悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい! 作:レッドアリーマー
実際のところ。
もし四騎士たちがこの国を見捨て、『聖なる燧石』だけを奪って他の目的地へ赴いたところで、恐らく『勇者の魂』に纏ろうアレソレに支障が出ることはない。
今は単純にリベルタが悲しむからという理由で付き合っているだけのゾンビパニック。けれどそれも、たとえばあの薄らぼんやりのように「危機が迫っている」とか「時間が無いんだ」でゴリ押せば……なんとかなってしまうのだろう。リベルタはまだ幼く経験が浅く、そして知識がない。だから「そういうものなのかな」と思えばそれで終わり。
加えて私が頼りになりすぎますからね。「すぐ戻ってくるから」とか「ラファがいれば、大丈夫だよね」とか思われたらおしまいですわ。
さらにマズいことに、別にそうなってくれてもいいですわ、と思っている私がいるのもマズいですの。四騎士とリベルタは殲滅力の要。ですけど、彼らが居なければ生存できないというほどではない現状。早々に居住区をある程度取り戻せたことが大きいですわ。取り戻した範囲内には畑や畜舎もありますし。
だから……世界を救うこと自体は遅くなるけれど、まぁ、いなくても問題ありませんわ~……と考えている私が、本当によろしくない。冷静に客観視のできる私からしてみれば、殲滅力の低下は生存者や準聖騎士の士気に関わる話。
という対立する脳内会議の結果、私の出した答えは。
「第二区、第十区は後回しにして、第一区の奪還を急ぐべきですわ」
「……家族が恋しくなったのか?」
「それ本気で聞いていますの?」
「いや、茶化しただけだ。すまん、続けてくれ」
「はい。……第一区には生存者がいるとされていますの。いるとすれば王族や高位貴族といった高位魔法の使い手たち。加えて聖騎士もいる可能性があるとなれば、戦力の観点から見ても重要ポイントですわ」
人員の理由。ここで追加戦力が得られたのなら四騎士への依存度が減る。
「そして、前回私とリベルタが王城へ潜入した時を思い出してほしいのですけれど、あの時上階からは一切の物音がしませんでしたの。それは一見生存者がいないことに繋がるようですけれど、アンデッドもいないことに気付けますわ」
「確かに……階段から降りてくるのは、いなかった……気がする」
「ここから考えられるのは二つ。何らかの理由があってアンデッドは上階に行かなかった可能性。そして、上階と下階間で音の一切が遮断されている、という可能性」
「……なるほど、あれほどのことがあっても誰も降りてこなかったのは、そもそも気付いていないからだと」
「可能性の話ですけれどね。ただ、風属性魔法にも闇属性魔法にも音を遮断する魔法がありますの。当然王城内にはダルクエルデがいますし、風属性の大家であるワインデルデ伯爵家がいる可能性もありますのよ」
全部かもしれないだけど、一理はあるはずだ。
少なくとも「何らかの理由でアンデッドが上階に行かなかった」よりは信じられる話だと思う。
「そして、それが真実であった場合、セーフティエリアを増やすことにも繋がりますの。学園の二階から上にその魔法を敷くことで生存者の居住区を増やし、あるいは王城の使われていない部屋に彼らを通すこともできるでしょう。もしくは新たに建築する家をその形式へ適応させることで、全く新しい生活を掴み取ることだってできますわ」
樹上生活とか海上生活のように、一階部分は基礎だけで、二階から上に居住エリアのある様式。
それはなんだかアンデッドとの共存を……負けを認めているようだから私が嫌だけど、その場しのぎとしては十二分に効果的な戦略であると言える。
ま、ボムゾンビやらスピードゾンビやらが厄介すぎるから王都全土を取り戻してからの話だけど。あ、ですわ。
「まー、『聖なる燧石』もどうせ王城にあるしなー。復活点を消す方法も禁書庫なんだっけー?」
「だが……貴族ではない俺達にさえ特権階級だのと罵声を浴びせてきた民衆が、王族の台頭に心を開くものか?」
「その辺の緩衝を務めるのが貴族というものでしてよ。この状況でまだ玉座に座って下界を見下しているような方々しか残っていないのであれば、何かの折に私が暗殺してしまってもいいですけれど」
「そーなったらラファも俺達の旅についてこいよー。追放者であっても四騎士の庇護下にありゃ追手も躱せるだろーしなー」
「ほう? モーモンにしては良い案だな」
「あくまでもしの話ですわ。それに、王族がいなくなったのなら、国を統べる責務は公爵家に発生しますの。どこぞをほっつき歩くなんて許されない話ですのよ」
ラファ・ダルクエルデというキャラクターが国外追放や処刑を受けるほどのことをやらかすシナリオであればありがたいお誘いだったけれど。
彼女はそこまで大それたことはしない。『聖なる燧石』探ししか眼中になかったリベルタを「協調性のない子」として糾弾し、常にぷんすかしている程度のキャラクターだ。正論だけどお子様だよね、みたいなラファに対し、リベルタは自戒と慈愛を以て彼女へ接し、それが彼女の善性を引き立たせる。
ラファ・ダルクエルデとはそのためのかませ犬でしかない。
そしてそうなる未来を蹴り、公爵家令嬢としての責務を全うする道を選んだのだから、今更別の道へ浮気なんて考えられない。
「……いいだろう。奪還目標を第二区から第一区へ切り替え、王族の捜索と王城の攻略を第一目標に動く」
「ありがとうございますの」
私はこの国と生涯を共にし、この国の礎となって眠ることを決めている。
そんな私が世界の頂点に座するのだから、この国が亡ぶなどということがあってはならない。
王族は必ず助け出す。いなかったら私がなる。
ま、アンデッドになっていたら迷わず殺しますけれどね~。
で、ブリーフィングが終わって。
「話って、何かな」
エスタ……ではなくイジスへ内緒話を持ち掛けた。あ、消退病の際に出てきたモノについては既に報告済みですわ。エスタも知らないそうで。ホント、何も知りませんのねあの男。
「行動方針の決定こそエスタ様が担っていますけれど、彼、私達のいないところではあなたに諸々を相談しているでしょう?」
「……驚いた。そんなにわかりやすかったかい?」
「いえ、表面上ではうまく取り繕えていると思いますわ。エスタ様にリーダーシップがあるように見えますし」
「それでもラファには隠し通せなかったということかい」
「そんな感じですの」
内情全部知っているからですわ~……とは言えない。
そしてそれは主題ではない。
「四騎士の参謀であり、頭脳であり、行動方針における発言力の最たるイジス様に問うておきたいことがありますの」
「いいよ、なんでも聞いてみて」
「いつ発つ予定ですの?」
「──……どういう意味かな」
「最初に押し黙った時点で答えを言っているようなものですわ」
やっぱりか。
もう飽いている。もう価値を見出していない。
「ああ……だから第一区の攻略を進言したのか。僕たちがいなくなると困る……いや、面倒だから」
「ええ、話が早くて助かりますの。で、別に引き留めやしませんので、いつ発つかを教えてくださいまし。それに備えてこちらも準備をしますので」
「……昨日の時点では、次、どこかの区を取り戻すか、それに失敗したら、だった。失敗の基準は誰か一人でも犠牲になったら。そうなったら……リベルタの寝ている間に彼女を連れ出して王都を離れ、適当なことを言って丸め込み、元の旅へ戻るつもりだったよ。そもそも王都に長居するつもりはなかったからね」
「『聖なる燧石』はいいのですか?」
「パリスとモーモンがいればそれだけを奪取してくることくらいはできるよ」
「ふむ。そして、今はどう考えていますの?」
「王城の攻略が終わったら、だね。そこに生存者がいたにせよいなかったにせよ……僕たちは王都を去る。犠牲が何人出ようと王城の攻略だけを早めに終わらせて、『聖なる燧石』の奪還と共に国を出るつもりだ」
まぁ、妥当。
むしろ大分甘い判断をしてくれたようでありがたい限りだ。ですわ。
「だから……モーモンの言葉は本気の勧誘だったんだよ。ラファ、君も──」
「お断りしますわ」
「……そうかい。けれど君、この国の人々のことを有象無象だと考えているだろう? どうしてそこまで民を想う貴族でいられるのか、聞いておきたいかな」
「仰る通り、私にとって他者とは泣き言と文句ばかりを垂れ流す有象無象のことを指す言葉ですの。そして貴族とは、有象無象という名を背負って生まれてきた戦う力の無い弱者を守る者を言いますわ。民を想う貴族でいようとしているのではなく、生まれてきた時点で民を想う貴族ですのよ。怪我や障害を持ちさえしなければ、人が自然と二足歩行をするように。代替手段や別の方法があったとしても取る選択肢を思い浮かべすらしない存在を貴族というのです」
だから、そう在れない者を平民と呼ぶし、そう在れとした者を王族と仰ぐのだ。
「君の在り方を、すべての貴族が実践できていたら……僕たちはここにいなかったかもしれないね」
「それは流石に責任転嫁でしょう。あなた方が単一属性しか持たずに生まれてきたことは同情の対象でしょうが、その後落ちこぼれたのはあなた方の努力不足ですわ」
「……」
「これからも信頼関係を築かねばならない相手であれば隠しましたけれど、もういいでしょう。すぐにでもいなくなる相手であれば普通に煽りますのよ私」
「相手との関係性がどうであれ、煽るべき相手なんかいないと思うけれどね」
それはそう。
「まぁ、そうだ。この国を見捨てるんだ、僕たちは。だから……君がなぜか知っているそれらすべてに対して、何も思わない。……酷い事を言うけれどね。僕たちがいなくなったこの国に……未来は無いと思っているよ。戦いとは数だ。個として圧倒的な力を持つエルフたちが人間との生存競争に負けたのだって、数が少なかったからだ。そしてかつての人間の位置を、今度はアンデッドが奪い去ろうとしている。それだけの話」
「現存数と繁殖力はまた別の話ですわ~。そして、調子に乗らないことですの。もしアンデッドの発生時点にあなた方四騎士やリベルタがいなくても、私一人だったとしても、この状態にまでは持ってきていましたわ。勿論今より余裕なく、今よりボロボロで……四肢の一つや二つなかったかもしれませんけれど、確実に」
「ラファ。君は世界を知らない。どれほど強く、そして強く在ろうとする個人がいたところで、世界というのは変えられないんだ」
「変える気概のなかった、覚悟の足りなかったが故の悲劇を起こした方に何を言われても、ですわ。これがエスタ様たち他の三騎士であれば違う言葉も吐きましたけれど、あなたは本気で何かを変えようとしたこと、無いですものね」
「……。……君は本当に色々知っているんだね。……そうして知識をひけらかし、他者の気分を害することが……自らの寿命を縮める結果となるとは思わないのかい?」
「思いませんわ。私の寿命は私が決めていますし、こうもあなたの気分を損ねる言葉を吐くのは喧嘩を売られたからですのよ」
「売ったかな、僕」
「ええ、売りました。買いましたわ。この国に未来は無いという喧嘩文句を。──今この国で息づくすべての民と私の努力を無駄だと罵る言葉、丁寧に買い叩きましたの。不安に思うのは当然で、絶望に暮れるのは当たり前で、それでも私に希望を託して日々を全うする方々の全てに無駄を突きつけられたとあっては、私も同じ強さの言葉であなたの人生の無駄を指摘する必要が出てくるというものでしょう」
貴族としての責務を全うしたことがない、太古において貴族であった四騎士。親に反発して教師に反発して、体制に反発して努力に反発した落ちこぼれたち。
そんな方々に「すべての貴族が~」なんて語り口での懐古はされたくないですし、その後の言葉も否定ばかり。自分たちの方が世界を知っているからとでも言いたげな口調でそんな諦めを押し付けられて、怒らない者が本当にいるとでも?
私は聖人君子ではない。というかかなり怒りっぽいし喧嘩っ早い。売られた喧嘩は全部買う。煽られたら煽り返す。子供か、なんて呆れられても全部やる。
第二の生を受けた時点で決めていますのよ。
今生は──感情に奔放に生きる、と。
「……そうかい。まぁ、助かったかな。これで君に対する負い目もなくなった。宣言通り王城の攻略まではちゃんとやってあげるけど、その後は挨拶なしでもここを去れる」
「あくまで自身の非は認めずに、喧嘩別れでもせいせいしたと、そう言うのですね。流石ですわ~」
「幼稚な煽り合いには乗らないよ。……残念だ。『勇者の魂』に関する旅が終わったら、一目散に駆けつけることも考えていたのに……戻る気力も失った」
「こちらはありがたい限りですわ。王族に次ぐ権力の四騎士になんて居座られたら堪ったものじゃありませんし。王族がいなかった場合私がこの国を統べるので、帰ってくるなら私が王位についてからにしてくださいまし。そうなったあとなら客卿としての座を用意しますのよ」
「その準備は必要ないさ。もう戻ることはないからね。……それじゃ。王城攻略が終わっても、君のことは応援しているよ」
「ええ、ありがとうございますの」
たとえ王城のことが無くとも、生存者のことがなくとも、不要な戦力でしたわね。
初めから未来を見ていない者などどこで折れるかわかりませんし、信も置けませんし。
勝手に罪滅ぼしの旅をしていてくださいですわ~。
そうして、王城の攻略が始まる。
まず班を二つに分ける。エスタ、イジス、リベルタ+準聖騎士の地上攻略組。そして私、モーモン、パリスの尖塔攻略組。
王城には三つの尖塔が存在する。内、西側と北側の二つは窓がしっかりしていて、割るなどをしなければ中へ入ることは難しい。反対に東側にある尖塔は外から見ても窓が割れている様子で、且つ人影が見えたこともないということもあり、侵入が可能なのではないか、という話になった。
そこで中にいる可能性の高いダルクエルデと話をつけやすい私、加えてモーモンとパリスという聖騎士で最上階からの侵入を試み、中で生存者を探す。その所在の有無についてはパリスが精霊を用いて風の言葉をエスタに送る。ただし遮音の魔法がある可能性が高いので、それを合図にすることはない。基本は無連絡で上下から攻略する。
「いいか、もし上階に一体でもアンデッドがいたら、その後の捜索は諦めて見敵必殺を是としろ」
「ええ、わかっていますわ。生存者がいた場合、アンデッドをそのままにしておく理由がありませんものね」
「そういうことだ。ああただ、廊下や壁などの破壊は最小限にな。攻略後、生存者たちが使う可能性を考慮するんだ」
「おーけー」
「承知している」
「俺、イジス、リベルタと準聖騎士は一階から虱潰しに探索を行う。都度都度バリケードを敷いての行軍となるから、進みは遅い。それも承知しておいてくれ」
「合流箇所が下階であればあるほど私達の仕事の早さが明るみに出るというわけですわね」
「……競争感覚も別に止めやしないが、それで生存者を見逃す、なんてことがないようにしてくれよ?」
「無論ですわ」
わかっている。
この班分けは、どさくさに紛れて『聖なる燧石』を奪取するためだろう。それこそ止めやしませんけれど。
「理解したなら行動開始だ」
「了解ですわ」
手早く動き始める皆々。
私の準備は……まぁショベルだけでいいからなぁ。あ、ですわー。
「あ、ラファ様。これ、替えの包帯です。血、また出てきていますよ」
「ありがとうございますの、ミルグドリヒ。……そういえばあなたの家族がいる可能性はありませんの?」
「あるかもしれませんが、大して強い魔法使いがいるわけでもないですからね。アンデッド化していてラファ様たちを危険にさらさないかを心配することはありますが、生存を夢見るほど甘い夢は見ていませんよ」
「顔は似ていますの?」
「似ていたら嬉々として日々のストレスを発散しにいく、とか言いませんよね」
「まさかまさか。そんなそんな」
「……前から思っていたが、仲良いよなお前ら」
「も……もしかして、二人はその……恋人の関係だったり……?」
「残念ですけれど、男爵家では家格が足りませんわ~」
「非常に残念ですが、たとえ公爵家であっても未来に憂いしかないのでお断りですね」
「仲良いのはいーけど、とっとと準備しよーぜー」
別に仲良しを否定することはありませんけれど、すぐになんでもかんでも恋仲に繋げるのはどうかと思いますのよ。
……心の中のイマジナリー魔王が「貴様が言うか貴様が」とか言ってきましたけどよくわかりませんわ~。
そんな感じで。
攻略開始、である。ですわ!