悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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遭滅!

 前述したとおり、元となった生物の種族という差異はあれど、ゾンビの種類は五種類だけだ。

 ノーマルゾンビ。その元の種族の差異のせいで対応方法が多岐にわたる、元の種族以上の力を持たないゾンビ。なお、元の種族以上の力を持たないどころか、元の種族の力を損じている場合もある。たとえば毒蛇が元となった魔族がゾンビ化している場合だと毒腺が機能しない、とか。

 まぁ噛まれたら終わりなのは変わらないのであまり有益には働かないのですけれど。

 次、スピードゾンビ。これ字面がこれなので勘違いされやすいですけれど、要は「一部位の肥大化・強化の為されたゾンビ」を指しますわ。脚部強化や腕部強化など様々がいて、大抵の場合は強化されている部位の付け根が弱点ですの。異常な肥大化や強化に全身がついていけていない典型例ですわね。

 そして厄介なのがボムゾンビ。自然に成る呻き声タイプと後述のクラフトゾンビの作る警戒音タイプがいまして、そのどちらもが目標への接触と同時に爆発を起こしますのよ。破裂ではなく爆発。その威力は建物を倒壊させるほど。救いがあるとすれば、やつらは上半身の全てが肥大化して、球体のような見た目になっているために判別しやすいこと、そして噛まれる心配はないことですわね。

 

 ブレインゾンビ。ここから述べるものは他三つの前衛と違って後衛を務めるゾンビですわ。

 ブレインと名付けられていますけれど、知能は持ちませんの。ただ合理性と他のゾンビへの連絡能力を兼ね備えた個体で、これがいるといないのとではゾンビ攻略に雲泥の差が生まれますわ。連係攻撃をしてくるほか、他のゾンビのカバーやフォローまでしますのよ、普通のゾンビが。戦場に湧いたら真っ先に殺すべきゾンビですけれど、ノーマルゾンビとの差異は頭が少し膨れているかどうか、という見分け難いもの。

 基本は私などの歴戦が判断しますけれど、そういう方々のいない場合は……そうですわね、積極的にこちらを殺そうとしてこない個体は大抵ブレインゾンビですの。そう覚えておくといいですわ。

 

 で、クラフトゾンビ。これは個体数が少ないのであまり覚える必要はありませんが、一応説明しておきましょう。

 工房と呼ばれる『蠢く腫瘍』を作り上げ、そこから無制限にゾンビを生み出しますのよ。この『工房』がある限りはその地域のゾンビは滅却できないと思いなさい。ただしクラフトゾンビに大した戦闘能力はないので、普通にゾンビを殲滅していたら気付かずに巻き込んでいると思いますわ。見分け方はありませんの。ノーマルゾンビと同じ見た目をしていますわ。

 工房の近くにいることが多いので、もし工房を見つけたら周囲のゾンビを全て殺せば万事オッケーですわ~。

 

「……こんな感じですわね。参考になりましたかしら、皆さま」

「非常に。今まで何の感慨も無くゾンビ殲滅をしていたが、これを知る前と後では撃破数にも生存率にも大きな差が出よう。感謝するぞ」

「いえいえですのー」

 

 ずらりと並び、私の話を何度もうなずきながら聞いていたのは……所謂リザードマンと呼ばれるのだろうトカゲの魔族たち。

 

「では……」

「ああ。蒼耀の魔王殿。今日より我々『リザードマンの里』は其方の軍門に降ろう。此度の災害は未曽有の事態であり、全生命が一丸となって当たるべき難題である。我らが槍が役に立つのならば、どこへなりとも呼びつけるがいい」

「感謝する。とはいえ今すぐに戦力が必要なわけではない。私はただ、あなたたちが無知のままにアンデッドへ飲み込まれることが許せなかっただけだ」

「……成程、理想を持つ者か。歴代最弱と聞いてどんな臆病者かと危惧していたが、力に酔った魔族の基準などアテにならぬということだな。──失礼をした、蒼耀の魔王殿。我らリザードマン、多少青臭いと言われるような平和の理想も背押しをしたくなる性質。貴方の夢が真となる日を心待ちにしている」

「そうか……ありがとう」

 

 握手をしあうは魔王とリザードマンの……多分長? あるいは戦士団の団長?

 見分けとかつきませんわ~。

 

 そうして解散となったようで、魔王が……こころなしかほくほくした顔で戻ってくる。

 

「よかったですのね。長年の問題が一つ片付いて」

「ああ。前代魔王と袂を分かち、独立した里として魔王領にあったリザードマンの里。娘、貴様のおかげで彼らと手を結べた。これは快挙と言っていい」

「ふぅん、ですわ。ま、リザードマンがゾンビとならば一般魔族がなるより被害が大きいでしょうし、良かったことにしますのよ」

 

 私がなぜ魔族の……リザードマンの里にいるのか。そこでなぜ講師役などというものをしているのか。

 それについて語るには、数時間前にまで遡りますわ──。

 

 

 粗方の闇魔法を教えてもらって、一息ついた……そんな折。

 

「娘、一時この分身を消す。あまり危険なことはするなよ」

「ん、別に構いませんけれど、何かありましたの?」

「……魔王領の東に大きな山があるのは見えるな? そこにリザードマンの里がある。先程そこで大規模なアンデッドの侵攻があることが観測された。リザードマンと魔王軍は同盟を結んだ仲ではないものの、同じ魔族として之を助ける理由がある。以上だ」

「成程。ところで貴方たち魔族ってどのようにして人間かそうでないかを見極めていますの?」

「急いでいる、ということが伝わらなかったか?」

「別に分身に割く魔力で本体が弱体化することはないでしょう。ま、全力であったことをアピールするためには分身を消しておかねばならない、とかその辺の面倒な体裁の話なのでしょうけれど」

「……その通りだ」

 

 さもありなん、ですわ~。

 

「で、急いでいるのなら早く答えてくださいまし」

「魔族が人間を見分けている術。そのようなものは存在しない。強いて言えば見た目、あるいは魔力だろう」

「つまり──私がコレを被っていった場合、誰も私が人間だとは思えない、と」

 

 コレ。そう言って持ち上げるは、魔族の頭骨。骨仮面というやつですわ~。ユダになりますわ~。

 

「それは……」

「ついでに使う魔法が闇魔法なら余計に魔族に見えるのではなくて? 別に腕が伸びたり飛べたりしない魔族なんていくらでもいるでしょうし」

「……アンデッドに見紛われるくらいか、懸念は」

「言葉を交わせば問題ありませんのよ」

「ああ、そうだな。それならば……貴様を魔王城へ迎え入れることもできるだろう」

「はい? なんで魔王城に迎え入れる、などという話が?」

「違うのか? 貴様が突撃以外の手法で魔王城に住まうための話だと思っていたが」

「違いますわ~」

 

 当然、その侵攻とやらを潰しにいくための準備、ですのよ。

 

「……」

「さ、あんぐりと口を開けている暇があったら私を連れていってくださいまし。戦力は多いに越したことないでしょう?」

「……貴様と魔王軍、及びその問題についてはなんら関係ないはずだ」

「教わった魔法を早く試し打ちしたいだけですのよ。加えて……新たな戦闘スタイルも試したいですし」

「お人好し……では、ない。貴様がそうであった試しなどない。……まさか本当に戦闘狂なのか、貴様は」

「狂っているつもりはなくってよ。死に急いでいるつもりも戦いが好きなわけでもありませんわ。ただまぁ、際限なく湧き出てくる醜悪を前に、いつまでも苦手意識を抱いたままではいられないだけですの。皮膚がゴム質だからという理由で苦戦などしてはいられませんのよ」

 

 根に持っていると堂々と言おう。サハギン。そうであるだけの者に、これでもかというほどに苦戦してしまったことを。

 私の前に障害などあってはならない。私の前に来た時点でそれは障害ではなく蹴飛ばせば散る砂山でないといけない。

 アンデッド相手であれば無双できる。私はそうならねばいけないのだ。

 

「何がそこまで……貴様を追い詰める?」

「いいから、早く連れていってくださいまし。連れていってくれないのであればあの山まで驀進しますわ」

 

 追い詰められてなどいない。強迫観念でもない。

 単純に我慾だ。

 このゲームを本来の姿に戻す。そのためなら私はなんだってやる。そしてそのための力であれば、誰に頭を下げても手に入れよう。

 

 あ、ですわ~。

 

「……いいだろう」

「ほんとずるいですわ~。飛行魔法も覚えたいですわ~」

「前にも言ったが、これは私の種族特性だ。魔法ではない」

「わかっているから魔法の方を覚えたいと言っていますのよ」

「……闇属性には存在しない」

 

 冗談の通じない魔王ですわ。

 

 

 そうしてやってくるはリザードマンの里。

 多量の土埃を上げて迫ってくるアンデッドの群れに、リザードマンたちは……なんとも古めかしいことをしていた。

 

 燃やした樽の蓋。その双方に立って、槍を掲げている。

 

「勇猛なるリザードマンの戦士たちよ! これより戦を始める──夕の日を奴らの血で染める準備はいいか!」

 

 そういうウォークライは、まぁ士気を高める効果があるのでしょうけど、オンオフ切り替えている時間の方が無駄ですわ。

 常在戦場でいきましてよ。

 

「我らは孤立無援! お前たちの死が家族の死に繋がる! 良いか、これよりは──」

「前向上が長いですわ」

「!?」

 

 蓋をショベルで割断し、中に落とす。

 火蓋を切る。切って落とす。慣用句を忠実に再現してあげましたのよ、感謝してくださいまし。

 

「ブラックネット・スローイング」

 

 新しくなったブラックネットを持って、投げる。ひょーいと。

 それはゾンビの群れの中へと着弾し──ぐちゃぐちゃと、互いに互いを挽き潰す状況を作り上げる。

 

 着弾箇所へヘイトを集める闇魔法の球体を作り、さらにそれを投げる魔法ですわ。自身に向かない分ヘイトコントロールが少し難しくなりましたけれど、まぁ元のブラックネットが使えなくなったわけではないのでその辺は使い分けですわ。

 

「娘、貴様、こちらの段取りは説明しただろう!」

「冗長だと言っているんですのよクソ魔王。──リザードマン方々への説明はお任せいたしますわ~」

「っ、待て、一人であれを止める気か!?」

 

 山津波が如く……それでいて潮津波のように斜面を駆け上ってくるアンデッドたち。

 そこへ単身突っ込む姿は、愚かでしょうか、蛮勇でしょうか。

 

「──否! ですわ!」

 

 スワンプバインドを最大範囲で展開し、さらに足止め。グラヴィティハンドで周囲の木々を掴んで引き倒し、簡易バリケードを作り上げ、流出口を制限。 

 

「如何なる者なれど、アンデッドなど()()()()であると心得なさい!」

 

 自身の足元にグラヴィティパルスを展開し、一瞬だけ足元をアティアで固める。これにより得た跳躍力を以てゾンビの群れの上空へ跳び上がり──。

 

「どれほど足掻こうとも死者は死者! 生者の行く末を左右できる存在ではありませんのよ!」

 

 最大まで振りかぶったショベルを、振り、下ろす!!

 

 その手でショベルを大きく振るえば、上がっていた砂埃が全て晴れ……そこに爆心地のようなものが出来上がっていることがすべてのものの目に留まるだろう。

 

「リザードマンの皆様方──怖気付く心を大きな声で誤魔化すのはまぁ良いとは思いますけれど、何をアンデッド程度に怖気づいていますの、と挑発を投げかけましょう。──無論、武功の全てを私に奪われたいというのなら止めはしませんが、さて如何に?」

「おい貴様こちらは任せると──」

 

 魔王の文句の声は聞こえなかった。なぜなら全てが怒号に塗り潰されたから。

 額に手を当て、溜息を吐く魔王。そして彼の周囲から、こちらも雪崩のように降りてくるリザードマンの戦士たち。

 

 また、反対方向からも鬨の声が上がる。……あれは、魔王軍ですわね。なるほど挟み撃ち。フレンドリーファイアに注意しましょう。

 

「アティア。身体強化、もうちょっといけますの?」

 

 ──"何度も言うが"、"強化しているわけではなく"、"亡霊で固めているに過ぎない"。"装甲にさえなり得ないことを"、"忘れるな"。

 ──"それに"、"魔族を助けるなど"、"我々は不本意──"。

 

「あなたが助けているのは私ですわ。いいから手足になりなさいな居候」

 

 ──"暴君ここに極まれり"。

 ──"お前がヒトの王とならない世界で良かった"。

 

 あら、なるかもしれませんのよ。

 帰った時オスカル王子が謀殺されていないとも限りませんしね。おーっほっほっほ。

 

 

 そんな感じでゾンビを殲滅したあとのことですわ。

 リザードマンの戦士への損害がゼロだったこと、そして当初の予定よりも早くゾンビを殲滅できたことなどを受けて、戦士団の長が魔王となんらかの取り決めを交わしたかと思えば、私に「ゾンビの対処法をどのように考えているのか、またゾンビについて詳しく教えてほしい」と頭を下げてきたのです。

 さしもの私もこれには目を白黒させ……たりしないで、堂々と「いいですわよ」を返しましたの。

 そのまま冒頭に戻りますわ。なんとこの間説明なしでしたのよ。おのれ魔王、私を顎で使いやがってですわ~。

 

「……前代魔王、紅耀のマルコシアスは力を至上とする魔族だった。作戦や戦略など関係ない、すべての敵を屠った者こそが勝者。その理念は魔族の考えに適していたし、実際にそれを成すだけの力が彼にはあった。……だが、そのやり方に固執するあまり、犠牲に目を向けることがなく……ついていけぬと袂を分かった部族も多い。その一つがリザードマンの里だった」

「前代魔王の負債があなたにまでのしかかっていると。面倒な話ですけれど、王政を執る限りは避けては通れない問題ですわね。人間のそれとは大きく違いますけれど」

「ああ。だが、此度の援軍において、貴様が行った戦い方を見て……考えを変えたらしい。旗印となるための強い個は必要だ。だが、その個が何の指針も無しに動いているようでは背に負う者が山を乗り上げる。導く個に知性があればこそ、軍団というものは息を得る。……貴様の子細説明に智を覚えなければ、この考えを持つには至らなかったそうだ。重ねて感謝するぞ、娘」

「段取り通りにやらないことをあれだけ怒っていたクセに、手のひら返しが早いですわ」

「危ない橋ではあった。貴様のやり方は前代魔王に似ているからな。だが、貴様は犠牲を出さぬよう立ち回るし、指示も的確に出す。その違いに惚れこまれたのだろう」

 

 勝手なことですわ。……ま、この数のアンデッドを相手にして損害ゼロというのは……人間との地力の差を否応にも感じてしまいますけれど。

 この群れを指揮できたら……あるいは『不死根(デッドレス)』の生産よりも早く世界のゾンビを駆逐し得るかもしれないのに、なんて。

 

「それはそれとして、だ」

「あら、何かお叱りですの?」

「その力は何だ、娘。亡霊を身にまとう力。骨の面のこともあってか、リザードマンたちも我が軍の者たちも、新種のアンデッドかと驚いていたぞ」

「ああ。少し前に手に入れたチカラですの」

 

 ゆるりと天へと向けた掌。そこへ取り出すは、アティアの残滓。 

 彼ら曰く装甲にさえなり得ないという話ですけれど、魔法を遮ってくれるので結構重宝しますわ。身体を固めてくれるのでギプスのような扱いもできますし。

 ショベルの射程を伸ばす、ということはできないっぽいですわ。そういうのはもっと強い怨霊でないと無理だと。

 

「ま、新種のアンデッドと思ってくださって結構。アンデッドに狙われないという利点はありませんけれど、アンデッドの中で踊って、アンデッドの行く道を示す者。その先が岩礁であれ、道光を前へと向けることに変わりはありませんもの」

「ともすれば此度の災害の主犯と間違われかねないと言っている」

「そんなものはあなたの周知不足でしょう。あなたが悪いと言い張るのなら、あなたが悪いことを喧伝していただかなくてはなりませんわ」

 

 自身とそれ以外。アンデッドという有象無象のヘイトをコントロールしながら、戦場を駆けまわり、疾風のようにそれを潰し殺す。

 今までのスタイルの延長線上にありながら、よりわかりやすく群れを掴めるようになった新生ラファ・ダルクエルデ。

 今回は結局リザードマンが周囲にいたのでできなかったことも多いですけれど、とっととモノにしてみせますのよ。

 

「ところで、リザードマン以外にも独立してしまっている魔族はいますの?」

「ああ、それなりの数がいる」

「それらと合流は?」

「……難しいな。言っては何だが、リザードマンはあくまで規律だった戦闘を好むが故の離反。つまり、確執そのものは簡単なものだったのだ。だが、他の部族は……行為を見せ、背に焦がれをむけたところで、解決できぬものばかり。貴様を頼ろうにも如何ともしがたいな」

「それらが強大な種族でないのなら問題はありませんのよ。ただ、里全体がアンデッド化した時、魔王領だけでなく人間領にまで出ていってしまうような種族特性の持ち主たちだと困りますの。それ以外はあなたが解決なさいな」

 

 ゲームにおいても魔王軍と魔族全体とでいない種族がいることには気付いていた。

 それが音楽性の違いだとは思っていなかったけど、一番アンデッド化してほしくない種族がどうしても脳裏をよぎる。

 

「……」

「言い淀んでいる種族がどこか、言い当ててあげましょう。──ドラゴン。竜の里、でしょう?」

「……。……ああ」

 

 魔族でありながら魔王軍に非ず、それでいて圧倒的な強さを持っていた存在。

 終盤シナリオのストーリーボスであることの多かったドラゴン。彼らに魔王への敬意などない。

 

 もし、あれらが。

 アンデッド化しようものならば──。

 

「正直気乗りはしないが」

「ぐだぐだ言ってないでいきますわよ。従わないなら脳天ぶっ叩いて傅かせますわ~」

「それは、私のことか?」

「ドラゴンのことに決まっているでしょう。まぁあなたが叩かれたいというのなら叩いてあげますけれど」

「不要だ」

 

 では、いきましょう。

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