ハンターや吸対所属の者が続々と同胞を取り囲む。
大きめのコートと揃えたチェック柄の直帰とパンツ。
肌の色は元々
まるで出で立ちは産業革命後期にでもいそうな雰囲気だ。
D倅の友人でもあるのでその位の時代の出身なのかもしれない。
もしかしたらただその時代の格好をしているだけのもの好きかもしれないが。
……そうか、姫の件で忘れかけていたが一応は此奴もDの関係者……は言い過ぎでもDと少なからず関わり合いを持つ者なのか。
そうなればここは迂闊に手を出せない。
これは友情関係とかそう言うのではなく干渉の度合いの問題だ。
簡単に言えば隣の国が自国の土地を治めているよな複雑な問題になる。
Dと私は友人だからその位は許されると信じたいが他の吸血鬼に責められる口実を作られるのはまずいかもしれんな。
こう言ってもまだまだ人間に対する態度が
むしろ私とDが珍しいくらいだ。
「おやおやおやこんなにも集まるとは……君達も懲りないねぇまたやられに来るとは」
この状況でその言葉を放てるとは中々見どころがある奴だ。
但しボコボコにされた後じゃなきゃもっとかっこよかっただろうに。
と言うか何でコイツこんな騒ぎを起こしたんだ?
言っちゃ悪いがこんなにも……弱いのに。
思わず憐みの目を向けてしまったくらいには弱い。
本当に此奴がやったのか疑いたくなるくらいに弱い。
本当に弱い。
大事なことだから何回も言う。
まぁ、催眠にかかったものの被害者の会の皆さんがアイツなのだと言うのならそうなのだろうが。
と言うか意外だな。
こんな奴に姫がやられるとは思えない。
姫を見つめる。
いや正確には催眠術による残滓と言うのだろうか。
なんとなくわかる特有の感覚だ。
それによると確かに……あれ?
掛かって……ない?
どういう事だ?
掛かってないのなら何故姫は……。
いや掛かってはいる?
しかしこれは……。
「ようやく気付いた。まったくレディの本音くらい耳を貸すべきだと思うよ、違うかな?」
いきなり姫がそう語りかけてきた。
その眼の奥を見つめる。
やはり掛かっている。
しかし、なんだこの違和感は……。
「あれもしかしてまだ気づいてない?やっぱりあなた始祖って言われるくせに催眠術は苦手ねぇ」
これはまさか。
いや、でも姫なら。
……自分で掛けたのか?
「あら、いまさら?そうよ自分で掛けたの寝坊助さん。まさかそこな吸血鬼が結界も張らずにこの街中の催眠を維持できると思って?」
え……いや、はい。
「まぁ、そうねやろうと思えばできるかもしれないけど負荷がそれなりにかかる。理論的にはできても現実的には不向き、そんなところよ」
じ、じゃ何で?
姫の目からハイライトが消える。
心なしか後ろから後光の代わりにクトゥルフ神話にでも出てきそうな何かを幻視するくらいのまがまがしい何かが放たれている。
はい、ここでSAN値チェックで~す。
と言えたらどれ程良かったか。
まぁ、私に言えることだがこれは確実に発狂か殺人衝動になりそうだ。
「……」
や、ヤベェ
マジでヤバイ。
このままだと私を巻き込んで色々とアウトになりかねん。
現実逃避ではそもそも相手を怒らす一方だ。
取り敢えずここは……。
「とりあえず……?」
よ、読まれたーッ!?
そうか読心術か、しまった。
やらかした。
「フ、フフフ……。やらかした……ねぇ。……本当に、
グハァッ!?
思わず吐血する。
本当にこの状況はまずい。
このままじゃ長年連れ添ってきた姫と絶縁される。
かなり昔になりかけた前科があるからもう本当にマズい!!
と言うか私の語彙力もマズい。
ど、どうするべきだこれ?
私に残された手は……
とそこで姫が不意に近ずいて来る。
もしかして本当に絶縁を叩きつけられるのだろうか。
今まで過ごしてきた日々を思い出す。
よく何かときつく言われていた思い出がよみがえるがそれでも幸せな日々だった。
そして最後に思い出したのはまだ姫が人間だった頃の思い出。
あのかわいいお姫様が私を追って吸血鬼になりそして再会を果たしてくれた。
……今まで姫を蔑ろにしていたのは私か……。
此処まで慕ってきてくれたもののこと放っておいたのは他の誰でもない……私だった。
……すまなかった、今まで色々と。
姫はまだ歩み寄ってくる。
そしてついにお互いが触れ合う距離にまで詰め寄ってきた。
思わず身を固める。
この際何が来たって受け止めよう。
「……次は、ないから」
近寄ってきてそのまま頭をコテンと私の胸に預けてきた。
……これは一体どういう事だろうか?
先程まであれほど怒っていたのに。
「まったく貴方は……読心術ってさっき言ったじゃない」
あ……。
……。
これは、恥ずかしい。
「あなたはいつも本音を言わない人だから……私がいつも補うしかないのね」
あ、いや、その……ありがとう。
あれでもじゃぁ何でDは姫があの吸血鬼に催眠術を掛けたと言ったのだろうか?
いや、待てよそもそも何かが根本的に間違っている気がする。
何だろうこの喉につっかえた魚の骨のような感覚は。
「……ッチ、勘がいいわね」
え、なんて?
今とんでもないことが聞こえた気がしたんだけど。
「もういいでしょ?……Y談」
「おっとそこは最期まで黙っていてくれると思ったんだが」
声がした方向、そこには公園の街灯に照らされたベンチに座り水晶が付いた杖にもたれかかる今回の騒動の張本人であるはずの吸血鬼が座っていた。
……え?
何でそこに居るの?
さっきまでハンターにボコボコにされていたはずだ。
そう思いハンターの方に目を向ける。
そこには明らかに煽っているようにしか見えない張り紙を付けたサンドバックに群がっているハンターの姿があった。
……。
あッ、これやってんな。
「そう言う事よ。貴方が全くかまってくれなかったからちょっとからかっただけ。ま、楽しめたしここらへんでおしまいにしようかな?」
「おっと、ならば私もここらでお暇するとしよう。このままここに居れば彼らに袋叩きされてしまうからね」
「ええ、そうしなさい。彼等あなたに出し抜かれたと思うでしょうね?」
「ハハハハハ、それは怖いね。しかしミセス、もう気は晴れたので?」
「そうね彼の本音も覗けたしこのままベットに連れ帰ってプロレスに勤しむとするわ♪」
「それはそれは……大変興味がありますが聞いたら殺されそうだ」
「ええ、分かってるじゃない。跡形もなくこの世から消し去ってあげるわ」
えぇ……つまりは全部自作自演?
「そうなるわね?」
頭を傾げながらそう言う姫。
奥ではY談と呼ばれた吸血鬼が笑いを必死にこらえている。
……全部姫の掌の上で踊っていたと言う事になるのか。
あれだけ心配したのに……全部。
「いや、心配してくれたのは嬉しかったわよ?だって貴方分かりにくいんですもの。読心術を使っても普段は何を考えてるかさっぱり分からないからこんな状況を作っちゃえば焦って少しはガードがゆるむかな、と思ってね?」
……。
もう、やめてくれ?
「でも面白かっt━━━ひゃぁ!?」
姫に不意に抱き着く。
強くしっかりと取りこぼすことが無いように抱きしめる。
本当に心配したんだ.
「……まったく……。本当に分かりにくいのね?」
それは……。
「でも分かりにくいだけでその奥には誰よりも優しい心を持つ貴方だからだから好きになったのよ?……私のおうさま?」
……。
あ~あ、負けだ負けだ。
こんなの負け戦だ。
では、おひめさま、何なりとお申し付けください。
「ふふ♪では、おしろまで連れってって私を寝かしつけてくださいな、おうさま?」
姫に差し出された手を取る。
そのまま引き寄せ持ち上げる。
所謂お姫様抱っこだ。
では、こうして運びましょう。
いたずら好きなお姫様。
これでもうあなたは私から逃げられません。
逃げてもまたこうやって捕まえます。
いつかした会話。
確かあの時はこの後部下に裏切られたのだったか。
今となっては昔の事だ。
だが、確かに大切な思い出なのかもしれない。
だって━━━
「ふふ♪……此処から先は初めてね?さぁ、どうやって私をエスコートしてくれるのかしら?」
こうやって思い出に耽るときがいつかやってくるからだ。
それは、甘い甘い甘美な美酒。
来い、我が脚
旗槍を地面に付く。
私の陰から出て来る純白の白馬。
身に着ける武具は自らを主張するかのように輝いている。
もう一度つく。
暖かい風が吹くような感覚と共に身にまとう服に異変が起きる。
サーコートは深紅のマントへ、鎧は細工が施された華やかな物に。
そして何より頭には王冠を被っている。
普段しないだけに恥ずかしい。
しかしそんな内心をひた隠し姫を白馬に乗せる。
「迎えに上がりました姫……いえ、我が妻よ。さぁ帰りましょう」
「ん///満点です♪」
街中を進む白馬。
しかし誰も気づかない。
だが、これでいい。
今の一時だけは私と妻の時間だ。
他の誰にも共有させたくない。
「さぁ、帰ってヤるわよ!」
……。
まぁ、なんにせよ妻が無事でよかったです。
~とある一コマ~
第一席「そう言えば催眠にかかってた時のチョイスは何?」
姫 「ああ、(言えない、若干Y談おじさんの催眠がかかった時の影響で夫にバブりたかったなんて言えない)……なんででしょうね?」