悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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昨日公開された気がするのは気のせい


ゾンゾンゾンビ愛してる
明滅!


 魔王領は別に海を隔てているとか世界が違うとかそんなことのない割と地続きな場所に存在している。

 一応ヘルメタン・カラスス山脈という山々が境にありはするけれど、平均標高はそこまで高くない。そのためかつては領境でたびたびの衝突が起きていて、学園編とかいうシナリオの序盤も序盤な隅っこのそれが終わった後、「ただ魔王に復讐するだけ」ではいけないことを強制的に知らされるシーンにリベルタは……というかプレイヤーは直面することになる。

 なにか元凶と呼ばれるものを断ち切ったところで全体を変えることはできない。根強く根深い問題をどうにかすることは到底不可能。だから──四騎士たちの本当の目的に沿って、「過去のある一点から時をやり直すしかない」という結論に至る……のが中盤までのシナリオだ。

 けれど、それでは臭い物に蓋をするだけだとリベルタが思い直す……経験と出会いを積んで成長していくためのシナリオでもあるから、それはもう簡単にメイン張れそうなキャラクターが死ぬし、それはもう簡単に人が裏切り、あるいは裏切られ、悲嘆の涙を流す。その頃にはもう学園のガの字も出ない。ラファ・ダルクエルデのラの字も出ない。悪役令嬢とはいえ脇役。それが私なのですわ~。

 

「なんて、感傷に浸る暇も与えてくれませんのね!」

「敵の眼前で感傷に浸っている貴様が悪い」

「正論ッ!」

 

 ショベルの背で頭蓋を殴り飛ばす……も、人間とは違う手応えにバックステップ。すると案の定、明らかに首の折れた状態のアンデッドがその腕を横薙ぎに振るってくる。

 だから、ショベルの背を敵側に向けた上で、振るわれる腕と動きを同期させたショベルを手前側に引く。するとあら不思議、自身が腕を振る勢いでその腕が千切れてしまったではありませんか。痛ましいですわ~。

 

「スワンプバインド、デル・メルタキシガル」

 

 足を取られ、会心率の減ったアンデッド。それに急接近して顎へとショベルを当て──背負い、投げる!

 やみくもに投げたわけじゃではありませんのよ。その証拠に、ほら。

 

 アンデッドの落ちる先にあるのは、朽ちつつあった木柵。

 大きく胸を開いたソレがそこへと落ちれば、愉快なオブジェクトの完成ですの。

 

「ふぅ……魔族のアンデッドは本当に面倒ですわ~」

 

 全身串刺しになってもまだジタバタと動いているソレ。だから今度は丁寧に丁寧に、確実な断首を行う。

 

「サハギンは皮膚がゴム質をしている者が多い。単純な打撃や斬撃で戦おうとする方がおかしいのだ」

「単純な打撃や斬撃しか攻撃手段がないのですから仕方ないじゃありませんか。闇属性魔法はほとんど効かないのですし」

「戦う必要がないと言っている。アンデッド化した魔族の始末は私の仕事だ。貴様の出る幕ではない」

「ごもっともではありますけれど、これから己の住む場所のお掃除くらいはさせてほしいですわ。私、働かずに飲み食いをしようとは思っていませんのよ」

 

 一息吐きながら見遣るは魔王領南西、既に機能を失って久しいサミヒデ港。元々はこのあたりにあった港湾国家の保有していた港なだけあって、朽ち果てた基礎だけでもその大きさが窺える。ゲームにおいては名前が出る程度の場所だったけど、当然というべきかなんというべきか、昔はここにもちゃんと人がいたのだなぁ、と感じさせる痕跡がそこかしこにありますわ。

 なぜ私達がそんな場所へ赴いているのかと問われたら、魔王曰く「そもそも貴様が寄り道なのだ」だそうで。元々ここへ向かっていた道すがら、私を見つけてくださったとか。合縁奇縁また来年ですわ~。

 

「で、なんであそこに向かってますの? 結局聞いていないのですけれど」

「先程救難を示す魔力光が上がったのだ。生存者は皆魔王城に匿っているから、生き残りがいるとは考えていなかったが……あの光をアンデッドが出し得るとも思えん。故、救出にいく」

「生存者がいたこと自体は喜ばしいけれど、なぜ今になって……というか今更救難信号を出してきたのか気になるし怪しい。少しばかり様子を見てから向かうつもりだった。……こんなところですの?」

「正しい。ともすれば急を要するやもしれぬ信号に対し、私はそれを疑った。そも、魔王に求められる他者を寄せつけぬ強さが私にあれば、このような疑いせずとも済んだのだがな」

「流石は歴代最弱魔王、ですわ?」

「……なぜ貴様がその……魔族の間でしか言われていない蔑称を知っている」

「魔族の口にも戸は立てられないものですわ~」

 

 実はこの魔王、歴代最弱と揶揄されるほどには弱い……なんて事実は全くない。ただ、優しい性格なので、力isパワーな魔族社会において最弱と揶揄されているだけだ。

 なおゲーム的に戦ったことがあるわけではないので歴代魔王との強さ比べはできないけれど、少なくとも前代魔王が四騎士を連れていない勇者に負けていたあたり、個々の強さはそこまでかわらないのではないかと思っている。いますの。

 ぶっちゃけ初代魔王と初代勇者の強さがおかしすぎるだけだ。それ以降の両者はともすれば相性次第ではモブにさえ負ける程度のスペックしかない。

 

 優しい魔王。慈愛を持つ魔王。魔王を受け継いだことを誰よりも悩み、誰よりも胸を張り続けた……しっかり乙女ゲームの攻略対象な魔王様。

 ま、今は元凶クソ魔王ですけれど。

 

「……貴様の言う通りだ。だが、決意は……誰か一人でも残っているのならば、それを身捨てることはできない、という方に傾いた。初めからそれを決意できていれば変わった未来もあったかもしれないが」

「私、自虐の激しい相手を諭して掬い上げてあげるほど優しいつもりはありませんけれど、少なくとも今一人を救っていて、そしてこれから誰かを救いにいくのですから、あまり下ばかり向いていないでくださる? そんなんじゃ見落としますのよ、すべてを」

 

 元凶クソ魔王の性格を一言で表すのならば「クソ真面目」、二言で表すのならば「クソ真面目ネガティブ」。ただまぁネガティブなのは自分一人でやっていてくださいましって思いますので、気が滅入るような言葉を口に出し過ぎないでほしいですわ。勝手に自問自答しててほしいですの。

 

「娘。貴様は自身の行動に恐れを抱くことはないのか」

「ないですわ。"なるようになれ"という言葉がありますけれど、私の場合は"なるようにさせる"ですの。私がこれからなにをどう行動したとして、それによってどんな損得不利益利益が発生したとして、無理矢理にでも受け入れさせますわ。その上でなら叱責も歓声も受け止めましょう。ですから、やる前から何かを恐れるほどの心配症にはなりませんのよ」

 

 世界(あなた)が私の足跡になるんですの。私が世界を踏破しているわけではありませんわ~。

 

「見習うべきかは……判断できないな」

「仮に本当に私に憧れていたとしても、私になるべきだとは決して思いませんのよ? 私への憧れを持つのであれば、私の背を追い、そして隣に立つくらいの気概は見せなさいな。どれほど弱い魔王とて、人間の小娘の隣に立つくらいは朝食前でなくては困りましてよ」

「……努力しよう」

「ええ」

 

 して、喋っている内に……サミヒデ港に辿り着く。

 敷地内にはまだうじゃうじゃといるらしいアンデッド。そして。

 

「あれは、焚火の痕跡……ですわね」

「そのようだ」

 

 ここからでも見える、半壊した建造物。その二階部分に置かれている炭化した木々と囲い石。

 焚火だ。それもだいぶ原始的な。

 

「魔族でも夜は暖が必要ですの?」

「種族による。暖が必要であるが食材をそのままに消化できる種族もいれば、暖は必要ないが食事は火を通さねばならない種族もいる。あれはそのための火だろう」

「成程」

 

 知りませんでしたわ。だってゲームにおける魔族がサバイバルしてるところなんて見たことありませんし。

 ラファ・ダルクエルデとして生まれてからも、魔族の生態についてを閲覧できる場所になど訪れたことありませんでしたし。……ああでも、基本「種族:魔族」としか表記されない彼らそれぞれに細分化された種族があるのなら、まぁ納得かもしれません。

 先程倒した見るからにサハギンな魔族もいれば、見るからに獅子みたいな魔族、あと「あなた魔法で動いているだけの岩石では?」みたいな魔族もいますから。

 無知は罪とは言いますけれど、云千年も前から生存競争をしている相手の種族詳細なんて知りようがありませんわ。

 

「けれど、ここはそのサハギンが多く住んでいた場所なのでは? ここにくるまでに倒したアンデッド化魔族も全てサハギンでしたし」

「そうだな」

「であるならば、結局あの焚火はおかしいですわよね。ほとんどがサハギンしかいない……偏見ですけれど、サハギンは暖を必要とせず、食事も生で問題ない種族ではありませんこと?」

「……ああ、その通りだ」

 

 仮に生き残りがいたとして、どうして今の今まで見つからなかったのか。どうしてサハギンとは真反対の種族特性を有する者がここにいるのか。

 この疑念を解消しなければ……罠に見えてしまうのも無理はない。ですわ。

 

 後者は最悪迷子で説明自体はつきますけれど、前者に関しては本当に謎ですのね。

 王都でいうところの第七区の皆さんのように地下やそういった場所に隠れていたとして、そこが使えなくなったから、とかなのでしょうか。

 

「なんにせよ、ここを虱潰しに探すというのは非効率ですの。魔王、少しの間高空へ行っていてくださいまし」

「承知した」

 

 ふわりと浮いて、結構な速度で高空……雲間まで行く魔王を見送り。

 最早恒例となったあの魔法を使う。

 

「ブラックネット・リパルサー」

 

 訂正、こっちの改悪版はまだ恒例となっていませんでしたわ。

 

 直後、サミヒデ港にいたアンデッドの全てが私を向く。

 わらわらと──いやさ濁流のようになって向かってくるアンデッドたち。王都と違ってヒトガタのゾンビはサハギンくらいで、あとは魔物ゾンビなのがいいですわね。見分けがつきやすいといいますか。

 人探しをするにはもってこい……なのですが。

 

 あと少し。もう少しで接触する……というあたりで、ショベルを思いっきりフルスイングする直前で、身体がふわりと浮いた。

 

「見捨てるはずがないだろう」

「お優しい事ですわ~」

「……」

 

 眼下、サミヒデ港のいたるところから出てきて、宙にいる私を我こそが掴まんと集まっているアンデッド。

 けれどその中に別の種族……生存者らしきものは見えない。

 

 ……それと、王都のゾンビと違って自分たちの重みで潰れないのですね、ここのゾンビは。

 

 アンデッド。とりわけゾンビの弱点は乾きですの。本能から水分を摂取することのないゾンビたちは、活動している間──走ったり呻いたり──にどんどん乾いていきますの。その状態で転んだり攻撃を受けたりすると、簡単にパキッと行くのですわ。

 王都で私がゾンビ相手にあんなにもな無双ができていたのはそこに起因するところが大きかったりしますのよ。建物の倒壊程度で死ぬのもこれが理由。

 ついでに砂漠地帯にゾンビがいないのも似た理由ですわね。……代わりに亡霊騎士というアンデッドがいるので居住に向くかと言われたら微妙なのですが。

 けれど、流石は港湾国家の港町。湿気充分でゾンビがビチョビチョですわ~。おかげでサハギンでなくともゾンビ魔物の肌が硬い硬い。

 王都で培った対ゾンビノウハウは魔王領では通じないと見た方がいいですわね。培い直しですわ。

 

「上空からも確認した。娘、貴様が魔法を使った時、反応を示したのはアンデッドだけだった。……ここに生存者はいない。あるいは、信号を出してすぐ……アンデッド化してしまったか」

「その可能性は無きにしも非ずですけれど、とりあえず探索してみませんこと? あの焚火周辺や、まだ残っている建物の中に……たとえば怪我などをしていてブラックネットに反応したけど出てくることができない、というような方がいるかもしれませんわ」

「ならば貴様はここで待っていろ。スピードゾンビでも跳躍不可な位置に固定しておくゆえ、先程の魔法でアンデッドの気を集め続けろ」

「探索中のあなたにも効いてしまいますのよ」

「気をしっかり持っていれば問題ない」

 

 そう言って離れていく魔王。

 ……そうなんですの? 気の持ちようでレジストできてしまうんですの? まぁアンデッドにヘイト管理されることへの気概など無いでしょうから構いませんけれど……なんだか癪ですわね。

 

 今度その精神防御を貫くブラックネットを開発してみせますわ~。

 

 

 そこから、ブラックネットを使いながらの待機をすること十分ほど。

 最中私のいる半分くらいの高さまで飛び上がってくるスピードゾンビがいたものの、飛行できるものは一体も来ず……そのまま魔王が戻ってきた。

 

 手ぶらで。

 

「いませんでしたか」

「ああ。だが、娘。貴様の言う通り、焚火のそばやそこに続く梯子など、そこに誰かがいた痕跡は多数あった。そしてその痕跡は、魔王城のある方面へ続いていた」

「入れ違いになったと?」

「そうであってくれと願うばかりだ。なにせ痕跡はすべて子供のものだったのだから」

 

 あー。……子供か。

 だとすると「どうして今まで出てこなかったのか」という説明ができてしまう。

 この世界……というかゲーム『愛されるが故に死して』はレベルシステムじゃない、という話をしましたの。ですけどリベルタも四騎士も初期に使える魔法は少ないのですわ。私と魔王は同じ属性使いなのに使える魔法違いますし。

 そんな風に、レベル以外の場所……「ブラックネット・リパルサー」のような派生・改造魔法は措いて擱いて、通常習得魔法を増やすには「様々を経験する」しかないですの。一気にゲーム的な話になりますけれど、単体回復→範囲回復や単体攻撃魔法→範囲攻撃魔法みたいな進化系の魔法については『シナリオ進捗率』で増え、それ以外……インヴィジブルスプリットやスワンプバインドなどのどこにも派生しないものは『専用イベント通過』で増えるのですわ。

 

 だから……まあ、そのシステム通りならば、その子供にとってなんらかのイベントと呼べる出来事が起きて、ようやく信号弾を出す魔法を覚えることができた、となっていてもおかしくはないのです。そういう日常に使う魔法は大抵誰もが経験することで覚えられるものなのですが、このご時世ですからね。

 未経験のまま親などがいなくなって……というパターンは普通にあり得るでしょう。

 

「それならばすぐに追いかけるべきでは? なぜ焦っていませんの、あなた」

「……基本、魔族というのは……人間に対して敵意を抱いている。教育のせいであり環境のせいであり、種族特性のせいであるが……子供というのはひたすらに純粋だ。ひたすらに純粋に、人間を嫌っている可能性が高い」

「だから私に会わせたくないと? けれどそれ、私が単身魔王城に向かったとしても同じことになりませんの? 生存者、いるのでしょう」

「ああ」

「そう考えるとあなたの魔王領に来ないか、という誘いは、事実上処刑宣言にも等しかったのですわね」

 

 いや本当に、国外追放に遭ったり嬲り殺しにされそうになったり、今私ビバ悪役令嬢してますわ~。

 

「あの時ああ言ったのは、『不死根(デッドレス)』に対し、貴様であれば何か有効な手段を考えつくかもしれないと思ったからだ。魔王城に住まわせようとしていたわけではない」

「はいはいわかったわかったですの。こうして言い争っている間にも一つの命がアンデッド化しようとしていることを考えれば、助けた後に起こるかもしれない諍いなどどうでもよくなるはずですわ」

「貴様はいいのか、娘。魔族とは人間を脅かす者の名だ。それを助ける、などと」

「助けた上で脅かしてくるのであれば、正々堂々と迎え撃ち、その首を断ちますのよ。救命に種族は関係ありませんの。たとえその後殺害するのだとしても」

「非効率的だとは考えないのか」

「救えなかったことを悔やむより、わかり合えなかった相手を殺した感情の方を取るというだけですの。そこに効率はありませんわ。好悪はありますけれど」

 

 わかり合えなかったことへの後悔、そして命を摘み取る以外の選択肢を取れなかったことへの罪悪感の方が厳しいという方もいらっしゃるのでしょう。それならば救えなかったことを悔やむ方がマシだ、と。あるいはまぁ魔族を救わなかったことを悔やむことはないという方もいらっしゃるかもしれませんが。

 ただ私は、とりあえず目に見える者全部救って、そのあと対立して叩き潰す、という道の方が好きというだけですわ。その道においての効率を考えることはあれど、選択肢時点での効率化なんて考えませんのよ。

 

「選ぶ前に失敗を悩むな、ですわ。先人たちの照らした道筋を歩いているようにみせかけて、毎秒構造の組み変わる荘園の岐路を選びながら歩くのが人生というもの。数えきれないほどの選択肢とどうしようもない運命の全てを受け止めきれずに受け入れて、辿り着いたその先でボロボロになった自らの身体に笑うのです」

「……」

「そも──私やあなたのように何かを得る未来を確信している方の方が少ないのでしょう。膨大な試行錯誤の果てにて、何も掴めず、何も成し得ず、何も遺せなかった存在はごまんといますの。けれどそんな方々も生きていますわ。徒労のために死するのではなく、苦悩のために生きなさいな。私はあなたの長所を優しさや弱さではなく、しっかりと向き合って悩むことだと思っていますのよ」

 

 選ぶ前に失敗を悩むな。選んでから選択の失敗を嘆け。

 やり直しなど利かない。選んで選んで失敗して失敗して、それでも進まなければいけない。立ち止まった者をこの世界は見過ごさない。放置しないで利用し、誰かの死の材料にしてくる。

 自分で自分の死にざまを飾るのだ。そのために歩き続け、選び続けろ。

 

「少なくともそれが、何か一つでも力を持つ者の責務、ですわ」

 

 そうではないものたちの目を、輝かんばかりの光で灼き尽くすことを。

 

「さ……呆けている暇はありませんわ。子供探し、行きますわよ」

「……ああ。わかった」

 

 ちなみに私、子供は苦手でしてよ。泣くときは大声で泣くくせに本当にしてほしいことを口に出せないから慮りが面倒ですわ~。

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