初期機体≠初心者   作:バショウ科バショウ属

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オープニング≠始発点

 ゴールデンウィーク最終日、まだ俺は戦っている。

 リスポーンの回数を数えるのはやめた。

 攻略情報を調べようとも思ったが、それは違う。

 腕を磨き、作戦を練り、全身全霊で挑んでこそ意味がある。

 

「行くぜっ」

 

 ペダルを蹴って、崩落した高架橋の影から躊躇なく飛び出す。

 同時に()も830m先のビルより姿を現した。

 

「死に晒せぇ!」

 

 奴と同時に射撃し、同時に跳躍で左へ回避。

 未来位置へ連続射撃を加え、スラスターを噴射して空中を横滑り。

 

≪エネルギー残60%≫

 

 至近をAP弾の軌跡が掠める中、着地点へライフルを向ける。

 奴も着地点に黒い砲口を向けていた。

 スラスターをカットし、自由落下に切り替え。

 揺れる視界の彼方、対面の巨人も同じタイミングで自由落下。

 

 既に照準は新たな着地点、その直線上へ──トリガーを引く。

 

 トリガーを引くと同時にペダルを蹴ってスラスターを噴射。

 わずかなエネルギーでも加速した機体が高架橋へ迫る。

 そのコンクリート塊へ脚を向け、接地と同時に蹴り抜く。

 

「もう一撃!」

 

 スラスターを使用せず、前方へ機体をかっ飛ばす。

 高速で流れていく廃墟の景色、ビルを踏み台にした奴が真正面から突っ込んでくる。

 ライフルの照準は間に合わない、左腕へエネルギー供給。

 ()()()()()

 

「おらぁ!」

 

 スティックを倒して、切断方向を入力。

 通常よりも眩い光量を放つ光の剣が、等速で振り抜かれ、激突する。

 

 エネルギー同士の反発が小爆発を起こし──10mの巨人を弾き飛ばす。

 

 その反動を利用して右腕のライフルを互いに突き出し、連続でAP弾を叩き込む。

 

≪右腕武器損傷──≫

「またかよ…へっ」

 

 機体と同色のコンクリートジャングルへ着地した時、追撃はない。

 こっちもできない。

 48発を残してパージした2()()()ライフルが空中で爆発する。

 

「残るはミサイル4発とレーザーブレイド…条件は同じか」

 

 まるで鏡と戦っているような気分だ。

 俺と奴のティタンは、()()()()()()()

 まったく同じ戦闘機動を取ることで拮抗しているが、一度でもミスを犯せば一瞬で崩れる。

 

「あと一手…」

 

 一歩先へ踏み込まなければ、ライバルを上回ることはできない。

 その一歩は、もう間近に見えている。

 垂れ込める黒煙で赤い眼光が途絶え、俺は動く。

 

≪左肩部ユニット、パージ≫

 

 左肩のレーダーユニットをパージ、エネルギーの供給に余剰を生む。

 その意図を察した奴もレーダーユニットをパージし、左半身を前にして構える。

 逃げも隠れもしない、という宣告だ。

 

「そうこなくちゃな!」

 

 キリングマシンとは思えない男気に俺は高揚感を覚える。

 どこか人間臭さが垣間見えるマシンのライバル。

 最高かよ!

 スティックを倒し、ペダルを踏み込めば、世界は加速する。

 既にロックオン済みのミサイルを全弾発射、ただし1発だけは無誘導。

 

「さぁ、来いよ!」

 

 奴も加速と同時にミサイルを全弾発射。

 心地よく聞こえるアラート音が最高潮になった瞬間、スラスターを右へ噴射。

 

 3発が左横を通過──()()()()1発が眼前に迫る。

 

 姿勢を低く落とし、レーダーユニットがあった空間を噴射炎が焼く。

 

≪エネルギー残30%≫

 

 回避できて当然、俺と奴は激突せん勢いで前方へ加速。

 エネルギーの供給を左腕に回す。

 

「おらぁ!」

 

 レーザーブレイドを同時に振り抜く。

 奴は省エネルギーながら威力の高い短刀、対する俺は通常の長刀で打ち合った。

 

 ただ打ち合い、刀身を逸らす──背筋に悪寒が走り、反射的に膝を落とす。

 

 その判断の正しさは、右肩のランチャーを蹴り飛ばす奴の右脚を見て証明される。

 

≪右肩部ユニット大破≫

 

 エネルギーの余剰をスラスターとキックに回したのか!

 ダメージの警告は無視、俺の背後へ着地する奴の姿を追う。

 

「まだだ──」

 

 今、俺のティタンは左膝を落とし、エネルギーは回復中。

 つまり、奴の間合から脱出できない。

 着地の衝撃で舞うコンクリート片を光の剣が焼き、振り向きざまに俺を斬り捨てんと奴が動く。

 世界が、ひどく遅延して見える。

 

 スローモーションの世界で、俺は──勝機を見出した。

 

「まだだぁ!」

 

 右半身を奴に向け、レーザーブレイドの進路上に右腕を突き出す。

 

≪右腕大破≫

 

 一瞬、それでも装甲を施された腕は、光の剣を遅延させる。

 

 両脚にパワーを蓄える間、右肩が爆ぜ──わずかに歪むエネルギーの流れ。

 

 右半身が赤熱化、警告が鳴りやまない。

 それでもアスファルトを踏み砕き、奴の懐へ突っ込む!

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

 焦げた頭部のカメラが捉える赤い眼光。

 どこか満足げに見える奴の()を見据え、エネルギーの全てを左腕へ注ぐ。

 

 煌々と輝くレーザーブレイドの刀身、それは──確かに、奴のコクピットを貫いた。

 

 左肩の下より胴体を貫通し、反対側に光の剣が見える。

 俺を常に捉えていた赤い眼光が消え、奴は彫像のように動きを止め、静寂が訪れる。

 

≪エネルギー残0%──≫

 

 ほぼ同時に、エネルギー切れでレーザーブレイドが停止。

 

≪ミッション完了≫

「……あばよ、ライバル」

 

 これにてチュートリアルは終了。

 晴れ晴れとした気分で、俺はライバルの最期を見届けた。

 

 

 その日、ティタン・フロントラインの世界を震撼させる事件が起こった。

 発端は一つの公式アナウンス──

 

≪チュートリアルのクリアを確認しました。これよりメインストーリーを開始します≫

 

 耳慣れた機械音声が、耳を疑う言葉を紡いだ。

 

≪嘘だ!≫

≪みんなのトラウマが敗れただと!?≫

≪信じられん≫

≪でも、公式アナウンスだからな≫

 

 ティタン・フロントラインをプレイする誰もが初期機体を駆り、挑み、一瞬で抹殺される。

 撃破不可能とされたチュートリアルの王、()()()()()()()二度と会うことができないレアエネミー。

 

 機体名はオープニング──初期機体と同様のパーツで構成されたティタン。

 

 しかし、その戦闘技量は初心者どころか、トッププレイヤーすら完封する。

 

≪わざわざアカウント再登録して挑んだアリーナ1位様より強いってこと…!?≫

≪配信で見たけど、あれ勝てるの?≫

≪理論上は一応……奴は四天王の中でも最弱(機体性能が)≫

≪倒したプレイヤーって人間か?≫

≪人間やめても勝てる自信ないわ≫

 

 この世界は弱肉強食という基本摂理を叩き込み、反骨精神があるか(ふるい)にかける者。

 そんな怪物が撃破された事実は、全プレイヤーを混乱の渦中へ叩き落す。

 

≪メインストーリー、始まってすらなかったのかよ……≫

 

 そして、混乱を加速させる新事実──メインストーリーの開始である。

 

≪何が始まるのです?≫

≪メインストーリーだ(さっぱり分からん)≫

≪参加条件とか……誰か説明してくれよ!≫

≪とりあえず、考察班を呼べ≫

≪無人兵器工廠の考察中に呼び出されてフレイムロック生える≫

 

 重箱の隅をつつけば、新情報と謎が発見される未開拓の世界。

 しかし、複数のイベントが展開され、世界の時間は進んでいると誰もが信じて疑わなかった。

 そこで突然、メインストーリーの開始が告知されたのだ。

 

≪とりあえず、オープニングを殺った初心者を探せ≫

≪チュートリアル終わったばかりなら……セントラルか≫

≪人手を集めろ!≫

≪勢力図が動くぜ…!≫

≪宴の始まりじゃ!≫

 

 プレイヤー間をチャットが活発に飛び交い、サービス開始以来の混沌と熱狂が渦巻く。

 

≪対象セントラル≫

≪確認≫

≪発見次第報告≫

≪確認≫

 

 始まりの地へ数多の勢力、数多の巨人が集い、その形相は最前線(フロントライン)のよう。

 その光景を見下ろす者は笑い、そして口ずさむ。

 

≪ようこそ、ティタン・フロントラインへ≫




 2023/4/01 投稿。
 2023/5/22 改訂版に差替。
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