死神が通るぞ   作:黄田田

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第3話

「レイエス、お前なんてことを!」

 

錆びていく思い出という名の屑鉄の中で、あの若造の声がこだました

 

たとえそれが終わりの引き金だろうと、俺はあの時の選択を間違ったとは思っていない。負の連鎖を断つためには根本から掃除しないといけないからだ

 

そう、必要な殺人だった。必要な…?

 

目の前には堆く積みあげられた死体の山があった。それぞれ名札がつけられていて、この世界に住んでいたという明確な証拠がそこにはあった。例えば施設に侵入する際基本は隠密だが気付かれた際は実力行使に出ざるを得ない場合がある、そんなときに生まれた必然性のない死たちだろう

 

弱者が虐げられる社会を変えたくて一線を越えたのではなかったのか。自分がやっていることはそれに加担しているだけだ。アカンデの目指す『混沌』でも、弱者が存在できなくなったというだけで真の意味で救えてはいない

 

しかし、今になってはすべてがどうでもよいとすら思える。腐敗して内臓色に彩色された身体たちはさながら蝸牛の殻のように渦を巻き、それがどうしようもなく美しい

 

何より自分がこれを犯したのだという奇妙な満足感が五体を満たした。改めて亡骸の顔を確認するとそこにはまだ若い少女の顔もある、いつ殺したのかさえ覚えていない。だがそんな理不尽な死こそ自分をタナトス足らしめているような気がして、さながらウィドウメイカーのように生殺与奪の権利を掌握しているという快感に酔うことができる

 

「彼を、ジェラールを殺した時えも言われぬ快楽がアタシを包んだわ。リーパー、アナタもいずれわかるでしょう。愛する人を殺すということはどんな罷蘭地よりも濃厚で、その血漿の香りは桃金嬢のエキスすら遥かに超えるほど芳醇だってことがね」

 

あぁ、大義なんて必要なかったのだ。この身に正義などありはせず、俺はただ自分にたいして不誠実だった世界に暴力という名の鉄槌を下したかっただけだった。世界が憎い、だがそれ以上に愛している。俺に復讐の理由を作ってくれたから。“俺”の正義による殺戮を許可してくれたから

 

手前勝手な正義による殺しは二律背反すら存在しない、かつて牢に送った殺人鬼の其れだった

 

 

 

***

 

「僕はね、みんなの未来を奪いたいんだ」

 

男は語る。己が夢を、荒唐無稽で管を巻いたかのような意味不明な戯言を。独善性に満ち、この世のものとは思えないほど邪悪で醜怪な内容だったが、それを語る男の活力にあふれた少年のような表情はどんな無茶でも実行できるだろうという確実性があった

 

そして何より男にはそれを実行するリソースを持っている。リーパーとレディ・ナガンの加入により最盛期を迎えた敵連合はスピナーら古参メンバーを蔑ろにしてAFOと新たに加わった側近二人により暗殺、破壊工作、権謀術数など策謀の限りを尽くし、ついにこの男が魔王として君臨するときが現実味を帯びてきた

 

「僕は弔の思いは継いでいるけど何も世界を完全に破壊するつもりはない。単純に今ある風俗、常識、法律というものをすべて撤廃して少しみんなに堕落してもらいたいだけさ。愚民は御しやすいから」

「とりあえず条例を作って風俗と教育を完全に頽廃させた後、殺人、強姦、あらゆる放蕩の罪を許可してその快楽漬けにして、どんな圧政があってもそれに気づかないようにしよう。学術に関する書物はすべて焚いて自由な人間というものが生まれないようにするというのも素晴らしい。考える機会が、自由がOFAを生んだからね」

「君はエリートの人間が嫌いだったね。悲しいことにこの世の摂理において個性抜きにしてすら生まれながらに階級は定まってしまっているんだ。身体能力、知的能力、風姿そういった生来の格差は当然のこと、上流階級と下層階級は教育や環境の違いを抜きにしても生物的に違う。いっちゃ悪いけど底辺に生まれた人間は猿同然だね。大昔の話になるけど僕もそれなりに裕福な家に生まれたからわかっていたよ。後々殻木に調べさせたところ上流階級と下層階級の子供の様々な肉体構造にいかなる類似点もないことがわかった。まぁ無理もないよね。自然界、動植物では明らかに生命力においての格差があるのに人間だけそれがないなんておかしな話だ。人間には更にわかりやすく発達した脳みそなんてものもついているんだからこれがさながら臆病な狆と勇猛なトルコ犬、ヴォルテールとフェヌロンのような発達の差がないわけがない。けど母親の胎内にいるときから奴隷人生が確約されているなんてつくつぐ残酷な話だよ」

「だから人は暴力に走る、凶悪な個性を持って、犯罪に走るのが異能社会。この世界における最大の美徳さ。自然という手は最終的に僕がすべてを手に入れられるようにお膳立てしてくれている」

「僕の世界において階級は僕か僕以外かだ。みな等しくスパルタ世界における非人階級だし、最初から人として扱わないから猿だろうがギフテッドの天才児だろうが同等だ。便利な異能はすべて回収して、ほらこれで不平等がなくなったろう?人の持つ可能性というものを僕は何よりも知っている。だからこそ恐れている、進化し続ける人類はいずれ個性特異点のように一切のコントロールを失うだろう。理性や知性を以てしてでも止められない細胞の変遷。人間の形をとる人類はもう現れないだろうね。適応の形を取り続けて、それこそ古来のエイリアンのように完全な怪物に成り果てるだろう」

「だからそうなる前に人間という種族を“退化”させる。他ならぬこの僕が、わかるかい今までさんざ好き勝手やらせてもらったこの星への資源の返還でもあるんだよ」

 

それはドゥームフィストの哲学とは全く相反するものだった。闘争による進化ならぬ、統治による退化。健全か不健全か、倫理や合理性はともかく、どちらをとってもこの世界が破滅するのは確かだ

 

「体が完成したら少年からOFAを取り戻す。この拠点が察知されたら彼ら取り返しに来るかもしれないけど準備は万全にしておかないとね、やっと中期目標を抑えたんだから」

「中期目標?ofaを手に入れたらあとはもう消化試合ではないのか」

 

以前聞いた話と食い違い、疑問詞を浮かべるレイエス、そんな彼をAFOの鷹揚とした言葉が迎える

 

「いやまだ一つ懸念点があってね。僕が最終的に魔王に君臨するには必ず排除しておかなければならない障害だ」

 

もったいぶった話し方にイライラしつつもAFOが何を望んでいるかは推測することができた

 

「任務だな。教えろ、誰を消してほしいんだ?」

「まぁまぁそう焦らずに。リーパー、君は少し結論を急ぎ過ぎるきらいがあるようだ。事態は大詰め、ここで慎重にいかないとね」

 

チッチッと歯茎を見せながら不敵に笑って見せるAFO、たとえのっぺらぼう状態でもこの笑みだけで生来の邪悪さが伺える

 

「彼女だけが不確定要素なんだ、友人から聞いてね。彼女さえ消してしまえば、あとの世界の支配は赤子の手を捻るかのように簡単に行えるだろう。それほどの強敵だ。OFAさえあればたいしたことないが体が完成する前に彼女は襲ってくるだろう。だから事前に抑える」

「それで、ターゲットはどこに?」

 

AFOは小さく息を吸って面白そうにつぶやいた

 

「君の故郷、アメリカだよ」

 

スターアンドストライプの抹殺。次に与えられた仕事はアメリカno1ヒーローを相手取るものだった。アメリカと聞いた途端レイエスの肌が粟立つ。まさかこの世界に来てまで祖国に帰ることになるとは思っていなかったからだ。かつての自分はアメリカ政府、国連、ICPOすべてを束ねるコマンダーとしての権力を持っていたがリーパーになった今は全てが誅殺すべき敵だ

 

「なるほど。それは面白いな」

 

米国直属、アメリカ軍所属のヒーローを殺す、それはかつての人体実験から始まったすべての憎しみに対する復讐になる。レイエスの口元が大きく歪み、殺人への渇望があらわになり始める。そんな様子を察知したAFOは実に嬉しそうに笑い始めた

 

小さな小さな怨嗟の積み重ね。それはAFOにも十分に理解できる。だってそれはあの家から、志村から始まったものだから。すべての起源は日本のあの家から、アメリカのあの乾いた実験場にあったということだ

 

「ハハハハハハハハハハ!!」

「アッハハハハハハハハハハ!!!」

 

リーパーとAFOは高らかに笑った。その空間には誰にも入れない、共有なんてされない。歪んだ復讐者だけの狂気の楽園だった

 

スピナーはその狂喜を見て本格的に連合が変わってしまのを認識した。かつては世界の崩壊という荒唐無稽な目標と言えど若者たちが手を組んで実現させようとしていた場所だったはずだ

 

それが今はAFOを祭り上げ、魔王として崇め奉る集団だ。悪事に至ってもこれまで以上に背中に傷のある連中が集ってきている。リーパーもレディ・ナガンも今まで何人殺してきたのか、今の連合は三人の天性の殺人者に引き寄せられて復讐者や殺人鬼の一群となっていた

 

今は亡きマスキュラーもこの連合であれば即座に再び加入したであろう。それほどの理由なき理不尽が、悪意と共に坩堝になっていた。薬物が蔓延りどれだけアジト内で仲間殺しが起きても誰も咎めようとしない。AFOが何も言わないから、事実上すべての殺人が合法だ

 

スピナーはリーパーの骸骨調のマスクのだけでなく、亡者どもの骸の幻覚を垣間見るようになってしまった。悪逆無道の果てに血なまぐさい洋館の中は蟲毒となって弱者から殺し殺され犠牲者は増える。庭園には埋められた死骸が異臭を放っていた

 

あれもそれもしゃれこうべ、死神共が闊歩する

 

スピナーはこの現状に耐えられなくなった。なまじ一般人めいた常識があるだけに狂人まではいいが、真の悪人は看過できないのだ。

 

「なぁ…さっきからあんたらずっと何言ってるんだよ。魔王だのなんだの…何の話だ。敵連合の目的は弔が目指す世界の破壊じゃないのかよ!これじゃただのAFO、あんたが理想の神になる宗教団体じゃないか!マグ姉だって、コンプレスだって、トゥワイスだって、こんな連合は認めなかったはずだ。いや俺だって異能解放連合を吸収したあたりから変わり始めた連合は認知していたさ。だがそれでも大して声をあげなかったのは俺と同じく幼稚な、だがそれでいて理想の世界を求めていた死柄木弔がいたからだ!金と報酬で動く暗殺集団じゃない」

 

スピナーが言い切った後生暖かい吐息がAFOの口から洩れた。何を思ったわけでもなく自然と笑顔の表情になったのである。ただただ感心していた。自分に、この面子に恐怖しなかったことに

 

「井口君。唐突だが君は神を信じるか」

 

スピナーの成長は何に今に始まったことではない。例え戦闘力が劣っていようが彼はその背景も含めて立派なAFO連合の徒として数えられる。なので一つ一つ確認していくように彼にはいかにして悪が栄えるのか伝える義務があった

 

「僕は信じるよ。絶対的で、何より不条理なもの。あぁ確かに僕は自分の息子を殺したさ、同化とはいえ弔の意識を排除したも同然だ。これからもそれを続けていくつもりである。だが神の視点で見ると初子殺しは己の絶対性を高めるためには至極当然なことだとわかるよ。神は己がシンパのイスラエル人を助けるためにエジプト人の子供を皆殺しにしたがこれは後世において何も問題になっていない。なぜなら悪が、理不尽な暴力が栄えるのは至極当然なことであり今更それを声に上げるものは誰もいないからだ」

 

AFOは牧師の説教のようにやけに神妙な顔つきになって、支離滅裂な話をし始めた。愚かなトカゲに自分という像を理解させるために、支配者を弔から自分に変えるために

 

「そもそも神という存在は最初から強大だったわけではない。神は支配者や王によってその存在を強化する。宗教こそが圧政の原動力であり支配者がその玉座を維持するためには必ず神の存在を利用しなければならない。暴君が愚かな人民を飼いならすためには神という迷信の光が黎明としてあってこそなのだ」

 

迷信だからこそ馬鹿には真珠のように光ると彼は語った

 

「神は王によって強化されその雷を人民に降ろし震え上がらせる。そして王は臣民の富も生命もすべてを手に入れる。逆なのさ、すべてが。だからこそ王は神の存在を語らねばならぬ。神の口を借りてすべてを手中に収めなければならぬ。されば宗教によって清められた剣は主の、僕の最大の武器になってくれるだろうから」

 

邪悪な説法は最終的は誰に聞かせるわけでもない独り言となって周囲に響いた。スピナーは大口を開けてその言葉を聞いていた。異常性に声も出せなかった

 

「弔には僕の、僕が支配するものたちの神になってもらう」

 

“敵連合”は崩壊した。個性を使うわけでもなく、たった一人の狂人の思想によって。その様子をリーパーとレディ・ナガンの新参二人は方や面白そうに方や不快そうに見ていた

 

 

 

***

「良かったのか?」

「何が?」

 

飛行型脳無に乗ってアメリカ本国に向かっている最中。レイエスは死柄木の姿を取ったAFOに話しかけた

「あのトカゲ小僧に真実を伝えたことだ」

「それ、“俺”に言われてもな。別にとしか言いようがない。確かにスピナーは俺をなぜか慕ってくれていたさ。でも俺が神になるなんて素っ頓狂な事実を伝えたことでたいしたショックは受けないだろう。事実は事実だがあまりにも馬鹿げている、言葉を飲み込めてないのが精々だろうな」

「そうなのか?」

 

レイエスは眼前の青年の感情がわからなかった。風に凪いた灰色の髪が揺れる、至極穏やかな表情で彼は大空を見ていた

 

死柄木弔、現在のヒーロー社会に憎悪を持ち、世界の崩壊をたくらむ男…その思想は今となっては敵わないだろう。例え世界は壊れようがAFOによってあるべき形に成型される

 

それは『修復』といってもよくて、破壊したものの再生に抵抗を示す彼には耐えがたいものだろう

 

それなのになぜいまだに支配に恭順しているのだろう。例え同化していようと本体は脆弱なのだから殺してしまえばいい。煩わしく、目標が食い違っているのにいまだに抵抗もしていないのはレイエスにはひどくおかしく見えた

 

これがタロンであれば利害の一致がなくなった時点で裏切りが起きていたであろう

 

「弔が僕に従う理由かいリーパー」

 

青年の第二の人格が声を出す、その場にはいないはずのAFOだった。弔はその人格を抑えつけることすらしないままAFOの思考が現れる

 

「父親だからだよ。僕が彼の父親だから」

 

レイエスからみてそれは意外な発言だった。AFOとそんな関係だったとは知っていなかったからだ

 

「父親?お前が?」

「正確には名づけ親だけどね。でも弔にとって父というものは“特別”なんだ。例え信頼関係に罅が入ろうとこの絆だけは壊れない、絶対に捨てられないものだから」

 

父親。その言葉はレイエスにとってある意味神聖めいた聖句のようなものだった。あの頃6歳だった息子は今では大きく成長しているであろう。世界の敵となった自分を憎んでいるかもしれない。だが記憶はもはや亡失の彼方、輝かしいあの頃の時間は今では消えゆく燃えカスにしかなっていなかった

 

父親という立場を捨て何人のも父親を葬ってきた。もう自分がその存在について深く考えることが酷く悍ましいものに見えてそういうものかと自然に納得したのだ

 

「もうカリフォルニア海流に入っただろう。そろそろだよリーパー、最も西海岸につくまでにお迎えが来るだろうけどね」

 

戦闘機と例のヒーローが向かってくるまでレイエスは微動だにしないまま故郷が近づくにつれ走馬灯のように流れる過去の記憶と対峙していた

 

弔が声をかけても直前も反応しないまま、ただ突っ立っていた。間違いなくPTSDの症状だが、苦しみあえぐ様子はなかったので、その姿はまるで痴呆老人のようだった

 

「おい、来たぞおっさん」

 

しばらくすると、呆然自失していたレイエスの肩を弔の人格の死柄木がたたいた。どうやら任務の開始時刻らしい。マッハの速度で迫ってくる戦闘機と、それに立った金髪の女性を見て理解した

 

「作戦はわかっているな」

 

今度はAFOの人格による含み笑いが入った言葉が精神崩壊の座礁にあるレイエスの頭に夢のように反響した。奴はこれから始まることが滑稽で仕方ない。というような表情でアカンデのように命を下している

 

「あぁ」

 

眼前を見る。アメリカno1ヒーローの悪を滅さんとする眼光がこちらを貫いていた。流石にあれにはかなわないだろう。長年の戦闘経験で把握していた。あの手の輩には最初からまともに戦わなければいい

 

「闇への一歩」

 

レイエスは強化された長距離『シャドウ・ステップ』により視界の端に捕らえたアメリカ大陸へと侵入した

 

「鏖殺だ」

 

自国の民を守らないno1ヒーローなどいない。その矜持をついた挟み撃ち作戦だった。歴代最悪の敵と評される異界の死神による祖国への復讐が始まった

 

 

 

***

 

ある軍人は嘆いた。なぜ自分はかくも無力なのだろうと

 

ある市民は怨嗟を残した。なぜ自分がこんな目に遭わなければならなかったのかと

 

あるヒーローは慟哭した。なぜ自分がもっと早く予想できなかったのだろうと

 

そんな悪夢の始まりは最悪のシナリオで最低の結末を迎える。秩序は破壊され、新秩序は殺される、そんな未来が

 

かの地には死の花が咲き続けた。阻止できるものは誰もいなかった

 

「来るぞ!」

 

数時間前、スターアンドストライプは正体不明の飛行物体に乗った世界最悪の敵を注視していた

 

即座に戦闘機の陣形を組み、迎撃態勢を取る。距離的な問題であちらに先手を取られるのはわかっていたからだ

 

「『暗黒物質』+『押し出す』+『エネルギー操作』」

 

浸食する影の災いが豪速で触手のように襲い掛かってきた

 

「避けろ!!」

 

隊列が横にそれ回避しようとするが数機の機体が自我を持つように動く触手に囚われ、即座に崩壊していった

 

「へぇ、あいつから着想を得たものだけだけどレーザーよりよっぽどいいね」

「ごちゃごちゃと!」

 

操作に思考を取られ隙を見せた死柄木に殴りかかるスター。死柄木は大きく吹っ飛ばされ戦闘機にたたきつけられた。スターは即座に第二の攻撃を用意した

 

「『大気は私の100メートル先には存在できない』」

 

だが即座に呼吸器系を切り替えた彼には通用しなかった

 

「無意味だってわかってるんだろ…?これはどっちが先に触れられるかのクソゲーだ。さっき接近した際に設定を決めておけばよかったのに。(ぼく)なら触った瞬間に終わらせられた。そんな人間に…」

「ならばこいつで死ね、レーザー発射」

 

ペンタゴンのように五角形の方陣を展開した戦闘機らが陽子レーザーを死柄木に向かって発射し、その五体を焼き尽くす。誰もが勝ちを確信した

 

だが溶ける前に即座に再生していく死柄木。その虚ろな瞳が巨光を反射した。身体が金色に光る

 

「そんな人間にレーザーが持てるのか?」

 

今度はスターに向かう死の光線、だが彼女はなんてことなしにそれを掴んだ

 

その結果真空が解け今度は超速で接近してくる弔。スターは反撃の体制をとる、だが事前のリサーチでトムラ・シガラキがトムラ・シガラキでないことはわかっていた。ならば直接砕くしかない

 

「『大気は私の1000倍の大きさで固まる』」

 

フィストバンプトゥジアース。巨大な大気の拳が高速の物体を捕えた。それらは反発しあい法則によって凄まじエネルギーを生む、その結果死柄木は押し負け、海上に撃ち落とされた

 

「いまだ。お兄ちゃんたち!レーザーを」

「「「あぁ!」」」

 

レーザーは結束する。そんなルールを付与し、必殺を放った

 

『ケラウノス!』

 

収束レーザーが海ごと焼き尽くす、死柄木は完全に捉えられ再生が手いっぱいだ。これで時間は稼ぎ、巡行ミサイルティアマトをぶち込むのが作戦だった

 

そうあとは待っているだけで勝てる、はずだったのに、いつまでたってもティアマトは来なかった

 

「どうなってる!!!なぜミサイルが来ない??」

「おいスター!あれ…」

 

瞬間、背後で凄まじい轟音がした。爆風がここまで届くほどの巨大な爆破がスターたちの遥か後方で起こっていた

 

「あれはまさか…」

 

そうティアマトだった。夕陽のように輝く一抹の望みだったものがあっけなく壊れている。作戦は失敗したのは明白だった

 

「なぜ…」

 

一瞬動揺と共にレーザーの拘束が緩まる。そのチャンスを逃す死柄木ではなく脱出すると幽鬼のような状態でスターに接近した

 

「あぁ…本当によくやったよ“レディ・ナガン”」

 

日本ではAFO本体が高らかに笑っていた

 

「本当に瞬間移動ってのは素晴らしい!たった今そこにいた彼女が、影と共に消えて、今崩壊の因子を含んだ弾丸でミサイルを撃ち落とした!リーパーさえいればもう黒霧がいなくても完璧な作戦を組めるぞ」

 

作戦の概要はアメリカの友人からミサイルを絡めた作戦を聞いたAFOが思いついたもの。他者を運べる領域まで進化した『シャドウ・ステップ』で事前にアメリカに渡ったリーパーが虐殺の最中でレディ・ナガンを召喚するという。一から十までリーパーに頼ったお粗末なものだったが、荒唐無稽な影の力がすべてを解決した

 

 

一瞬死柄木に掴まれそうになったスターだったがすぐに大気を操り振り払い、またしても海上まで叩き落した

 

「一時撤退だスター。どうやら本土がヤバい状況らしい。攻め手にかける今、加勢するしかない」

「だが今ここでこいつを滅ばさなければ!」

「その滅ぼす手段がないって言ってるんだ!いったん帰るぞ。どうせあいつの脚は潰した。本土までは追ってこれないさ」

 

脚というのは飛行型の脳無のことだ。確かに飛行手段にかける今の死柄木はいくら飛行の個性がいくつもあろうと瞬時に本土まで攻め入ることは不可能に見えた

 

「撤退しかないか」

 

海上の狂気の笑みを浮かべたまま再生を繰り返す死柄木を見ながら無念そうにスターと戦闘機らはその場を離れていった

 

この瞬間死柄木とAFOの勝利が確定した。おどろおどろしい音と共に死神の腕が海に揺蕩う満身創痍の死柄木を捕える

 

「手間をかけさせやがって…」

「悪い。悪い、それで何人殺せた?」

 

間髪入れずにそう聞いた死柄木に本当に意地の悪いものを感じつつもレイエスは嬉しそうに答えた

 

「数えてない」

 

“更なる致命的な戦力の構築“という言葉がある

 

米国の安全保障において超常が起きる以前は海外に駐留する兵力を重視し、アメリカ本土を守るというよりは同盟国の安全を確保することに重きを置いていた

 

だが超常が起こり、誰でもライフル以上に強力な、異能という武器をもってテロリズムを起こせることになって以来アメリカは対抗するヒーローを主体とした何よりもすべての敵から国家を守ることを優先した、より独立した安全保障の概念をどの国家より先に実践するようになる

 

この政策は日に日に沸いて出でるヴィランも相まって米国の戦略的アプローチは戦力の配備および運用から、自国の「妨害下での持続性」、「抗たん」、「生存性」より積極性・攻撃性をかいたものになった

 

よってOFAへの対応も友好国があれほどの未曽有の被害を受けたにも関わらず、対応が遅れ、否現にアメリカ国土に向かう二つの脅威に対して完全に後手を取ったのはその防衛策が失敗だったことは誰の目からみても事実であろう

 

だが新秩序という絶対的な存在とナショナリズムあふれる自国のヒーローたち、戦力としては十分である。米国の運命の天秤は完全にこの二つの手に乗せられたのだ

 

そう、二つしかない。だから間違ってもどちらか片方の防衛を放棄してもう一方の救援に向かうなんてことはあってはならないのだ

 

本土に戻ったスターたちが見たものは終末だった。なぜか死柄木が戻っていて崩壊が伝搬している。何人のも敵が結託して街を襲っている。そして極めつけが大量の黒煙が街を、いや州を覆っている有り様だった

 

死の煙は吸ったものの命を刈り取り更にその姿を増長する。なんの因果か進化を重ねたレイエスの『レイスフォーム』は不可侵にして他者を害するというちょうど死神が最も強大であった時代の黒死病のようになっていた

 

「貴様の負けだ。キャスリーン・ベイト」

ヒトガタを持ったリーパーが彼女の前に現れる。すぐさま触れリーパーの名前を呼び、心臓が止まると言うが通用しない。崩壊するといっても通用しない

 

なぜならばレイエスの肉体は実験によって強化されているので心臓が止まっても死なないし、絶えず体が破壊と再生を繰り返しているので一度の崩壊など何の意味もないからだ

 

単刀直入に『リーパー、またはガブリエル・レイエスは死ぬ』と言えば殺すことができたが能力の制限に引っかかるし何より彼女はリーパーの本名は知らない。どだい無理な話だった

 

(天敵…!)

 

全てを理解してもなお遅すぎた。ショットガンの撃鉄が起こされる

 

 

AFOにとって新秩序はいらないといったら嘘になる。だがOFAを取り戻し、リーパーとレディ・ナガンという強力な手駒を手に入れた今その兵士たちの意思を尊重してやりたかった

 

そうリーパーがこいつは殺すと言ったら、それはリーパーの手によって必ず処刑されるのだ

 

「まぁ“検証”もかねて一度は奪うけどね」

 

死柄木が本土のAFOと完全に同調したようなことをのたまう。この惨状を見てもまだ戦意を失っていないスターが立ち上がろうとするが足が解体された今再起することはできなかった

 

「リーパー…貴様何者だ。アメリカ人だろう?なぜこんな自国を裏切るような真似をする」

 

レイエスにとって世間からの評価なんてどうでもよかった。ただ悪者を裁いて、正義を遂行したかっただけだった

 

“綺麗ごとだけではテロを含む厄災から平和を守れない”

 

こうして誰からも褒められず、讃えられず表のヒーロー社会から降りて正義の為に人権侵害や要人暗殺、捕虜の拷問などの悪を為すブラックウォッチが誕生したのだ

 

だが民衆は無抵抗の悪人を殺し、たとえ平和を齎すものだとしても違法行為をすることは罪だという

 

結局守るものに首を絞められ、何もかも奪われるのがヒーローというものの宿命だったのだ

 

「俺はただ疲れただけだ。ちょうどこの行為は…」

Payback(ただの仕返し)だ」

 

殺しは甘い

復讐はもっと甘い

 

地獄の業火がアメリカの象徴を包んだ

 

 

 

***

 

OFAに宿った意識内。

 

そこでは侵入してきたAFOと歴代OFAが対話という名の降伏勧告を行っていた。AFOは全盛期の若かりし頃に戻り、訝しげに周囲を何度も確認している

 

「いやー本当にどういう理屈何だろうね。なぜか若いころに戻ってるし、名前は覚えてないけど見たことのある死人ばっかりだ。与一、すごいよ、あの無個性そのものからよく練り上げたね」

「すべては兄さんを討つためさ」

「今はもう敵わないけどね」

 

勝ち誇った表情のAFO。絶望が広がる、当の緑谷は足を撃たれ昏睡状態。鎖につながれて器が完成さえしてしまえば即座にOFAは奪われるだろう。だからこそAFOは最後にある目的の為にわざわざ侵入を試みたのだ

 

「自然の賢明な手はね。やはり僕が最終的にすべてを手に入れるようにしてくれているんだよ。敵とは侵すもの。嫉妬、野心、破壊された自尊心、支配される側の自暴自棄、他人を虐げる欲望。あらゆる負の感情が僕を真の強者まで押し上げる。人の悪意がある限り、僕の玉座は永遠になくならない。ちょうど僕が生まれた時から罪悪感だか罪の意識だかなんかを微塵も感じたことがないくらいに、自然の前では侵害というものは日常茶飯事にしかすぎず、いわば一種の人の形を持った災害として僕はこの世に君臨できるわけだ」

 

AFOの全盛とは最も力を持った壮年のころではない。青年でもなければ今でもない。そう、己の未来の輝しいさまを一点に見つめるような夢をもった少年の姿がAFOの頂点だった

 

「貴様の肥大化したエゴは、必ず討ち果たされる。例えOFAが潰えても、必ずだ」

 

悔しそうに呻く7代目。AFOは喜々とした様子で答えた

 

「これはこれは愚かな志村菜奈。孫は見事に僕の愛すべき分身として活躍してくれているよ。つくづく思うけど、人は殺人なんて教育次第で何でもできるのさ。事実習慣が人を造るのだから絶対なる法を作って順応させれば僕が親爺を殺し、母を殺し、ガキどもを何人も殺してきたように生まれ持ったゆがみをちょいと大きくしてしまえばたとえヒーロー志望だとなんだろうと冷血な暗殺者に仕立てることなんて容易だね。至極単純、人は自分さえよければ何でもいいのさ。エゴイズムの何が悪い、エゴイズムこそがおよそ人が持つ至上にして最高の法則だよ。だってそれは植物だって持っているものだからね」

「なら貴様は恐ろしくないのか?あれほどの力を持つ輩を配下に加えて、利己心だけで裏切られないという保証があるのか?」

「ハハッ面白いこというね。彼らにはもう打算とか利害といったそういう自分を慮るような自我は存在しないよ。あの二人ときたら僕に協力した理由が、ヒーロー社会の壊滅それだけだもの、もはや恩讐に囚われた亡霊だよ」

 

AFOはそう二人を評したあと改めて弟の方に振り返って、現在の姿に戻ったあと呟いた

 

「さぁ与一、参ったというんだ。そういって僕の支配に恭順さえすれば恐ろしい目に遭うことはない。ここにいる死人にはくちなしでゴミ箱いきだけど、与一だけは救ってあげるよ。だってこの戦争は最初からお前が僕の物にならないせいで起きたんだから」

 

与一はその小柄で華奢な体を震えるながら奮い立たせると目に決意の光を宿しながら言った

 

「僕は兄さんの物にはならない。そうやって簡単に人を支配できると考える思い上がりは大嫌いだ。僕たちは絶対に勝つ。諦めない」

「そうか、なら気が変わった。僕の勝ちは確定したし、この妙な空間ごと意識を葬ってやろう」

「リーパーの“個性を破棄する個性”でね」

 

 

 

 

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