悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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別滅!

 おかしな空間にいた。

 夢……ではない気がする。気がするだけ。アティアも感じなければ魔力も練られないのに、夢ではない感じ。

 

 ふと、正面に立っている人影を見つけた。

 それは……私。髪をばっさりとやって、着ているものも随分とみすぼらしくなった、私。

 

 あれは──。

 

「あなたは、いわゆる並行世界の私、というやつですのね」

「ふん、なんだその口調は。語尾だけラファ・ダルクエルデに寄せたのか? 正直評判悪いだろう」

 

 手に持っているのはミスリルで出来た槍。あらまぁちゃんとした武器だこと。

 それに、使いやすいものを……。

 

「何かご用、というわけでもありませんのね。ただ混線してしまっただけかしら」

「そのようだな。……何があったらその道を辿る」

「時代に適応しただけですわ。今も、昔も。あなたもそうでしょう?」

「……成程、そちらの世界も知っている通りには進まなかったか」

「ええ、とっても」

 

 話す。こちらの世界の変わりようを。初手「まず、ゾンビパニックが起きましたの」は強かったらしい。思ったよりは驚いてくれなかったけど、楽しそうだと羨ましがられた。

 そこから話すは取り留めのない今まで。なんやかんやあって今派生世界の過去にいることを話すと、彼女は「それでか」と得心をしたらしかった。

 

「こちらの世界ではそのような事象は起きていないが、ラファ・ダルクエルデは処刑になった」

「え」

「リベルタへの嫌がらせ……ではなく、魔族との関与が疑われたためだ。正直身に覚えがないので嵌められたのだと考えているが、とにかく処刑となって、逃げた。私の今の身分は魔王軍情報管制官になる」

「がっつり関与っていうか寝返ってるじゃありませんの」

「魔族の方が色々楽でな。既に居心地がいいよ」

 

 ……そういう未来もあったんだなぁ、って。

 私は……無い。残念ながら、あの国への愛が強すぎる。「転生者」という括りで見たらびっくりするくらい愛国心が強いのだ、私は。

 

「そして、此度私は"勇者らが過去を変えようとしている、それによって魔族の根幹が揺るがされる可能性がある"という理由で『(これまで)(これから)の墓所』に赴いた。未だリベルタらが辿り着いておらず、そして誰に守られているわけでもない『脚本(たなごころ)』を発見した私は──これの破壊を試みた」

「え゛」

「失敗したがな。そうして気付けば、花畑にいた。あとはお前の旅路から、そのクオンという少女を差し引けば、大体同じだ。こちらにもアーダルプレヒト、クリスティナがいたし、リリーガもいた。リベルタとは会っていないが、もしかしたらいるのかもしれない。ああ、問題児四人組もちゃんといたぞ」

「初代勇者は、そちらにいませんの?」

「勇者かどうかは知らんが、弟子にしてくれとせがんでくる少女はいた。何分剣才があるわけでもなし、初めは渋ったが、しつこくてな。少しだけ相手をしてやったよ」

「それがクオンでないのなら、その子が勇者っぽいですわね」

「アレが……? 勇者というのはもっとこう……成長後リベルタのような、慈愛と強さを両立した存在ではないのか?」

「私もそう思いますけれど、残念ながら」

 

 ……さて。

 えーと。話したいことは全て話しましたわよね? この混線いつ終わるんですの?

 

 あと話すべきは……あ。そうだ。

 

「あなたのその槍、どのようにして手に入れましたの?」

「これか。これはまぁ……元々は鉄の槍を使っていたんだが……あー、丁度良くミスリルが手に入ってな。空中都市セルマ=ラグティアの武器工房を使って強化した」

「自分相手に誤魔化さなくても結構ですわ。私のこれは、『行く末の鍵』なるアイテムをドラゴンから渡され、それを強化素材にしましたの」

「……成程、どこまでいっても私か。これは『道のりの錠』というアイテムをドラゴンより渡され、それを強化素材にした」

 

 この口調でもやるこた同じって話ですわ~!

 

 ……ほんとね。大切なものを強化素材にとか、本当に。あ、ですわ。

 

「受け継がれたものは違えど、結局はドラゴンですのね。この過去に来てからドラゴンらしきもの、見ましたの?」

「いいや。それらしき実験室には巡り合ったが、いなかったな。……そういえばあの大量のミスリル、リリーガはどこへやったのか」

「ナイス思い出しですわ。私も忘れていましたの。……いえ無いとは思うのですけれど、お互いにちゃんとやるべきことをやらないと、それぞれの武器が消える、みたいな……ちょっと心配ですわ」

「なんだ、不安か? ミスリルが鉄製に戻ろうとやることは変わらぬだろう」

「攻撃力なんてあればあるだけいいのですわ?」

「それは違いないな」

 

 さて……そろそろ……あのー?

 世界がこう、白くなって、起きる……みたいになりませんか?

 

 それとも──と。

 互いに武器を構える。

 

「考えることは一緒ですのね」

「ほとほと呆れた戦闘狂だ。なんにせよ──」

「行きますわよ!」

「応!」

 

 ショベルを振り上げ、それを脳天に──。

 

 ぺちん。

 

「……あら。私がリリーガに変わっていて、ショベルが素手になっていますわ」

「意味わかんないんだけど。あと、いくら霊薬のお風呂だからって、窒息は普通にするんだから……お風呂で寝るのはやめなさい。運ぶの大変だったんだから」

「それはありがとうございますわ」

「はいはい。目を覚ましたらご飯よ。二人の勇者が庭にいるはずだから、呼んできて」

「はーい、ですわ」

 

 全く……私はアンタらのお母さんかっての、なんて言いながら食卓の方へと消えていくリリーガ。お似合いですわよリリーガおば様。

 

 で、見渡せば……リリーガの家。

 あら。あらら? 結局やっぱり夢だったのかしら?

 そんな感覚なかったのですけれど……あるいはここが夢?

 

 ──"多少は焦った"。"あの姫巫女は気付いていなかったが"、"ひとときの間"、"お前の中から魂が消えうせていた"。

 ──"無事で何よりだ"。

 

「あなたすっかり亡霊らしくなくなりましたわね。魔王との戦いの後、魔族の追撃で落下した私の身体も減速滑空で守ってくれていましたし」

 

 ──"元より我々は"、"人間への恨みを持つ存在ではない"。

 ──"魔族と共に過ごしている時は見極めが必要だとも考えたが"、"今のお前を助けない理由が我々にはなかった"。

 

「成仏はできそうにありませんの? まぁ仏も何もですけれど。要は未練を断ち切ることは、という意味ですわ」

 

 ──"難しい"、"我々も最早"、"誰がどれほどの恨みを抱いているかを正確に推し量ることはできていない"。

 ──"数万"、"数億に上る人類の歴史"。"その中で積み上げられてきた弱き亡霊"。"それがこのアティアというすべて"。

 ──"古く"、"存在の重みだけの亡霊は"、"魔族のいない時代のものも含まれる"。"それは誰かへ恨みで"、"これを癒すには何が必要か"。

 ──"同時に"、"お前の生き様を眺め"、"その足掛かりとなることが心地よく思えている部分もある"。"弱き者"、"お前のいう敗北者たちが見ることの適わない世界を"、"お前は見せてくれるから"。

 

「長いですわ。要するにまだまだついてきたいから捨てないでくれ、ですのね?」

 

 ──"……"、"まぁ"、"それでいい"。

 ──"お前が真に王となった時"、"あるいはこちら側に来た時"、"ようやくお前から離れるのかもしれないが"、"その時までは"。

 ──"亡霊は"、"ラファ・ダルクエルデの翼となり手足となろう"。

 

「私、死んだ程度で王になるのを諦めるつもりはありませんけれどね。むしろあなたたちという死後も現世に干渉できる存在の証明がいるのですから、私も亡霊となってなお人々を導きますわ。ゴーストキング、レイスキング……あ、クイーンですのね」

 

 ──"その時は遠慮なく燃料にしてくれ"。

 

「ええ、全て食らい尽くしますのよ」

 

 ……で。

 

 え、魂抜けてたって、何事?

 

 ──"我々にも理由はわからない"。"お前の器に穴があるわけでもない"。"誰かに連れていかれたという感じでも無かった"。

 ──"あるいはそのミスリルが原因かもしれないが"。

 

「ミスリルが?」

 

 ──"ミスリルは精銀鉱と書くが"、"別称を励魂鉱とも言う"。"これはミスリルの輝きが夜"、"我々亡霊が放つ光に似ていることから名付けられたものだが"、"実際に魂へ干渉できる実績がある"。

 ──"魔剣ソウルアティア"。"あれもミスリルで作られた魔剣だ"。

 

 ああ、魂を断つ斬撃の。

 ふぅん……ですけど、だとしてなぜ、ですわね。

 ミスリルのショベル背負ってたら魂が別世界と混線した、とか。ラノベのタイトルにもなりませんわよ。

 それに全てがそうなるのなら、魔王なんか毎回毎回なっていてもおかしくはありませんわ。

 

 ──"これは余談だが"、"お前の肉体と魂の繋がりは"、"他者よりも僅かに希薄であるように感じる"。

 ──"お前の鮮烈なる強さ……凄さに対して"、"肉体が平凡であることが"、"どこか奇妙だ"。

 ──"原因はそれかもしれない"。

 

「繰り返しますけれどだとしてなぜですわ。原因がわかっても理由がさっぱりですのよ」

 

 ──"しばらくお前の魂を注意深く監視しよう"。"何か異変や兆候があれば知らせる"。

 

「ありがとうございますわ~」

 

 そう頻繁に抜け出でるようでは……流石に古いですけれど幽体離脱の芸を披露しなくてはなりませんからね。

 

 

 杖と剣が重なり合う。

 少ない資源の未来で手に取った杖。愛剣が折られてしまったことで適当なものを借りただけの剣。

 打ち合う想定でない二つがぶつかり合って……杖が押し切られる。

 

「っ……」

「三十六回目……。未来の勇者っていうのは、そんなに弱くても務まるんだね」

「返す言葉はない、かな……。今まで……前衛、まかせっきりで……私は魔法の準備時間まで稼いでもらっていたから……」

「……そういう道もある、ってことか」

 

 そこにパチパチと拍手を挟むは……私。

 

「あ、ラファ。起きたんだ」

「師匠。……あ、いやこれは、頼まれてやっているのであって」

「別に責めたりしませんわよ。おはようですの、リベルタ、クオン。リリーガが呼んでいますわ。食事ですって」

 

 なんでしょうね。私と手合わせをしていた頃より強い……というか。

 何か別のものが見えているような動きでしたけれど。

 

 

 食事。私は流石に慣れましたけれど、どうやらリベルタは本当に久々の「食事らしい食事」だったようで、感涙していましたわ。

 だから当然食べるのが遅くって……。それを邪魔するのもあれなので、一足先に私とクオンで食後の一休み……ならぬ、運動を。

 

「クオン。あなたなんだか大層な肩書きを有しているらしいじゃありませんの」

「あ、いや、その……」

「【極剣の御姫】って具体的に何ができますの?」

「えーっと……。……今を見通せます。だから……たとえば」

 

 クオンが拾い上げるは、花畑にあった手頃な石。

 それを彼女は──綺麗な真っ二つに割ってみせた。

 叩いたわけでも斬ったわけでもない。ただ割った……双方向に引っ張っただけ。

 

「わかりますか?」

「……原理はさっぱり。何が起きたのかはわかりますわ」

「それは……凄いです。みんな、最初から割ってあったんじゃないかとか、内部で魔法を使ったんじゃないかとかって言いますけど」

「どこにどう力を加えればどう破壊できるかがわかる。逆に、どのようにして押さえればくっつくのかもわかるんじゃありません?」

「はい。ただそれをするには色々足りないものがあって、できません」

 

 ふむ。

 

「戦闘に活かせたら強そうですけれど、なんでやりませんの?」

「手加減ができないのと、注視しなきゃいけないから、高速戦闘には向かなくて」

「そんなのただの訓練不足ですわ?」

「うっ」

「あと、手加減も何も、滲み出る侵蝕……魔族相手なら必要ありませんわ?」

「そう……です」

「ああ、毎回毎回壊してしまうから訓練にならないと言いたいのですわね」

「あ、はい! そうで、」

 

 言葉は最後まで紡がれなかった。

 彼女の眼前に死があったから。

 

 それをクオンは、既のことで上体を逸らして避ける。反応自体はギリギリだったのに姿勢移行はあらかじめわかっていたかのようなスムーズさだった。……なるほど、どうしたら壊れないか、つまり防御にも見通しは使えると。

 

「っ──」

「ここ、丁度良くなんでも治せる霊薬のお風呂がありましてよ。──自分に非があるとわかっていながら言い訳をして、それでいて助け船に喜んでしまうような腐った精神──ここで叩き直しますわ。その見通しの力、全て使いなさい。それでも壊せないものがあり、それでも敵わない相手がいることを教えてあげますの」

 

 ぱちくりと瞬きをするクオン。その瞼の動きに合わせて踏み込み、肉迫する。

 大体の生物が意図していない限りは両目同時に瞬きしますからね。どっちか片方ずつにしたほうがいいですわよ危ないので。

 

 ショベルの横薙ぎ。しかしこれは下がられて避けられる。

 その内に迫る剣はなめらかにしなやかに私の命を刈り取るコース。なるほどとっかかりのない剣筋ですわ。これは中々読み難い。

 ですけど──と、剣を膝で弾き上げる。そして、その剣の弾き切られぬ内に間合いへ飛び込めば……当然剣先が頬を薙いで傷が出来る。けれど、けれどと。

 自傷を厭わぬとばかりに、抱き着かんと言わんばかりに踏み込んで、すれ違って、死角から狙うは彼女の腰。

 

「──すごい。そっか、回避できなくしちゃえばいいんだ」

「余裕ですわね?」

「そんなことないけど、この力を使っている時は、どこか超常的になる自覚がある」

 

 止められた。ショベルの切先を指で抓まれて。

 力はそれほど込められていないのに動かせない。

 

「でもこれで」

「あーらよっと、ですわ」

「ぎゃっ!?」

 

 ならば好都合だとショベルを()()()()()、バク転気味の蹴りをクオンの後頭部へお見舞いする。

 ぶっ飛ぶクオン。……受け身、取りませんの?

 

「きゅぅ……」

「あら。……なーにが超常的ですの?」

「超常的になるから、致命傷以外を避けようとしなくなるんだそうよ。それが欠点で上手く戦闘に組み込めていないって嘆いていたわ」

「リリーガ」

「ラファ様。クオン様をお預かりします」

 

 はいですの、と気絶したクオンをトァンに預ける。

 

「欠陥では?」

「ほんとにね。だからこそアンタに剣を師事したんでしょうけど」

「ああ、他の手段が欲しかったと。……うーん、勿体ないですわね、それ」

「私もそう思うわー」

「それで、リリーガ」

「なに?」

「魔王という脅威が消え、五十パーセントとかいう予言も消えて、私そろそろ帰りたいのですけれど」

「帰ったらいいじゃない。リベルタがいれば『脚本(たなごころ)』も起動するだろうし」

 

 ああ引き留めとかありませんのね。

 じゃあ帰ります……わ、じゃなくて。

 

「一つ。あの大量のミスリルってどこへ行きましたの?」

「裏山。あの時言った通り、裏山に構築してた鉄鉱脈と置換したから」

「そこだけ見ていっても?」

「……良いけど、ミスリルの採掘には専用の道具が必要よ。それと、アンタの用事は終わったかもだけど、リベルタの用事がまだだから」

「リベルタの用事?」

 

 そういえば。彼女は何をしにここへ。

 

「四騎士の真意を聞きたいらしいわよ。いないって説明したんだけどね、私」

「あー」

 

 それ、私がどうこうできる問題ですの?

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