悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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日滅!

 空中都市セルマ=ラグティア。この世界のどの山よりも高い場所にあることや無人販売所の存在などがTHE☆終盤の街感をひしひしと感じさせる、実際にここ以降で休息所やアイテムの売買ができる場所の出てこなくなる都市。

 無人都市であるため人の姿はなく、ヒューマノイドのようなロボットもいない。ビルの聳え立つ都市であるのにヒトガタの住まう様子の無い奇妙な場所。

 なぜそうなっているのかと言えば、なんとこの都市ARの舞台なのですわ。まぁそんな科学科学してないのですけれど。

 太古、四騎士の手によって崩壊を迎える前の太古の人々は、魔法による幽体離脱モドキ……幻体という技術を用いて仕事をしていたと。それの投影先がこの空中都市であり、だからここには人影がなく、それでいて人が使う用のつくりをしている、と。

 

「それがなんとまぁ」

「む、どうした【夢を抱く者】」

「いえ……随分と住みやすそうだなと思いまして」

「ああ、私たちにとって、少し狭い場所があったからな。均させてもらった部分がいくつかある」

 

 無人都市でも廃墟ではなかったセルマ=ラグティアが、こーれはポストアポカリってますわね。

 破壊されたビル群。そこへ入り込んだツタやシダ。ひび割れた地面に倒された魔力塔。

 うーむ見事! ですわ。

 

 ふわりと降ろされるは折れたビルのワンフロア。会議室だったのだろう、U字型の机の真ん中に立たされる。……そういう用途じゃないと思いますわ~。

 ちなみに太古の魔力にしか反応しませんから、ビルの機能が復活する、ということはありませんのよ。

 

「【夢を抱く者】。まずは突然連れてきてしまったことを謝罪しよう」

「構いませんけれど、どうしてそうもかしこまっていますの? 私何かしましたかしら」

「今のあなたに記憶はないだろう。だが、あなたは間違いなく私達の祖となる方である」

 

 ……What?

 え、なに、祖? ……私がドラゴンの祖?

 

「予言は既に詠まれている。【夢を抱く者】。あなたはこれより訪れる"再起源"の先で、私達をこの世に創り出す。これは決定している」

「……ハ、ということは四騎士の願いが成就すると? 何があったら……リベルタがどうしてそれを許して……」

 

 前にも述べたけれど、四騎士の真なる願いは過去のやり直し……自分たちの罪の贖罪である。

 彼らは太古においてある罪を犯し、そのせいで世界が崩壊した。属性持ちの話なんか末端も末端で、世界の崩壊を始めとした全ての渾沌が彼らを因としている。

 シナリオにおいて四騎士はリベルタの力を用いたやり直し……"再起源"と呼ばれるタイムスリップみたいなことを試みるのだけど、リベルタがそれを阻止する。四騎士のそれに賛同するというルートは存在せず、必ず阻止する流れになる……のだけど。

 もしここでリベルタが是を返した場合、"再起源"は起こりうるだろう。

 

 ……ドラゴンの予言がどれほどの効力を持つかはわかりませんけれど、もし変えようのない未来を見るものであるのなら……面倒ですわね。

 

「敬意の理由はわかりましたわ。それで、私が遮ってしまったので申し訳ないのですけれど、私を連れてきた理由はなんですの?」

「返却すべきものがある。これはあなたより預けられたものであり、必ず返すと約束したものだ」

「はあ」

 

 つまり未来の……あ、未来の過去の? 私からの預かりものと。

 なんでしょう。私基本的に物を持ち歩かないタイプなのですけれど。

 

 風の塊がどこからともなくやってくる。

 それは私の前に舞い降りて、その風を解いて。

 

「……鍵、ですの?」

「あなたはこれを、『行く末の鍵』と呼んでいたと伝わっている。……確かに返した」

 

 ふーむ。ゲームにも出てこなかったアイテムですわね。『行く末の鍵』……うーむ。

 私が言うのもなんですけれど、私って気分屋というか衝動的な行動が多いので、現時点じゃちょっとよくわかりませんわね。

 まぁかさばるものでもないですし、もらっておきましょうか。

 

「これの返却が用でしたの?」

「ああ。私たちはこれを行うために言葉と役割を継いできた。万が一にもアンデッドへと墜ちてしまうことは避けなければならなかった」

「なるほど。……ちなみに聞きますけれど、どうしてエスメトロはあの地に? 魔王領の全てが同一フィールドになっているから番人としての効力が働いていた、というのはわかりましたけれど、霊峰アクトミラの魔窟から竜の里にまで移動してきていた理由がわかりませんの」

「私たちもその理由についてはわからない。私たちがここへ移住を決意したのは、エスメトロという竜の戦士がアンデッドと化してしまった未来を詠んだため。予言においては既にアンデッド化したあとであり、それ以前のことはわからなかった」

「アンデッド化と同時に竜の里に現れる未来だった、と?」

「定かではない。竜の里でアンデッドと化したエスメトロが暴れている未来だった。同時に、そこにはドラゴンが誰もいなかった」

 

 ……それは良い情報ですわね。つまり、その予言とやらはゲームシナリオを読んでいるわけではないと。

 ちゃんとこの世界の未来を詠んだ予言。……関わりたくなかったのですけれど、世界の根幹案件と向き合わなきゃダメかもしれませんわねこれ。

 

 私の近くにいるという良からぬ気配のこともそうですけれど、四騎士も……そうですかそうですか。

 ドラゴンの話を全て信じるのならば、今いるここは過去改変の行われた後の世界なのかもしれませんわよね。タイムパラドックス的におかしな話になりますけれど、"再起源"を経た後でないとこの『行く末の鍵』は現れないでしょうし、ドラゴンたちへの継承も無いでしょうし。

 

 さて……何から考えるべきでしょうかね。

 四騎士らの"再起源"は放っておいても成立するものとして、私が近付かないことがまず大事。まぁ場所が場所……"(これから)(これまで)の墓所"というところなので行きようがないというのはありますけれど、とにかく放置すること。

 問題は時期ですのねー。彼らが今どこにいて、何を進めているか。王都からはとっくに離れたものと見ますけれど、私が王都を離れてから言うほどの時間が過ぎていないことも事実。

 ゲームじゃプレイヤーがいましたからできていたことも、現実じゃあサクサク行かないことも多いでしょう。

 その間にできることをやっておくべき……かしら。どう頑張っても『不死根(デッドレス)』を破壊できないことはわかってしまいましたし。

 

「【夢を抱く者】。あなたを蒼耀の魔王のもとへ帰そうと思うが、どうだろうか」

「……いえ、もう少しここにいさせてくださいですの。帰りたくなったら声をかけますわ」

「そうか。わかった」

 

 ばっさぁと翼を広げて飛んでいくネッリカゥトゥ。

 その背を見送って……ふぅ、と一息。

 

 ……そういえば、アンデッドの気配を感知しない時間とか、久しぶりですのね。

 

 U字型のテーブルを越えて、折れたことによってオープンになったビルの端に立つ。 

 絶えず黒い雷の鳴る空。赤い雲。巨大な大陸と海。

 ビルの合間で思い思いの姿で寝そべっているドラゴンたち。ツタの生えたビル群。ぼんやりと灯りの灯る……うん?

 

 あそこ、機能が戻っていますのね。……破壊された衝撃で誤作動しているのでしょうか。

 

「スワンプバインド」

 

 考え事ついでに行ってみますわ~。

 

 

 来た。

 ここは……武器工房、ですのね。クラフトゾンビのそれとは違う、ゲームでは武器の購入や強化などを行っていた場所ですの。

 そこの機能だけが復活している、と。

 

「……え、まさかこれ強化できますの?」

 

 背負っていたショベルを抜く。

 ……農具もいけちゃいますの?

 

 一応、そろーっと作業台らしき場所にショベルを置いてみる。あ、マシンアームに持っていかれて……。

 なんかポップアップウィンドウが。

 

「えーっと……。……強化素材が足りません? あぁ~」

 

 確かにありましたわねそういうシステム。ゲームでは素材不足とか滅多に起こらないので忘れていましたわ。

 えーと、必要素材はミスリル……。

 

 そんなもの手元にあるワケ。

 

 ……。

 

「『行く末の鍵』、これミスリル製っぽい……いやいやいや」

 

 さすがに。どう考えてもキーアイテムなこれを素材にするとか流石に。

 太古崩壊からドラゴンたちが必死に受け継いできたものをまさかまさかそんなそんな。

 

 ……。

 そーっと。まぁまぁ、反応するワケありませんし。

 

 あっ。

 

 

 

「ネッリカゥトゥ。もう大丈夫ですわ。私を帰してくださいまし」

「ああ。……その背の武器を新調したかったのか。この魔力は、ミスリルだな。それほど高純度なものは中々見つかるまい。よく材料を揃えられたものだ」

「ええまぁ、私には私なりの手段がありましてよ」

「【夢を抱く者】よ。あなたが深く物を識るものであるということもしっかり伝わっている。──では行こう」

「はいですの」

 

 行きと同じく風が私を包み込む。

 そうして持ち上げられて──。

 

 

 燃え盛る鉄の大剣と焔を切り裂く清銀鉱(ミスリル)のショベルがぶつかり合い、火花を散らす。

 互いへ噛みつき合う獣の牙のような剣線。鋭く揺らめく剣閃。

 豪と熱を増す大剣に、縦横無尽の動きをする銀蛇が絡みついていく。

 

 二人が打ち合いを始めてから未だ数分しか経っていないのに、既に三桁に届かんという勢いで打ち合いが行われている。

 楽しそうな表情で剣を振るうブラッド・フラット。そんな彼の攻撃を往なし、弾き、隙を縫っては突きや斬撃を繰り出しているのが少女だ。

 

「稽古ってなモンをするのは初めてだがァ、楽しいな!」

「ええ、流石はブラッド様ですわ。何度も何度もチャンスを頂いたのに、攻めきれないあたり、本当に嗅覚が鋭くてよ」

 

 当然の顔をして帰ってきて、当然の顔をして魔王城への侵入を果たした少女。

 彼女は帰ってくるなり「試し斬りがしたいですわ」とかなんとか言い出して、魔王城外のアンデッドを狩りに行こうとした。彼……魔王が制止をかけていなければ当たり前の顔でアンデッドの群れに突っ込んでいたことだろう。

 それよりも、と……彼はこの城が築城されて以来一度も使われていない練兵場に彼女とブラッドを連れてきて、「打ち稽古をしてみるのはどうか」と問うた。

 怪我有りの模擬戦はたびたび行われるが、怪我無しの模擬戦……稽古というものは行われてこなかった魔族史。

 やはりというべきか最初は難色を示していたブラッドも、ショベルの妖精さんを名乗る少女からの激しい攻めにやる気を出して、今はああして舞踏を楽しんでいる。

 

 ブラッドの剣は特別製だ。

 持ち手から彼の血と魔力を吸い上げ、発火する種族特性に最大限合った材質と共に炎を纏えるようになっている剣。

 当然高温に耐えるし、暴力的にぶん回すブラッドの膂力にも耐えられる耐久性を有している。

 反対に少女のショベルは普通のものだった。だったはずだ。

 それがどうだ、今は清銀鉱(ミスリル)の輝きを放つ金属部分とそれが振るわれて折れてしまわないなんらかの木材で作られた、用途が怪しくさえある強化ショベルとなっていて、ブラッドの大剣と互角に打ち合うことができている。

 

「ハァッハー、楽しくなってきたなァ! なァ、魔法は使っちゃァダメなのかよ!」

「それをすれば相手に怪我をさせないが難しく──」

「構わないですわよ。私も使いますけれど、よろしくて?」

「そうこなくっちゃァなァ!! 熱風刃覇!!」

 

 魔王の制止虚しく放たれる火属性魔法。

 竜巻のような「燃える傷痕」を大気に残していくそれは、怪我をさせない、という理念の全てを度外視したもの。

 思わず魔剣ソウルアティアの柄に手を掛ける魔王。だが、心配は杞憂だった。

 

 斬、と……その渦が縦方向へ直線に断ち切られたからだ。

 あとに残るは、ショベルを正眼に振り下ろしている少女の姿だけ。

 

「また……魔法を斬ってる……」

 

 観戦席にいるエルレビが悔しそうにつぶやく。彼女の魔法も以前同じように切断されているからか。

 

「ナイトクロー」

「お!」

 

 魔法が斬られたことへの驚きも束の間に、少女が普段使うことのない闇魔法が展開される。

 ナイトクロー。自身の爪に闇属性を乗せる魔法であり、リザードマンや爪の鋭い魔族が好んで使う補助魔法だ。

 少女がそれを適用させたのは、ショベルの刃に対してだった。

 

「ほっほっほ、魔法の使い方が上手いのぅ」

「自身を拡張してショベルも含めましたか。まるでフナリエ老のようですね」

「弟子に取った覚えはないがの」

 

 同じく観客席のフナリエ、ノギオンが嘆息した。魔法の本来持つ対象を拡張して解釈し、ショベルも自らの一部だとしてのナイトクロー発動。非常に器用なことだ。魔王も卓越した闇属性魔法を使用するが、魔剣ソウルアティアに闇属性魔法を纏わせる、ということはできなかったりする。

 

 その、ナイトクローを纏ったショベルを──肩に担ぐようにして持つ少女。

 

「上手く受けるか、避けてくださいですの」

「来い!」

 

 左足の踏み込み。そこから連鎖的につながる腰の捻り、腕のしなり、手首の回転。

 人間であるとは到底考えられない膂力により放たれるは清銀鉱(ミスリル)製闇属性の槍とも言える一撃。掘削することが本懐であるそれが回転しながら突き刺さるはブラッドの大剣だ。

 確かに受けられた。受け止められた。

 だがどういうことだろう。ショベルの勢いが衰えることはなく、更に更にと直進し……なんとブラッドの足をずるずると後退させるに至っているではないか。

 

「お……重めェ、なァ!」

「ナイトクローの応用ですわ。実はこれ、推進力がありましてよ。そこを少し改良することでこうした飛び道具になりますの」

「ほほう? ということはウィンドクローやファイアクローも」

「ええ、代用可能ですわ」

「黙ってなァクソジジイ! 今は俺が! 楽しんでん──だァ!!」

 

 強く強く、大きく大きく。

 ガインと音を立ててショベルを弾き上げるブラッド。そうなってしまえば少女は無手。上段に大剣を構えて余韻なく振り下ろすブラッドに、流石に止めに入るべきだと魔王がソウルアティアを掴んだ──直後。

 

「グラヴィティハンド。私、自分の武器を手放す愚か者に見えましたか?」

「ッ──っしゃ、ァ!」

「あら」

 

 弾かれたショベルがグラヴィティハンドによって引き戻され、ブラッドの頭頂部に当たる、その寸前……彼は大剣と姿勢を翻して、そのショベルを再度弾き返したのである。

 転がり、一度体勢を立て直すブラッド。弾かれたショベルを引き戻し、こちらも構え直す少女。

 

「良いなァ! 楽しいよ、骨女ァ!」

「私もですわ。それとそこな心配性魔王。私もブラッド様もわかっていて遊んでいるのです。いちいち止めに入ろうとしないでくださいまし」

「……だが」

「魔王様ァ、今回ばかりは骨女の言うことが正しい! 俺はァ馬鹿だが間抜けじゃねェんだ、手加減くらいはできらァ!」

「……そうか。わかった。では次からは、しっかり見守ろう」

 

 魔王の言葉に──ニヤリと口角を上げる二人。無論少女の方は骨面があるので見えないが。

 

「わかっていますわよね、ブラッド様」

「おうよ。んで、ついでだ。敬称やめてくれや。──敬意は技に籠めんだァよ。爆炎裂罅!!」

「ええ、承知いたしましたの。行きますわよブラッド。グラヴィティパルス・ディレイ」

 

 ブラッドの大剣から腕、腕から上半身。そう伝っていくは、臨界寸前を思わせる光の罅。

 少女の足元に重ねられていくは闇の波動。幾度となく脈動を繰り返す深淵が破裂することなく溜まっていく。

 

 次に続いた「行くぜ」と「行きますの」はどちらが先かわからなかった。

 ただ──結果として。

 

 気付けば練兵場の悉くを灼いていた爆炎と──その全てを切り裂いて、けれど斬撃ではなく打撃を食らわせていたショベルが視界に刻まれる。

 

 ぐらりと倒れるブラッド。反対に少女はショベルを振り抜いた格好のまま、流血も火傷もない。

 あるのはそう、足元の無数の破砕痕だけ。

 

「……勝ち、ですけれど……あなたが最初からフルスロットルできていれば負けていましたわね」

「ハ……馬鹿言え。途中からでも本気を挫かれたんだ……俺の負けだよ」

「いや、どちらも馬鹿を言えだ。本気でやるなとあれほど……」

「それじゃあ勝ち星は頂いておきますわ。いつでもリベンジしにきてくださいな」

「おう。……んじゃ俺は気絶するぜー」

 

 今度こそ倒れ、意識を失うブラッド。

 武器の差はあるのかもしれない。亡霊の差もあるのかもしれない。

 だが……勇者でも騎士でもない者が魔王軍の幹部を単独で倒したことに変わりはないだろう。

 

 複雑な気持ちにはなる。だが、その一方で。

 

「この感情は……なんだろうな」

「羨望、じゃろ。儂でも感じておるわい。……魔族にも他者と高め合うことへの歓びがあったんじゃなぁ」

「……これが。エルレビ、お前も感じているのか?」

「はい☆ ……多分、ですけどね」

 

 視線を受けて。

 

「あの……いつでもリベンジOKとは言いましたけれど、流石に連戦はキツいですわ」

「ショベルの妖精様。ご安心ください、魔王様たちもわかっておられます。さて、今の間にお部屋を準備しておきました。こちらへどうぞ」

「ありがとうございますわ~」

 

 いつか、その日が来るのならば、と。

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