悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい! 作:レッドアリーマー
実のところ、この世界の魔法は発掘に近い。
改造、改良、改悪。私を含めた人々が口々に言うこれは実は間違いで、本当は「万能」という名が劣らない魔法から、自身の魔力量に合った「分量」を紐解いて使っているに過ぎない。
本当はもっといろんなことができるはずなのだ。それも、属性関係なく。
「光属性魔法の性質は拡散と斥力、そして思念。……とされていますけれど、その本質は拡散に集約されるのですわ。もっと言うのなら放出でしょうか? 魔法における放出の役割は元来光属性のみが担うべきもので、他の属性の放出は全属性が使えていた頃の名残り。その証拠に放出系の魔法は魔力線形にひずみが生じ、全ての線形が下方に向かいますの。これは光属性魔法の縦型波形になる手前で魔法が終わってしまっているが故に起こる現象で──」
「ほっほっほ、良い嗅覚をしておる。それに、自身の扱えぬ属性魔法のことまでよく調べておる。では娘子、問いを出そう。闇属性の魔力を放出する触媒として有名なクロムクロノの花というものが世界にはあるが、元来の形が全属性であるとするのなら、こういった単一属性に特化した自然の植物はどういった理由でその進化を辿ったとみる?」
「ああ、それは自己防衛ですわ。太古の時代にはファルトゥヌス=イクヌスという六万五千五百三十七角形の花弁を持つ花が存在しましたの。その花は非常に強い繁殖力を有していて、ひとたび種子が舞い降りればそこの草木の全てがファルトゥヌス=イクヌスになってしまうと言われたほど。そして実際太古崩壊の際にこの花は種子を飛ばし、全世界への侵略を開始しましたのよ。けれど、そうはさせじと全世界への呼びかけを行った【草の木の根の王】ガルマリッサにより、植物たちは防衛本能で自己進化を。今世に知られている六属性純粋特化の植物たちは、この時に呼び掛けられ、ファルトゥヌス=イクヌスの侵食に対抗するために魔力攻撃を覚えた植物なのですわ」
「ほっほっほ! 太古崩壊を知るどころか、あの頃の植物にまで詳しく、そして【草の木の根の王】の名まで出てくるとは……加えてこれは、長らく魔法学や植生学の学者を悩ませてきた未解決問題の一つじゃぞ。それをまぁ、まるで見てきたことかのように解きおって」
「魔法が好き……というのもありますが、自身が背を預けるような力、調べない方がおかしいですわ」
「本当にその通りじゃが、最近の若いのは魔法など使えればいいと碌に調べもせんからのぅ」
「悲しい事ですわ~」
「本当じゃまったく……」
ドラゴンの里へ攻め入……同盟関係を持ちかけにいく、という話。
それ自体は魔王より認可が出た……ものの、流石に二人で行くというのは礼儀にかけるのでナシらしい。
ということで、急遽魔王は自身の配下を呼びつけたのですわ。丁度出陣していて近くにいたから、という理由もあるみたいですけれど。
そうして集まってきたのは、確かにゲームで見たことのある魔族魔族魔族。
皆一様に私へ一瞥をくれましたけれど、特に何を言われるということもなく。
そのままブリーフィングでも始まるのかと疑った──直後。
少年を模した球体関節人形が私の隣にやってきて、「蒼耀の坊、娘子を借りてゆくぞ」「な、待てフナリエ老!!」というやり取りの後、私をよくわからない空間に閉じ込め……。
始まったのが、なぜか魔法談義と。
「しっかし惜しいのぅ。ここまで語れるものが人間とは。魔族にこういう若者がいればすぐに弟子にしたんじゃが」
「魔王領って教育機関とかありますの? 正しい教育が無ければ教養を持つ若者も智を乞う若者も生まれませんわよ」
「……ほっほっほ、良い胆力じゃ。儂がお前さんの正体に気付いていることに驚かぬか」
「少し前に一生分驚いたので、他はどうでもよくなっていてよ」
お気に入りの乙女ゲームがゾンビパニックになるとかいう驚きを超えることなどそうそう起こるまい。
「ま、安心せい。蒼耀の坊がお前さんを儂に匹敵する智者と言っていたから気になっただけじゃ。直接話して理性の色も確認できた。その正体を言いふらすことなどせんわい」
「それは随分な評価ですわね。素直にお礼を言っておきますわ」
「じゃがお前さん、本質は智者ではなく王じゃの。それも暴君。蒼耀の坊が憧れるはずじゃて。あ奴にはあ奴なりの良い所があるのに、個として優れた王に惹かれているからのー」
「あなた方がそのお認めになる言葉を彼に吐かないから余計に加速するのですわ。力を持つ者からの背押しがなければ、ああいうタイプは抱え込み続けますのよ?」
「痛いところを突きおるわい」
シナリオ序盤の魔王は功を焦っている。自身の理想を実現しつつ、しかし皆に認められる魔王にならなくてはならないと。
だからリベルタの前なんかに出てきて、結果疑われるに終わったのだ。齢五十を越えども幼い。それが魔王。
「先ほどの問いじゃが……寿命も、の。力の一部だと考える馬鹿どもがおる」
「*事実として長命種というのが存在する。長命たる力を手に入れられなんだことは弱さの象徴。……ですの?」
「ほっほ! 魔族の理念さえ理解するか。……その通り。そう考える魔族の多い事多い事」
リリーガおば様やこのフナリエ老は別枠としても、魔族というのは長命で若々しい見た目をしている。
それをいいことに、魔族というのは「寿命さえも力なのだから、強き者は長命でなくてはならない。寿命で死するということは、それより長く生きる者より弱かったという証左なのだから」というえげつない思想を抱えていますの。実際は全く違う理由で若さを保っているのですけれど、それを指摘できる者もおらず。
魔王が魔族の容姿と年齢は関係ないと言っていたのはこのため。同時に彼のような年若い魔族でありながら、既に青年の姿をしているのは恥ずべきこと、らしいですわ。関係ないと豪語しつつ、若いのに老けているということはすぐに死ぬ──寿命に負ける奴だとか。
ですからあのジジくさいという言葉は褒め言葉でしてよええ。
「その割には知力を軽視しますのね、魔族は」
「じゃからそれが寿命と同じ話よ。過去の者の遺した言葉や技術は、寿命に負けた者の振るっていた力。そこから学ぶものなどなにもない、とな」
「暴論ですわね。ただ、先人から学ぶ者が少ないというのは理解できますわ。特に魔法に関しては……太古崩壊の時点で文献等が散逸したとはいえ、もう少しできることあったでしょう、と言いたいですの」
「ほっほ、返す言葉は元から持ち合わせなんだが、かける言葉もないわい」
ゲームの収集要素に存在した文献集め。リベルタと攻略対象が集めるこれらによって魔法の発掘・解読が進み、全て収集すると「終局魔法」というものを覚えられるようになる。
けど、彼らが行動しなければ解読できなかったとか、人類史舐めてますの? って話だ。ゲーム内で集められる書物なんてたかが知れている。そのたった十数冊がないと進まない研究とは?
太古から現在に至るまで、どれほどの時が過ぎているとお思いで?
「っと、蒼耀の坊がせかしておるの。そろそろ戻るか」
「ええ」
フナリエ老が指を鳴らす。同時、よくわからない空間が泡となって弾けた。
亜空間魔法……水属性魔法を曲解した異法。便利ですけど、代償が大きすぎて手を出したくありませんのよ。
「ジジイ、テメェ魔王様の作戦台無しにする気かよ!」
「ほっほっほ、すまんすまん。魔王様の言う客卿の実力が知りたくてのぅ」
「アア? あの骨女のことか? ……客卿って何の話だ?」
「なんじゃブラッド、聞いておらんかったのか? あのアンデッドっぽい女は魔王様の茶飲み友達じゃそうでの、此度竜の里への救助も元はあの者と魔王様だけで行う予定じゃったとか。が、流石に儂らが行かんと竜族に失礼じゃろ? じゃからこうして集った次第よ」
「……そうだったのかァ! 知らなかったァ!」
ゲーム知識から言うと、フナリエ老はさまざな人形に乗り移る
こちらを流し目で見ているのはウィッチのエルレビ、ラミアのクグクダクグカ、ホワイトタイガーの魔族のノギオン。
……素晴らしいですわ私。乙女ゲームにほとんど関わってこない&魔王ルートの内政部分でしか知ることのできない魔族らの名前を全部覚えているだなんて。
ただ……一人足りませんわね。
「娘、どうした。何か感じ取れるのか?」
「いえ。あなたの腹心の姿が無いな、と思いまして」
「……貴様、どうしてそう自ら疑われにいく。……クラウスは今回留守番だ。あれは……私至上主義過ぎる。交渉には向かん」
成程。彼がいないと魔王軍幹部揃い踏み、という感じがしないけれど、そういう事情なら納得だ。
「なんにせよ、これで揃ったな。では行くか」
「ハイハイハーイ! 魔王様、質問しつもーん!」
「……なんだエルレビ」
「そこの骨女さんのことはなんて呼べばいいんですかぁ? 骨女さんじゃ、流石に失礼じゃないですかぁ?」
だそうだが、という視線を向けてくる魔王。
ふむ。
「──ショベルの妖精さん。もしくは骨女。どちらでも好きな方で」
「はぁい骨女さん。よろしくねェー☆」
「ええ、よろしくお願いいたしますわ、チビ女さん」
「──」
ウィッチのエルレビ。風属性の魔法使いですけれど、種族特性からプラス一属性、さらに武器の力でもう一属性をプラスして扱ってくるやつですわ。
特筆すべきはその高い高い耐性貫通率。こっちがどんだけ耐性爆盛りにしても涼しい顔で貫いてきやがるので、リベルタを殺させないよう、且つリベルタで全体回復を行いながらでないと戦う土俵にさえ立てない相手ですわ。
リベルタが最初に漏らす「え……こ、ども……?」という言葉でブチ切れ、以降会うたび会うたびに攻撃をしかけてくるようになりますの。なんと魔王ルートでもそうなるのですから筋金入りですわ。ちなみに実年齢百六十の超高齢魔女さんですの。
フナリエ老の話によれば年齢に対して見た目が若々しいことは魔族にとって美らしいじゃありませんの。その点幼女、誇らしくしていてほしいですわ~。
「魔王様、コイツ焼いていい?」
「私は客卿だと説明したはずだが」
「……チッ。命拾いしたわね」
「年上ならば年上なりの落ち着きをみせてほしいですの。せめてフナリエ老くらいの余裕がないと、見た目だけで判断してしまいますわ~」
チュン、と音だけ聞こえたそれ。
振り抜くはショベル。アティアの強化有り。
次の瞬間、私の左右後方の荒野が爆発を起こした。
「気に入らなければすぐに手を出すあたりが知力の無さを窺わせますわ~」
「……魔法を斬った? しかも……魔剣の類でもない、ただの農具で?」
「やめろ、エルレビ。魔王様の御前だぞ」
仲裁に入ってきたのはノギオン。ホワイトタイガーなので表情はわかりませんけれど、なんとなく額に手を当てているような感じがしますのね。
「やれやれ──」
「娘。貴様もいい加減要らぬ挑発をしないようにしろ。話が進まない」
「はいはい、ですわ」
返事と共に浮き上がる身体。
さて、じゃあ、行きましょうか。
着いた。……けれど。
「これは……」
「もぬけの殻……? そんなことあり得ますの?」
いない。ドラゴンがどこにも。
戦闘の形跡はない。ただ生活感もない。いやドラゴンの生活感って何って言われたらぱっとは思いつきませんけれど。
「……エルレビ。クグカ。魔法の行使を許可する。調べてくれ」
「はぁ~い」
「はい」
二人が展開するは、どちらも探査や追跡を行う魔法。
それらは──竜の里の中心でぐるぐるととぐろを巻いた後、消える。
「うそ?」
「なに……。……魔王様。ここは……本当に竜族の里でしょうか」
「ああ、間違いない」
「……であれば、もう一年以上はここにドラゴンという種が存在しなかった可能性が高いです」
「なんだと?」
それは……どういうことですの?
竜の里自体には行っていませんけれど、ゲームシナリオにもドラゴンは出てきますのよ?
あ、いや、だから。
「どこかへ移住しましたの?」
「ほっほっほ、儂もその可能性を辿ったわい。そして、あの巨体が移り住むに適し、且つ移り住む理由にたる場所は」
「空中都市セルマ=ラグティア……ですのね」
「……知らぬ名だ。フナリエ老、娘。そこはどんな場所だ」
「太古の技術を受け継ぐ都市ですわ。もし……ドラゴンらがこのゾンビパニックを予期していたのなら、気付いた時点であそこへ逃げているという可能性はゼロではありませんの」
空中都市セルマ=ラグティア。無人都市であり、今も世界のどこかをステルス航行しているだろう古代都市。
太古においては労働者たちが赴く場所であり、根無し草の街とも呼ばれていた場所。
「これは肩透かしじゃの~。儂とて彼の空中都市を見つけることなどできぬ。ドラゴンと交渉する以前に出会いすらできぬとは」
「……だが、そこは安全なのだろう? 安全だからドラゴンはそこへ行った。……ならば、問題はない。私と娘が危惧したのはドラゴンがアンデッドとなること。その可能性がなくなったのなら喜ばしいことだ」
「では、解散しますか魔王様」
「ああ。皆、呼びつけてすまなかったな」
「──ふむ。魔王、解散はちょっと待った、ですわ」
ずるずると引っ張るショベル。その響く音を聞きつつ、里の中を歩いていく。
「魔王様、どういたしますか」
「……あの娘は智者だ。彼女が何かを思いついたというのなら、待つべきだろう」
推測でも憶測でもなく。
ただ──予感があった、と。そう言うしかないことだった。
「ブラックネット・スローイング」
投げ飛ばすは敵意管理魔法。
それは竜の里の中心部へ落下し。
──激しい地鳴りを引き起こす。
「これは!」
「きゃ……!」
「正直言って、アンデッドが多数湧き出す程度のこと、ドラゴンにとってはそうそう惨事には思えないのではないかと考えたのですわ。──つまり、ドラゴンでも対処のできない何かが現れるから、ここを維持することを放棄した。その何かとはなにか」
顎が突き出る。
山のような顎が。
「ッ、まさか──」
「時すでに遅し。あるいは間に合ったのかもしれませんわね」
ブラックネットの核部分を噛み砕き、飲み込んで現れたるは──腐肉と腐臭を漂わせる巨体。
巨体にして巨大。強大にして極大。
「ドラゴンゾンビ──!!」
「というわけで一番槍は貰いますわ~」
「っ、馬鹿、娘!」
魔力とアティアで強化した腕力を用い、ドラゴンゾンビの肌を裂く。
手応え無し。まるで泥を斬ったかのような。
下がる。バックステップ。
「ほっほっほっほ! 良い判断じゃ。あれなるはドラゴンゾンビ。特筆すべきは」
「全属性耐性と再生能力。そして会心耐性……ですわよね」
「わかっておって突っ込んだのか。これはまた剛毅剛毅!」
会心耐性。……クリティカルが出ない装甲。
けどこの感触は、そもそもダメージが通っていないような。
「二番手は俺が貰わァ! 行くぜ相棒! 炎血の牙!!」
燃え上がるは真紅。ブラッド・フラットは種族特性として増血、及び血液発火を持っている。
それを剣技に組み込むことで大火力を出す……のだけど。
ぼふっと……火が消え、受け止められる大剣。
どころかずぶぶと飲み込まれていくそれに、思わず手を離すブラッド・フラット。
「やれやれ、ですわ~」
踏み込み、てこの原理を用いて上空へ弾く。
飲み込まれた武器はすべて相手の手段になりますのよ。しっかりしてくださいまし。
「おおおお! 良い奴だなお前ェ!」
「はいはい、ですわ。……ブラッド様。あなたは貫通力の高い技を中心に、両足へ攻撃を。エルレビ様、クグクダクグカ様は貫くのではなく退かす魔法をイメージ。身体についている泥を飛ばしてくださいまし。フナリエ老とノギオン様はブラッド様の補助とカバーを。魔王は奴の尾を狙って攻撃してくださいまし。私は脳天を狙っていきますの。──いいですのね」
「おお! なんかそれっぽいぜ! やる気ィ湧いてきたァ!!」
「命令すんな! それが最適解っぽいから乗ってあげるけど!」
「エルレビ、合わせます」
「ほほほ、一丸となるなど魔王軍初のことじゃな! これは楽しい!」
「ブラッド、好きに動いてください。私達も好きに合わせます」
ドラゴンですら匙を投げたドラゴンゾンビ。
滾りますわ~!
「……私は、あれに」
ぶつくさ言っている暇あったら働けですのよ。