悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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精滅!

 風の扶けと土の足場を以て私が最上階へ上がり、グラヴィティハンドで二人を引き上げる。

 そうして見事侵入を果たした王城は──。

 

「これはー……望み薄かもなー」

「この階にアンデッドはいないようだが……それでもこれではな」

 

 割れた窓ガラス。剥がれ落ちた壁。荒らされた室内。

 アンデッドがいたのかいなかったのかはわからないけど、ここで争いがあったのは間違いない。

 そういう荒れ方をしている。

 

 螺旋階段を降る。全ての構造物の中で最も視界が悪いのが螺旋だ。だから慎重に降りていく。都度パリスに確認を取り、意味があるかどうかわからないけれど、足音を極力消して。

 そうして辿り着くは王城本来の最上階……五階の最東端の廊下。

 ここも酷い荒れようだ。それでいて静か。私の感知が上手く機能しないのはそういう素材が使われているからだろう。前に王城へ赴いた時もそうだった気がする。昔のこと過ぎてよく覚えていませんけれど。

 

「気を付けろ、モーモン、ラファ。何かが動く気配はあるようだ。アンデッドか人間かはわからないが」

「とりあえず防御重視でいくぞー。人間だった場合殺しちまったらやべーからなー」

「ですわね」

 

 慎重に、慎重に。パリスの言う……というか精霊の言う気配のする方へ向かっていく。

 未だアンデッドは見えず、生活の痕跡も無い五階を。

 

 ──果たして。

 

「そこに隠れている者。……隠れているということは、アンデッドではないのだと見做す。……助けであるか?」

 

 声。聞き覚えのある声だ。

 だから、モーモン、パリスと頷き合って……廊下へ転がり出る。

 

「っ……、おお……!」

「なんでだ、って言いたくはなるけどー……まぁ、良かったのかー?」

「事情は後で聞けばいいだろう。──ご無事で何よりだ、王」

「セイブル陛下、お怪我の無いようで安心いたしましたわ」

 

 セイブル・グランセ・ノルブカクルト。

 この国の王様が、単身でいらっしゃいましたわ──いやいや。

 

「いやいや。なぜお一人ですの? 誰か護衛は?」

「この緊急事態に王族も貴族もないであろう。私は他の者と変わらぬ一戦力。一魔法使いとして、使える物がないか再度の探索に来ていただけである」

 

 う、うーん。

 褒められた心構えだけど……それ多分他の方納得していませんわよね? 少なくともお父様は絶対反対しましたのよそれ。王族が民と同じことをすること自体はお褒めになったかもしれませんけれど、それはそれとして王家の血が誰にも見られることなく散らされるなんてことがあってはいけませんもの。

 既に死んでいるなら割り切りましたけど、まだ存命ならば守りますわよフツー。

 

 それとも止める方がもう残っていない、とか?

 

「──王! セイブル王! どこですか!!」

 

 聞こえてきた声に、あからさまに「あ、やべ」みたいな表情をする陛下。あの、シリアス盤面でアホやめてくださいます?

 ……それと、聞こえてきたその声に少しばかり安堵してしまった自分も情けないですわね。あれだけ啖呵切ったクセに。

 

「ここですのよお兄様。五階、謁見の間前の廊下」

「……この声は、ラファ!?」

 

 階下へ続く階段から現れるは……だいぶボロボロになった公務服を着たお兄様。

 ランディ・ダルクエルデ。その名の通りウルフカットが特徴的な好青年。……まぁこの世界のランディって言葉に狼って意味ないんだけど。ですけど。

 

「っ……また魔族の魅了ということはない……だろうな?」

「その魔族なら先日首を半分ほど断った上で魔法による窒息死をさせましたの。ご安心なさって」

「うわ、このナチュラルえげつない感じは本物のラファだね……」

「可愛い妹にそんなこと思っていたのですかお兄様。傷つきましたわ」

「安心していいよ、僕の可愛い妹の精神はアダマンタイトよりも硬いとされているからね」

 

 なんて、兄妹のじゃれ合いはここまで。

 それに……その口調。私、そこまで察しの悪い妹ではありませんのよ、お兄様。

 

「色々聞きたいことがありますのよ、お兄様」

「僕もだよ。王を安全な場所まで連れ戻して、君の……君達の話を聞かせてほしい」

 

 では。

 

 

 話した。

 

「こんなところですわね」

「……成程、君達は上手くやっていたのか……」

「これを喜ばしいことと見るか、恥ずべきことと見るか……むずかしいところであるな」

「ってーと?」

「隠しても仕方がないので言うが、アンデッド発生当時、王城にはたくさんの平民がいたのである。雇用会の日であった故な。だが、その平民はもういない。全てアンデッドとなってしまった。我々王族と貴族を庇ったばかりに、である」

「……庇った、か」

 

 あら、パリスも引っかかりますのねちゃんと。

 庇った、ねぇ。平民が? ……まさかぁ。

 

「城にいた貴族、そして王族は全員無事である。今は何とか食糧庫の食糧を繋いで生き永らえている状態である……が、私と、息子オスカルとで派閥ができてしまっていてな。団結しているとは言い難いのである」

「僕たちダルクエルデ公爵家、フレイエルデ侯爵家、ワインデルデ伯爵家が王派閥、ウォルテルデ侯爵家、ソイルエルデ伯爵家、ミルグドリヒ男爵家、サイグドルヒ子爵家が主だった王子派閥だ。食糧問題や方針の問題から対立してしまっていてね、今では危機に関する連絡さえしないほど冷え切った関係になってしまっている」

「お二方以外の王族は?」

「妃と父母は私のもとにいるが、まだ幼いカイウスがオスカルのもとにいる。……心配である」

 

 一応王子オスカルは攻略対象キャラだ。出てくるのかなり先だけど。

 学園編では名前すら出てこないのでここで関わってくるとは思っていなかった。……別段野心家だったということもないから、こんな派閥を作るとは思えなかったのに……ですわ……。

 それとも彼は傀儡? ミルグドリヒの家に野心家でもいましたの? 弟カイウス君についてはゲーム本編では欠片も出てきませんでしたから普通に今まで生きてきての知識しかありませんけれど実は裏ボスとかだったりします?

 

 ううむ。ゲームの知識が役に立たない展開過ぎて何も言えませんわねコレ。

 というか……これ余計士気を下げる結果になりません? 仰ぎ見るべき王族が二つに割れて争っていて、眼下に広がる世界がアンデッドにまみれていて。

 力なき民草は右往左往ですわ~。

 

「それで、その王派閥はどこにいますの?」

「三階である。二階は王子派閥が占有している故な」

「四階、五階は安全地帯ですの?」

「アンデッドを掃討したという意味ではそうだね。ただ居住区とするには足りないものが多すぎたんだ」

 

 ……成程。

 だから()()()と。

 

 何か言いたいことのありそうな二人に軽く肩を竦めておく。これで伝わるとは思っていないけれど、私も気付いていますのよ、というアピールだ。そう心配しなくてもいいですわ。

 

「セイブル陛下、我儘を言うようですけれど、私、久方振りにお父様に会いたいですわ」

「おお……そうであるな、では一度戻るとしよう。あの堅物のクリソゴヌスも、これでもかと可愛がる娘に会うとなれば、笑みを浮かべるであろうからな」

 

 無言の頷きをするお兄様。

 

 じゃ、向かいましょうか。

 

 

 三階へ到着すると、確かにそこには生活感があった。廊下の瓦礫は綺麗に片付けられていたし、見える部分の血飛沫なども拭き取られている様子。

 さらに進むと食堂があって、その中へ意気揚々と入っていくセイブル王。

 

「ラファ、気付いて……んだよなー?」

「残念だがラファ、この階には……」

「大丈夫ですわ。全てわかっていますの」

 

 ずぼらとナルシストだけど、根の良い二人だ。心配はありがとうございますのよ。

 でもまぁ、今までのラファちゃんなら何があったとしても動揺しないと信じてほしいものですわね。

 

 一度しまった扉。そこをゆっくりと開く。

 開けば。

 

 ──にこにこと真ん中の……いわゆる「誕生日席」に座るセイブル王。そして、十字に括った木の棒に公務服がかけられているだけの……案山子の体すら成していないモノたちの座る楕円形の食卓。他、壁際やそうでないところなど、至る所にその「服掛け棒」が存在している。

 

「クリソゴヌス、喜べ。君の娘のラファ嬢が無事だったのである。……ああ、やはり嬉しいか。堅物の君がそうも破顔するとは、やはり娘も欲しかったであるな」

 

 当然、王様以外の誰も喋ってはいない。彼の視線の先にあるのは……ダルクエルデ公爵家の紋が入った公務服を着せられている十字棒があるばかり。

 お兄様はその後ろで静かに佇んでいる。まるで父の手前、言動を控える息子のように。

 

「加えて伝説の四騎士も……私達を見捨ててはいなかった。希望であるぞ、皆の者。今日まで生き繋いだ価値があったのである!」

 

 恐らくセイブル王には盛大な拍手と歓声が聞こえているのだろう。あるいは涙ぐむ声か。

 まぁ……正しい班分けだった。

 この光景、エスタとリベルタは耐えられないだろうし。

 

「しかし……ふぅ、疲れたな」

「陛下。……ラファ、すまないね。話したいことは沢山あるだろうけど、王はお疲れのようだ。今日のところは」

「ええ、退散いたしますの。……ではセイブル王、ごきげんよう」

「うむ、うむ。そちらにいる生存者たちにもよろしく頼むであるぞ」

 

 食堂の外に出る。そうして扉が閉まって。……万一にも声を聞かれぬよう、結構な距離を取って……息を吐く。

 

「……きびしーなー、これは」

「王と言えども人の子。否、自らの国が醜悪に食い尽くされるさまは、私達よりも痛ましいものに映ったのだろうな」

「まぁお歳ですし、オスカル様が無事なら問題ありませんわ」

「流石だなー。欠片も動揺してないのなー」

 

 いやだって。

 

「なぜか幼年期の口調なお兄様と、家族は全員生きている、なんて宣う陛下。加えてお父様や他大貴族がご自身の派閥にいるというのにお一人で出歩いていたという事実。このことからこの程度のことは予測つくでしょう」

「ああ、ラファ。すぐに見抜いてくれて助かったぞ」

 

 と……セイブル王を寝かせたのか休ませたのか、こちらへやってくるなりお兄様はそんな言葉を吐いた。

 

「魔導大学に入った時に幼い口調をやめたこと、未だによく覚えていますもの。周囲から幼いと揶揄されるのが嫌でお父様の口調に合わせたのに、今度はお父様の真似っこと言われて珍しく"じゃあどうすればいいんだよ!"なんて怒っていたお兄様のことを」

「……モーモン様、パリス様。妹の面倒をみてくださり、感謝いたします。妹はこの通りあまりにも失礼な性格ですから、さぞかしご迷惑をおかけしたでしょう」

「迷惑とは思ってねーよー。新鮮で面白かったし、俺達も結構ラファに救われたからなー」

「ああ、彼女がいなければ先程話したほどの生存者は望めていないだろう。王国というものの息を伸ばした者が誰かと問われたのなら、私達を含めた全員がラファの名を上げるだろうな」

「わーい褒められましたわー」

 

 実際驚きだ。パリスがここまで他人を褒めるとは。

 

「とまぁそんな感じで、開口一番の疑い以外では明らかに演技だったお兄様のおかげで賢い妹である私は瞬時に全てを察しましたのよ」

「それについてだが、ラファ。お前が思っているほど状況は酷くない。父上、母上も生きている」

「あら、ホントですの?」

「この状況を受け止めきれず、心を壊してしまったのは王だけなのだ。彼はいつの頃からか幻覚を見はじめ、幻聴を聞きはじめ、そしてああやって一人で徘徊するようになってしまった。派閥というのも王の勘違いだ。今の状態の王をなんとか戻そうとオスカル様たちが少々強めの言葉で彼を叱るものだから、仲違いをしているのだと思い込んでしまった。その結果セイブル王は幻覚たちと共に過ごすようになった次第だ」

 

 認知症……というよりは心的外傷でしょうね。その辺専門外なのでわかりませんわ。

 病気は回復魔法でも治せませんから、落ち着くまで放置するしかないですわね。

 

「オスカル様以外の王族は?」

「王妃アレハンドラ様がご存命だ。だが、先程話に出ていた王の父母ハリソン様とイライナ様、そしてカイウス様は亡くなられた。不甲斐ない限りだ」

「五属性貴族当主は全員無事ですの?」

「ああ。その血縁の全てが把握できているわけではないが、少なくとも当主が無事であることは確認している」

 

 それなら四騎士が去っても戦力に翳りは出ませんのね。

 

「貴族は皆セイブル王は放置って方針なわけー?」

「申し訳なくは思っていますが、そうなりますね。オスカル様もご納得いただいています。ただ完全に放置するというのは……王が正気に戻られる可能性もあるためできず、こうして私などが当番制で彼の安否を確認しているかたちになります。四階、五階のアンデッドは排除済みですが、スピードゾンビを始めとした特異種がいた場合、アンデッドとなってしまう可能性もありますので」

「いち早く処分するため、か」

「今いる生存者こそ最優先ですので」

 

 適切で合理的な判断だ。死を慈悲と受け取れないあたりがまだ人間らしくて良い。

 

「ランディ・ダルクエルデ。私達を二階へ案内してほしい。残りの四騎士と勇者がその階へ向かっているはずだ。合図をしたから勘違いがおきることもないだろう」

「可能ならばご自分で向かっていただきたい。私には王を見守る義務がありますので」

「わかりましたわ、お兄様。さ、モーモン様、パリス様、行きますのよ」

 

 あまりにもスムーズに歩き出す私……に、何かを感じ取ってくれたのだろう。

 二人はお兄様へ何か言いたげな雰囲気を見せたあと、追従してくれた。

 

 そうして、お兄様からも食堂からも離れたところで……モーモンが口を開く。

 

「どういうことだー? 兄妹のアイコンタクトだけじゃなんにもわかんないぞー?」

「私にも何が起きているのかはわかりませんのよ。ただあのまま帰るわけにはいかない、というのが伝わってきましたから、助け舟を出した。それだけですわ」

 

 派閥は無くても確執はあるのか、それとも別の理由か。

 なんにせよ「手ぶらでは帰れない」というような印象を受け取った。お父様はそういう試験を課すタイプではないので、恐らく別の誰かが彼に責を負わせているのだろう。

 

 公爵家長男にそんなものを背負わせることのできる人物など、決まっていますけれど。

 

「──あら。あらあらあら。……噂のラファちゃんじゃない。聞いたわ、聞いたわ。準聖騎士に混じって農具を振り回して遊んでいるとか。そんなあなたがこぉんなに健康そうなんだもの、さぞかし甘やかしてもらっているのでしょうねぇ。……そちらと合流するのが楽しみだわ。公爵家長女がこれなら、私はどれほどもらえるのかしら」

「私は運動しているから食べても構いませんけれど、その身に流れる血の貴さのあまり前線に出ることの適わない王妃様が私の量を食べてしまっては、アンデッドさえも魅了してしまうほど肉付きがよくなってしまいますのよ、アレハンドラ様」

 

 王妃アレハンドラ。シナリオ終盤に分岐するオスカル攻略ルートにおける最大の障害。

 そして恐らく──セイブル王のドロップアウト寸前を、誰よりも心から喜んでいる人、である。

 

 ──売られた喧嘩は買いますのよ、アレハンドラおば様。相手が伝説であれ王族であれ──安く買って高く売りつけますわ~。

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