」

「いいか、優華……ちょっと馬鹿なくらいが男の子はいいんだ」

「私は賢い兄者が好きだよ」

「眼鏡でも掛けるか!」

 

 優華の願いとなれば仕方ねぇ。

 今日から俺は優等生の本田勝二だ!

 誰だよ、ちょっと馬鹿なくらいがいいとか言った奴は。

 

「はぁ……うん、それでいいと思うよ」

 

 長い溜息の後、スマホへ視線を戻し、ソファへ沈み込む優華。

 どこか釈然としないが、俺は理解ある兄だ。

 追究はすまい。

 

「優華、風邪引く前に服を着るんだぞ」

「分かった」

 

 さて、ティタン・フロントラインの時間だ!

 

 

 白昼堂々とセントラルを練り歩いている俺。

 微妙に曇った空の下、サイボーグや獣人の人々が行き来するストリート。

 肩で風を切る()()()()()()、それを観察する荒んだ眼差し。

 

 俺がVと知られたが最後──世界は牙を剥く。

 

 気分はアンダーグラウンド。

 ヘルメットじゃなくてマスクでも被ろうかな!

 

「はぁ……」

 

 1人で買い物とか泣いちゃうぞ、ほんと。

 藤坂ことヘイズ、そして師匠は有名人らしく、一緒に出歩くことはできないんだって!

 

「おーい、そこの君」

 

 初心者への擬態──擬態じゃなく、本当に初心者なんだけどな。

 

 ともかく、この雑踏に紛れる限り、俺の正体に気が付く奴はいない。

 某ショップでレールガンとパイルバンカーの価格表と睨めっこしても問題なかった。

 

「聞こえてないねぇ」

 

 しかし、2人と並び歩いた瞬間、俺はVと断定されるのだそう。

 どういうロジックだよ。

 

「そこの懐が寒そうなニュービーの君!」

 

 誰だ、俺みたいな初心者を狙い撃ちにしたような呼び込みをするのは?

 

 声のする方向に振り向けば──サングラスを掛けたオールバックのおじさん。

 

 カオスな人々の行き交うストリートでも目立つ長身だ。

 視線は見えないが、明らかに俺を見ている。

 

「そう、君だよ、君!」

 

 親しげな声を上げ、歩み寄ってくる謎のおじさん。

 白衣みたいなコートを羽織っていて、ひどく場違いな印象を受ける。

 

「俺に…何か用ですか?」

「いやぁ、不景気な顔をしてたから、景気の良い話を──詐欺師を見る目だねぇ」

 

 そりゃ、そうよ。

 どう見ても詐欺師だぜ、おじさん。

 ヘイズから怪しい人の話は聞かないよう言われてんだ。

 あいつは俺の母さんか?

 

「安心しなよ。()()()()()()()()()()調査を依頼するだけさ」

 

 初心者向けって話なら、俺じゃなくても周りにも候補がいると思うけどな。

 というか、候補者だらけだ。

 それに──

 

「調査って?」

 

 俺が反応した瞬間、おじさんの口角が上がる。

 まるでサメみたいだ。

 

「これだよっ」

 

 コートの裏から取り出した端末の画面を高速スワイプ!

 そして、俺の端末が軽快な着信音を鳴らす。

 

 端末の画面には、ミッションの依頼──研究施設内部の調()()

 

 いや、それより報酬額だ。

 桁を一つ間違えてないか、これ?

 

「このクレジットを全額前払い…?」

「そう、そして調査中に発見した()()()も、なんと君のモノ!」

 

 パーツは特に興味ないが、このクレジットは破格だ。

 レールガンとパイルバンカーを買って、お釣りが来るぞ。

 震えるぜ。

 

「ふ、太っ腹じゃん…!」

「そう! お得な依頼ってわけさ。やるしかないよねぇ?」

 

 こんな旨い話があるのか?

 いや、ない。

 どう見てもヘイズと師匠に聞くべき案件だよな。

 

「これ、本当にニュービー向けの依頼──」

「君ならできる!」

 

 このおじさん、めちゃくちゃ押しが強い。

 行き交う人も同情的な視線を投げてくる。

 同情するなら助けてくれよ。

 仕方ねぇ。

 ここは穏便に切り抜けて、後で依頼をキャンセルする!

 

「分かりました……持ち帰って──」

「はい、決定! 振り込み完了!」

「はやっ!」

 

 そんな軽率に放り込んでいい額じゃないだろ!

 

「それで助っ人を雇ってもいいかもねぇ」

 

 満面の笑みだから、非常に抗議しづらい。

 そして、端末に表示されたクレジットが信じられない額に!

 

「ありがとうございます、えっと…」

 

 依頼主の善意を、この往来で蔑ろにするのは気が引けた。

 形だけでも謝意を示そうと、おじさんを見上げる。

 サングラスで目が見えない。

 

「名乗るほどの者じゃないよ!」

 

 俺の肩を軽く叩き、からからと笑うおじさん。

 音もなく雑踏へ入り込み、その流れに乗って立ち去っていく。

 

「それじゃあ、頑張ってねぇ」

 

 手を振る長身のおじさんに、とりあえず手を振り返す。

 嵐みたいな依頼主だ。

 まずい、怪しい依頼を引き受けちまったぜ。

 急いで2人の下へ──

 

「彼女によろしく」

 

 声のトーンが違った。

 抑揚のない平坦な声、()()()()()()

 

「マジかよ」

 

 振り向いた先に、依頼主の姿は影も形もなかった。




 報酬全額前払いの簡単なミッション(善意)
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