川崎シティで撃破した、敵新型大型兵器。型が多いな。
2週間前の月面へ瞬間移動、この場合は時空間移動だろうか。
とにかく青くて細い方はいなくなってしまった訳だけど。
もう片方のゲキガンカラーの方は、ナデシコが捕獲。
近隣の連合軍で動ける部隊はこいつらにやられてしまって。
軍属だけど、ナデシコが一番近かったからそんな流れに。
んで、格納庫に無理やり乗っけたはいいんだけど。
その中に“誰か”が載っていたような、そんな形跡が見られ。
木星トカゲに人型の生命が載っていたと推測されたのである。
提督に、極秘で調査するようにと指示が下ったとのことで。
それが保安部でなく、もう知っている整備班を中心に。
パイロットを捜索する話になっているところなのだけれど。
「――なんで俺が呼ばれたの?」
「機体の検証のためだよ?」
「極秘なんだよね?」
「極秘だよ、何か問題が?」
副長と共に解体された大型兵器の前に立って、眺め見る。
実際に自分が設計したわけでないにしろ、何だか感慨深い。
俺以外がこんなのを作ったというのも不思議な気分だが。
あのパッチデータの存在は、ウリバタケさんも知っている。
だからこそ呼ばれたのかねぇとは思うのだが、極秘だよ。
内密にって言われているのに、なんで改めて俺を呼ぶのか。
問題がないかって聞かれたら、俺はあると思うんだけど。
しかし、その極秘にしたいはずの提督もここにいるわけで。
……俺は一体どんな風にこの人達に思われているのかね。
「で、機体の検証って何をすればいいの?
中のプログラムとか、確認してみればいい?」
「それは俺たち整備班がやる。
お前は、気付いたことがあれば言ってくれ」
「……曖昧な指示ですねぇ」
「僕たちも特別な期待してないから大丈夫」
コイツ、人を呼び出しておいて期待してないとか抜かした。
耳を疑い、見開いた目で副長を見たがしれっとしてやがる。
はんぱねぇなコイツ。段々図太くなってきやがった。
まあ、そこまで言われたら何か結果を残さずに居られない。
一応目的としては謎のパイロットを探すということだし。
コクピットはどこになるのかと聞くと、頭部であるようだ。
案内に従い近づいて、入っていいのかと聞くとOKが出る。
副長、提督、ウリバタケさんと整備班に見守られて中に入る。
……これって心配されてるの、監視されてるのどっちなの。
見た目通りにというか。ゲキガンガーの見た目通りの外見と。
中身は少し趣が変わってゲキガンガーヲタの部屋みたいな。
そんな感じの内装だが、普通に機動兵器のコクピットである。
シートがあって、操作用機器があって、モニターがある。
エステバリスの操縦席と極端に変わった様子は感じられない。
ま、だからこそ人型生命が載っていたと推測された訳だけど。
中に入り込んで、そのままシートに浅めに腰を掛ける。
ちょっと慎重に操作用機器に手を伸ばし、若干遠く感じる。
固定用のベルトに視線をやってから、俺は思うまま叫んだ。
「――イケメンの匂いがする!」
「そうか何言ってんだオメエ」
こう、くんくんと。わざとらしく鼻を鳴らす俺に突込みが。
いや匂い嗅いだところで大体機械っぽい匂いしかしないけど。
ウリバタケさんの流すような突っ込みが、心に染み渡る。
うん。冗談だけど、ある意味冗談でなく本気で言ってるし。
説明待ちの外の人たちに、俺は気になる所を指差してみせた。
何言ってるのかと聞かれたからには真っ当に答えてやろう。
「――これ、シートの位置がですね。
明らかに手足長い人のそれなんですよね」
「……ほう?」
「固定用のベルトもです。
ほら、ここに折り目ついてるでしょ」
俺がそのまま付けると、結構余ってしまう長さだけれど。
推測される手足の長さだとしたら、凄くいい身体をしている。
少なくともガリガリでもプニプニだとも思えない。
手足が長くて引き締まっている身体なら、大体イケメンだ。
というかそれだけ揃ってれば顔が余程悪くない限り平均以上。
男の場合は体型髪型服装で8割決まると偉い人が言っていた。
「こう、普通に座っても。
俺だと少しずつ足も手も足りてないので」
「うん」
「……180cmぐらいはあるんじゃないですか。
んで、普通体型の筋肉質ってところだと思います」
なので、イケメン。そうでないのは本当に余程だろう。
……パッと判るのはこんな感じか。それ以上は判らない。
ただ、正体不明の成人男性が艦内にいるとなると。
提督もウリバタケさんも、俺の推測に納得したようで。
整備班が捜索員として、バラバラと解散し捜索を始めている。
副長の手を借り外に出て、俺も参加すると宣言しようとして。
「よし、俺も」
「駄目だよ」
「えっ」
「君は駄目だよ」
その場で副長ストップが入る。思わず素で振り返った。
凄い普通に真顔である。いや笑ってるんだけど、本気である。
え、なんでこの場に至って参加不許可なの、と視線で問う。
「オペレータ一人でもナデシコ動かせるからね?
こういう状況ではすごく重要なんだよ?
「……それならホシノさんも」
「君、極秘でも勝手に勘づいて動きそうだし。
それを防止するために、こうして呼んだんだよ」
――うん、それはちょっとどうするか自信がないけども。
どうだろう、何も言われずに気付いてたらなんかしてるかな。
なんかしてないはずないな、少なくとも手伝いには行くな。
聞いてみると、他のブリッジメンバーにも護衛がつくと。
俺にも護衛はつくが、それ以上に行動するなとのことである。
勝手な行動禁止か……何となく恨みがましく副長を見てしまう。
「……そんな目で見られても。
180cm相手に勝てるのかい?」
「無理でござる」
「なら無理しないでください」
頼まれた。まあ、俺の安全だけでは済まない話だしなぁ。
……自分の安全がかかるだけでも動く気はさらさらないけどね。
取り敢えず、この場は素直に話を聞く振りをすることにした。
機会があったら、出し抜いてやろう。安全で上手な方向で。
そんな感じで若干決意を固めながら、素直にブリッジに送られた。
残念ながら、俺は副長より完全に弱いのである。くやびく。
2週間前の月面に飛んだ、青細ゲキガンガーとテンカワさん。
例の謎の爆発ってのは、どうやら青細ゲキガンガーの爆発の様で。
一応、解決したような。そうでもないような、微妙な所である。
結局、あの瞬間移動についてはチューリップのものと同様で。
今回の2週間の時間移動も、火星からの8ヶ月と同じとイネスさん。
今後は、あの現象はボソンジャンプと呼称する様に指示あり。
瞬間移動、実際には時空間移動かな、とにかくボソンジャンプ。
それで月面までテンカワさんは飛んでしまった訳だけど。
ナデシコはその回収の為に、月面に向かっている最中です。
テンカワさんってナデシコ降りたんだよね、とかさ。
そういう微妙なことは思い浮かぶが、なんか取消になったらしいよ。
エリナさんから指示が出てるので、ネルガル都合らしいけどさ。
そうでなくてもあのゲキガンガー二機はネルガル子会社から。
ざっと調べてみたけど、ボソンジャンプを研究してたらしいね。
……川崎シティは巻き込まれかけてたってことかなぁ、なんて。
テンカワさんだけ無事にボソンジャンプ出来ていたりと。
色々釈然に落ちないことはあるんだけど、まあこの際それはそれ。
人間には気にしないって機能があるので気にしないことにする。
気にし始めるとね、なんでパイロット捜索が極秘なのかとか。
どんどん出てきてしまうので、俺は業務に集中するわけですよ。
そう、ブリッジクルーが一人しかいない航行とかにね!
副長は謎の木星人類の捜索中、他の皆さんは非番とかお風呂。
そうでなくても連合軍勢力下の月に行くだけなので、安全。
そうして今のブリッジは俺一人と……何故かカザマ少尉の二人。
「――ってなんで、少尉もここに?」
「あ、私は副長にあなたの護衛をしろと」
「……少尉が?」
護衛だよ。普通こういうのって、女性じゃなくて男性じゃ。
ジェンダーとかあんまり気にしないが、女性に護衛されるのは。
うむ、なんというか護衛より別のことを重視されてる気がする。
具体的に言うと、監視とか行動阻害とかお目付け役だろうか。
何せ、彼女は数少ないまともな軍人であるわけでして。
副長もそこらへんを任せやすかったのかなぁなんて思ったり。
「副長なんか言ってました?」
「……ええ、その」
「聞かせられません?」
「……いえ。
賢くて行動力があるから余計に危険だ、と」
完璧に監視の紐じゃないですか。あの野郎何時か泣かす。
まあいいですけどね、俺も何かするつもりではないですし。
っていうか、褒めてんのか危険物扱いなのかはっきりしろと。
実際に聞いたら両方だって回答がきそうでちょっと腹立つ。
いいや、この場にいない人間に腹を立てるのは流石に不毛だ。
それよりも、何か言いたそうな少尉に、話を促そう。
そう思って、まだこちらを見たままの少尉に俺は何ですかと。
副長が俺に対して、他にも何か言ってやがったのかと思ったが。
しかし少尉はどこか逡巡してから、小さな声で呟いた。
「私から志願したんです。
……………………あなたの護衛」
「……え?」
「先日はその、すいません。
助けていただいたのに、怒鳴ってしまって」
――ああ。川崎シティでの一件のことか。
アレは謝られることされてないというか、こちらがしてる。
何せ、何の連絡もなしにコントロールを無理やり奪ったわけで。
流石にあの後、アカツキさんからあれはねぇと小言を言われた。
思い切りよくやったからこその結果ではあるが、なんともね。
クラックを思い切りよくやれるのも、人としてどうかである。
「いや、いいっすよそんなの。
俺も説明せずやってしまったんで」
「ですが」
「気になさらないでくださいよ。
あれは誰だって普通は怒りますから」
っていうか、本当にやられたらもの凄い恐怖だと思う。
いきなりマシンが言うこと聞かずに、別の機動をするのだ。
下手すれば乗れないくらいに、トラウマってもおかしくない。
せめてあの瞬間に何か一言掛ける機転が回ればよかったが。
意識が全然そちらに向かなかったので、申し訳ないばかりだ。
しかし、それでも少尉は納得していなさそうだったので。
「――でも、護衛に志願してくださったんですよね。
それでチャラですよ、ありがとうございます」
「これは、任務ですから」
「それいったら、俺も任務でしたよ。
なので、これでお互いさまってことですね」
俺が助けたのは任務、少尉が護衛してくれるのも任務なら。
少尉が志願してくれたのと、怒鳴ったのでチャラである。
俺としては怒鳴ったのがマイナスでなく、志願分プラスだが。
それを言うとややこしくなってしまうなぁと思ったので黙る。
ただ黙ったら空気が悪くなるので、穏やかに笑ってみせる。
そうしたら少尉も微笑んでくれたので、ちょっと俺も和んだ。
――――と、こうして話している間に。
どうやら侵入者がいることが、色々とバレちゃったみたいで。
俺たちはブリッジか食堂に、避難することになりました。
「――っていうかバレない訳ないよね。
あれだけ大規模に探し回っててさ」
「……うん、そうなんだけどね。
君はそういう所、本当に冷静だよね」
バレた経路としては、ウリバタケさんたちから艦長に。
伝言ゲームとしては出来が悪かったそうだが、ともかく。
あの中に誰かがいて、それを探してるのは周知になりました。
んで、ブリッジメンバーは基本的にはブリッジに集合。
それ以外の人で、搜索に加わらない人は食堂に集合となり。
俺はあともうすぐで、非番となるわけなんですけども。
「ん、俺も食堂にいればいいかな?」
「そうだね。
ここにいてくれてもいいけど」
「お腹空いたし、食堂に行ってるよ」
「私もご一緒しますね」
というわけで、引継ぎを副長とホシノさんにお願いして。
立ち上がった俺とカザマ少尉に、副長は思い出したかのように。
艦内マップのウィンドウを投げながら、俺に頼みごとをした。
「まだ避難してない人に。
避難の呼びかけしてくれないか?」
「いいよ、りょーかい」
「……くれぐれも。
危ないことはしないでくれよ」
本当に、副長は心配してるのか釘を刺してるのかどっちだ。
どっちでも大差はないが、あんまり連呼されても、その。
人間の性質として、反抗したくなるかもしれないじゃんねぇ。
とにかく、通り道で未避難なのはメグミさんとミナトさん。
メグミさんの部屋で二人共何かをしているようなので。
俺と少尉は、食堂に行く前にそちらに寄っていくことにした。