新横浜高級マンションの最上階で私は物思いに耽っていた。
思い出すのはDの孫の話。
"吸血鬼にとって最も古く最も高貴な存在である"
そう彼は語っていた。
確かに私はかなり……いや、此処は認めよう最古の吸血鬼であるその自覚はある。
しかし、納得がいかないのは最も高貴な存在であるという言葉だ。
と言うか納得したくない。
切実に。
何故かと言うと私自身友と呼べる存在が少なすぎるからである。
そもそもこの新横浜に来たのだって元はと言えば新たな友と呼べる存在を探しに来たことが大きい。
確かにDの孫の様子を見に来るという用事もあったがそれもこの街に一時的に移住……と言うよりは吸血鬼の感覚からすれば別荘に遊びに来た感覚ではあるが一応のあいさつ回りの為でもある。
それにDによればこの新横浜には他の場所に比べ友好的な高等吸血鬼が多いとのこと。
そいつらと友達になれれば私は長年にわたり姫にいじられ続けたボッチやコミュ障と言った言いがかりを受けずに済むようになる。
それにいい加減私の名前を呼んでくれる友が欲しいというものだ。
ふと、背後に気配を感じる。
きっと先程まで出かけていた姫が帰って来たのだろう。
確か私が居ない間に早くも友達ができたと昨日自慢げに話してきた。
……ホント社交性も人も基本的にいいのだが家に居る間は彼女に何かと勝ったためしがない。
外では色々気遣ってくれているのか一歩引いて譲ってくれているが。
まぁ、それだけ家ではリラックスできていると言う事に違いない、そう言う事にしておこう。
あれ?しかし、何もしてこないな。
いつもならとっくに後ろから組み付いてきているころ合いなのに。
これはあれか?
何か変なことでも企んでいるのか?
後ろに居ることくらい分かっている。さて君は何を企んでいるのかな?
何気なく声を掛ける。
このまま彼女が何か仕掛けてくるのを待つのもいいが。
もしも私が気付いていること前提で彼女が話を進めようと言うのならまず声を掛けてやらねばなるまい。
仮にこのまま何も語りかけずに彼女がいじけてしまう方が問題でもある。
「やぁ、第一席、ちょっと、様子を見によっただけ」
思わず口に含んでいたワインを吹き出しそうになった。
まさかの後ろに立っていた奴がDだなんて誰が想像でいようか。
しかしながらここはぐっと自分を抑え込みポーカーフェイスを貫く。
俺にとってまともな友人と呼べる数少ない相手だ。
そんな友人の来訪を知らずにのうのうと酒をたしなんでいたなどと思われたくない。
此処はさり気なく知っていたがわざと振り向かずに供を歓迎する……そうクールに絵になる立ち回りで行こう。
D……いつもながら君の隠密には驚かされるよ。
「そう言う、割に、驚いているようには、見えなかったけど。因みに今日は、窓から、入ってきた」
なるほど、確かに窓なら今日は開けっ放しにしていたからそこから入ってしまえば扉の開く音なんかもしなくて済む。
しかし、自由気ままなDらしいと言えばらしいか。
D、気を付けろよ。ロンドンでは確かに君の行いの大半が許されているがこの日本では不法侵入罪になってしまうよ?
「大丈夫、一席は友人だから、許してくれる」
ああ、そうだ。だが妻の居る時だけはやめてくれよ?
「分かってる、邪魔しない、約束」
あれ、待って今D、私の事友人って言ってたよな?
あぁ……やっぱり胸を張って言えるともがいて。
これで私はボッチじゃないしコミュ障でもないな
「それにしても」
ん?
まだ何かあるのか?
まぁ、友人の話だしいくらでも聞きはするが。
「街、大変なことになってたね」
え、そうなん?
眺めてる限りじゃちょっと騒がしい程度だったがこれが普通じゃないのか。
まぁ、よくよく見れば慌ててる人もいるしその殆どが口を押さえてないかを伝えようとしている。
「街、大混乱だよ?」
……如何やら、そのようだな。
しかし一体何が。
「ドラウスの友達が、ちょっとやんちゃしてる、みたい。いろんなところに、催眠をかけまくってる」
うわ、マジか。
今日はBarに行くのやめよっかな。
そんな状態ではハンター皆出張ってるだろうし何より邪魔になるかもしれない。
「一席の奥さん、催眠状態だったよ?」
……何だって?
今回は導入部分です。
やっぱりみんなのY談おじさんは人気者だった。