初期機体≠初心者   作:バショウ科バショウ属

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コンプリート≠解明

 ヘイズのセーフハウスは色んな物が置いてある。

 ポストアポカリプスな世界では、貴重そうな木製の椅子とか。

 その1つを借りて、俺は長椅子で眠るゾエちゃんを見守り中。

 ヘイズは情報を売ってくれた人へ報告に、師匠は右腕を失った愛機の修理に、それぞれ出払っている。

 

 エリア13からの離脱──俺たちは楽々と離脱できてしまった。

 

 ムリヤさんの腕も当然あるが、一番の要因は間違いなくゾエちゃんだ。

 大怪鳥ルンルンは()()()()()一切の攻撃を受けなかった。

 

「……レールガン…うゅ…」

 

 当人は幸せそうな表情で、レールガンの登場する夢を見ている。

 師匠とアパラチアの影響力、恐るべし。

 右腕が吹っ飛んでた?

 気のせいだよ。

 

「……何者なんだろうな」

 

 呟きがセーフハウスに空しく響く。

 目に映る全てのものに目を輝かせ、ティタンに興味津々な少女。

 今は黒いロングコートを抱き締めて、すよすよと寝息を立てている。

 

 なぜ、俺や師匠の機体について知っていたのか──アルビナ先生のゲーム実況とPVを()()から。

 

 ゾエちゃんは純粋無垢な瞳で、そう言った。

 つまり、()()()()()()()()()()で形成されている。

 さすがの俺でも異質さに気付く。

 

 NPCでもプレイヤーでもない──謎の存在。

 

 俺たちは当然、本人も名前以外知らない。

 お手上げだった。

 よって、この件は進展あるまで保留になっている。

 ムリヤさんにも口外しないようお願いした。

 

「…ん……V?」

 

 ゆっくりと開かれる寝ぼけ眼。

 あの時と同じように、スカイブルーの瞳が俺を映す。

 

「おはよう、ゾエ」

 

 ただ、今回は一瞬でスイッチが入り、むくりと起き上がるゾエちゃん。

 

「ゾエ、戦闘モードを起動しますっ」

 

 影響されやすいな、ゾエちゃん。

 なんとも微笑ましい。

 

 頭を捻るのはヘイズたちと一緒でいい──今は、ただ目を離さないこと。

 

 長年培われてきた兄の直感だ。

 

 

≪ここ数日、燃料投下のペースが早い件≫

≪逆叉座残党と二月傘の死闘が昨日だっけ?≫

≪あれよりは弱いな。考察班が喜ぶだけだろ≫

 

 五月事変とすら呼ばれ始めた事件は、いまだ収束していない。

 それどころか界隈には新たな火種が投じられている。

 その日、彼らが注目していたのは、1つの動画だった。

 

 動画名は──【エリア13の水没地区に研究施設!?銀蓮の謎に迫る!】

 

 サムネイルの主張が激しいだけの目新しくもない動画。

 しかし、内容は衝撃的なものだった。

 

≪辿り着いたことに意味があるんだよなぁ≫

 

 アルジェント・メディウムが守護するエリア13に、()()()3()()で挑み、これを突破したのだ。

 フラグシップの強襲を受けながら。

 

≪水没地区って端の端だろ? 本隊よりは弱いじゃん≫

≪やってから言え定期≫

≪戦車型の俺には鬼門だわ。極超音速ミサイルのクロスファイアとか回避できねぇよ≫

≪被弾して硬直したが最後、一瞬で水底直行やぞ≫

≪ECM必須≫

 

 泣く子も黙る赤外線誘導ミサイルの飽和攻撃。

 極超音速ミサイルとスナイパーカノンの正確無比なクロスファイア。

 そして、水没厳禁の重度に汚染された海。

 実際に体験したプレイヤーたちは、その地獄を誇張なく語る。

 

≪建造物自体は発見されてたけど、研究施設とは新解釈だな≫

≪どこを見たら研究施設に見えるんだ、これ?≫

≪兵器工廠と違ってバンカーじゃないのな≫

≪ドーム状にする必要はなんだろ?≫

 

 ティタン・フロントラインの世界を探求するプレイヤーたちは、別の点に注目していた。

 今まで無人兵器に関連した施設は、兵器工廠しか発見されていない。

 ゆえに、()()()()とは彼らの脳を酷使するに値した。

 

≪あの動画、加工の形跡があったらしいぞ≫

≪は?≫

≪フェイクかよ≫

≪はい、本日は解散です≫

 

 加工の痕跡があるとなれば、白けた空気が漂うのも無理はない。

 

≪最後まで聞けって…動画の後半部分は見たか?≫

≪見たよ≫

≪どうして暗視モードで撮影していないんですかって聞きたい≫

 

 動画の後半、肝心の施設内部は暗闇が支配し、照明の確認できた場所には小島が見えるだけだった。

 

≪小島が映ってるところ、あそこだけ不自然な処理があった≫

 

 そのチャットが流れた後、一時的にチャットが途絶える。

 

≪つまり……何かを隠した?≫

≪その何かが重要なんだよなぁ≫

≪加工前は一体何が……≫

≪気になって8時間睡眠になっちまうよ!≫

≪安眠じゃねぇか≫

 

 チャットが息を吹き返し、目まぐるしい速度で流れ出す。

 

≪これ、投稿者は誰?≫

≪ブン屋……嫌な奴がネタ握ってやがる≫

≪メインストーリーを恵んでくだされ…≫

≪探せよ、さらば見つからん(血涙)≫

≪新約聖書さん!?≫

 

 ティタン・フロントラインの世界に深く浸りたい者、メインストーリーの鍵を探す者。

 そんなプレイヤーたちの嘆きにも似た声が溢れる。

 

≪世に銀蓮の祝福と安寧を…こちら団員334号≫

 

 そこへ異物が紛れ込む。

 

≪世に銀蓮の祝福と安寧を…報告を≫

≪うわ、出た≫

≪遅かったな、狂信者ども≫

 

 エリア13の関連した話題で、今まで沈黙していたことが不思議だった狂信者たち。

 誰も相手にするつもりはないが、混線を警戒し──

 

≪エリア13のタジマ粒子濃度が急速上昇中……我らが銀蓮は目覚めた!≫

≪おお…世に銀蓮の祝福と安寧を!≫

≪は?≫

≪マジ?≫

 

 五月事変は終わらない。




 世に銀蓮の祝福と安寧を(洗脳)
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