悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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伴滅!

 ザン、と屍の山にショベルを突き刺す。

 

「世の中快楽というものは様々ありますけれど、やっぱり有言実行が一番気持ちいいですわ~」

 

 死者数ゼロ。……ま、私が駆けつけるまでの死者を含めなければ、ですけど。

 負傷者も出しませんでしたけれど、よく考えたら別に一撃ゲームオーバーなアンデッド相手ではないのですから多少戦わせても良かったかもしれませんわね。

 

 一応この村で一週間を過ごしましたので私のことは認知されている……ものの、骨の面と幽体の翼は多少異常に奇異に映ったのでしょう。

 何か言いたげですけれど、遠巻きに眺めるばかりの村民たちに背中を見せつけますのよ。

 

 言葉は不要と。

 

 ……さて、お片付けをしましょうか。ショベル本来の使い方でお掃除ですわ。

 

「ぁ……し、師匠!」

「どうしましたの、クオン」

「片付けは私達でやるから、師匠は先に戻っていてほしくて……」

「村を襲われ心の損耗した方々に後始末を任せる程酷な心はしていませんのよ私」

「あ、じゃ、じゃなくて……その、このままだと」

 

 彼女がチラっと見るのは……カカラパラゾの方。

 

 なる……ほど? 騒ぎがあったから駆けつけてくる何かがいるとかそんなところですのね? アティアに言った通り、ここは体制に反対した村なので、通報や救援要請などはしないでしょうし。単純に遠くから見て火の手が上がっていたら……貴族の哨戒部隊が駆けつけてくるとかですの?

 ふーむ。正直カカラパラゾへ向かうなら罪人として連行されるのが手っ取り早いかとも思いましたけれど、意識を奪っての連行になりかねないのがネックなのですわよね。

 ここは。

 

「クオン。今から私、物を盗みますので、見ないふりをしていていただけると助かりますわ」

「へ? あ、うん、わかっ……え!? ダメだけど!?」

 

 魔物の襲撃により倒壊した家。その食糧庫にショベルを入れて、適当に食料を掻き出す。

 麻袋に入ったそれをよいしょと背負って。

 

「それじゃ。縁が合ったらまた会いましょう」

「は──!?」

 

 こそこそするのも騙し討ちも性に合いませんわ。

 出てくる人あるならば入る人もあるでしょう。正面から門戸を叩かせていただきますわ。

 

「あ、お言葉に甘えますわ。お片付け頑張ってくださいまし」

「いやいやいや、え、うそ本気で行っちゃう気!? どういう神経!? ちょっと師匠!?」

「こういう神経ですわ~」

 

 手を振ることも振り返ることもなく、シュトゥーラ4-79を後にする。山なりになっている道を抜けるまでずっとクオンの声が響いていましたけれど、まぁそういうこともある、ですわ。人生何が起こるかわからなくて楽しいですわよね。

 ってあら、聞こえなくなりましたわ。まだそんなに離れていませんのに。

 薄情ものーっ、ですわーっ。

 

 

 歩く。道を行く。

 

「結局見捨てるのか、とか。言いませんの?」

 

 ──"救われたあと"。"手を差し伸べられたあと"。"その手を取り"、"立ち上がるかどうかは"。

 ──"救われた者が決めなければならない"、"初めての選択だ"。

 ──"我々は弱者であるが"、"負けた者"。"死した者"。

 ──"生者の行く末に"、"歩み出す足に"、"背押しするような呪いは与えない"。

 

「殊勝なことですわ。亡霊のくせに」

 

 けれど、良い哲学ですの。

 弱者の選択。即ち救済に対し、是とするか否とするかの択。つらく苦しい現実に生を諦めることだって選択の一つだ。全生命が当然のように生きたがっていると考えるのは強者の視点に過ぎない。

 生きていれば必ず良いことがある、なんて。

 少なくとも亡霊が提示していい希望(みらい)ではないのでしょうね。

 

 さらに歩いていく。

 すると、しばらくしない内に、前方から巨大な魔力が接近してくるのがわかった。

 現代人ではまず見ない二色の魔力。中には三色もいますわね。

 

「……っ!? "滲み出る侵蝕"……? いや、旅をする"滲み出る侵蝕"が……?」

「アーダルブレヒト、どうした?」

「ヒェロニムス、先に向かっていてくれ。少し気になるものが見えた。すぐに追いつく!」

「あまり長い道草は学長へ報告するからな。少しの間だけだぞ!」

「ああ、持つべきものは親友だな!」

 

 という会話が頭上で行われ、三色……光、風、土属性の魔力がこちらへ。

 何かを探るように高度を下げたり上げたりしていますけれど……じれったいですわね。

 

「あの」

「!?」

「何用ですの?」

 

 喋りかければ……心底驚いた、という顔で、かなり距離を取った場所にゆるりと降りてくる青年。

 ……整った顔立ち。というか四騎士たちと顔立ち(絵柄)が同じですわね。イラストレーター先生の知らない仕事が発生していますわ。

 

「す、すまない。人間……というか女性だったか。おれ……じゃない、私はアムエナ=カカラパラゾ所属騎士、アーダルブレヒト・リック・ナムトカルガという」

「ナムトカルガ?」

「あ、ああ。そうだが……家名を知っているのか? そこまで有名ではないという自負があるのだが」

 

 ……え、リベルタの先祖ですの? 似てな~……いけど、光属性持ちなら理解できなくも……?

 あと……その、大声で言うことではないけれど、声が明らかに地球で聞いたことのある声優……もとい聞き馴染みの良い声をしていらっしゃるので、主人公の先祖というのに説得力がありますわ。

 

「いえ、似た響きに心当たりがあっただけですわ。私は……ヴァンデラーとでも呼んでいただければ」

放浪者(ヴァンデラー)? いや、女性をそんなぞんざいな呼び名で扱うわけには」

「じゃあヴァラーで」

「そんな適当な……」

「名前を隠したい年頃なのですわ。わかってくださいまし」

「どんな年頃なんだ……」

 

 クオンならともかく、リベルタの先祖に名前バレはマズい感じがしますの。先祖代々伝わる名前とかになってしまったら流石に色々ありそうですの。

 こっちでの意味はありませんけれど、英語なら良い意味ですしね。元の語句がドイツ語? うる……細かいですわ~。

 

「察してくださいまし。この時世において顔と名を隠す、カカラパラゾへ向かう旅人。訳アリっぽいでしょう?」

「……確かに言葉遣いは丁寧寄りだが、そこはかとなくこちらを馬鹿にしているような感じがあるような」

「カカラパラゾの中枢貴族は大抵他者を馬鹿にしていましてよ」

「それはとんでもなく語弊があるだろう……!」

「それで、何用ですの? さっき聞いた限りでは私を滲み出る侵蝕と勘違いして降りてきたようですけれど、誤解が解けたのならお仲間のもとへ向かわれては?」

「聞こえていたのか。……そうだな。ああだが、このまま一人でカカラパラゾへ向かうのか? それに、歩いて?」

「ええ、一人で、歩いて。誉ある貴族ならば複数人で飛ばなければいけませんの?」

「……いや、そんなことはない。……旅か。そういうのも……いいな。いつかやってみたい」

 

 どこぞへ想いを馳せているところ申し訳ないのですけれど、もう行っていいですの? あんまり時間使うと親友さんにどやされるのではなくて?

 

「っと、すまない引き留めたな。おれ……私達が仕事を終えて帰る時、その時も君を見かけたら……あー、その。……声をかけてもいいか、ヴァラー」

「お好きにしなさいな。止まってあげるかどうかはわかりませんけれど」

「そうか。……よし、じゃあ、私は仕事に戻るよ。気を付けて」

「ええ、あなたも。アーダルブレヒトさん」

 

 風を纏い、空へ去っていくアーダルブレヒト。

 あんまり似ていませんけれど、ドギマギする感じとか言葉が詰まる感じはそっくりでしたわね。子孫にとってはあんまり嬉しくない遺伝ですわ~。

 

 

 そこからまぁ、四日は歩いた。

 持ってきた食料はすぐに底を突いたので、あとは狩り狩りアンド狩り。アーダルブレヒトが声をかけてくるということもなかったので、社交辞令だったか、あるいは仕事が終わっていないか。

 あと二日か一日か、それくらいあれば辿り着けそうだ。あ、ですわ。

 

 こういうことをしていて思うのは。

 ……タイムスリップものって、人間関係のタイムパラドックスは死ぬほど敏感になるくせに、こういう動植物の殺生や通貨の動きなんかは一切気にしませんよね、ということ……!

 いやだって気にしたって仕方がないんですもの。減るものは減るのですわ。

 

「──見つけた! ヴァラー!」

「ん」

 

 そろそろ日も落ちるという頃合いで、その声が。

 眼前に降りてくるは爽やか幼い系声のイケメン。

 

「あら、私、忘れられたのだとばかり」

「そんなはずがないだろう! おれがどれだけ探し回ったと……あの時の場所からこんな南西方向に寄って、カカラパラゾへ向かうんじゃなかったのか」

「空路と陸路では勝手が違いましてよ。況してや私は道中狩りをしながら進んでいるのですわ。最短ルートなど通れなくて当然でしょう」

「狩り? 狩りって……な、生の肉を食べているのか?」

「あら、温室育ちのお貴族様には理解できない文化ですの? 貴族とて時代はサバイバルですのよ」

 

 地球での私は結構アウトドアでしたからね。なにもショベルを手に取ったのは今生で初めてということはありませんのよ。

 ……まぁあっちではイノセンスなんて便利魔法はありませんでしたから、汚れまくって汗臭くてかないませんでしたけれど。

 虫が平気だったのは大きかったですわねー。触るのも食べるのもいけましてよ。食感がどうのとか言う人いますけれど、その口で同じ食感のエビとか貝類を食べているのでただの食わず嫌いだと思いますわ。生牡蠣とかまさにですし。生チョコも割合似てますわ。

 

「なんて、冗談ですわ。生肉ではなく焼いた肉を食べますのよ」

「それでも充分だが……まぁ、それも今日で終わりだ。魔力を使いたくないんだろう? おれ……じゃなくて私が連れていってやるから、ほら、手を」

「結構ですわ。あの時はああ言いましたけれど、今の私は非貴族同然ですの。この私をカカラパラゾへ入れると、あなたに罪がかかりますわ」

「なに? どういうことだ?」

「余計な詮索は身を滅ぼしますわよ」

「そうか。……滅ぼされてもいいから、君を助けたい。そう言ったら?」

「お断りしますわ。あなたに何かあると回りまわって私の友人が迷惑を被りそうなので」

 

 もしここで彼が打ち首刑なんかになってみろ。

 リベルタが生まれないかもしれませんのよ。……まぁ私が狩った野生動物が実は飢え死にしかけていた彼を救うギリギリの食事とかで、それを消したから彼が消えてリベルタも、というのも無くはないのですけれど。

 

「嫌だ」

「駄々をこねても無駄ですわ。ここで"はい?"となってあげるほど優しくなくてよ、私は」

「けど、嫌だ。おれは君が気になる! この四日間、居ても立っても居られなかったんだ。ここで君を置いていったら、これからの日々気になり続けて仕方がなくなる! おれの安眠のためにも一緒に来てくれ!」

「あなたが寝不足になって死ぬ分には致し方ありませんので、私の友人にも迷惑を被ってもらいますわ」

 

 流石に自己管理ができずに血筋が途絶えるとかは管理外ですのよ。勝手にしてくださいまし。

 

「どうしてもっていうなら──」

「言うのなら?」

「無理矢理連れていく! ウィンドクレイドル!」

「言うと思いましたわ~」

 

 風の籠。それをショベルで割断する。

 

「っ、よく見たらそれ清銀鉱(ミスリル)か!? そん……何を農具に使っているんだ!? 何を掘る気だったんだ!?」

「数ある農具の中で最も汎用性に長けた農具がショベルでしてよ。それを強化するのは当然のことですわ」

 

 ミスリルは強度に優れるだけじゃなく魔法に対しても高い耐性がある。だからアティアで強化をせずとも魔法の割断ができる。……ま、誰にでもできるとは言いませんわ。魔法の構造式と魔力の細部が視認できることと、その隙間にぴったりと刃を沿わせられる技術が必要ですの。

 

「あなたは……多分血筋的に困っている人を見捨てられないとかそんなところなのでしょうけれど、私が災厄であるとは考えませんの? カカラパラゾに連れ込めば災厄を齎すものだと」

「思わない! そして、そうなったとしたらおれが君を止める! 何より君は、こちらが善の心で接している限りは、善であり続けてくれる人のように思うから!」

「カカラパラゾに悪があれば、結局は、では?」

「そうなったら運と間が悪かっただけだ! 君は、あらゆるものごとにおいて、誰かの損となる行動を進んで取ることはない! おれはそう確信している!」

 

 ……ほとんどすれ違っただけのような関係性で、よくもまぁ。

 確実にリベルタの先祖ですわね。学園編はまだおどおどしていた彼女ですけれど、その後の成長でこうなりますのよ。こんな熱血系じゃありませんけれど。

 

 うーん。

 そこまで拒む必要は……まぁ、ありませんわね。誘致罪などに関しては……あ、いえ。

 

 リベルタの先祖だからといって、信じすぎじゃありませんの私。

 どう考えても……身分詐称をする何者かを穏便な手段でとらえるための嘘ではなくて? そんな熱量をかけるあたり、これに失敗するとお家が、とか。

 

 ……らしくない思考ですわね。

 

「その手は取りませんわ」

「どれだけ強情なんだ!?」

「けれど、私の旅路についてくることは許可しますの。旅、してみたかったのでしょう? 私が進む道と、私が叩き飛ばす門の壊れっぷりでも見ているといいですわ」

 

 そも、誰かに追従するか否かを悩む、など。

 ラファ・ダルクエルデの人生らしくなかったという話だ。

 

「……」

 

 唖然とした顔のアーダルブレヒト。火かき棒でも突っ込んでやろうかしら。

 

「それじゃ、私は睡眠を取りますので。……眠っている間に運ぼうとしても無駄ですわ。魔力の兆候が感知でき次第術者であるあなたを殺しに行きますのよ」

「……」

 

 呆けたままの彼を放って、麻袋を破って作った超簡易寝袋に身体を通す。袋の形すら成していないとかおだまりなさい。布が足りませんのよ。

 

 

 半透明な円柱状の門。身も蓋もないこと言ってしまうと口の部分を切り取ったペットボトルみたいな門の前に立つ。

 

「一応紹介しておくよ。ここがアムエナ=カカラパラゾの首都、カカラパラゾだ」

「ええ……大丈夫ですわ。見たこと、ありますから」

「……そうか」

 

 見覚えがある。ここは確かに四騎士らがいた過去だ。国の名前、首都の名前は知らなかったけど、確実に。

 でも。

 

「それじゃ、おれは手続きをしてくるよ」

「お仲間を集めてくると、そう素直に言えばいいですのに」

「どういう意味だ? おれはただ」

「こんな威圧的で、且つ誰も出入りの手続きに並んでいない。そもそも並ぶ場所も管理する場所もない。──客人用の入り口ではなく、魔物や敵国などを迎え撃つための入り口でしょう、ここは」

 

 覚えている。

 四騎士の手によって崩壊する太古。現れる災厄を迎え撃つ人々。それが、正面のアングルではなかったにせよ、ここのもので。

 加えて、国の反対側に列を成す魔力も感じ取れますわね。あそこが本来の入り口ですか。

 

()()()()()()()()のでしょう? 明らかに盗人で、明らかに怪しい風体だったのに、シュトゥーラ4-79の人々は口を割らなかった。それで疑いを深めて、調べた。ま、あなたの権限で調べられる範囲には限界があるでしょうし、他家の内情ともなれば迂闊に手出しはできなかったでしょうが……」

「ヴァラー、わかった、そんなにいうなら」

「耳元で渦巻く風の魔力。伝言の魔法を私が知らないとお思いで?」

 

 ナムトカルガだからといって、全員が全員じゃない。

 いや、あるいは全員が全員正義だからこそ、私を許せないのかもしれない。

 

「……わかった、すべて正直に話す。だからヴァラー、君も素顔を見せてほしい。そして、正式な名前を名乗ってほしい」

「交渉決裂ですわ。私、どうしても名乗れませんのよ」

「なら!」

 

 杖を構える彼の目は、私を正眼に捉えていて──。

 

「……おれを殺していってくれ。そうしなければおれは君を阻む。……できないだろ、君は」

「お生憎様ですわ~!」

 

 踏み込み、からのショベルで顔面殴打、からの跳びあがっての飛び蹴りをショベルに重ねる。

 上体から仰け反るようにしてぶっ飛ぶアーダルブレヒト。

 

「見込み違いですのよ。私、自身のためなら他者の損になることでもガンガンやりますわ」

 

 さ、乗り込みますわよ古代都市。そして若い頃の四騎士に遭い、太古崩壊をそそのかしますわ。

 できるだけ元の歴史のままになるよう間違いを犯させませんと……ね?

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