≪救援に感謝しますっ≫
≪助かった!≫
≪ありがとう、戦友。またな≫
≪戦闘用AIじゃなかったんだな、アンタ≫
通信越しに聞こえてくる感謝の言葉。
よせやい、褒めてもスクラップしか出ないぜ。
似たり寄ったりな損傷状態のティタン数機を見送り、改めてEフィールド第3防衛線を見渡す。
「さて……」
赤茶けた荒野に散らばる無数の鉄屑、そこから立ち上る黒煙。
残骸の放つ陽炎のせいで地平線が微かに揺らいで見える。
ノーヘッドのスクラップを2ダースほど量産して、ようやく小休止だ。
1機1機の性能は大したことないが、数の暴力は単純に強い。
「峠は越えた感じかな」
スティックから手を離し、狭いコクピットの中で軽く肩を回す。
機体に損傷なし、ライフルの残弾46発、ミサイルの残弾は5発。
幸先は悪くない。
≪なに、すぐ次が来るさ≫
通信越しに聞こえてくる師匠の言葉に、思わず笑顔になってしまう。
わんこそばかな?
「よく戦力が尽きないっすね」
≪アルジェント・メディウムは無人兵器の製造工場でもある。しばらくは退屈しないぞ、少年≫
「わぁ!」
いざとなったら武器を現地調達しないとな。
足元に転がる鉄屑の中から使えそうなライフルを見繕っておこう。
≪いや、喜べる状況じゃねぇだろ……≫
野生の武器庫を物色していると中量級ティタンが傍らに降り立つ。
赤茶けた砂煙の中から現れるトリコロールカラーの装甲は新品同然。
ダンの愛機――カノープス・タイプ2だ。
タイプ2と銘打ってるけど、外見に大きな変化はない。
右手の握る獲物がフレイムロックから
これから磨かれ、鍛えられ、強くなっていく。
楽しみだぜ。
≪ふっ……まだまだですね、ダン≫
≪なんなのこいつ?≫
なぜか得意げなアルの通信が割って入る。
無表情なのに自信満々という器用な表情が容易に想像できた。
≪無人兵器は撃破数に応じて報酬が出ます。この意味が分かりますか?≫
≪いや……≫
≪弾薬費を気にする必要がないということです≫
≪それを気にするのは、お前だけだよ≫
一周回って冷静になったダンが流れるように切り返す。
初心者に無心するくらいには死活問題だから仕方ないね。
臨時収入は大事――いや、待てよ。
ゾエ曰くアルの愛機が一度の戦闘で消費する弾薬は、新品の相棒を1機揃えられるらしい。
トリガーハッピーって怖いね。
いや、そこはどうでもいい。
「アル」
≪なんでしょう、V様≫
好機到来。
そう囁くのさ、俺の第6感が!
「ノーヘッド1機、どれくらいの報酬なんだ?」
≪1機につき6000クレジットだそうです≫
「6000!」
なんてこった。
「えっと、今で2ダースだから……」
≪144000クレジットですね!≫
「ありがとう、ゾエ」
ちょっとスクラップを量産するだけでフレイムロックを買えるお駄賃が?
ついに俺の夢を叶える日が来ちまったか。
「レールガンとパイルバンカーが俺を呼んでいる…!」
≪こいつを買わなかったら十分買えたよな?≫
聞こえない、聞こえない。
俺は過去を振り返らない男なんだよ、ダン。
でも、そのニードルガンは大事にしてくれよな!
≪――V、新手です!≫
お駄賃――じゃなかった、お代わりが来たか。
レーダーを確認するも赤点の輝きは見えない。
当然といえば当然だけど、長距離戦用にチューンされたフランベの方が索敵性能は高い。
相棒のレーダーユニットは重心調整用のパーツです。
≪11時方向、戦車です!≫
「戦車?」
いくら荒野がフラットに近いからって、ここで戦車を投入するか?
砂塵が舞う戦場を見渡し、低い車高の影を探す。
本隊到着までの時間稼ぎか――いや、ちょっと待った。
レーダーに映った赤点が恐ろしい速度で接近してくるんだが?
これ、どう見ても戦車の速度じゃないわ。
「ゾエ、本当に戦車だった?」
≪間違いありません! タンクモードの507号機です!≫
それは
ロックオン警報と相棒の目が機影を捉えるのは、ほぼ同時だった。
ああ、たしかに戦車だ――ちょっと近未来志向なデザインの。
全高10mの巨人を遥かに凌ぐ巨体でなければ、戦車と言い張れたかもしれない。
もう陸上戦艦だろ、あれ。
≪おいおい、どこが戦車なんだよ!?≫
鋼鉄がスラスターの強烈な閃光を背負い、目玉の飛び出そうな加速で突っ込んでくる。
躊躇なくペダルを蹴り、後方へ跳躍。
眼前をベージュ色の壁が高速通過し、火花と赤茶けた砂が一緒くたに舞う。
「こりゃぁロックだぜ!」
≪野蛮だよ!≫
巻き上げられた砂塵で視界は最悪だが、ひとまずダンは健在。
ここから轢き逃げ未遂犯を追い立てたいところだが――
「来るぞ、ダン!」
≪うぉ!?≫
まずは視界を埋め尽くす置き土産のミサイルを捌く。
相棒に追従できそうな3発を撃ち抜き、即座にペダルを蹴る。
世界が横方向へ加速する。
瞬く閃光、爆ぜる大地。
ミサイルが荒野を耕す光景を横目に、鳴り止まないロックオン警報の原因を睨む。
≪V、砲撃が来ます!≫
「よしきた!」
ペダルを強く踏み込めば、視界の高度が一気に跳ね上がる。
眼下を奔る6条の眩い光線。
すっかり見慣れたタジマ粒子の輝きが相棒の過去を砂のカーテンごと蒸発させた。
すかさず発射点目掛けてライフルを叩き込む。
HITの表示、跳弾する曳光弾――迫るベージュ色の巨体。
突進を捻じ込んでくる判断は良し。
だが、俺の着地を狙うなら接近すべきじゃなかった。
スティックを倒し、スラスターの角度を調整。
≪エネルギー残30%≫
自由落下の軌道を滑らせる。
スラスターをカット、残るエネルギーを左腕に供給。
「あまりに速いのも……」
着地の衝撃で巻き上がった砂を払うように、光の刃を
「考え物だよなぁ!」
走り出したら止まれない質量と速度だ。
直線番長と交差――眩い閃光が目を焼く。
高速回転するキャタピラとレーザーブレイドの対決は一瞬。
溶断された諸々を撒き散らしながら、巨大な影が脇を駆け抜けていく。
「…手応えあったぜ」
引き千切られたキャタピラの破片が降る中、鋼鉄が大地を削る轟音が響き渡る。
≪おい、冗談だろ…?≫
まぁ、これで終わるはずがない。
振り向いた先には、赤い砂塵をマントのように纏って
砲塔を頭部に、前部キャタピラを腕部に、後部キャタピラを脚部に。
人型というには歪な巨人が俺を睨んだ。
≪変形しました!≫
本当に変形するやつがあるか!
明らかに変形しそうなデザインではあったけども!
「うぉっ!」
影を吹き飛ばす勢いの閃光を放ち、可変戦車が
ティタンも大概だけど、その図体で浮くのかよ。
大きな影を落としてくる巨人は、俺の頭上で右腕を後ろへ引いた。
意図は明白――殴打、いや圧殺だ。
スティックを右へ倒し ペダルを蹴り抜く。
強烈な重力加速度で横へ飛ぶ視界。
置き去った景色が爆ぜ、視界を赤茶色に塗り潰した。
「可変戦車とは……やってくれるじゃねぇか」
まさか、ゾエの夢を叶えちまうとはな。
恐れ入ったぜ、アルジェント・メディウム。
だがしかし、ここはティタンが主役のティタン・フロントラインだ。
「行くぜ、相棒!」
ターゲットマーカーが捉えた異形の巨人へ向かって再加速。
可変戦車に主役の座は渡さないぜ!