悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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ZA・ZA・ZA・ZOMBIE SONG
恐滅!


 気付けば、花畑にいた。

 咄嗟に立ち上がる。まーたフラムベルジュの花だったら爆発四散でしてよ。……どうやらそうではないようですが。

 

 あら~? 私確か、ゴルズィオのよくわからない空間でブラックネットを発動して……その後の記憶がまるでありませんわ~。

 ショベルは……手元にある。足元は花畑。

 

 なら。

 

「掘ってみますわ」

「掘らないで!?」

 

 あらツッコミが。

 視線を声の方にやれば、……リベルタと私を足して二で割って七を掛けて三乗してルート五で割ったかのような顔つきの少女が。 

 ……ほぼ、絵柄が似ているだけの別人という話ですわ。

 

「ごきげんようお嬢さん。ここはあなたの私有地ですの?」

「私有地……? よくわからないけど、ここはハウルエルの花畑! ここはみんなのものだから、花を持って帰ったり傷つけたりするのはダメなの」

「みんなのものなら掘っても良くないですの? あ、花を傷つけてはいけないというのならご安心くださいませ。地中の根すら傷つけずに掘り返してみせますのよ」

「なんでそんなに掘りたいの!?」

 

 まぁ掘ることにそこまでのモチベーションはないけれど。

 この花……どっかで見たような。ゲームに出てくる花の近似種に見えますけれど……うーん。

 

 あと視覚情報で判断できるのは、まず魔王領ではないことですのね。空が明らか快晴なので。魔王領なら常に暗雲か赤い空のはずですのよ。

 それから、感知できる範囲内にアンデッドがいないことも不思議ですの。いえ、ゴルズィオの空間も似た感じだったのでわからなくもないのですが。

  

「えっと……お姉さん、掘るのは諦めてくれた……?」

「ああ。まぁ、いいですわよ。何かくれるならやめてあげますわ」

「ま、まずい、この人関わっちゃダメな人だったかも……!」

 

 失礼な。

 私ほど関わって損をしない人間はいませんのよ。必ず出会った時よりワンランク上のステージに押し上げてあげますわ。

 

 …‥耳が音を捉える。

 悲鳴。それと魔力の潮流。

 

「……あなた、この近くに村などはありまして?」

「あ、うん、あるよ。ここの崖下に、私たちの村が……」

「あなたは騒ぎが収まるまでここにいることですわ」

 

 再度ショベルを握り直し、申し訳ありませんけれど花々をガンガンに踏みつけながら──花畑の縁、恐らく崖となっているだろう場所へダイブ!

 

 眼下に広がるは、まぁ村。別段特徴のない村で、まばらに人がいて──入り口っぽい場所に黒煙。さらに目を凝らすと、入り込んだらしい犬の魔物に襲われている親子の姿が。

 グラヴィティハンドを使って落下軌道を変え、その現場に急行する。

 

 斜めに落ちながら魔物の首をショベルでぶん殴り、且つスワンプバインドによる減速効果を対象に発生させてブレーキ。あらぬ方向に曲がった首を蹴って後ろ宙返りをして距離を取る。

 子供を守るようにして蹲る親。その前に陣取ってショベルを魔物へ向け。

 

「ハロー、ごきげんよう。ここがどこなのか、あなたに何の目的があるかは存じ上げませんけれど、これからしばらくこの村にお世話になるため、恩売りの当て馬になっていただきますわ~!」

 

 踏み込み、こちらの動きに追いつけていない右の眼球をショベルの刃で薙ぐ。

 悲鳴を上げるその喉を掴み上げ、発動するはグラヴィティパルス。魔族でなく、アンデッドでなく。単なる魔物なら闇属性が効きますのよ。

 

 喉から咽頭にかけてへ設置された三つのグラヴィティパルス。さらに喉を掴んだ手からナイトクローを発生させ、付随する絶対位置移動を使って犬の魔物を投げ捨てる。

 

「今日昼食や夕食を食べたいのなら目を瞑ることをオススメしますわ~。──三、二、一♡」

 

 振り返って、怯えた目でこちらを見ていた親子の視線をショベルで遮って。

 カウントダウンにウィンクをおまけしての……どかーん。

 

「これでも一応色々相手にしてきたつもりですけれど、食道は食事のために柔らかくなければならない場所。ここの防御力の高い生き物にはまだ出会ったことがありませんのよ。──恰好の的ですわ~」

 

 加えて言うと、闇属性に耐性を持っている相手って実は少ないので無双し放題だったりしますわ。魔族とアンデッドに無効とかいうアホ設定だけ消してくださいまし。あれのせいですのよ私が無双できない理由。

 

 さて……と。

 怯える親子。脅威は去ったというのに何に怯えていますの? あ、私ですの? まぁ怖いでしょうけど命の恩人ですのよ。ほらもてなしなさいな。

 

「ちょ、ちょっと待ってお姉さん!」

「あら、あなたは。さっきのお花畑少女」

「どうしてだろう、丁寧に言われるとそこはかとなく馬鹿にされてる感じがする……じゃなくて! えーっと……そう! 助けてくれたこと、お礼したいから、私の家に来てほしくて!」

「なるほど、あなたには暗黙の了解としてこの方々を黙らせることのできる地位があり、且つ村人を外敵から守るような……騎士や巫女の役割を有していると」

「う……」

「ああ、たじろがなくて結構。大人しく従いますわ」

 

 空を飛ぶとか転移するとかの力がない以上、しばらくの補給をここの方々に頼らざるを得ないでしょうから。

 客卿として冷遇されるのには慣れていますのよ。

 

 

 先程の場所はハウルエルの花畑。この村はシュトゥーラ4-79。国の名前はアムエナ=カカラパラゾ。

 聞き覚えはありませんけれどパーヒャク過去ですわね。名付け方が。ミリで未来。

 

 ゴルズィオの空間でブラックネットを使ったことがトリガーとは考え難いので、タイミング良くも悪くも四騎士とリベルタの過去改変の巻き添えを食らったとかそんな感じでしょうか。

 まぁ順当にいけば私はここでいくらかを過ごして……ドラゴンの祖? を作って、未来へ帰るのでしょうね。あ、あと『行く末の鍵』を託さないといけませんわ。ショベルの強化が損なわれてしまうから。

 しかし余計なことをしてくれますわね。折角ゴルズィオという「どうにかできる相手」が表面化したというのに、これで未来が変わったらまた探し直しになるじゃありませんの。

 

 少女の名前はクオン。本名は長大らしいですわ。だからやっぱり過去確定ですのね~。

 

「ラファお姉さんはどこから来たの?」

「どこからと言われましても。旅をしていたら気付けばあそこにいたのですわ」

「ああ……じゃあ、転移トラップに引っかかっちゃったとかなのかな。ハウルエルの花畑は乱雑な魔力溜まりの排出点になることが多いから、運よく出てこられたのかも」

「運が悪ければ今も乱雑な魔力流の中で揉みくちゃ、ですのね」

「人里の近くに出られただけでもかなり運がいいかも?」

 

 あるいは、ゴルズィオの空間がそのままここ、という可能性もありますの。太古崩壊を挟んで……ここがあそこと同じくらい何も無い真っ黒空間になってしまうかもしれない、と。

 まぁ太古崩壊を経ずとも私達のいた現代と今とでは恐らく数千年、下手したら数万年が経っていますので、感傷も何も無いですわね。へー、くらいですわ。

 

「国の中心……首都へはどうすれば行けますの?」

「カカラパラゾに行きたいの? うーん、こう言っちゃうのは良くないんだけど、カカラパラゾには貴族しかいけなくてね。その、私も一応端くれなんだけど、私でも行ったことないから……」

「問題ありませんわ。法律も体制もしきたりも、殴り込んでこじ開けた者が勝ちですのよ」

「やめてほしいかも! 下手したら私がそそのかしたって思われちゃう……」

「ええ、そう思われたくなかったら協力なさい。あなたにはそれ以外の道が残されていませんのよ」

「や、やっぱり関わっちゃいけない人だった……」

 

 失礼ですわね。

 その通りですわよ。

 

 相変わらず首都の名前に聞き覚えはないけれど、ここが過去であるのなら、首都には学生の頃の四騎士がいるはずだ。

 腹違いの兄弟であるエスタとイジス、英雄の息子モーモン、精霊の寵愛を受けたパリス。

 希望と謳われ、問題児とされている頃の四人が。

 

「と……ところでなんだけどさ、お姉さん」

「はい?」

「その……皆も怖がってたんだけど……あの、なんで……骨なんか被ってるの? なんの動物なのかもわからないし……」

 

 あ。忘れていましたわ。

 ……そりゃ怯えますわよね。所業よりも先に見た目のインパクトがとんでもありませんものね。

 

 ですけど、万一にも……ほら、私の姿が鮮烈過ぎて絵画に収めておきたい! なんて考える画家がいないとも限りませんし。

 そうなるとほら、過去改変が成功していた場合、そのまま現代にまで私の似姿が伝わってしまって伝説の令嬢とか謳われかねませんし。

 

「これには海よりも高く空よりも深い事情があるのですわ」

「そ、そっか……浅瀬だね……」

「まぁ一応人間であるというアピールはしておきましょうか。魔族……じゃない、滲み出る侵蝕の一員ではない証明ですわ」

 

 といって骨面を外す。この時代、魔族は一種族として認識されていない。魔物の一種というか、魔物よりかは厄介だけど倒し得る害悪くらいの扱いだ。

 だからそれの一員じゃないよ、ということのアピールである。

 

「そんなこと疑ってないけど……って、わ、きれい……」

「ありがとうございますわ」

 

 ラファ・ダルクエルデの容姿は結構気に入っている。

 月色の髪。ガーネットの瞳。白磁のような肌。表情は常に勝気で固定され、作品が作品なら扇子なんかを持っていておかしくない感じの風貌。

 ま、持っているのはショベルなんですけれど。

 

「え、待って? その目の色で、ダルクエルデって言った? それって……」

「なんのために骨を被っているかはわかりまして?」

「あ、ご、ごめんなさい。……いや骨を被っている理由にはならないし、だったら私なんて通さずにカカラパラゾへ向かえばいいのにとかは……うぅ、言っちゃダメそう……」

 

 この反応を察するに、ダルクエルデの先祖を知っていますのね。

 王都に存在する属性特化五貴族はしっかり貴族の血を受け継いだ由緒ある家柄。象徴として祀り上げられた王族とはワケが違う。

 ただし、この時代は複合属性当たり前な時代なので、単一属性しか持たずにダルクエルデの先祖の前に行ったら侮辱罪で殺されますわ。

 

「ま、まぁいいや。じゃあ、ラファお姉さんはこれからどうするの? しばらくここにいる? それともすぐにカカラパラゾを見に行く?」

「お世話になるつもりですわ。あなたが構わないのなら」

「うん、大丈夫だよ。この家は私しか使ってないし……あ、でも長期滞在になるなら狩りを手伝ってもらいたいかも」

「ええ、ではそれで」

 

 問題は今の正確な年月日がわからないことですわね。まぁわかったとしても太古崩壊がいつなのかも正確な描写がないので焦ったりなんだりがし難いのですが。

 とりあえず色々慣れて、あとは野となれ山となれですわ。

 

 

 

 ショベルを振るう。その刃は硬質な音と共に止まった。剣の腹で受け止められたのだ。

 弾くとその勢いを私が利用すると学習し、ふんわり受け止めましたのね。良い成長速度ですわ。でも。

 

「ッ!?」

「衝撃を逃がすために膝を折ったのは悪手でしたわ、ね!」

 

 剣を崩せないのなら他の場所を狙うまで。

 ショベルの柄を短く掴み、のしかかるようにして力を籠める。せめぎ合う場所を刃から支える足へと変えて、さらに強く力を籠める。

 

 ずざ、と一歩を退く──そこを狙って腰に膝を当て、一気に押し込めば……上半身が姿勢を保っていられず後ろに倒れ込むのがわかった。

 そのタイミングでショベルへ込める力を消してやれば、余剰分の力が剣を押し上げ、私の顔の横で、腕がまっすぐにビンと伸びる。

 肘で下膊の真ん中あたりを叩いてやれば、正中神経に刺激が伝わって人差し指と中指が意図しない挙動をして、剣をからんと取り落としてしまうと。

 

「……参りました」

「降参ですの? 剣を落としたくらいで? まだまだできることありますわよ」

「ぅ……」

「なんて、冗談ですわ。……そろそろお昼ですし、お開きにしましょうか」

 

 半ば覆いかぶさるような形だった姿勢を解除し、立つ。

 まったく、私は戦闘素人ですのよ? それが……生まれてからずっと剣を握っていたあなたが赤子の手をひねるように好き勝手されて、悔しくありませんの? ……という煽りはしない。ちゃんと効いてしまうので。

 

「しっかし……」

「……師匠。今、"よくその弱さで……"って思いましたよね」

「ナンノコトヤラですわ~」

 

 ──あれから一週間が経っている。

 アンデッドの脅威のない、そして貴族としての振る舞いを求められない、且つ正体の露見を気にする必要のないスローライフ。

 ビバ過ぎますわね。ビバし過ぎましたわね。

 そしてその最中で、あろうことか私に師事してきたのがクオンですの。あの時私の言った「この村を守る立場にある」というのは当たっていたらしく、実際何度かは守れているらしいのだけど、最近魔物が強くなってきていることや"滲み出る侵蝕"には勝てないからと、私に強さを乞うてきましたわ。

 正直私は剣術のけの字も知らないので断ろうと思った……のですけれど、模擬戦をしてくれるだけでもいいと言うので仕方なく、ですわ。

 ま、呼び名が師匠に変わったのはいいことかもしれません。ラファなんて名前ありふれているとはいえ、骨女=ラファが後世に伝わってしまっても面倒ですしね。

 

「歳は……私とあんまり変わらないのに、師匠はどうやってそんなに強くなったの?」

「私は強いのではなくて凄いのですわ。わかります?」

「凄い……特別ってこと?」

「容赦がないということですの。……人間というのは万事に対して無意識に手心を加えますのよ。戦闘だけでなく、人間関係や会話、自らの夢、世界の在り方……それは他者を傷つけないためであると同時、自分が傷つかないためのセーフティ」

 

 青空の真ん中にある輝き。

 それに沿うように手を掲げ、手中に収めるようにして閉じる。

 

「強さという尺度で言えば、まぁ、私より強い者はいくらでもいるのでしょう。ただ私は強いのではなく凄いのです。迷わず、躊躇わず、容赦しない。殺す気どころか断ち切る気で刃を振り下ろし、倒す気どころか突き破る気で困難にあたる。強さや在り方に秘訣があるのかと問われたら、すべてはそこから漏り出づモノ。あなた達が見上げている私は、私という凄さが遮った陽光の影にすぎないのですわ」

「強いんじゃなくて、凄い……」

「とはいえあなたまでこうなる必要はありませんけれどね。なんせこの生き方は、人間性の破棄に同じですの。誰にも同情できない、誰とも共感しない"凄いだけの機構"に成り下がりますのよ」

 

 そしてそうなったが最後、二度と愛情や幸福を享受できない野良犬が生まれ出でるだけ……なんて。

 

「お腹が空いているとおかしな言葉が出てしまいますわ。お菓子だけに。おーっほっほっほ!」

「……?」

 

 この世界ではおかしいとお菓子が全く別の単語なので何も通じないなんて悲しいことはないのですわ。ええ。

 

 ──顔を上げる。

 過去へ来てから初めて……アティアによる強化を行い、ショベルを振り下ろした。

 

「ギ──!?」

「え、な、なに!?」

 

 割断した異形の頭蓋を掴み、投げ捨てる。

 ……これは、魔族?

 

「クオン、あなたは村人の守護を。私は遊撃に回りますわ」

「これ、"滲み出る侵蝕"……? あ、わ……わかった! 師匠、死なないでね!」

「軽率にフラグを立てていくその姿勢、嫌いじゃありませんわ~」

 

 とりあえず素のブラックネットを使っておく。クオンを追う影は……ありませんわね。まさかとは思いますけれど、狙いは私ですの?

 魔物のヘイトは誘引して、と。

 

「ギ──ギ、ギャ、ギャ! 亡霊の力を纏う、骨頭の女! 報告にあった、た、通りダ!」

「忘れる、れるな、勧誘が先! 断られたら殺していい! ギャ、ギャ、ギャ!」

「あら、では嬉しいお知らせですのよ。私、勧誘の類は基本お断りですの。新聞も宗教も間に合っていましてよ──だから、さぁ、殺し合いを始めましょう?」

「ギャ、ギャギャ! 話が早い──食べやすくて、いい!」

 

 四体。最初に殺したのは……生き返っていない。つまり頭部割断は有効打。

 姿は巨大なフクロウの身体にサルの頭を乗っけたような感じ。なんでしょうね種族は。よくわかりませんわ。

 

 くるくると回したショベル。それを遊んでいるとでも見たのか、不用意に近付いてきた一体の──その頭蓋に振り下ろし、潰す。

 あら、人間の頭蓋より柔らかいですわね。……たださっき降りてきた一体はアティアの強化込みじゃないと弾き返せなかったあたり、個体差激しい感じですの?

 

「ギャ、ギャ、ギャ! アイツ死んだ! 席が一つ空いた!」

「力ないモノは淘汰される! 敵に殺されて死ぬ! 仲間に殺されて死ぬ! 同じ! 同じ!」

「愉快愉快!! 痛快痛快!! 死を見るのが楽しくてたまらない!」

 

 ははーん。

 さてはこいつら、人語を扱いはするものの……タイプですわね? こうして耳障りな言葉と音波を吐くことで集中を乱す系ですわ。

 まぁ実際に愉快愉快と思っているのかもしれませんけれど、そっちがその気ならこっちもそうしますのよ?

 

「愉快愉快ですわ~。魔族相手、それも知性の確立され始めた相手ですと、いつもとは別種の楽しみがありますの」

 

 言葉を吐きながら行うは、先程潰した魔族の肉体への追撃。死体撃ちならぬ死体掘り?

 何度も何度も、何度も何度も何度も、凄惨に凄惨に。

 心から楽しんで、心から喜んで。

 

 小気味よく鳴る肋骨をパキポキ折って、鳥口骨を力強く折って、叉骨に足をかけて竜骨をショベルで掘り起こして。

 嗤う。嗤う。哄笑する。

 世界に生まれてきてしまった可哀想なあなた達へ、精一杯の祝福を送らんと笑い上げる。

 

 ざり、と。

 たじろぐような音が聞こえた。

 

「あら、どうして引いていますの? あなた達もこちらに来て楽しめばいいではありませんか。ほら、折角人語を発話できる喉とヒトに似た顔をお持ちなのですから──笑いなさいな」

「ギャ、ギャ、ギャ──殺せ! 殺していい! 交渉は決裂したから殺していい! ギ、」

 

 踏み込み、頭蓋を掴み、その口へショベルの先端を突っ込む。

 裂ける頬。擦れる口蓋。零れる涎。

 

「もしかして、生まれて初めて恐怖を覚えましたの? それはそれはおめでとうございますわ~。そして、可哀想に。この程度の外れた倫理でたじろいでしまう優しい心に生まれてきたご自身を恨みなさい。ああ、親を恨むのは筋違いですわよ」

 

 生きたまま。

 ショベルをゆっくりと動かして……下顎から上顎を引き剥がすようにして。

 

 ぶちぶちと、後頚部を()()()()──。

 

「この世に生まれた時点で、全て自己責任ですわ。地獄の底にてもう現世には生まないでくれと懇願しなさいな」

 

 最後の一体も、さぁ。

 笑いなさいな。最後くらい楽しくありたいでしょう?

 

 

 返り血の全てをイノセンスで消し去って、一息。

 村は……あらら。

 

「やっぱり一週間ばかりの稽古じゃどーにもなりませんわ。全然守り切れていませんわねー……。これ全滅必至では?」

 

 ──"助けにいかないのか"。

 

「言葉を交わすのは久方振りですわね。そして、そうですわね。義理がありませんわ」

 

 ──"七日間"、"世話になったこと"。"これは義理ではないと"?

 

「代価として自分が食べるもの以外の野生動物の狩りをしたり魔物から人々を守ったりをしていましたから、これ以上は働きすぎになってしまいますのよ」

 

 ──"同じ人間だろう"。"魔物と魔族は"、"共通の敵だ"。"それだけで力を貸す理由にはなろう"。

 

「……弱者には弱者の領分がありますの。あなたは知らないでしょうが、ここの方々はそれを拒否して安全圏ではないここに居を構えていた。だから平穏や日常が脅かされることは、ある意味で当然の報いなのですわ」

 

 ──"同じ人間が目の前で襲われていて"、"助ける気にならないのかと問うている"。

 

「あなた達が亡霊の中でも弱い部類だという話。今の会話にその理由が全て詰まっていますわね」

 

 ──"……"。

 

「情報は得ました。食料は自分で狩れますの。よってもうこの村に用はないのですが──まぁ、居候とはいえ同居していることも事実。では懇願なさいな。かつては魔族ではなく人間を恨んでいたはずの亡霊さん?」

 

 ──"頼む"。"魔に虐げられる人を"、"我々は眺めていたくない"。

 ──"ラファ・ダルクエルデ"。"我々はあなたに"、"彼らの救済を懇願する"。

 ──"再度頼む"。"助けてくれ"。

 

「素晴らしい。そして、答えはOKですのよ。これであなたも私の守るべき領民ですわ。──その力の一切を私のために揮いなさい。そうしている内は、あなたの願いを私が叶え、あなたの望みを私が果たしてあげますのよ」

 

 アティアに魔力を与える。

 そして、想像を食わせる。

 

 イメージに従って魔力と幽体が織り成すは半透明の翼。

 

「アイキャンノットフライ。飛ばずに下方向への加速だけで充分ですわ~」

 

 では、行こうか。

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