初期機体≠初心者   作:バショウ科バショウ属

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コラプス=破綻

 アルジェント・メディウム(銀の巫女)のセンスは好きだ。

 大型レーザーブレイドやらレールキャノンやらをティタンに違法積載してみたり、陸上戦艦ばりの可変戦車を世に送り出すところには親近感を覚える。

 だが、ロマンだけでは生き残れない。

 それがティタン・フロントラインだ!

 

「どれだけ装甲が厚かろうと!」

 

 思い切りペダルを蹴り、スティックを左へ倒す。

 爆発的な加速で視界が真横に飛ぶ。

 それでもターゲットから目は離さない。

 

 頭でっかちの巨人――もとい砂漠迷彩の可変戦車。

 

 殴打ついでに腕部を振り回して旋回するも間に合わず、砲塔上部のカメラだけが俺を追っている。

 図体の割には動くが、俺の間合では無駄な足掻きだ。

 

「可変機構は守れないよなぁ!」

 

 装甲の一切ない伽藍堂の背面へ吶喊。

 相棒を押し出したスラスターはカット、赤茶けた砂のカーテンを突き破って懐に入る。

 

≪エネルギー残30%≫

 

 残るエネルギーを左腕に供給、狙うは可変戦車の()()

 巨体の随所でスラスターの紅い閃光が瞬く。

 

「遅い!」

 

 衝撃と閃光。

 抵抗を感じたのは一瞬で、光の刃は問答無用で押し進む。

 

 溶融した金属の飛沫が相棒を赤く彩り――目の前に空間が開く。

 

 すぐ頭の上を空振りするキャタピラ・エルボー。

 旋回の慣性に振り回されながら、可変戦車の上半身が滑り落ちていく。

 

「ふぅ……」

 

 着地と同時に砂煙が巻き上がり、鈍い衝撃が足元から駆け上がってくる。

 初めから人型として設計されていない以上、余計な可動部が増えるのは避けられない。

 そういう部分の装甲化は難しいというのがロボットアニメのお約束。

 通用しなかったらどうしようと思ってたのは秘密だ。

 

≪これで3機だな……≫

 

 所々が焦げたトリコロールカラーのティタンから響く声には疲労の色が滲む。

 分からなくもない。

 可変戦車のスクラップは3機目を数え、荒野に鉄屑をぶち撒けている。

 ティタンより高速かつ高火力、重装甲の陸戦兵器を量産しちゃダメだろ。

 ティタンがフロントラインで戦うゲームだぞ、おい。

 

≪いや、5機だ≫

≪こちらも2機、撃破した≫

 

 師匠とヘイズの調子は変わらない。

 重々しく着地する2機のティタンに損傷らしい損傷はなく、微かな擦過痕が色気を醸してる。

 渋いぜ。

 

「さすが」

≪なに、少年ほどではないさ≫

 

 いつも師匠は謙遜するが、俺には辿り着けない境地にいる。

 レールガンは無限の可能性を秘めた原石、ハンデ・レールガンとでも言うべき状態なのだ。

 それを携えて立ち回るなんて芸当は師匠にしかできない。

 

≪さすがに打ち止めでしょうか。そろそろ残弾が心許ないのですが≫

 

 巻き上げられた砂煙の中から現れる低いシルエットはティタンの異端児、戦車型。

 装甲の隙間から細身のフレームが覗く上半身に対し、マインローラを装備した重厚なシャーシという異形のデザイン。

 めでたい紅白カラーで塗られているが、両腕の4連装マシンカノンが大変厳つい。

 これがトリガーハッピー赤字姉さんことアルの機体、風林火山だ。

 

≪少しは温存しろ≫

≪ヘイズ、それは鳥に羽ばたくなと言うようなものです≫

 

 溜息と鼻息が同時に聞こえた。

 風林火山のシャーシから展開したサブアームが、せっせとマシンカノンのマガジンを交換している。

 白鳥の水掻き、という諺があってだな――

 

≪変です≫

 

 ゾエの漏らした呟きが通信を流れる。

 さっきまで可変戦車を前に大興奮していたとは思えないほど、異様に落ち着いた声だった。

 

≪この砲火魔が変なのはいつものことだ≫

≪私は正統派美女ですが?≫

 

 正統派も美女も自称するなよ。

 この世界の住人は、ほとんど美形か異形だぞ。

 

≪いえ、アルのことではないです≫

≪ゾエ様…!≫

 

 受け流されたことに軽く衝撃を受けるアルは捨て置く。

 天真爛漫の擬人化みたいなゾエが、ここまで異変を警戒するのは珍しい。

 ヘイズの愛機と眼が合い、コクピットの中で頷きを返す。

 以心伝心だ。

 

「どうした、ゾエ?」

≪心配事か?≫

 

 メインカメラにウォッシャー液が噴射され、ワイパーが回る。

 砂塵の落とされたクリアな視界には、スクラップだらけの荒野が映るだけ。

 珍しく健在なレーダーユニットも敵機は捉えていない。

 そういえば、無人兵器のお代わりが来ないな。

 

≪何かが……変です≫

 

 ゾエ自身も違和感の正体が分からず、困惑している様子。

 さすがに俺の第6感でも察することはできない。

 

≪これは……怒っている…?≫

 

 ぽつりと零す独り言に耳を傾ける。

 4連装タジマキャノン、クローバーラインを背負った逆脚のティタンは、戦塵舞う地平線を見つめていた。

 フランベの眼を通してゾエは()()見ている?

 

≪来ます≫

 

 ちょっと答え合わせが早くない?

 スティックを握り直し、ペダルに置いた足の位置を調整。

 

 レーダーに1割ほど意識を割いて、地平線の凹凸を睨む――凹?

 

 フラットだった地平線の一点が大きく窪んでいた。

 夕焼けを思わせる紅蓮の光で。

 

「光っ――」

 

 世界に夜が訪れた。

 大地の一点から発された光は、太陽すら圧倒する。

 メインカメラが強制的に光量を落とし、帳の落ちた視界の中で光が奔った。

 見慣れたタジマ粒子の輝き。

 ただ、その規模は見たことがない。

 

 クローバーラインが玩具に思える――それは戦場を両断する戦略兵器。

 

 通過点の構造物が何もかも溶解して灰に変わる。

 射線から10km以上離れた距離でも機外温度が上昇を始めていた。

 嘘だろ?

 

≪なんだよ、あれ!?≫

≪衝撃波が来るぞ――≫

 

 ヘイズの警告と巻き上げられた砂塵の壁が突っ込んでくるのは、ほぼ同時だった。

 殴りつけるような衝撃、赤一色に染まる視界。

 レーダーが現在地を見失い、通信がノイズで埋め尽くされる。

 どうやら、ここからが本番らしい。

 

 

 戦場を酸化鉄の混じった砂塵が覆い隠し、絶望の夜が訪れる。

 絶え間なく飛び交っていたタジマ粒子と曳光弾の輝きは疎らとなり、鈍い爆発音は暗闇に埋もれていく。

 地方都市B17防衛戦に身を投じていたプレイヤーたちは混乱の渦中にいた。

 

≪すごい衝撃だったぞ!≫

≪た、太陽が爆発したみたいな……≫

≪何が起きた!? 状況は!≫

 

 一進一退の攻防を繰り広げていたプレイヤーたちを規格外のタジマ粒子兵器が襲った。

 余波だけでも各フィールドの防衛線は機能不全を起こし、誰もが情報を求めて全体チャットを覗く。

 通信が死んだ今、機能するコミュニケーションツールはそれだけだった。

 

≪Bフィールドからキノコ雲が見える……嘘だろ≫

≪おい、上位クランが蒸発したってのか!?≫

≪アルジェント・メディウムの新兵器だよ!≫

≪そんなもん見りゃ分かる!≫

≪Aフィールド第1防衛線の本隊と交信途絶、実働9課は残存戦力を……≫

 

 悲鳴が溢れ、情報が錯綜し、混乱を助長する。

 誰も彼もがストーリーイベントの熱量に引き摺られ、興奮気味に言葉を綴っていく。

 そこに火消し役はおらず、インパクトの強い情報だけが駆け回る。

 

≪くそったれ! 敵部隊接近!≫

≪誰か俺の相棒を見た奴はいないか!≫

≪救出部隊の編制を!≫

≪視界が最悪だ! フレンドリーファイアに注意しろ!≫

 

 しかし、戦場の真っ只中に置かれたプレイヤーたちは悠長に情報を追ってはいられない。

 必要最低限の情報だけを残し、再び砲火を交えに窮屈なコクピットへ意識を戻す。

 無人兵器は攻勢の手を緩めたわけではない。

 むしろ――

 

≪た、助けてくれ! もう赤字は嫌だ!≫

≪新型のフラグシップだと!? くそっ付き合い切れん!≫

≪話が違うっすよ……後方は安全だって≫

≪もうだめだぁ…おしまいだ≫

≪撤退だ! 撤退する!≫

 

 彼女たちの攻勢は苛烈さを増し、穴だらけの防衛線を粉砕していく。

 プレイヤーの6割近くが集結した総力戦の行末は、決定した。

 

 前線(フロントライン)の崩壊――そうなれば、クランもフリーランスも関係ない。

 

 最悪の撤退戦が始まる。




 撤退戦の方が好き(支離滅裂な言動)
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