悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい! 作:レッドアリーマー
改めて、私の目的を話す。
「数日前、【綰摂の御姫】ことリリーガ
「……本気で言ってんのか、それ」
「ええ、統御の姫を信じるのならば」
「そりゃ信じるけどよ……。……で、そのある者達ってのが」
「聖ランパードーア学園にいるはずの……あるいはこれから入園するはずの四人ですの。私の目的、及び使命はそれの阻止。立場上表だって動くことのできないリリーガお姉様に代わり、彼女の元に預けられ育てられた私が赴くことになったのです」
十割嘘だ。でもまぁ、リリーガおば様は未来が見えるのですから、こういうアクシデント的巻き込みも許容してくださいますよね。
未来視を相手にする時は、相手が既にすべてを織り込み済みだと思って動くのがベストですわ。
「四人の名前、全部言ってくれ」
「エスタ・マグナ・レイムベルファグスレヒト、イジス・フルズ・ブルーノメリアラランシルス、モーモン・グレイブ・アーヴァンクルメクルケニス、パリス・ヴァン・ウェイフリークリンウェイフリン」
「……見事に大公の四家で、しかも蔑称的なネーミングか。……やっぱり聞いたことはないな」
「これは本筋とはあまり関係ないのですが、大公四家と属性六家の関係性って今どうなんですの?」
「んー。昔よりは良くなったとは思うけど、微妙なことに変わりはないって感じだ。フレイエルデはファグスレヒトがいる場所には出てこないし、ワインデルデはウェイフリンの悪い噂ばっか流してるし、ウォルデルデとラランシルスは……水面下で死ぬほどやりあってて、ソイルデルデとクルメクルケニスは蟠りは解消したって言っておきながらその後一切の交流がない」
四騎士たち大公四家がファグスレヒト、ラランシルス、クルメクルケニス、ウェイフリン。
現代まで続いているのがフレイエルデ、ウォルデルデ、ソイルデルデ、ワインデルデ。
「んで……サイグドルヒとダルクエルデはいつも通り静観っつか、サイグドルヒがずっと熱血でダルクエルデが冷静で、そこに挟まれるあたしたち普通の家々って感じだな」
その普通の家々にミルグドリヒやナムトカルガが含まれていると。
「そうですか……親交の深い家があれば、四人がそちらへ身を寄せている可能性も考えたのですが」
「ないないないない。例外中の例外が目の前にいる中で言うのもなんだけど、本来純血の子ってのは愛されて愛されて蝶よ花よと育てられるもんだ。そいつらも蔑称を与えられているとはいえ名乗りが許可されている以上純血なんだろう。未来でそういう子が生まれるってのはちょいいたたまれないが、貴族ってのは血を外に出すことを嫌う生き物だからな、他家に子供を預ける、ってことはしないと思うよ」
……成程。その辺は現代貴族とそう変わりませんのね。
私も一応蝶よ花よと育てられましたし。何回か……いえ、何百回か抜け出しましたけれど。
「とにかく私はその四人に接触して考えを改めさせねばなりませんの」
「つってもなー、まだ生まれてすらいないんじゃどうしようもないだろ」
「それはそうなのですが」
「ま、一回協力するって言ったし、何より本当ならあたしたち全員の問題だ。情報が入り次第即教えてやるから、ラファ、ここに住めよ」
「……」
「身寄り、ねえんだろ? ダルクエルデのもとには帰れねえって顔だしよ。その点あたしのとこはいいぞ。多少変なかっこしててもとやかく言われないしな」
魅力的な提案であるといえる。
が、四騎士がいつ生まれるかわからない以上、ただ待つだけというのは性に合わない。時代がずれているというのなら『
……とはいえ、「ただずれただけ」というのはどうしても気になる。
私がこの時代に送られたのには何か意味があるんじゃないかと。
だから。
「いえ、申し出はとてもありがたいのですが、私は一度カカラパラゾを離れますわ。リリーガお姉様にもう一度会いにいって、予言の真相を聞きますの」
「……そっか」
「ただ……お願いはありますわ」
「ん! なんだ?」
「次私がここへ来る時、身元保証人になってほしいんですの」
「おう、それくらいならお安い御用だ。……あ? ラファお前、カカラパラゾの外からきたのか。どうやって?」
「下水システムを通って侵入しましたわ。内緒ですわよ」
あとその前にナムトカルガがを殴り飛ばしていますわ。内緒ですわ~。
「……ダルクエルデならギリ……?」
「というわけで、私はやっぱりヴァラーに戻りますの。でも、ラファの名を呼んでくださる人が一人でもいること、嬉しく思いますわ。……またいつか会いましょう」
「だな。……おう、また、いつか」
「では、失礼しますわ。あ、これ貰っていきますわね」
カーテシーを決めて、デイラリちゃんの被り物を被って。
どこか寂しそうなティナさんにもう一度会釈をして……ミルグドリヒの道場を去る。
──さて。
とりあえず『永世盤久の宝珠』、破壊しにいきますか。
黄金の左手と白銀の右手。それに湛えられるようにしてある太陽を思わせる色合いのオーブ。
これなるが『永世盤久の宝珠』。
「いやーまさか警備システムにゴーレムがいようとは。でも人を配備していないのは杜撰ですわ~」
煌々と輝くそれに近付けば、決して低くない熱が肌を焼く。
このオーブが太古を保っている。その在り方を、その定めを。
四騎士の出生を待つ前に私がこれを破壊してしまえば大体同じですの。
「ナイトクロー」
ミスリル煌めくショベルに纏うは夜の闇。
それを握り、跳躍し、オーブの中心へ打撃をIN!
「っ……かぁったい……というより攻撃が無効化された感じですのね」
やっぱりか。『
つまりこれもアーティファクトというわけだ。
でも。
「アティア、ショベルの頭を覆う感じですわ」
薄らぼんやりと亡霊を纏うショベル。
感覚は今しがた倒してきたゴーレム、そしてマルスメディスの肉体を押し潰した時とも似ていた。
アーティファクトって物理的だけじゃなく精神的にも防護があるから壊せない説、ですわ。
「ナイトクロー・メテオ」
では改めて。
ちぇすとー!
まぁ無理でしたわ。
アーティファクト破壊は本当に課題ですわねーなんて考えながら道を行く。
ゴルズィオの真っ暗空間にいたはずがハウルエルの花畑にいた、という位置関係から考えても、やっぱりアムエナ=カカラパラゾのある位置は魔王領だと思うんですわよね。
だとすれば、まぁ大まかな大陸の形は同じだろうと予測できて、それができれば彼女の住処へも赴けるというもの。
アンデッドのいない朗らかな平原をひたすら西へ西へ進みますの。
食料は基本狩りでできるだけ村や街には寄らない方向で。恰好が怪しいのもそうですけど、どこに監視の目があるかわかりませんから。
あと魔族に出張られても面倒ですので。
しかしなんというか。
アンデッドって……普通にしていると出会わないものなのですねぇ。沼地とか洞窟とかにいけば出会うのでしょうけれど、普通に平原を歩いているだけだとめっきり遭わない。アンデッドを見ずに生涯を終える方もいるのでは、この時代。
太古崩壊を引き起こしたとしてもゾンビパニックが起きるまではまだまだ時間があるわけですし、流石にちょっと羨ましいですわ~。
ところで視界の端に見えるスケルトンソルジャーはなんであんなところにいますの? 私の安穏返してほしいのですけれど。
あらスケルトンの奥……あんなところに洞窟が。ははぁ、あの洞窟から漏れ出でたスケルトンですのね。
アンデッドではありますけれど、別に私アンデッドキラーというわけじゃありませんから、見逃しますわ~。
ところで戦闘音が聞こえるのは気のせいですの?
「ちょっとそこのキャラもの女! 少しでも良心があるならこの私を助けなさい!」
「欠片も良心がないのでスルーしても?」
「じゃあ悪の心でもいいから! ほら、こんな見目麗しい美少女に恩が売れるのよ! 早く助けなさい!」
「男性でしたらともかく、私は同性に興味のない少女なもので」
「ならアレ、下心! お金とか宝石とかあげるから!」
「一文無しではありますけれど、そうであっても生き永らえることができるので、不要ですわ」
「あーもう面倒臭い! アンタの欲しい情報をあげるから私を助けなさいって言ってんのよラファ・ダルクエルデ!」
ふむ。
ナイトクローの推進力だけを抽出し、ショベルにかける。そしてその場で跳躍。
前進しようとするショベルに引っ張られるようにしてスケルトンの群れへと着弾し、肉の無い骨群を一撃のもと屠り去る。
そうした上で、見目麗しい美少女さんを視界に収めた。
推定。
「リリーガ・ガルトゥング=ララ=ナルキレミソス。名の意味は?」
「
「ふぅん。ま、いいですわ。じゃあ、お久しぶりですの? それとも初めまして?」
骨山の中から手を伸ばしてきたスケルトン。その手を踏み砕き、肋骨の隙間からショベルを差し込んで上半身を折る。
「記憶としては、久しぶり。だけど私は私。未来の私じゃないから、はじめましてよ」
成程、知識だけ有していると。
未来視持ちはこれだから。
背後で組み上がりつつあった巨大なスケルトン。その胸骨にショベルを押し当て、持ち手に右拳を思い切り振り下ろす。
軽い音がして、それが倒れ行くのをしっかりと確認しつつ、もう一度少女を見る。
うん、やっぱり……なんとなくで察しはしましたけれど、リリーガ(ろうばのすがた)と今とでは全くの別人ですわね~。
「それで? どうしてこのような場所に?」
「今日アンタがカカラパラゾを抜けてくるって視えてたから。ついでに依頼にあったここの浄化も済ませようと思ってたんだけど、案外手間取っちゃってねー。助力、お願いできる?」
「ここ? 浄化?」
洞窟の方を見る。
……あれ、なんでこのただの洞窟なのにドアなんてついてますの? ボタンまでありますの。
「『魔物実験室2-3』。少し前に破棄された実験室なんだけど、どうやらやってることがやってることみたいでさ。凄まじい量の怨念と滲み出る侵蝕が住み着いちゃってて」
成程。
ふむ。まぁ、リリーガおば様には恩あるようなないようなですし、助けてあげてもいいのですけれど。
「先に聞いておかなければなりませんわ。──あなたは」
「私はアンタの味方よ。アンタがやろうとしてる世界崩壊も理解しているし、その背を押す気でいる。……これでいい?」
「ええ、その言葉が大事でしたわ。では」
やってることやってた実験室、れっつらごーですわ。
入ってすぐわかった。
「これは、中々!」
──"悲しいものだ"。"いつの時代も"、"人間は変わらぬか"。
いるわいるわアンデッドの群れ。この世界のアンデッドは種族として成立しているけれど、アティアがそうであるように強い執念や怨念から実体化することも少なくはない。
洞窟の中はアンデッドの巣窟だった。スケルトン、ゾンビ、ゴースト。動物霊だけでなく人間霊もいますから、これは。こーれは。
「こういうのを未然に防ぐ……やめさせる、というのはできませんの、【綰摂の御姫】様!」
「忙しい! 以上!」
ヒュウ簡潔。
……まぁ、そうだろう。人間が一生に見ることのできる映像の量は定められている。未来を視ることにおいて時間的加速が発生しないのなら、大事なシーンだけを優先して見ることになるのは当然か。
あーけど、いやー。
久々にアンデッドと戦っていますけれど……なんというか実家感ありますわ。もうあれに慣れちゃっていますわねーこれねー。
「っていうかアンタ、なんでそんな喋り方なの!?」
「喋り方? ですの?」
「それよそれ! 私が視た未来では、アンタそんなツクリモノみたいな喋り方してなかったじゃない!」
酷いな。由緒正しきお嬢様言葉なのに。
「そんなに気になりますの?」
「気になるっていうか、違和感! 気が散る!」
「──そうか」
ショベルを一閃する。
「なれば一時、言葉を元に戻してみようか?」
「そうそうそれそれ! 私が知ってるのはソッチ!」
「……なんかやりづらいですわ~。もう私これがデフォルトになっているのでこっちにしますの」
「えー!」
案外余裕ですわね。私の助力要らなかったのでは?
というかここ何層ありますの? 感知する限りかなり下の方まで魔物がいるのですけれど。
「別にここ、ダンジョンというわけでもないのですよね。破壊は?」
「問題ないわ!」
「では遠慮なく」
ショベルを地面に突き刺し、その先端にグラヴィティパルスを発生させる。
数秒遅れて破裂するパルス。床も壁もなんのその、バコボコ破壊して降っていく。
「……いや。実際に目で見てみるととんでもない闇属性親和率ねー。ダルクエルデの純血だと考えてもなーんか妙。母親の旧姓とか知ってる?」
「父親も母親もダルクエルデでしてよ。貴族の純血主義は未来でも同じですわ」
「ああそっか。……あと考えられるのは魂の問題だけど、見た感じ特に特別な魂でもないのよねー。あ、未来でアンタが唯一の純粋で無垢なる魂になるのは知っているんだけどさ」
「属性親和率については個人差が出るものですし、決まったパターンがあるわけではないのでは?」
「それはそうなんだけど……なんていうの? 他が下限四十五上限五十五パーセントの中で個人差個人差って言い争っているところにアンタは百パーセント、みたいな。個人差と言ってもね、みたいな」
成程わかりやすい。
……まーこれでも一応三大悪役の一人ですし? 光+火水土風な主人公パーティに対しての闇属性ですし?
主役級とはいかないまでも、そこくらいは高く設定しておいてもらいませんと、って感じ。
──異音。
咄嗟にスワンプバインドを使い、減速する。
くるんと一回転して着地すれば……最下層ではないにせよ、何やら大事そうな実験装置のあるフロア。
様々な動物・魔物が培養槽に入れられていますわ。流石に人間はない……のかしら。幾つか空いている培養槽があるから、そこに入っていた可能性は無きにしも非ずですけれど。
で、さっきの異音の正体は。
「……人?」
「じゃないわねー。滲み出る侵蝕よ。構えなさい」
おお、判別機がいてくれると助かりますわね。
異音の正体はその魔族が机で何かをかちゃこちゃやっている音でしたの。
そいつは私達に気付いているのかいないのか、あるいは無視しているだけなのか……こちらに背を向けたまま振り返ろうともしない。
「グラヴィティパルス」
「ちょ」
だから、設置する。多くの魔物の入った培養槽に、破砕の魔法を。
私を無視とは良い度胸ですわ~。
これを受けて、ようやく、といった様子でこちらを見る魔族。
後ろ姿は人でしたけど、果たしてどんな──。
「あ……あのさ。僕、君達の邪魔するつもりないからさ……や、やめてくれないかな」
「……河童?」
頭頂のお皿に水かきのある手。緑の肌。
似ているとか彷彿とさせるではなく、THE☆COPPERな河童さんがそこにいましたわ。
まさか……サハギンの祖先って、河童……なんですの?