悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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纏滅!

 私が魔王についていきたくなるような理由として挙げられたもの。

 それは。

 

「ここは魔族の利用する武器商店だ。安心しろ、店主と貴様を会わせるつもりはない。貴様の武器が農具のままであるというのが気になっただけで──」

「余計なお世話ですわ。私、好きでショベルを使っていますのよ。今更剣や槍に浮気する気はありませんわ」

 

 それは。

 

「ここは我々の発生から今日に至るまで、貴様ら人間から奪った書物が補完されている場所となる。人間史だけでなく魔族史、そして太古の記録まで──」

「不要ですわ。ああでもアーティファクト関連なら興味ありますのね」

「そのような重要書はここにはないな」

「じゃあやっぱ不要ですわ~」

 

 ……それは。

 

「ここは物資保管庫だ。魔王領における様々な触媒がここに──」

「どーでもいいですわそんなの。魔王領でとれる素材で作れるものって基本武器ですし」

 

 またも屋外の小高い山にまで戻ってきて──結論。

 

「さてはあなた、私がついていきたくなるような情報、出せませんのね?」

「欲に目を眩ませる人間であれば垂涎物と言える場所ばかりに案内したのだがな。貴様、無欲ではないくせに複雑が過ぎるだろう」

「形あるものをそこまで欲していないだけですわ。そも、アーティファクトを破壊できる武器などがあればそれで済んだことですのよ」

「そんなものが市販されているわけがないだろう」

 

 シナリオ終盤に訪れる空中都市セルマ=ラグティアでは『龍殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)』とか『次元閉鎖の杖(クロス・ディメンション)』などが店売りされていましたのよ。

 無人都市に負ける品揃えとか、品薄にも程がありますわ。

 

 ……まぁ、魔王城に突入する気自体もサラサラありませんのよ。したって無益ですし。

 元凶クソ魔王の隠している誰ぞかは……恐らくアーティファクトの破壊方法など知らないのでしょうね。だから私に会わせたくない。むしろ……偶発的に破壊してしまったそれを心から悔いているとか、そんなところでしょうか。

 私って過失であるかどうかも見抜けずにガツガツ責め立てるような女に見えているのでしょうか。そんなことありませんのにねおほほほ。

 

 しかしどーしたことですのこれは本当に。

 魔王城へは行けない、アーティファクトの破壊方法もわからない、追放されている身ゆえ帰ることもできない、そもそも現状はほとんど変わっていないと来ましたわ。

 中和液のことだけでも手土産には充分でしょうが、さしものオスカル王子も「流石にまだ早い」と言うでしょうし。アティアに良い感じの霊感スポットでも聞いて文字通りの地獄めぐりツアーでもしますの? 呑気すぎません?

 

「娘。すまない、少々用事ができた。分身はここに残していくから、行きたい場所などがあれば言え。移動程度ならばできる」

「ああそうですの? お仕事お疲れ様ですわ。魔王ですものね、いつまでも遊んでいられないでしょう」

「また来る」

 

 言って飛び上がり、そのままふよーっと去っていく魔王。

 視線を降ろすと、そこにいつも通りの彼がいた。

 

「そうはいいますけれど、分身のあなたも戦闘能力がないくらいであまり変わりないのでは?」

「時間で消える。込められた魔力は多い方だが、一日と保つまい」

「ふーん、ですの」

 

 立てかけていたショベルを持ち上げる。

 それを肩に担ぎ……魔力で身体能力を強化。

 

「娘、どうした」

予定外の(アポイントメントの無い)お客様がいらっしゃったようですわ。これでも私、貴族の娘でして。スケジュールにない方との逢瀬は実しやかな嘘や噂が立てられてしまいかねませんので、困りますのよ」

 

 ショベルの先端についていた砂埃が吹かれ、半月を描くと同時。

 

 突き出してきた腕を蹴り飛ばし、突き出して来る前の頭蓋をショベルにて割断する──。

 

「お帰りは彼岸(あちら)ですわ~!」

 

 本当にワンパターンですこと!

 

 

 彼がその場へ戻った時にはもう問題の粗方が解決している様子だった。

 暴徒と化していた魔族らを鎮圧し、生還者と呼ばれる者達の避難誘導を行う配下たち。彼はその内の一人である三つ目が特徴的な壮年の男性に声をかける。

 

「クラウス。どうだ、彼らの様子は」

「魔王様。お帰りをお待ちしておりました。……して、様子は見ての通りです。生存者は生還者らをアンデッドと呼び、罵声を浴びせ……生還者が怯えや苦痛を覚える姿を見てフラストレーションを晴らす。度し難い醜悪に何度か手が出そうになりました」

 

 生還者。中和液、及びそれを軸とした治癒薬の服用によりアンデッド化の魔力の減退に成功し、元の種族へ戻った者達。生存者(生き残った者)ではなく生還者(生き返った者)と呼ばれ始めた彼らは、しかし生存者の輪には戻れないでいる。

 いつまたアンデッド化するかわからないというリスクもある。しかしアンデッドそのものと同一視されることの方が多く、本来アンデッドにぶつけられるべき不平不満やストレスの類が矛先を変えて差別という形でぶつけられ、それが大きな溝として横たわっているのである。

 生還者を生者として認めない。生存者だけが正当な魔族の生き残りであると。

 

 魔族は群れではなく個の生き物だ。人間であれば同調圧力や連帯意識で「否定してはいけない空気」の形成によって止まったかもしれないこのムーブメントも中々収まらない。力で鎮圧しようと殺されない限りは意思を曲げない者ばかり。

 行き過ぎた実力主義の魔族社会ならではのことだし、それでいて魔王軍に庇護を求めてくるのだからタチが悪い。

 

「弱者を甚振り、立場を利用して我々軍部までも強請ろうとする者も現れています。──どうしてもダメですか、魔王様。私はこの目に映るゴミを片付けたいだけなのですが」

「ならん。焼却すれば別のゴミが生まれるだけだ。それも、廃棄のできないゴミが。私達が彼らに対して見せつけるは暴力ではなく無視だ。貴様の澄んだ瞳にゴミなど映すな。目が潰れてしまうぞ」

「……そうですね。そうでした。……もし光属性が使えていたのなら、見たくないものを視界に映さない魔法を開発し、皆に配るのですが……惜しいことです」

 

 いつものことだった。力に頼りがちな、暴力一辺倒になりがちな配下たち。それらに対し、一人一人違う言葉で、且つその者に最も刺さる言い回しで窘める。

 魔王……そう呼ばれる彼が魔王として行う日々の業務の一端がこれである。もしあの少女がここにいれば「あなたはあなたで乙女ゲームしてますの?」とか言うのだろうが、彼女はここにはいない。

 

 そういうメンタルケアを各人に行った彼は、ようやく、と言った様子で執務室へ帰る。

 執務室の周囲には淡い水色のボールのようなものがこれでもかと積まれていた。

 それらに込められているのは声である。嘆願書ならぬ嘆願声。その他魔王の許可が必要なことのすべて。

 製紙の技術がしっかりしているわけではなく、況してや食用以外の家畜など真っ先にアンデッド化した現状において、紙というものが使われることは滅多にない。

 よって魔力で作った泡に声を封入する形で報告をまとめている……のだが。

 

「羊皮紙の山を苦痛に思ったことは幾度となくあるが、民や配下の声を聞くのが憂鬱になる日が来るとはな……レクネシス」

 

 今は亡き、親友であり秘書であったある魔族の名を呟いて。

 

 彼は改めて仕事を始めるのであった。

 

 

 その仕事が峠を越えた辺りで、ぐ、と伸びをする魔王。

 魔王。魔王。……元凶クソ魔王。

 

「ふ……酷いあだ名だな」

 

 思い返すはあの少女のことである。

 名前は知らない……が、王都で貴族をしていることと、その責任の強さからアタリはついている。

 それでも名乗られていないので「あの少女」と呼ぶ少女。

 

 だから彼も、名乗れと言われるまで名乗らないことにした。名を呼べとも言わないことにした。

 幻視するはショベルを担ぎ上げる後ろ姿。高級そうな布地の裾を千切り、素足のほとんどを晒した……彼女がよく言う「大貴族の娘」「家柄が違い過ぎましてよ~」な姿とは無縁の恰好。

 月色の髪。ガーネットの瞳。白磁のような肌。美しい相貌。そして──その全てに目を行かせないほどの鮮烈な後ろ姿。

 

 本人が気付いているかどうかはわからないが、アンデッドとの戦いの最中に見せる笑みは戦闘狂のそれそのもの。

 彼の生まれる前……前代魔王の時代には数多くいた益荒男。戦乱の世において戦功を恣にし、自らの得物とその身が血に濡れ行くことを本懐とした狂戦士たちを彷彿とさせる。

 

「強いのではなく凄い……か」

 

 それは彼の経験していない記憶。彼の持つ『魔王の精神』が見せる太古の記憶。

 今現在に伝わっている話とは違う──初代魔王と初代勇者が酒盛りをしているというよくわからないシチュエーションの記憶の、魔王視点の話。

 

 *いやぁ強い強い。勇者よ、おヌシはどうしてそこまで強くなった。ワシか? ワシは来る敵来る敵を倒していたら、自然によ。

 *聞いていないしどうでもいい。……私には師がいるだけだ。

 *ほう、師とな? つまりおヌシより強いのか。

 *強さは……知らぬ。比べたことがない。ただ……強いのではなく凄い。師がそうであるから、私もそこを目指している。

 *よくわからぬが、一度手合わせ願いたいものよ! ワッハッハ、まぁおヌシと分け続けている時点でワシの実力など知れたモノか!

 *ああ、最低でも十回は私を負かしてからいけ。迷惑だ。

 

 今の魔王と勇者の関係からは考えられない程に仲のいい二人。流れ込んでくる『魔王の精神』から伝わる感情は喜色一面。酒が入っているのはあるのだろうが、彼自身が感じたことのないほどの多幸感にあふれた記憶である。

 もし過去に戻り得るのならば。変えたい現在は無いと言い切れる彼だが、問うてはみたいと思っていた。

 これほどに気持ちのいい関係性であるはずの彼らが、どうして『魔王の精神』や『勇者の魂』といったものを後世に遺したのか。この二つがあったからこそ生まれた悲劇は、生まれざるを得ないものだったのかを。

 

 勇者。今の勇者の名は、リベルタ。リベルタ・オスロ・ナムトカルガ。古い詞詩(ことば)で「新たな一ページを描く羽筆」を意味する。

 あれが覚醒しさえすれば、『不死根(デッドレス)』など瞬時に解決する問題となるだろう。だから彼女の周りにいる四騎士はそこを躍起になって解決しようとしない。『勇者の魂』が覚醒して尚も複雑な問題の残る方を優先している。

 伝説の四騎士が聞いて呆れるものだ、と……彼は皮肉気な笑みを浮かべた。

 

「魔王様、医師団のヘイゼルです。少しお時間よろしいでしょうか」

「ああ、入れ」

 

 さて仕事を再開するか。そう思ったあたりで来客があった。

 彼が許可を出したことで部屋に入ってくるは、頭に二本の山羊角を生やした青髪の男性。名乗りの通り、魔王城で医者をしている者の一人である。

 

「どうした?」

「件の、生者以外に反応したにもかかわらず、中和液が効かなかった個体についてです。魔王様のご指示通り、細心の注意を払った上で当該個体を捕獲。その後の魔力の増幅減退などを計測していたのですが、どうにもおかしな反応を見せる時間帯が決まっているようでして」

「時間帯? ……まだ発見から一日と経っていないのに、そこまで顕著なのか?」

「はい。それが──」

 

 

「キリの良い時間……ですの?」

「ああ。医師団の計測結果によると、一時や二時といったキリの良い時間になった時、中和液の効かなかった個体が元居た場所に帰ろうとするような反応を見せるそうだ。何か心当たりはないか?」

 

 我ながら女々しいことだな、と彼は内心で嘆息する。

 わからないことがあればすぐにこうだ。太古の記憶を受け継いでいても、魔王とされるだけの力があっても……それを役立てる術を知らない。挙句の果てに、頼ればなんでも解決してくれそうな人間の少女に頼る。

 

「ああ……成程。つまり王都とほとんど同じですのね」

「何かわかるのか?」

「ええ」

 

 彼にとっては悲しいことに、となるのだろう。

 その頼られた少女は少ない情報から百を導き出してしまうのだ。彼女に備わる知識、あるいは新しく彼女に宿った意識を用いて、完全に。

 

「王都の方でも似た問題が起こっていましてよ。幾度となく復活するアンデッド……つまり、王都における区画が生者の住む場所扱いされていないという問題」

「……魔物の再復活か」

「ええ。あなたがどれだけを知っているかはわかりませんが、再復活によって復活した魔物は湧き出た場所を離れすぎると自然とそこへ帰ろうとしますの。医師団の観測したアンデッドの帰巣本能らしきものはそれでしょうね」

「つまり、生者以外に反応したにもかかわらず、中和液が効かなかったアンデッドは」

「そういうことですわ。その状態で土地に登録されてしまったがために、反応こそ……ええと、生還者、でしたか? それっぽいけれど、実際はそうならない。復活点を消さない限り無限に湧き出でる魔物と同じモノに成り下がってしまった生者の紛い物だから」

 

 少女は相変わらず強い言葉を使う。世が世ならバッシングを受けかねない強い言葉を。

 そうするだけの権力を有し、それを忌み嫌われることに意味を見出す性質ゆえか。それとも如何ともし難い性根ゆえか。

 

「魔王領は人間領と違って区切りが少ないのですわ。だからまとめて"外"扱いになっている。そして"外"で湧いた魔物はそういうキリの良い時間に元の場所へ戻ろうとする性質がありますの。これ、常識でしてよ?」

「そうか。私を含め、魔族の智者の誰もがわからなかったことだが」

「これだから世間知らず集団魔族は、ですわ~」

 

 太古より定められし時間。これを歪めたり違う読みにしたりすることは許されない。どのような無法国家であっても時間だけは他国と変わらない。

 そうしなければ時の恩恵を受けられぬからだ、とは……魔族きっての魔法学者の言葉か。

 

 ゆえにその上の「キリの良い時間」というのが強い力を持つことに疑念はない。無いが、と……彼は少女を流し目で見る。

 

「な、なんですのその視線。情報源なら教えませんのよ。四騎士にも喋っていないのですから」

「いや……知識源を隠したがるくせに知識をひけらかすあたりがなんとも矛盾しているな、と。あの忌まわしい四騎士共も手を焼いていたことだろう」

「私のこれを聞き出すのであれば、『長老球(エルダーコア)』を破壊した者のことを聞き出しますわよ」

「安心しろ、興味が無い。此度も得心の行く情報だったし、裏付けはこちらでやる。それが徒労にならないことは既に証明されている」

 

 少女は──あ、そうだ、なんて軽いノリで手を打つ。

 

「じゃなかったそうでしたわ。そうそう、あなた私にお礼したがっていましたわよね」

「したがったつもりはないが、医師団から讃えられるべきだという声は上がっているな。今も」

「それ、あなたが私に闇属性魔法を教える、ということで手打ちとしませんの?」

「……どういう。まるで話が繋がっていないだろう」

「だから私へのお礼! いつか人間領にも持ち帰る話とはいえ、此度魔族の危地を救った素晴らしい功労者からの頼みですのよ? 聞き届けられませんの魔・王・様?」

「貴様からの敬称は怖気が走る。……まぁ、いい。分身の身でいいのなら、ある程度の魔法練習には付き合ってやる。あまりに大魔法だと分身では無理だが……」

「そういうのは求めていませんのよ。私が知りたいのは主に妨害魔法系。私の知らない魔法を教えてほしいんですの」

 

 無欲。かと思えば強欲。

 相変わらず掴めない少女だ。だが、と……彼は少し留飲の下りる想いがあった。

 ようやく少しばかりの恩返しができる、と。無論積もりに積もった借りはこの程度では晴らせないが、少しでも役に立てるのなら幸いであると。

 

「いいだろう。娘、貴様が私の教える気の失せない生徒であることを願うがな」

「これでも学園の教師には優等生だと褒められていましたのよ。殴り殺しましたけれど」

 

 そんな形で、この荒れ果てた大地での青空教室が始まるのである。

 

 

 日も暮れてきた頃、魔王は片付け終わった仕事に大きな大きな伸びで蓋をする。

 魔王領の夕暮れは赤い。人間領に比べて多分に存在する闇属性の魔力。それが見せる闇色は、陽光が齎す青や緑といった光を選択的に遮り、吸収してしまう。結果赤ばかりが地表に降りて、この赤い世界を形成する……というのも、魔法学者の言葉だったように思う。

 その魔法学者は今──。

 

「ホッホッホ……これ、儂と会いたくないからといって、回想の中に押し込めて殺すでないわい」

「……起きていたのですかご老体。世がアンデッドに覆われてから、醜悪な空気で呼吸することさえ憚られると……自ら呼吸をお止めになったのだとばかり」

「蒼耀の坊、あまり老人を舐めるでないぞ?」

「ええ、承知しておりますよ」

 

 その魔法学者は今、魔法人形(マリオネッタ)に自らの意識を乗せて、わざわざご足労なすっている。

 彼は魔王であるが、魔族の全てを支配下に置いているわけではない。その一例がこのご老人だ。

 

「アヌエ=ギリ=ラプタンバトラ・フナリエ司書長。本日は何用で?」

 

 彼がわざとらしく恭しい態度をとれば、魔法人形のままその顔をニヤリと歪める老人。

 

「蒼耀の坊。──お前さん、人間の娘と定期的に会っているという噂は、本当かのぅ?」

 

 問う。問われる。

 フナリエ老の問いに、しかし、魔王は一切の表情を変えない。

 

「ええ、本当ですよ。ヒトの智者。恐らくはあなたに匹敵する知恵の持ち主と、世についてを語り合っています」

「……ほう? 儂は人間の娘と聞いたが……なんじゃ、人間は百を超える老婆を娘と表現するのかや?」

「いえいえ、年端もいかない娘です。まだ二十にも満ちていないという話でしたか」

「二十にも満ちていない娘が、儂に匹敵する智を持ち、剰え魔王のお前さんがその知恵を借りに足繁く通っていると……本当にそう宣うのかのぅ?」

「それ以外であると聞こえたのならば、私は冗談ではなく引退をお勧めしましたよ、フナリエ老」

 

 嘘が無い。魔王は隠し事をしないということはないし、秘密だってたくさん抱えている。

 一般的な目線で少女のためを想うのなら、ここでは有耶無耶にすべき事柄だった。余計な魔族に目を付けられてしまう事態など無いに越したことはないのだから。

 

 ああ、けれど、どうしてだろう。

 彼が……魔王が勝手に彼女へ降りかかる火の粉を振り払ってしまったら、彼女が烈火の如く怒る気がして。

 

 ──我が道に、障害というものはありませんのよ!!

 

 聞こえる声は幻聴なれど、既に根付いた灯りは消えぬ。

 

「フナリエ老。今の私はもう恥や外聞を気にしないのです。それらは私の歩みを止める壁になり得ませんから」

「……ほっほっほ。何やら悪い薫陶を受けたようじゃな。じゃが……少し魔王らしくなったぞ、お前さんや」

「それは僥倖では?」

「もしその人間がお前さんを変えたというのであれば、あるいはその人間こそが初代様の生まれ変わりやも知れぬのう」

「何度も申し上げている通り、私が初代魔王の記憶を……『魔王の精神』を受け継ぐ魔王です」

「記憶はそうかもしれぬが、魂は違うやもしれんじゃろう。ほっほっほ、楽しくなってきたわい」

 

 突如、がらんごろんと……文字通り糸の切れたように床へ転がる魔法人形。

 

 魔王はそれを拾い上げ。

 

「……やはり悪い薫陶か。魔王城に来させなかったのは英断だったな」

 

 闇色の炎で、焼き尽くすのであった。

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