悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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追滅!

 おどおどした様子の魔族。恐らく男性であろう彼はしきりに周囲を確認している。

 

「あのさ、えと、解除してほしいな」

「別にここ、あなたの実験室というわけではないでしょう。人間の持ち物で遊ぶ人間でないものにどんな配慮をしろと?」

「えっ、あー……いや、でも、ボロボロだった設備を直したの、僕だし……」

「ではあなた達滲み出る侵蝕改め魔族の作っていた巣穴、大きくなる前に壊しますわ」

「うわ……僕たちを一種族と認めて尚なんだ……。相互理解は無理って()()()()()けれど、本当にそうみたい……」

 

 グラヴィティパルスを掛け直す。これにより破裂までの時間が数え直しになる。

 

「聞いていた。誰から?」

「言う義理はな、ないかな……」

「コレ、壊されたくなければ言いなさい」

「すごいわー、これ完全にこっちが悪役だもの」

 

 悪役令嬢ですからね。

 

「……言ったら壊さないって約束してくれる?」

「要求を突きつけているのはこちらですわ?」

「はぁ。……魔なる者の王。魔王。そう名乗り始めた存在からだよ」

「そうですのね」

「っ、正直に、ェァ──」

 

 意外性も驚きもゼロでしたので、正面からショベルを突き出して首を断つ。

 おどおどしてるとか非戦闘員っぽいとか関係ありませんわ。

 相互理解は無理なのです。魔族はちゃんと人間を脅かしている。それは彼らの作るもの全てが人間を害するものとなるように、決定された事実。

 無害アピールは無駄ですのよ。

 

 そして、あれだけ苦しめられたゴム質の首も、ナイトクローの推進力を用いることで克服に成功した。

 これで未来のサハギンも狩りまくれますの。まぁこのカッパさんが死んだらサハギン全滅ってルートもあり得るかもですが。

 

「……知っちゃいたけど、ほんっとえげつないわねアンタ」

「凄いと言ってくださいまし~」

 

 グラヴィティパルスを消す。破裂させないのは中にいる動物が可哀想だからですわ~。

 

 疑問は残っている。

 ハウルエルの花畑に来た魔族の尖兵は「報告にあった骨頭の女」と言っていた。こちらも伝聞の形だったからまさか、と考えたのだ。魔王城の誰かが過去へ跳んでいて、それが私に恨みのある誰かで、リークが起きたんじゃないかと。

 此度の伝聞と花畑での伝聞が同一の情報源であるのなら、それがこの「ズレ」を引き起こした誰かなのかもしれない、と。

 

 だったら殺さず尋問しろと仰るそこのあなた。

 同行者がいなければそうしていましたわ。……でも、リリーガの許容範囲が分からないことを理由に敵対したくはありませんのよ。

 

 

 またぞろ直下掘りで辿り着いた最深部。

 そこに「うわぁ」となるものがあった。

 

「これ……ミスリルの鉱脈ですの?」

「みたいね。怨念がこうも集まっているのはこれのせい。本来染みついた血と共に地の底へ落ちていく悪霊が、これのせいで降りられなくて地上へ逃げた。事の真相はこんなところかしらね」

 

 ミスリル。ミスリルですって。

 え、これ絶対鍵に加工するじゃありませんの。で……あ、じゃあなるほど、さっきの動物の中にドラゴンの祖先……トカゲみたいなのがいて、私はそれにミスリルで作った鍵を渡すのですわ。

 

 どういう状況ですの?

 

「これ、どうやって解決しますの?」

「置換するのよ。このために家の裏に鉄鉱石の鉱脈を育てておいたんだから、鉱脈同士を置換する形で入れ替えるわ」

「このためにの方は未来視で説明がつきますけれど、置換はどのようにして?」

「魔法を使うの。属性魔法でも終局魔法でもない、元来の魔法をね」

 

 ピンと百レネント硬貨を弾くリリーガおば様。もといリリーガちゃん。……リリーガでいいですわね。

 くるくると回転して落ちてくるそれを逆手で掴み、なぜか「きゃるんっ」という効果音の出そうなウィンクとギャルピースを挟んでから詠唱を始めた。

 

「剣の踊り、盾の大笑い。篝火の舞い、油差しのすすり泣く声。青巒とは美郷、絢爛とは夢現。幾億万を弥増り、立ち上がりしは無敵の巨人!」

 

 パン、と大きく手を打つリリーガ。

 直後、ミスリルの鉱脈は鉄の鉱脈に姿を変えていた。

 

 ……え。

 

「大魔法にも程がありません? こんなの使ったらあなた」

「……大正解。だから……助力が必要だったのよ。……あと頼んだわ」

 

 がくりと失神するリリーガ。……アッシー君じゃありませんのよ私。

 

 ま、あとは上るだけ。加重トレーニングだと思えばまぁ。

 ……あれ? え、で、ミスリルの鍵とドラゴンは?

 

 

 リリーガを背負って普通の順路を行くこと三十分くらい。

 

「ふぅ……やっぱり持久力と筋力はまだまだですわね……」

 

 これが戦場であればランナーズハイでどうとでもなるのですけれど、ある程度の平和を理解しているからか身体が中々追いつかない。

 やっとこさ着いたさっきの実験室。培養槽の動物は……そのままだ。死んでもいない。

 

「……さーて、実験のお時間ですのよ?」

 

 この動物たちを逃がさなかった理由など決まっている。

 私が実験を行いたいからだ。それも、倫理から大きく外れた実験を。……さっきの拷問するしないもそうですけれど、リリーガがどれほど許容できるかわからないですからね。

 

 ではまず取り出しますは、兎っぽい動物。一応兎じゃない。なぜって耳が四つあるから。現代にいるのは二つ耳なので、進化の過程で無くなったのでしょうね。

 長い間培養液の中にいたからかぐったりしているソレ。でも生きてはいる様子なので、その耳をむんずと掴んで──今しがた通ってきた通路で「捕獲」したゾンビの前に差し出す。

 不浄の爪によるひっかきがウサギモドキに当たる……も、ウサギモドキがどうにかなる様子はない。

 私への噛みつき攻撃を誘い、それを躱してウサギモドキの耳を齧らせる。唐突な痛みに飛び起きるウサギモドキはしかし、やはりどうにかなる様子がない。

 最後に暴れるウサギモドキを捕獲したゾンビたちのもとへ放り投げる。瞬く間に殺されるウサギモドキ。

 

「……やはりアンデッド化はしませんのね」

 

 アンデッド化。魔王が言っていた、「『長老球(エルダーコア)』があった頃は魔族がアンデッド化することはなかった」という話。けど、その後『不死根(デッドレス)』や百代魔王の話が出てきて、おや? と思ったのだ。

 元々『長老球(エルダーコア)』なるものは存在しなかった。百代魔王が作り上げた……あるいはゴルズィオが演出したものであるとして、ではアンデッド化については『長老球(エルダーコア)』の操作範囲にないのではないか、と。初めから引っかかれたり噛みつかれたりする程度じゃどの生物もアンデッド化の感染をすることなく、『不死根(デッドレス)』が現れてからそうなったのではないかと。ゲームでもアンデッドの「ひっかき攻撃」や「かみつき攻撃」を食らったとてメンバーの誰かがアンデッド化することなんてありませんでしたし。

 ゴルズィオはまるで私の推測が正解のように……「百代魔王の力を欲して、ついでに当代魔王の力も欲して彼の前に『不死根(デッドレス)』を出現させた」というような自供をしていましたけれど、『不死根(デッドレス)』には『不死根(デッドレス)』で意味があって、あれは「アンデッドの暴走以外にも強化を担っているのではないか」と。

 

 これがわかると何がわかるか。

 少なくとも『不死根(デッドレス)』に込められているものが「百代魔王の魔力だけではない」ということがわかりますわ。噛むことによるアンデッドの感染、その感染力の強化を行う魔力も封じられているはず。

 これは基礎中の基礎、初歩の初歩ですけれど、別種の魔力というのは決して混ざりあわないのです。交ざることはあっても混ざらない。

 であるのならば綻びが必ずある。やみくもに破壊法を探すより、こうして魔力的に分析した方がまだ希望も見えるというもの。

 

 さて、サンプル数を増やしますわよ。このウサギモドキがたまたま耐性を持っていただけの可能性もありますわ。

 本当は人で試したいのですけれど、その辺りのラインは私にもありましてよ。だからできるだけ大きい生物で。だからできるだけ、ヒトに近い形をした生物で。

 

 さぁさ太古のゾンビさん方。ご飯の時間ですわ~。

 

 

 すべての死体、すべての設備を破壊し尽くし埋め尽くし、証拠を隠滅して外に出る。 

 すっかり夕方になった空にぐっと伸びをして、背負っているリリーガをしっかり背負い直す。

 

 起きませんわね。

 魔力枯渇はどれほど強い存在でも昏倒する状態異常だ。魔力が回復するのを待つ以外で解除方法は存在せず、元の魔力量の一割が回復するまで昏倒し続ける。回復量/secは個人差があるので何とも言えないけれど、リリーガほどの魔法使いならば途方もない時間がかかるかもしれない。

 なお、魔力量の低い者達……平民や聖騎士らは昏倒自体を経験したことがないという者も多い。これは昏倒まで行っても瞬時に一割分が回復しきるからで、実際のところクラクラくらいはしているはずだ。

 ……これまた「なお」なんだけど、無理矢理魔力を回復させれば起きるっちゃ起きる。ですわ。

 気絶するほど不味いと噂の魔力回復ポーションを気絶している相手に飲ませれば起きるのですわ。それ魔力が回復して起きているのかマズすぎて起きているのかどっちですの?

 

 ──魔力の潮流。光、音。

 咄嗟にリリーガを投げ捨て、ショベルでガードする。

 

 直撃するは極光のビーム。ショベル全体にナイトクローを纏い、光を食らわせて相殺した。

 

「いきなりご挨拶ですのね。フラれたのがそんなにキましたの?」

「カカラパラゾへの不法侵入及び【綰摂の御姫】様誘拐の容疑でヴァラー、君を捕らえる。──観念しろ。最初から全力だ」

 

 光線の発射元にいたのはアーダルブレヒトだ。彼が宙を飛んで、周囲に三人の魔法使いを携えて、こちらを見下ろしている。

 ──ハ。

 

「たかだか四人で私の討伐を組んだのですか? 舐められたものですわ~。……あと良く私だってわかりましたわね。前とは顔が違いますのに」

「何かを被っていて、農具を武器としている。こんな特徴に当てはまる人はそうそういないよ」

「わかりませんわよ。この世に同じ顔は三人いると言いますし、これ……デイラリちゃん好きな農家の方であればその条件にも合致するでしょう」

「そうか、大人しく捕まる気はないんだな」

「光属性ですものね、もう一回鼻っ柱折ったって大丈夫ですわよね」

「ああ、残念だ。──心得の旗。風にたなびく射落ち星。手を合わせ赤子に祈る乳母」

 

 ──光属性の終局魔法の詠唱!

 こーれは頭にキてますのね。リリーガを巻き込みますわよこの位置!

 

 彼の詠唱する時間を稼ぐためか、他の三人がこちらへ杖を向けてくる。降りてきて戦うような愚は犯しませんか。

 剣持ちが一人もいないあたり時代の魔法思想に染まった集団だと判断しますわ。そして、降りてこないのなら、私が行くまでですの。

 

「アティア、翼を」

 

 ──"前も言ったが"、"上昇はできないぞ"。

 

「上昇は自分でやりますわ。あなたの役目は威圧と滑空のための風受けですの」

 

 めきめきと……凡そ亡霊に使うには相応しくない擬音を立てて、私の肩甲骨のあたりから半透明の翼が生える。

 

「!? 何だあれは!」

「おいアーダルブレヒト、やっぱり滲み出る侵蝕だったんじゃ」

「油断はしないでくれ、ヒェロニムス。──刺し貫く貫木(かんぬき)。泥を啜る太陽。一条に編まれる末日の鎮魂歌(わかれ)──」

 

 さすがに詠唱が早いですわね! エルレビの倍はありますわ!

 

 グラヴィティパルスを蹴って蹴って蹴ってで空中を行き、翼をはためかせて位置を調整する。 

 急に射程圏内どころか間合いにまで入ってきた私に驚いたらしい魔法使い三人。ぐらついた陣形の右手側に向かって突進し、ナイトクローを纏ったショベルを振り下ろす。

 

「ッ、バーニングトーネード!」

「遅い」

 

 炎と風の竜巻をショベルで切り裂き、肉迫して顔面に膝を叩き込む。

 あ、ですわ、言い忘れましたわ。

 

「クラインハルト! このっ!」

「激情するとアドバンテージを失うのはそういう性質なのでしょうかね、人間の」

 

 鼻血を出しているクラインハルトさんの顔面を蹴って後方宙返りをし、突っ込んできた方を躱しながらショベルによる殴打を入れる。

 

「バルカ・カノン!」

 

 ヒェロニムスと呼ばれた方から放たれるは闇と水属性らしい砲弾。後方宙返り中の私に直撃するコースで放ってきたその魔法に──乗る。

 

「なんっ……!?」

「魔法が斬れるのですから、乗れもするでしょう」

「この──」

「いい、ヒェロニムス。飛翔の魔法を切って自由落下してくれ。──終局魔法:眩しかった日々(ピルグリム)

 

 極光。

 とんでもない──人一人に放つとは到底思えない魔力量。

 咄嗟に行ったショベルでのガードもあまり意味を成していない。アティアの装甲は装甲と言えない防御力しかない。

 万事休すか。

 

 なんて。

 

「なぜ私が逃げ場や盾の無い空中へ来たのか理解できなかったですわね?」

 

 ()()

 光を。光の束を。

 そして、掻き分けていく。

 

「な……どういう……!」

「掴めることについてはどうでもいいでしょう。斬れるのだから乗れるのだから、当然掴めもしますわ。そして」

 

 掻き分ける。掴んだ光を自らの後方へ捨てていく。

 アティアの力、だけじゃない。身体に薄く纏うような量を滲み出させ続けている闇の魔力が今私が無事な理由だ。

 

「魔力を……魔法にせず、体外へ出す、だと!? そんなことは不可能だ!」

「ええ、私も結構苦労しましたのよ。割合天才肌なところがあった自負があったのですけれどね、こればかりは時間をかけました」

 

 いつか述べたように、魔法とは魔力が術者の想像力を食らって世に出る式を指す。

 魔力の譲渡や測定というものはできず、身体強化くらいでしか魔力の存在を認識することはできない。それほどに外に出てこないのが魔力だ。属性の違いくらいは訓練すれば見えますけれど。

 

 魔力をそのまま出すのは、怪我をせずに血だけを出しているようなもの。……例えが悪いですわ。あーっと、タンクとシンクはあるけど水道も蛇口もない家のシンクに水を流すみたいな……とにかく出口がないのに中身を出すみたいな話ですの。

 もしこれが誰にでもできるのならアンデッド化魔力だって災いになっていませんのよ。アンデッド化魔力だって防げますからね、これ。

 

 ただここで、予想外の事が起きますの。

 

 ……当然のことですけれど、ショベルはミスリル製だから含めないにしても、身体の周囲に薄く出した闇の魔力は、デイラリちゃんの被り物、なんて特殊な形状を想定していないのですわ。だから極光の奔流はこれをジュッしていくと。ジュッ。

 骨であれば何か違ったのかもしれませんけど、別段特別な素材で作られているわけでもない被り物は一瞬でジュッしましたわ。

 

 ──露になるは、私の容姿。

 

「……凄まじく高い闇属性の親和率に……その目、その髪は」

「は……はぁ!? まさかこのお嬢さんダルクエルデの純血か!? そんなやべーのの子供がなんでこんなことを……」

「おいアーダルブレヒト、これ大丈夫なのか? 正式な任務なのか!?」

「痛っテテテ……ぁー、完全に鼻の骨がいったなこりゃ……。アーダルブでヒト、後で治してくでよー」

 

 続々と復帰してくるお仲間の皆さん。

 このままだと落ちるので、定期的にグラヴィティパルスを足元で破裂させる私。

 

「……私の容姿を見た程度で、憶測を立て、士気を下げる。修練を積んだチームではなく烏合の衆のようですわね」

「ヴァラー。君の名を教えてくれ。それ如何では……君の罪を取り下げよう」

「結構ですわ。あなたが報告し、あなたが任を負っている。その時点でカカラパラゾの定める罪の重さなどたかが知れているというものでしょう。定めた相手の人生のすべてを背負う覚悟もないのに罪人と認定したのであれば、それはカカラパラゾではなくアーダルブレヒトという一個人のたかが知れたというだけの話」

「……」

「光属性持ちは己の正義に従うもの。ですが、私が誰であったかどうかで杖を下げるなどというくだらぬ信念は捨てなさい。さぁ、魔法を番え直しなさいな。──これは殺し合いですのよ、もう」

 

 固唾を飲んで、

 覚悟を決めたように、アーダルブレヒトが杖を握り直し──。

 

「馬鹿言ってんじゃない! 私がここに出張ってきてる時点で時間がないのを察しなさい! 転移!」

「あらおはようございますの~」

 

 転移した。……まーたそんな大魔法使って。ここで立ち往生していたのはそもそもあなたが惰眠を貪っていたからですのよ? もう一回気絶しますわよ?

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