2201年9月18日午前11時30分。
元ナデシコクルーの、ホシノルリナデシコB艦長就任記念パーティ。
……ま、ある意味同窓会みたいなものであるわけで。
パーティというからには、それなりに着飾る必要も出てくる。
年頃の女性であれば尚更で、ちゃんと手間とお金を掛けなくては。
別に義務ではないが、これはある意味プライドという奴である。
ワンピースドレスにパンプスに、アクセサリにバッグを忘れず。
髪のセットにメイクも必須。見っとも無いのは誰より自分が許せない。
前持った準備を心掛けねば、いつか何処かで悔しい思いをする訳で。
「トオルさん?
そこに居ますか?」
「いるよー。
着れたなら一度見せてよ」
んで。今日はパーティの一週間前、そしてここは試着室の前。
その前持った準備をするために、今日の俺はつき合わされている。
楽しくないかと聞かれたらそんなことはないと首を振るけどね。
カーテンの端が少し動いて、カラカラと更に開かれる。
そこに居たのはイツキさん。御歳23歳の連合宇宙軍の軍人さんだ。
恐る恐るといった感じで、若干不安げに俺のことを伺ってくる。
着ているのはインディゴの少し光沢があるワンピースドレス。
身体に沿った感じのデザインで、色も合わせてシルエットが美しい。
長い黒髪もしっとりと、かなり大人びた印象を俺に与えてくる。
似合ってるかと聞かれたら、勿論超似合っていると答えるが。
本当にこちらを着るならセットとメイクも気合が必要だろうなぁ。
その点を鑑みながら、こちらをみるイツキさんに俺は小さく頷いた。
「どう、ですか?」
「さっきのライム色よりも大人っぽい。
シルエットが綺麗で、凄く上品な感じだけど」
「だけど?」
「多分メイクとかが大変じゃないかなぁ。
これに合うネックレスとか、確か持ってないよね?」
大体、今まで着てる服はある程度だけど覚えているので判るけど。
前着ていたのはシンプルな奴だったので、多分あまり合わないかなと。
イツキさんのことについての記憶力には結構自信があるのである。
むぅ、と悩んでいるイツキさん。さっきのも気に入っていたようで。
ちょっと子どもっぽいがライム色が鮮やかで確かに似合っていた。
どっちがより、と聞かれたら俺でも正直困ってしまうかもしれない。
「……どっちが似合ってました?」
「どっちも最高に似合ってた」
「嬉しいけど今はあんまり嬉しくないです……」
いい顔である。喜色満面なのに打つ手なしみたいなオーラがいい。
こう、なんというか。あんまり他の人には見せたくないなって感じ。
一しきり満喫してから、俺は彼女に助け舟を出すことに決めた。
「強いて言うなら」
「……」
「気合入れて着飾ってるイツキさんが見たいかな、俺は」
折角だしねと笑いかけると真っ赤になってカーテンが閉じられた。
その様子に、やっぱりニヤニヤしながら俺は満足感を感じて。
中で着替えるイツキさんから、俺は二つのドレスを受け取った。
「あ、両方でお願いします」
「畏まりました」
イツキさんが出てくる前に、ささっとそいつらを購入して。
着替え終わったイツキさんに、紙袋に入った二つの箱を見せ付ける。
ぷんぷんと。勝手なことをする俺に、彼女は膨れっ面を見せて。
「――駄目ですよ。
ちゃんと私の分は私で買うんですから」
「いいじゃんか。
どうせその内、同一会計になるし?」
そんな風にからかってみたら、やっぱり彼女は真っ赤になって。
見られまいと先を歩こうとするものだから、俺も軽く早足になる。
手を握って、離れられないようにして、そして今度は隣を歩く。
次はネックレスを見てパンプスを揃えて、それからランチして。
まだまだやりたいことも沢山あるし、時間は幾ら合っても足りない。
俺はもっともっと、彼女のいろんな顔を見たいと思うのだ。
不安な顔も喜ぶ顔も困った顔も怒る顔も真っ赤な顔も全部楽しい。
他の誰にも譲れない。譲りたくはないと、心の中で小さく決意する。
次はどんな顔をさせようかなと、繋いだ手に少し力をこめた。