悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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潰滅!

 王都は一区から十区までに区分けされていて、一に近いほど貴族が多く住んでいる、十に近いほど平民が多く住んでいる、というような分け方をされている。よって六区以降の区は少しばかり住み難い形状をしていたり、今私の眼下に広がっている八区のようにとても狭い範囲が区になっていたりする。

 残念ながらというべきかテンプレートというべきか、この王国における平民の扱いは良くない。良くなかった。

 だからゾンビパニックが起きた時もまともな指示、まともな誘導を受けることができず、そのまま死していった……ゾンビになってしまった平民も少なくはない。いや、多い。

 その事実が殊更この苦境を生んでいるのだから、ある意味で貴族王族の因果応報なのですわね……なんて他人事のように独り言ちる。

 

 あのままの勢いで突っ込もうとしたら流石に止められた。良い判断ですわ。

 

 それで、と。

 高台より見下ろす第八区。面積にして目算十平方キロメートルくらい……だと思う場所。狭い狭いとはいいつつも、土台が広大な王国の中で最も広い面積を持つ王都だ。それくらいはある。

 

「ラファ様。準聖騎士十名、全員の準備が終わりました。いつでもご命令ください」

「これより指示を出しますが……まず念頭に置いてほしいことがありますの」

「ハッ」

「第一に、死なぬことですわ。優しさも多分に含まれておりますけれど、あなた方のような鍛え上げられた肉体を持つ者がアンデッドとなった場合の脅威など言わずともわかりますわよね」

「承知しております」

「よろしい。そして第二に、私を守るのではなく、準聖騎士のチームワークを信じることですの。私の扱う闇属性魔法は敵の敵意を操作するものばかり。必然、私が囮になるのですから、私に敵が群がりますわ。その事実に焦ることなく、アンデッドを背後から着実に処理する。あなたたちの役目はそこにありますのよ」

「命の危機に瀕していると判断しない限りは、承知いたしました」

 

 ……ま、彼らも最上級生とはいえまだ子供。

 甘い判断もあるのだろうが、できれば控えてほしい。単純に考えて私のショベルより彼らの剣の方が強い。処理能力は段違いだ。

 一番弱いのが囮になって、それに気を取られるゾンビを強い人達が倒す。そこに挟む疑念の余地はないと思う。そう合理的に判断してくれることを願うのみですわ。

 

 ちなみに彼らは魔法を使えない。使えたとしても攻撃に転ずることのできない程度のもの。

 だから聖騎士の道へ進んだとも言う。ごく一部の……聖騎士そのものへ憧れを抱く層はいるけれど、大半は魔法使いになれなかったが故の聖騎士だ。

 

「あそこにある小さな鐘楼が見えますの?」

「はい」

「第一目標はあそこ。私を含む第一陣がアンデッドの群れを突破し、あの鐘楼まで辿り着きます。そうして私一人を置いて他の方々は今いるここへ戻ってきますの。屋根伝いなら危険は少ないでしょうから」

「……そのような作戦は、承服できかねます」

「話は最後まで聞きなさいな。私は鐘楼の屋根に上り、闇属性魔法で第八区全体のアンデッドへ働きかけますわ。隅の方のアンデッドへはギリギリ届かないかもしれませんが、そこは臨機応変に対応してくださいまし。あそこの鐘楼の屋根は見ての通り鼠返しになっていますから、アンデッドは上ってこられませんの。よって私は安全ですのよ」

「最後までお聞きしましたが、やはり承服できかねます」

「それはなぜ?」

 

 初期案……作戦とか無しに突撃して殲滅! より現実的だと思ったんだけどな。

 

「通常のアンデッド……ノーマルゾンビだけならばラファ様の案を通したでしょう。ですが、遠距離攻撃を持つアンデッドや埒外の跳躍力を見せるアンデッドも出てきている現状。鼠返しのある鐘楼の屋根にどんな安心ができますか」

「上ってくる個体がいたら叩き落としますし、なによりそれをさせないのがあなたたちでしょう?」

「万が一があると言っているのです」

「どんな作戦にも万が一はありますわ。……それでも承服できないというのであれば、私一人で行きますの。元よりそのつもりでしたし」

 

 立てかけていたショベルを持ち上げる。

 眼下に広がる第八区と、その至る所にいるゾンビゾンビゾンビ。

 そも、これは命令である。作戦立案ではない。

 受け入れられぬというのであればそれまでだ。

 

「はぁ……。お転婆令嬢にも程がある」

「何かおっしゃいまして?」

「いいえ。ハインス、ホフマン、ルチアーノ、キスティス! 私についてこい! 残りの者はここを死守! 無理をしない範囲で周囲の敵を殺しておけ!」

「では──行きますのよ」

 

 身を投げるように。

 高台からゾンビの海へ落ちる。

 

 今のところアンデッドが同族とそうでないものをどう見極めているかはわかっていない。ただ、視覚や聴覚に関係なく寄ってきているのだろう、ということは判明している。だからこうして派手に降りても注目を集めることはない。

 わかっているのはノーマルゾンビの索敵範囲が凡そ半径二十メートルくらいである、ということと、その索敵範囲に入った敵を五秒後に認識するということ。よって着地からの最初の五秒間は──。

 

「正面ガラ空きですのよ!!」

 

 正面突破が独擅場となるのである。

 

 

 無事小さな鐘楼まで辿り着くことができた。

 が、準聖騎士の隊長──さっき他の騎士に指示を出していた人──が戻らず、他の四人だけが屋根伝いに戻る結果となった。

 

「あなたがいなくては、彼らも混乱するのでは?」

「そのような軟な鍛え方はしておりませんよ。なにより騎士として……ご令嬢ひとりを囮にした、という方が混乱の極みでしょう。あなたが囮になった上で、群がる敵を私が処理する。合理を問うのならこれで充分。私に目が向いていないだけ戦いやすくもありますから」

「私が魔法をかけ漏らす、とは考えませんの? 私、まだ一年生ですのよ?」

「私達はまだ学生ゆえの準聖騎士ですが、正式な聖騎士となったあとは年齢に関係のない完全な実力主義の序列社会が待ち受けております。学園卒業後で聖騎士隊の副隊長となった者もいるのです。年齢や学年を理由に実力を過小評価する、という考えは、聖騎士を志す者には存在しません」

 

 へぇ、そうなんだ。その辺は知らなかったな。描写されないから。

 このゲーム『愛されるが故に死して』における学園はあくまで一部の章に出てくるイベントでしかない。学園モノ乙女ゲームではないのだ。だからその辺のシステムは実際に調べるでもしないとわからない。で、一応私貴族令嬢なので、聖騎士関連の話なんか興味もなかった、と。聖騎士と令嬢の恋とか、ロマンチックかもしれないけど普通に親怒り心頭モノだから。

 加えて男所帯な聖騎士を調べている、なんてことが他の貴族に知れ渡ると厄介なことにもなる。あることないこと噂がたって、最終的に勘違いから没落にまで追い込まれる可能性だってあるのだ。王国という王族が果てしない権力を持つ国であるからこそのリスク。

 

 ま、そういうのも全部ゾンビパニックに押し流されたんだけど。

 すべてのアンデッドを殲滅して再び日常を取り戻した時、その辺がどうなっているのかわかりませんわ~。

 

「魔法を使いますの。先程あなたが仰った通り、ノーマルゾンビ以外もこちらへヘイトを向けますから、何が起こるかわかりません。覚悟をしてくださいな」

「やはり危険だとわかっていたんですね」

「私一人ならどうとでも対処可能ですから。──ブラックネット・チェイン」

 

 掌に浮かべた黒い蜘蛛の巣のようなもの。それがふわりと私の手から離れ、上空へ昇っていく。

 蜘蛛の巣は指定高度まで浮き上がったのち、唐突に水平方向への広がりを見せ……薄く広く細く引き伸ばされたそれが千切れる寸前、蜘蛛の巣の外周にある交点からさらに黒い蜘蛛の巣が広がって、というエフェクトが出る。

 

「来ますのよ!」

「承知」

 

 来る。エフェクトに見とれている場合ではない。

 第八区じゅうにいるゾンビ、その九分九厘が私を見つめ……恐慌に陥ったかのような叫び声を上げて、鐘楼へ一斉に群がってきた。

 

「スワンプバインド!」

 

 今度は屋根へと手を叩きつける。屋根に作用させたというよりは下方に作用させた感じ。

 魔力が私のイメージを食らい、世界に描き起こすは地面の沼化。

 実際に沼地になったわけじゃない。それは土属性の仕事だし。ただ、沼地にいるかのように足を取られることだろう。敵味方の識別はしてあるので準聖騎士にデバフがかかることはない。

 ……これがもう少し大人数だと厳しかった。十人という少数精鋭だからできるコトだ。ゲームでは行動順の低下という効果だった魔法である。

 

「ウィークアーム、ウィークボディ」

 

 立て続けに起こすは攻撃力低下、防御力低下の魔法。相手の筋力を低下させるからそれらが起きるのでは、と考察していた魔法だけど、果たしてアンデッドは筋力で身体を動かしているのだろうか。

 

「ふぅ……。……あ、何か期待しているところへ残念なお知らせをしますけれど、リベルタがやるようなあなた方へのバフはありませんのよ」

「貴族の平均値を思えば多少多くはありますが、リベルタ様ほどでもない魔力量で四種魔法を並行起動する効率化に驚いていただけですよ」

「あら、年齢で実力を評価することはないんじゃありませんでしたの?」

「力量はともかく効率化は経験の問題ですからね。経験とは大抵の場合年齢と同義です」

「口が減りませんのね。あなた、名は?」

「ミルグドリヒと」

 

 早速残った準聖騎士らが殲滅を始めている。

 未だイレギュラーゾンビは現れていない。だからと言って気を抜くことはできない。もしどこかにブレインゾンビがいた場合、私達の隙を見計らっている可能性があるのだから。

 

正眼に構える(ミルグドリヒ)、ですか。名に反してひねくれた性格ですのね」

可憐な(ラファ)お嬢様ほどではありませんよ」

「不勉強ですのね。私の名はそっちじゃなくてラファ(癒しの)ですわ」

「ダルクエルデ公爵にとって、赤子のあなたはさぞや可愛らしく見えていたのでしょうね」

「ええ、自慢のお父様と、彼に誇れる私ですわ」

 

 皮肉を言い合っている時である。

 警戒は怠っていない。だから聞き取れた。

 キュィィィ……という、ファンタジー世界に似つかわしくない……何かが高圧で圧縮されるような音。

 

「跳びなさい!!」

「ッ!」

 

 他の屋根に飛び移れるほどの体勢にはなれなかった。

 だから二人、その場で跳躍し──。

 

 眼下。足元にあった鐘楼が、ガラガラと崩れていくのを視認する。

 

「──ボムゾンビ。未だ人間領には出ていないという話でしたのに。魔王め、討ち漏らしましたわね?」

「絶賛落下中だというのに余裕ですね」

「作戦変更ですわ、ミルグドリヒさん。各個撃破でアンデッドを排除し、あの高台まで戻りましょう。ブラックネットの都合上私の方へたくさんのアンデッドが来ますから、手助けは必要ありませんわよね?」

「私がラファ様を抱えて逃げる方が効率的ではありませんか?」

「あなたの腕が塞がることの方が非効率的ですの。──もう彼らの索敵範囲にいますから着地後五秒の法則は使えませんのよ!」

「わかっています!!」

 

 落下の勢いを用いてショベルをゾンビの鎖骨付近へ刺す。鎖骨と胸骨の間。これを持ち上げれば、丁度良く引っかかっててこの原理が使用可能となる。

 ゾンビの体は成人男性ほどあるから普通は持ち上げられないけれど、私自身の全体重とてこの原理を用いれば──ほうら。

 

「ぶん、投げ……ますわぁぁあああ!!」

 

 逆袈裟に持ち上げ、後ろに投げ。

 その過程で周囲のゾンビを巻き込んで磨り潰す。いや、押しのける程度しかできないか。

 

「ダークランス!」

 

 闇属性攻撃魔法はアンデッドに効かない。効かないが、だからといってその場で消散するというわけでもない。 

 作り出した闇の槍を撃ち込むは、先程まで私達がいた鐘楼。その瓦礫。

 

「活路を開きますの!!」

 

 射出する。それは無効たるアンデッドらをすり抜け、瓦礫へと突き刺さり──中に転がっていた鐘へ直撃する。瓦礫より押し出される鐘。巨大質量が転がり、前方にいるゾンビらを押し潰して直進する。

 これで高台方面までの道が開いた。あとは。

 

「本当に愚かな御令嬢だ」

「きゃ!?」

 

 突然足を払われ、姫抱きにされる。

 

 そうして今しがた私の開いた活路を直進し行くミルグドリヒ。

 

「……敵意が私に向いていること、忘れましたの?」

「先ほども言いましたが、あれだけの敵の中へ貴族令嬢を一人置いて自分たちだけ助かる、というのは騎士の精神に反するのです。であれば多少窮地に陥ったとて、隊全員であなたをお守りした方が幾らか気分が良い」

「気分の問題で全滅したら元も子もないでしょうに」

「あのままあなたが死んでいても同じ結果になりましたよ。士気が下がりますからね」

 

 私を抱えたままに疾走するミルグドリヒ。ゾンビの足は遅いから追いつかれることはない……が、高台までの距離の中で、先程押し出した鐘が止まってしまっている。ダークランスの威力不足というよりゾンビが潰れに潰れて生け垣となったのだろう。

 高台と私達の距離は残り約五十メートルほど。群がっているゾンビの数は目算二百体ほど。

 私を抱えたままのミルグドリヒの戦闘力じゃ、とても突破できる量じゃない。

 

「──あなた、闇耐性はどれくらいありますの?」

「準とはいえ聖騎士ですからね。リベルタ様の四分の一ほどはあるんじゃないですか?」

「そう。では、あとでリベルタに治癒してもらいなさい。ダークパルス」

 

 停止した鐘の前に設置するはバチバチと黒い稲妻を撒き散らす魔法。ゲームにおいてはノックバック効果を持つ闇属性攻撃魔法であり、当然周囲のゾンビは何ら意に介さない。

 

「っ……足が吹き飛ばされない威力であることを願いますよ!!」

 

 そこへ踏み込もうものなら当然闇属性ダメージを食らう……が、欲しいのはノックバックの方だ。

 ミルグドリヒが痛みを我慢して無理矢理に魔法を踏み台とすれば、跳躍力にノックバックが加算されて──とんでもない飛距離を稼ぐことができる。

 

 ただし、その足はボロボロで。

 

「隊長! 着地は任せてください! 受け止めます!」

 

 高台側で待機していた準聖騎士たちに優しく受け止められるのであった。

 

 

 ということで。

 

「申し訳ありませんの。第八区の奪還、適いませんでしたわ」

「ううん、無事に帰ってきてくれただけ……よかった。準聖騎士の人達も、無事、なんだよね?」

「ええ、死者は出しておりませんのよ。……そちらは?」

「生存者、いたよ。ラファの……言う通りだった。もし……忠告を聞かずに魔法を使ってたら、私、人を……」

 

 青い顔をしているリベルタ。その頬に手を当て、ぐい、とこちらを向かせる。

 

「ひゃ」

「忠告を聞かずに魔法を使っていた未来などどこにも存在しませんのよ。あなたが今見るべきは今であって、今ある事実はあなたの手によって救われた人々がいる、ということだけですの。わかりまして?」

「う、うん。その、わかったから、顔ちかくて」

「というか男どもは何してますの? リベルタがこんなに不安な顔をしているというのに」

「あ、エスタ君……じゃない、エスタ様たちは、怪我……しちゃって。だ、大丈夫。アンデッドの攻撃じゃなくて、生存者の人に……アンデッドと勘違いされて、だから……」

「別に敬称などこの緊急事態で気にしませんけれどね。……しかし、勘違い、ですか。まさかとは思いますが、その場で処罰などを」

 

 リベルタの脇から手が伸びて、ぐ、と奪い返される。

 顔を上げれば……そこにいたのは頬にガーゼを付けたイジスが。

 

「俺を馬鹿にし過ぎだ、ラファ。そのようなことはせん。平民の恐慌とて理解している。ずっと孤立無援だったところに、突然侵入してきた俺達を……敵だと思わない方がおかしい」

「加えてエスタは戦闘中無口だからね~。喋らないってことはゾンビなんじゃないか、って思っちゃうのも仕方がないんだよ」

 

 ひょこっとエスタの後ろから出てくるのはイジス。

 今更紹介すると、彼らがリベルタのメイン攻略対象である四騎士だ。

 イジス、エスタ、モーモン、パリス。

 それぞれそこまで遊んでいない優男系魔法騎士、あんまりオラオラしていない俺様系守護騎士、ずぼらだけどやる時はやる系迅速騎士、時と場所を考えずすぐ口説く系精霊騎士となる。

 

 先述した通り学園がメインジャンルではない。だから乙女ゲームにありがちな王族や貴族が彼らの中にはいない。

 いないのに私が様付けをしている理由は、彼らが特別な騎士だから、である。

 なんぞか伝説の騎士みたいな運命を背負っている四人は、王族の次くらいの権力を持っている。ただし前線に出続ける必要もあるので命の安全はそんなにない。ゲーム終盤に出てくる『とある聖地』では王族が頭を下げるくらいには伝説なんだけど。

 

「それでは、第七区そのものは」

「半分は取り返せた。だが、蠢く腫瘍、としか表現のできないものが現れていてな。下手に刺激するのも危険だと考え、一時撤退した次第だ」

「蠢く腫瘍……」

「第八区に関する報告は聞いたよ。やっぱり無茶したみたいだね。ミルグドリヒがなんとかなりませんかって聞いてきたけど、なんとかなるつもり、ある?」

「ありませんの。それより、第八区にボムゾンビが出ましたわ。未だ王国では確認されていなかったはずのゾンビが」

「ああ、それも聞いている。……対人間というより対構造物に特化したアンデッド、か。厄介だな。取り戻した区域の拠点はどれもが急造だ。そこへ突撃でもされたのなら……」

 

 そう、ボムゾンビはそこが厄介だ。しかもご丁寧に火属性を有している個体もいるから、燃え広がった場合がマズい。

 幸いにしてボムゾンビが現れる時はキュィィィという圧縮音が鳴る。それを聞いた瞬間にでも風属性等々のノックバック系魔法を展開して守りを固めればあるいは、といったところ。

 

「ラファ……あのね、明日は私達と一緒に来て……ほしくて」

 

 エスタの腕に抱かれたままにリベルタが言う。

 一応シリアスシーンなんですけど、なんかシュールですわね。

 

「構いませんけれど、どうして?」

「うん……さっきエスタ様が言ってた蠢く腫瘍、ラファなら……何かわかるんじゃないか、って、思って……」

「私、別にアンデッドの専門家ではありませんのよ?」

「でも……ラファは色々知っているし、発想力も、覚悟も……私達の中で一番だと思うし……」

 

 おや、案外高評価。

 まだ出会ってそこまでの日数は経過していないのだけど、好感度イベントでも発生したのかな。私の。

 ……そんなのゲームには無かったけど。ラファが攻略対象になると百合ゲーになってしまいますわ~。

 

「そう不安そうな顔をしないでくださいまし。構いませんと言った通り、明日は同行いたしますわ」

「あ……ありがとう。で、でも、無茶はしないでね。あの腫瘍に突っ込むとか、そういうのはダメだから!」

「私のことなんだと思ってますの?」

 

 え、と短く呟いて、自身を持ち上げているエスタを見るリベルタ。続いてイジスも見る。

 三人は頷き──。

 

「猪突猛進、死にたがり、生き急ぎ……」

「向こう見ず、自信過剰、傲岸不遜……」

「かっこいいけど危なっかしくて怖い……」

「私がこの世界を救おうと言っているのですから、まぁ、それくらいの評価でなくては困りますわね」

 

 ジト目になる三人。仲良しですわ~。

 

「それよかリベルタ。あなたが言っていた『聖なる燧石』は見つかりそうですの? 王都のどこかにある、とのことでしたけれど……」

「ううん。それに……今はそんなもの探している場合じゃないよ、ラファ」

「けれど、大事なものなのでしょう? あの時世界の運命がかかっているとかなんとか話してくれたではありませんか」

 

 アイテム『聖なる燧石』。正確には四騎士が求めている石で、魔王に対抗するために必要なアイテムの一つ。

 このゾンビパニックが終わっても魔物と魔族の脅威が消えるわけじゃない。リベルタと四騎士は魔王を討滅しなければならない。

 もし……ゾンビたちのせいであのアイテムが失われようものなら、事態が落ち着いたのに次は千年戦争、とかになりかねない。

 

「あれ、リベルタ。それ話してたんだ」

「うん。協力者は多い方が良いかなって思って……」

「伝説の四騎士の機密事項だった、というのでしたら忘れますけれど?」

「別に構わん。知られてどうにかなるものではないし、もしお前が見つけたとて、悪用はしないだろうからな」

「あら、わかりませんのよ? 私はラファ・ダルクエルデ。この世界は私のものだと認識している程度にはわるぅい貴族令嬢ですから」

「お前のものだから、守るし救う。ということだろう?」

「今更悪ぶられてもねぇ。僕らこの数日間でラファの人となりを知っちゃったし、無理だよ」

「ラファは……良い子だよ。私が保証するもん」

 

 む。

 これでも名実ともに悪役令嬢なのですけれどね。

 

「形勢不利と見ました。私は疲れましたので、部屋に帰って休みますわ。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「ゆっくり休んでね、ラファ」

 

 まぁ……悪い気はしませんのね。

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