初期機体≠初心者   作:バショウ科バショウ属

32 / 78
リザルト≠戦果

「見てください、V! クローバーラインの軌跡がきれいです!」

「…そうだね」

 

 俺たちの雄姿が収められた切り抜き動画を見て、無邪気に喜ぶゾエちゃん。

 つい膝上に座らせてしまった俺、()()6()()()の視聴だ。

 地味にバトルドレスが重い。

 

「そろそろ切り上げないか、ゾエ君?」

 

 セーフハウスの壁に背中を預ける師匠からの助け舟!

 ちらりと俺を窺うスカイブルーの瞳。

 

「あと1回だけ……駄目ですか?」

「1回だけだぞ?」

 

 初めてのミッションで大活躍したから、見返したくなるよな。

 分かるぞ。

 さすがに辛いけど。

 

「…災難だったな、少年」

「楽しかったので、良しにしときます」

 

 アリーナ3位と戦えて、無粋な連中はスクラップにした。

 ゾエも大活躍だったし、寒々しかった懐も多少は温まった。

 もう満点じゃん。

 

「あの2枚抜きは、なかなか爽快だった」

「すかっとした」

 

 木製の椅子に腰かけ、端末をタップするヘイズの言葉に頷く。

 クローバーラインの2機同時撃破は、思わずスタンディングオベーションしそうになった。

 

「埃を被っていたが、日の目を見ることがあるとはな」

 

 後でヘイズに聞いたところ、クローバーラインはチャージの時間もある上、一時的に固定砲台と化してしまうそうだ。

 使用時には高負荷でFCSがダウンする。

 つまり、自動的に()()()()()()()

 

「機動が単調で狙いやすかったです!」

 

 なんて眩しい笑顔!

 切り抜き動画のコメントでは魔弾の射手って呼ばれてるんだぜ、この子。

 動画の半分は相棒しか映ってないけど、注目株はゾエだ。

 俺も鼻が高いぜ。

 

「そういえば、さっきからヘイズは何を見てるんだ?」

 

 ふと、端末を淡々とタップしてる姿が気になった。

 狐の面で表情は見えないが、機嫌は良いと分かる。

 俺を見て、何と答えるか逡巡するヘイズ。

 

「…初ミッションクリアのプレゼントを、ちょっとな」

 

 ゾエへのプレゼントだって?

 もう保護者というよりママじゃん!

 

「本当ですか、ヘイズ!」

「ああ」

 

 くるりと振り返って表情を輝かせるゾエちゃん。

 

「私もゾエ君にプレゼントがあるぞ」

「J・Bも! どんなプレゼントなんでしょう…楽しみです!」

「ふっ…楽しみにしていたまえ」

 

 レールガンだ、間違いない。

 師匠もプレゼントを用意した以上、俺が何もしないなんて論外だよなぁ。

 早速、クレジットを切る時が来ちまったか。

 

「ここは俺も──」

「お前は座っていろ」

「少年は貯金したまえ」

「うっす」

 

 悲しい。

 俺もゾエちゃんに何かプレゼントし──てるわ、ゴーストのシステム。

 

「はぁ……それと、お前の分だ」

「ゑ? 俺?」

 

 おもむろに立ち上がったヘイズは、脇の棚に置かれた小包を手に取る。

 

「お前もゾエと同じで、この世界に降り立ったばかりの初心者だ」

 

 まさかの俺もプレゼント貰える感じ?

 ゾエを膝上に座らせたまま、差し出された小包を受け取る。

 結構重いな、これ。

 

「すっかり忘れていたがな」

 

 自嘲気味に笑うヘイズ。

 正直、初心者らしいことしてないから仕方ねぇよ。

 それよりも、だ。

 

「ありがとな、ヘイズ」

 

 照れ隠しに手だけ振って椅子へと戻っていくヘイズ。

 俺は良き友人を持ったぜ。

 

 ちなみに中身は──黒光りする大型リボルバーでした。

 

 

「彼は…Vは、どうだった?」

「さぁな」

 

 一仕事終えた人々で賑わうバーは、活気に満ちていた。

 その端に位置するテーブルで対面する2人のプレイヤー。

 サイボーグと獣人、特筆すべき点はない。

 ティタン・フロントラインでは、ありふれた背格好だ。

 

「その上機嫌なところを見るに、良かったようだね」

「…なら、聞くな」

 

 そう言って狼の耳が生えた青年はジョッキを呷る。

 日進月歩のVR機器は、嗅覚や味覚を体験できる高級モデルもある。

 それを装着しながら、当人は安価な食用アルコールを楽しむ。

 

「君が認めるなら、益々楽しみになってきたな」

 

 何も注文していないサイボーグは、テーブルで手を組んだ。

 頭部に走る6本のスリットから緑の光が爛々と輝く。

 

「バトルジャンキーめ…」

 

 胡乱な視線を投げ、獣人の青年は重い溜息を漏らす。

 

「新人を潰すな」

「そんなつもりはないのだがね…」

 

 忠告されるたび、サイボーグの男は萎びた声で応じる。

 この会話も何度目か、定かではない。

 

「まぁ、いい……それより」

 

 ジョッキをテーブルに置き、青年の目が鋭く細められる。

 肌を刺すような威圧感。

 喧騒に満ちたバーで、2人の空間だけ空気が変質していた。

 

「あの塵芥に情報を流したのは、お前か」

 

 アリーナ3位たる青年は、厳かに問う。

 無粋な乱入者は誰の差し金か、と。

 

()()()ないよ」

 

 それに対し、変わらぬ調子でサイボーグの男は答えた。

 狼の耳を立て、その言葉の意味を吟味する青年。

 しばしの沈黙の後、口を開く。

 

「そうか」

 

 威圧感を霧散させて、再び溜息を吐く。

 そして、顔を顰めたまま席を立つ。

 

「…もう帰るのか?」

 

 その後ろ姿を名残惜しそうに見送るサイボーグの男。

 

「アリーナに帰る。外は好かん」

 

 HG66-FLAMEROCKの有用性を世に広めた()()フレイムロッカーは、アリーナより外へ出ることは滅多にない。

 ただ戦い続け、己のスキルを研磨し、洗練する。

 酔狂と嘲笑われる己の愛機で、強敵を打破するために。

 

「なら、私と一戦やらないかね?」

「断る」

 

 迷いなく即答。

 残念そうにサイボーグは肩を落とす。

 その姿を見下ろし、アリーナ3位は宣言する。

 

「お前は、Vを倒した後だ──()()()()()()




 アリーナ(狂人の巣窟)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。