悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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愚滅!

 以前"魔法というのは「或る万能」から自身の性質や許容量にあったものを紐解いているに過ぎない"と述べたように、魔法には「正解」が存在する。

 どれほど悪辣な、呪い染みたそれであろうとも、もしくはブラッドの使うような単純明快なものであっても魔法は魔法。それがどういう内容をしているかは「照らし合わせる」ことで読み解くことができる。

 その「照らし合わせ」に使う図を魔星図といい、とんでもなく大きい図面として各国の重要機関に保存されている。分析した際に抽出できる線形をこの星図に重ね合わせれば一発でどういう系統のどういう魔法なのかがわかる仕組みだ。……けど、そんなものは持ち合わせていない。

 頼れるのは記憶のみ。遥か昔に見た魔星図の記憶から、ぼんやりと「それっぽい部分」を探し当てる。

 

 これが魔法分析における第一の手段。最もポピュラーな手段だ。

 そこからわかったのは、このバンシーを縛っている魔法が光属性と闇属性の複合魔法であるということと、記憶にないほど端っこの方にある魔法を使って作られている可能性が高いこと。

 ……闇属性はわかる。魔王が使うのが闇属性だから。それが牢全体にかけられた保護であり呪いなのだろう。

 だけど、光属性は……誰? 魔族は光属性を扱えない。人間は、けれどかなり珍しい。リベルタなワケはない。

 

 でも……だからこそ、やっぱり……魔王以外にここへ来て彼女へ手を加えた者がいるということだ。

 暴走は、なれば、故意か。

 

「ふぅ……魔力、ちょっと戻ってきたわ」

「それは何よりですわ。……エルレビ様、この城で」

「その敬称やめなさいよ。敬意なんかないんだから」

「……では、エルレビ。改めて、この城に訪れた者で、光属性を扱っていた存在はいますか?」

「いるわけないじゃない。いたらそいつは人間って証明しているものだし」

 

 そうだ。何度も述べるけれど、光属性は人間にしか発現しない。仮に複合属性持ちだったとしても、人間ではあるはずだ。

 となると……やっぱりゴルズィオか。けど彼がゲームで光属性を使っていたような描写はなかった。……ドラゴン関連のことを考えると、この世界はそっくりそのままゲームの世界ではないということになるけれど……。

 

「気を付けなさいよー? 設置型の魔法は大抵トラップが仕込まれているんだから」

「……そういうのって、何をしたら発動しますの?」

「そりゃ……解呪しようとしたり、破壊して壊そうとしたりかしら」

「良いことを聞きましたわ。──グラヴィティパルス」

「は?」

 

 周囲の牢を壊さないように、けれど確実に刻まれた魔法陣は消えるように。

 攻撃魔法を設置した、その瞬間。

 

 ドバァッと溢れるは泥のようなもの。それが私の体を包み、引き摺り込んでくる。

 

「ちょ──手を伸ばしなさい!」

「いえ、このまま調べていても埒が明かないので、中に入って調べてきますわ。ごきげんよう」

「考えなし──猪突猛進にも程があ、」

 

 とぷん、と。

 魔法の中に、入った。

 

 

 足元に転がってきたのはミルグドリヒの首。

 それに目もくれず、お父様は言う。

 

「これがお前の行い。その代価だ」

 

 足を引き摺り、失った腕を嘆き、ごぼりと血を吐く見覚えのある人々。学園のクラスメイト。教師。

 準聖騎士にしようと連れ去った少年の遺骸。磔にされたオスカル王子とお兄様。

 隣にいるのは、こちらへ優しく微笑むお母様。

 

「ほら、見なさい。あなたがやった無意味が引き起こした惨劇を」

 

 人間と魔族の戦端。酷い裏切り合い。悲しい慟哭。求心力を失った二種族の王が争い、民は私へと手を伸ばす。

 

 血肉。泥。腐肉。血。

 遺骸。死骸。残骸。

 高く上った太陽は黒く染まり、滂沱の如き海を作り出している。

 

「うーん」

「私もよ……ね、見える? 私の顔……穴だラけにナって……あなタのせいで……」

「ちょくちょく精神攻撃に遭いますけれど、実際のところこれどうリアクションするのが正解なんですの? 家族の名前を叫んで恐慌? 謝り果てて蹲る?」

「強がってもダメ……あなたの心は揺らいでいる。ほんとは強がりをしているだけ……」

「あ、じゃあそういうことでお願いしますわ。そうすれば無理に変なリアクション取らなくてもいいですし。そうですわ~実は傷ついているのですわ~」

 

 言いながらグシャボロなお母様の顔面を殴り飛ばし、「これがお前の行い」と言ったきり動かないお父様の首を断って、磔にされている王子とお兄様はそのまま切り倒す。

 群がってくる亡者の顔面を踏みつけ、一度殺したクラスメイトや教師の残骸の上に立って……大きく息を吸う。

 

「もっと! もっと持ってきなさいな──あなたが成し得る全ての絶望! 全ての悲鳴! 今ここでぶつけてこなければ、私が解呪して殺し尽くしてしまいますのよ!!」

 

 魔法の分析解呪、第二の手段。

 作者の気持ちになって考える……もとい、どういう目的を以て作ったのかを理解し、すべての魔法に必ず設定されている解法を紐解く。

 

 ぐるりと泥が、腐肉が、海が渦を巻く。

 真っ黒で暗緑色で灰白色なソレは巨大な鷹のような形を取り、果てしなくうるさい声で威嚇してきた。

 

 勢いをつける。ぐんと、一度仰け反らせた身体から……高速の突進がきた。

 だからそこへ合わせてショベルを突き出す。

 

 両翼合わせて三十メートルはくだらない鷲と、ちっぽけなるヒトの戦いは。

 

「くだらない!」

 

 私の、勝ち。

 

「その程度ですの!? その程度なんですの、アナタ! もっとあるでしょう……あの方を縛り付けるだけのためにこのような巨大魔法陣を設置したと? 嘘仰い! もっとあるでしょう! 私には想像もつかない悪辣な仕掛けが! 起動すればバンシーさんどころか魔王城が崩壊しかねないとんでもない仕掛けが!」

 

 私の周囲に光が集まってくる。 

 それは手足へと集い──鎖になる。剣となり、刺さる。槍となり、突き刺さる。

 

 涯の無い暗闇の中では縋りついてしまいそうな光。それが私の身体を縛り付けてくる。傷つけてくる。

 

「……本当にそれだけなんですの? 精神的に痛めつけて、身体的に痛めつけて……たったそれだけしか施していませんの?」

 

 剣の突き刺さった腕でショベルを掲げ、棘付きの鎖が絡みついた足で踏み出し、槍が通り抜けた口で言葉を零す。

 

「それだけなら……興覚めでしてよ」

 

 爪を立てる。牙を立てる。

 闇と光の両腕へ、対象を抑えつけんとするそれぞれの腕へ……呼吸を落とす。

 

 魔法解析分析解呪、第三の手段。

 ──逆の効果を発揮する魔法をその場で組んで、相殺!!

 

 私が形を成す魔法の効果は単純。

 

軽く背を押してあげるだけ(リトル・ナッジ)

 

 絡みつく鎖程度、身体を少し前へ向けるだけで解けますのよ。

 

 

 ……場所が変わりましたわね。

 解呪に成功した感触はありますけれど、元の場所に戻るわけではないと。……エルレビ、無駄に心配してそうですわ~。

 

 こういう展開の場合気を付けるべきは「なぜかリベルタたちの元に送られてしまったパターン」ですけれど……(これまで)(これから)の墓所、というわけでもないんですのね。

 ふーむ。ま、しばらく歩いてみますか。

 通った道にはグラヴィティパルスを残して疑似ヘンゼルとグレーテルを……いや魔力が勿体ないのでやめますわ。永久に残るわけでもありませんし。

 

 魔法の中……という感じはしませんのね。

 どちらかというと、リリーガおば様の小屋に似ているような。

 

「感覚が鋭いねェ。ますます興味が出てきたヨ☆」

 

 声。……アタリ、ですわね。

 

「【愚悪賢者】ゴルズィオ・ヴィリジオニティカ。お会いできて光栄ですわ」

「こちらこそだヨ☆ 【昇格者】ラファ・ダルクエルデちゃん。世界という喜劇を眺める者同士、仲良くやっていこうじゃあないカ☆」

「あら、私そんな称号ついてますの? ドラゴンには【夢を抱く者】と呼ばれていましたけれど」

「同時に二つの称号を持つ者がいることくらい知っているだろウ☆」

「なら私はあなたのこと、【失敗に愛された探求者】と呼んだ方がよろしいかしら」

「酷い称号だよネ☆ 世界を恨むヨ」

 

 仲良くやるつもりはない……というかゴルズィオの方にないはず。

 なんせ彼は好奇心だけで魔族も人間も裏切った狂いビト。誰かと肩を並べることは好奇心の対象にない。

 

「あの怪物に語りかけるようにしてあなたの名を呼んだ私に目を付け、トラップの解呪時に相殺衝突で発生した余剰魔力を使って私を転移させた……とかそんなところですの?」

「ワオ、凄いネ☆ 正解だ、百点満点だヨ」

「大前提が間違っているということを除けば、とでも繋げたいのでしょうけれど、大前提も合っていますわ。クランパネリテの契約借用で私のことは認識していた。そうでしょう?」

「……へェ☆ そだね、今度こそ百点満点を上げるヨ、公爵家令嬢様☆」

 

 ジャブの打ち合いはこの程度でいいだろう。

 それより、だ。

 

「単刀直入に聞きますの。『長老球(エルダーコア)』と『不死根(デッドレス)』、この二つを創ったの、あなたでしょう。それを百代魔王と今代魔王に押し付けたのも」

「それは問いかナ☆ それとも確認?」

「……恐らくですが、あなたにアンデッドを暴走させるような力はありませんの。けれどあなたは……溢れ出る種族特性や魔力を水晶の中に押し込める程度のことはできた。つまり、百代魔王の力の暴走自体は本当に起きたこと。……ただしトリガーはあなたですわね。百代魔王の姉に致命傷を負わせたのがあなたで、暴走した百代魔王の力を水晶玉に封じたのもあなた。『長老球(エルダーコア)』自体にはアーティファクト並みの力が無くて、特別なのは込められた力の方だった」

「何も言ってないんだけどナ☆」

「成程、それならバンシーになったあの方を元に戻せないのは当然ですわね。起源たる力が同一ならば、どうやったって無駄ですわ。……とすると、『不死根(デッドレス)』は……もしや『長老球(エルダーコア)』に封じ込められていた百代魔王の力を外部で操るためのアーティファクトなのでは? ……なんらかの要因であなたはアンデッド制御の力を欲した。だから……昔遊ぶだけ遊んで飽きて放置した『長老球(エルダーコア)』の力に目を付け、それを魔王に気取られることなく取り出し、制御する作戦を企てた」

 

 二つが……『長老球(エルダーコア)』と『不死根(デッドレス)』が同時に存在できないのも同じ理由。中身が同じ力であるからどちらか片方しか存在できない。IDは同じでタグだけ違うのはそういうことで、且つ恐らく百代魔王の記憶から『長老球(エルダーコア)』を再生成しようとした魔王はそれに失敗しているはず。

 アーティファクトというより魔力の封印装置でしかないこれは、百代魔王の暴走した力あってこその効果だったのだから。

 ……あるいは。

 

「そこも狙いだったりしますの? ……あの方の魔力をも統御するつもりだった……まぁ失敗したようですけれど」

 

 もし成功していたら、今代魔王の力を発揮する『長老球(エルダーコア)』が出来ていた可能性が高い。

 歴代最弱と謳われる今代魔王。魔剣ソウルアティアのせいで忘れがちだけど、彼自身もかなり強い。その種族特性……というか魔力特性とでも呼ぶべきモノは、使い方次第で充分「最悪」を引き起こせるもの。

 

 けれど、ああ。

 思わずうっとりとした表情になってしまう。

 

「恍惚の笑みってやつだネ☆ なんでそんな顔になってるのかナ☆」

「さしもの私も、相手が法則性のないアーティファクトや自然であれば手段を選びますのよ。けれど──意思のある者が敵で、事象の全てが人為で説明つくのなら──私は何の憂いもなく何も選んでいない手段で之を滅することができますの。それもあなたが相手であれば、人道的である必要すらない。……ふふ、人道的な必要がないって、なんて素敵な響きでしょう」

 

 それではおひとつ。

 

「まずはそう──アンデッド暴走から今日までの間の迷惑料、一気に貰ってくださいですわ。ブラックネット・カオスワールド」

 

 ショベルを握る手で地面を殴って発動させるは、今の私にできる最高範囲のブラックネット。

 真っ黒な空間もその先にある空間も、あるいは亜空間にさえ影響を及ぼすヘイト誘引魔法は──。

 

「こ、れハ」

魔物の大暴走(エネミー・スタンピード)。私の認識し得る世界全土から魔物がここへ押し寄せてきますわ~。たとえここが異空間や結界の中にあろうとも関係なく、魔物という魔物が目白押しですのよ」

 

 戦いは数ですわ~。

 

「さ、大事なサンプルやら魔法やらが踏み荒らされたくなかったら、光属性を使いなさいな。使えるのでしょう?」

「どうだろうネ☆」

 

 地鳴りが聞こえてくる。

 ウォーキングもといランニングしてくるデッドマンたちが、この地を目指してやってくる。

 

 果たして。

 

 

 そこ……(これまで)(これから)の墓所に、五人はいた。

 どこへ行けども腐肉に塗れた道程だった。伝説の四騎士、『勇者の魂』を有していても、行く先々の難民たちが彼らへ見せる目は疎ましさばかり。

 少ない食料や水を分けてもらうのも申し訳なくて、そそくさと逃げるように旅を続ける日々。

 道中のアンデッドを狩り、狩り、狩り尽くし。

 野生動物も軒並みアンデッド化してしまっているため、時々見つかる廃村から食料を拝借し、それで食いつないで、必要なものを奪還して、奪還して、ようやくここまで来たのだ。

 

 今、彼らの前には、一冊の本が開かれている。

 

 冒頭が白紙で、途中から文字が書かれ、また白紙になっている本。

 この本の名は『脚本(たなごころ)』。過去、現在、未来の描かれた本。

 

「……懇願した身で言うのがおかしいということはわかっている。だが、だからこそ訊きたい。リベルタ、本当に良いんだな?」

「うん。もしかしたら……本当なら、断るべきだったのかもしれない。世界に異を唱えたエスタ君。世界の偽りを断じたイジス君。世界に見放されたモーモン。世界に守られているパリス。みんなの事情を聴いて……私は、みんなのためを想うのなら、止めるべきだった。過去を変えたって仕方がないよ、って。それは今いる私達を否定することと同じだよ、って」

「……」

「でも、こんな現実は否定した方が良いよ。……ラファはずっと前だけ向いていたけど、そんなの疲れちゃう。みんなのために走り続けた結果、ひとときの休息も許されないなんてあっちゃダメ。……今のラファとの関係値を失っても、私は彼女に……平穏を過ごしてほしいから」

 

 四騎士は過去を変えたい。自分たちの罪をなかったことにして、自分たちが壊してしまった全てを取り戻したい。

 リベルタは現在を変えたい。過去を改変することで現在を改変し、「アンデッドの暴走しなかった世界」に変えたい。

 

 目的は違えども。

 手段は同じ。

 

「……じゃあ、いくよ。僕たちは当時を強く思い描いて、リベルタはその魔力をペンにこめてくれるだけでいい」

「わかった」

「まぁ……誰にも止められなかったんなら、そーいうもんってことかー」

「精霊よ……しばしのお別れだ」

 

 四騎士が本へと手をかざせば、本はひとりでに浮き上がり、ばらばらばらとページをめくる。

 リベルタの……正確に言えば『勇者の魂』が羽ペンに起動キーとなる魔力を打ちこみ、そして。

 

 

 ぐわんっ! と……どこぞかから放たれたヘイト誘引魔法に引っ張られ、その集中力をかき乱される結果となった。

 

 

 まずい、と全員が思ったのも束の間。

 

「引き摺り込まれ──!?」

 

 光が辺り一面を飲み込んで……ぱたんと本が閉じる時。

 もうそこには、誰もいなかった。

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