悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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想滅!

「余計なお世話ですわ。私、あれでもあの世界を愛していましたのよ。あの腐肉と血飛沫だらけの世界を」

 

 ミスリルの鉱脈を確かめに行くついでに、リベルタから深い話を聞くことにした。

 そこでそもそもの話、なぜ『脚本(たなごころ)』の起動を決意したのかを問えば、なんでも私に休息を与えるためだとか。

 

「そも……休息など、十二分に取れていましたわ。日々の軽口、勝利の美酒」

 

 そして、時折リベルタたちが見せていた、「ゲームに酷似したやり取り」。

 充分だった。それだけでいいのだ、私は。そんな簡単なことで充足なのだ。 

 平和になったらなったでやることたくさんありますし、貴族の膿を考えればうかうか平和なんて享受していられませんしね。

 

「……そっか」

「でも、とは言わないんですのね? 前のリベルタなら言い縋ってきたと思いますけれど」

「うん。でも……私もちょっとずつは成長してるから」

 

 成長か。

 諦めか。

 

「四騎士のこと、聞いても?」

「……エスタくんは、全てに怯える臆病な人だった」

 

 エスタ・マグナ・レイムベルファグスレヒト。

 彼は守護騎士である。即ち全てに怯える者だ。「体制に反発するには智が無ければならない」──彼がそれに気付いたのは、全てが過去の幻影と消え去った後だった。

 これはゲームにおけるフレーバーテキスト。エスタの最初の紹介は「あんまりオラオラしていない俺様系」であり、彼の恋愛観も「俺様系」ではあるのだけど、その実無知であることに酷く怯える彼を攻略するにはまず好感度を親友以上に上げないと話が始まらない。

 好きになるとか以前に踏み込んできてくれないのだ。新しいもの……交友関係も、そして今までと違う『勇者の魂』保有者にも、客観を同居させて話す。

 

「罪は必ず贖わなければならない。平常の世であれば別の手段があったかもしれないけれど、アンデッドに塗れた世界じゃそれができないから、せめてこの騒動をゼロにすることで贖いとしたい。方法は過去の自分を止めること……って言ってたけど、多分、殺すつもりだったんだと思う」

「そこまでわかっていて、ですのね」

「エスタくんは多分四騎士の中で二番目に子供だった。理解できないことを怖がって、理解しないと、ってしてるのに、歩み寄ろうとはしない。そんなんじゃ絶対に相手のことはわからない。何事も知ってから知ってから行動しようとするエスタくんだったけど、『脚本(たなごころ)』や『勇者の魂』については未知が多いまま"便利なもの"として扱おうとしてた。それほど過去を消すことが魅力的だったのかもしれないけど……それはズルいと思ったから」

「のに、ではなく、から」

「うん。ズルいと思ったから、使わせた。あなたはそれで懲りたはずなのに、もう一度同じことをしたんだよ、って……そう言うつもりだった。……いなかったから、言えなくなっちゃったけど……それでも一瞬くらいは未来から私が消えているだろうから、そこで言うつもり」

 

 恐ろしいですわね。自らの大切にしているモノから、「今お前が安易にやったことはともすればそれを永遠に失わせていたかもしれないんだぞ」と警告されるの。

 尻を蹴って臆病を直すのではなく、臆病を刺激してさらに臆病にさせる方に走りましたか。……とやかく言うつもりはありませんが、大分突っ切りましたわね。

 

「イジスくんは、あの中で一番の子供。にこやかにしていれば、角の立つ発言をしなければ、本心を隠しさえすれば……見つかることはない、って。心の底から思ってる」

 

 イジス・フルズ・ブルーノメリアラランシルス。

 彼は魔法騎士である。即ち全てを欺く物だ。「この世界は偽りに満ちている」──彼がそれを思い知ったのは、すべてに手が届かなかった時である。

 自身がそうであるのに、彼は嘘を吐かれることや騙されることに酷く臆病だ。それが悪意からであれ善意からであれ、嘘であるというだけで拒否反応を見せる。

 その恐怖の形成には彼の家族からの裏切りや学園の嘘、そして崩壊を経た新たな世界の人々に対する内外の嘘など様々がある。隠すことがない……隠しても意味がない四騎士を相手にする時だけ、彼の本性が見える。特に義理の兄弟であるエスタに対してはすべてをさらけ出して話す。

 

「すべての嘘は暴かれなければならない。イジスくんは自分たちが伝説と崇められる立場も、『勇者の魂』と『魔王の精神』も、そしてあの王国っていう場所も……最後には全部元通りにしたい、って言ってた。けどその元通りっていうのはアンデッドのいない世界のことじゃなくて」

「真に高貴な者だけを立てたい、ということでしょうね。我が国の王族の祖先はカカラパラゾにいませんから」

 

 ノルブカクルト。私が王国を出る前にオスカルが少しだけ話していたように、彼らは貴い血を持っていない。

 四騎士が王族に次ぐ権力を持つ伝説の存在である──それが嘘偽りで、本当は大罪人。

 王族が国を統べる貴き血筋──それが嘘偽りで、本当は象徴。

 貴族は腐敗し、人道に逸れた行いを平気な顔でやっていて、あの学園でのすべてはおままごと。

 さらにそれら暴かれなければならない嘘がアンデッド騒ぎで闇へと消えかけていて……なんて。彼は許容できなかったのでしょう。

 

「でも彼は、私に対して『勇者の魂』の本当を語らなかった。私が知る意味は無いと思ったのか、それとも知られてしまっては思うように動かせなくなると思ったのか。どちらにせよ、信用されてないってわかったから、私も彼への信頼を断った。私にとってイジスくんは友達の友達。それだけ」

 

 イジスルートは完全に潰れたと。つまりオスカルルートも潰れましたわ?

 エスタに対しても然程の好印象は持っていないようですし……これは。

 

「モーモンは可哀想な人だった。あの中で二番目に大人だけど、それは諦観から来るもの」

 

 モーモン・グレイブ・アーヴァンクルメクルケニス

 彼は迅速騎士である。即ち全てに間に合おうとする者だ。「慈しむ心はいつか壊れてしまう」──彼がそこに至ったのは、何気ない旅路の途中だった。

 元来の彼はずぼらだけど頼れる兄貴分、という感じの性格。面倒見の良さは今でも変わっていないけれど、昔はずぼらというか寛容なだけで、何かを疎かにすることはなかった。

 彼は好感度を親友に上げても態度を変えてくれない。恋人以上になって初めて本音を見せてくれる。

 彼は遅れたくない。祭事にも荒事にも何事にも。いいや、焦りたくないというべきか。自身の心があと少しで壊れていたことを察している。だから余裕を持ちたい。周囲に強制を行わないのもそこからだ。無から生ずる慈愛は必ず限度が来る。だからできるだけ使わせないようにする。

 

「過去を変えようとすることに、モーモンは最後まで賛成してなかった。でも反対もしてなかった。"もしダメなことなら、誰かが止めに来る"。それが彼の口癖で、最後までそうだった」

「決めてしまったら、誰かが間に合わなくなりますからね」

「……そっか。そういうことなんだ。……無気力なんじゃなくて、誰かを間に合わせるための」

「気付いていませんでしたの?」

「揺れてたが正しいかな。彼の真意が諦観にあるのか無気力にあるのか……それらは似ているようで違うものだけど、今の私じゃ判別がつかない。……そっか、モーモンは……ずっと願ってたんだ。誰かに止めてほしい、って。……でもそれは、うん、やっぱり子供かな」

 

 しかし……意外ですわ。

 学園ではあの大変な渦中にあって恋愛要素を出してきたことに迷惑さえしている様子でしたのに、まさか。

 

「パリス。彼が一番の大人だね、あの中じゃ」

「それは認めますけれど……ふぅん」

 

 パリス・ヴァン・ウェイフリークリンウェイフリン。

 彼は精霊騎士である。即ちすべてに耳を傾ける者だ。「崇める心は正義と共にあってはならない」──彼が愕然に立ち竦んだのは、すべてが自らの信徒に壊し尽くされた時だった。

 彼は「信仰」に対して酷く臆病だ。四騎士の中で唯一職務経験があり、そして多分、世界の内情を他三人より多くわかっている。

 始めはナルシストな一面しか見ることのできないパリスだけど、彼との仲が恋人以上になると、深い深い憂いを吐き出してくれる。この時代においても【精霊の加護】という称号が早々に発覚していて、その寵愛を受ける存在……でありながら単一属性しか使えないという「特別さ加減」は、ウェイフリンの者以外にも「神の子」を思わせる甘い痺れを与えたという。

 いつしか彼への信仰は既存の宗教を脅かすほどにまでなっていて……そしてそれが「ある悲劇」を起こす。

 彼の家族と彼の信徒の対立。果てには、家で唯一パリスを単体として見てくれていた乳母にまで魔の手が及び……というのが彼の過去。

 

 だから、彼だけは、多分。

 

「パリスだけは……やり直したい時点が違ったんだろうね。三人は太古崩壊のあの時をやり直したいと言っていたけれど、パリスは……もっと前からやり直したかった。もっと前から、自分なんていなければと考えていた」

 

 パリスがナルシストになったのは他者に目を向けてしまっては同じ悲劇を繰り返すだけだと気付いたから。

 精霊と、恋人以上の仲になったリベルタの声にしか耳を傾けない。恐らく他の三人にも心を開いてはいない。

 だから……パリスのことは一番に疑っていた。この「四騎士がいなくて代替の少女がいる過去」なんて、まさにパリスの考えそうな世界だから。

 でも同時に、「あの性格なら誰かに罪を押し付けることはしない」とも考えられるから……うむむ、というところ。……あ、ですわ。長らく忘れていましたわ。

 

「未来に戻ったら、言ってあげるつもり。──あなたがいなくても、悲劇は起こったよ、って」

「……わぁ」

 

 びっくり。

 まさかのパリスルートですわ? と思っていたら、この子……今のところ誰も好きじゃありませんのね。

 オスカルルートはイジスルート好感度一定以上、魔王ルートはエスタルート好感度一定以上が条件ですので、まさか全員の好感度が並んでいる状態じゃないとダメなルドガールートか、あるいは全員の好感度が一切関係ないクランパネリテルートか……。

 

 それとも、「むしろ入ることの方が難しい」と言われていた誰にも恋をしないノーマルエンドですの?

 

「あら……じゃあ、別にこの時代に用があるわけではありませんのね」

「うーん。ただ言い返すだけならそうだけど、私は勇者もちゃんとやりたいって思ってるから……この時代でクオンのことをよく知って、『勇者の魂』の理解を深めたい、くらいは思ってるかな」

「でもリリーガから聞いたでしょう?」

「うん。私達の世界の初代勇者は、クオンじゃなかったんだよね」

「だから、その初代勇者とクオンの性格が同じかどうかはわかりませんのよ?」

「んー……多分同じ。どこか引いてて、どこかヒネてて、どこか優しい。記憶は何も受け継いでいないけれど、初代勇者の人となりは『勇者の魂』を通じて少しだけ知ってるんだ。だから……わかる」

 

 まぁそこについては何も言えない。

 ゲームじゃ初代勇者についてはテキストだけしか語られない。初代魔王と張り合い、甚大な被害を齎しながらも何度も何度も戦ったこと、杖を用いて見事な大立ち回りをしたことなどなど。その人格についてはさっぱりなので、リベルタがそうだと言うのならそうでしょう、としか。

 

「……ね、ラファはさ、過去をやり直したいって思ったこと、ないの?」

「ありますわ~とっても」

「あるんだ?」

「別に私超人でも聖人でもありませんからね。ただ……やり直したいと考えている内が華といいますか。本当にやり直す手段が目の前に提示されたとて、私はその手を取りませんのよ」

「それは、なんで?」

「やり直したいと思う過去は足場になるからですわ」

 

 人生において、やり直したいと思うほどの悔恨は沢山出てくるだろう。

 そしてそれは、それ以上の過去へ目を向けさせない蓋にもなる。蓋とは足場だ。やり直したいと思ったその地点まで遡っても、それ以上を後悔させないための弁だ。

 人はそこを足場に前へ進める。三歩進んで二歩下がるな人生だったとしても、二歩目の後ろに「やり直したい過去」という弁がいてくれるから、全て無に帰すことなく少しずつでも前へと進んでいける。

 

「糧なのです、リベルタ。強い後悔。悔悟の念。悲しみ、苦しみ。それらは私が次、新たな一歩を踏み出すための糧。そこで足を止めてしまう弱者もいますわ。前から来る流れに逆らえず、弁のところで未来からの潮流と押しとどめる弁に挟まれて動けなくなる敗北者もいますの。けれど、私は強者で、勝者なのです」

 

 なれば、私にとっての過去とは、私の背を押してくれる追い風に過ぎない。

 私という存在の形成を後押ししてくれる帆風に過ぎないのだ。

 

「そうしてまた、新しい未来で、やり直したい過去を作って、さらに強く前に進む。振り返っても悔悟が何も無い人生では、足を滑らせた時に止まることができなくなってしまいますの。ビレイヤーのいないソロクライムですからね、自動で出現する足場を自ら壊す意味はありませんのよ」

 

 だから、そういう意味では。

 

「過去の弁を壊したがっている弱者と敗北者たちを、あなたが無理矢理引っ張り上げてあげる、というのもアリでしょう。心配しなくても、あなたにはそれだけの力がありますわ」

「……ラファはさ、どうやってそんなに強く……ああ、凄くなったの?」

「うーん。難しいですわね。生まれた時から……ですけれど、まぁ、そうではない時もありましたから……」

「何がきっかけで変わったの?」

「んー……本気ではないことの悲しみを知った故……ああいや、知ったから、ですわ」

 

 私には前世がある。ラファ・ダルクエルデになる前の地球での記憶。そしてそれになる前のある戦士の記憶。

 隠すことでもありませんからね。だからラファ・ダルクエルデとなった誰かが凄い理由は、そういう事情だから、だけど。

 戦士たる彼女が凄かった理由は……彼女の師との最期の果し合いにおいて、彼女が見せてしまった優しさが、師を傷つけたから……になるのだろうか。

 遥か昔の話だ。幼少期の話だから、正直ほとんど覚えていないけれど。

 

「身の丈というのは誰しもが違う。ゆえ、自らよりも低い丈しか持たぬ者と相対した時、その者が凄めるほどの本気を相手に、此方が優しさで遊んでは礼を欠こう。私という者は常に本気で常に凄み、常に本気で生きる者達を相手にし続けるのだ……みたいな。お分かり? ですわ~?」

「びっくりした。今別人が出てきたのかと思った」

「リリーガにはこちらの私の方がいいと言われるのですけれど、リベルタは?」

「私はいつものラファがいいかな……」

「じゃあこっちでいますわ~」

 

 ラファ・ダルクエルデはこうでなくっちゃ、ですわよね。

 ……まぁ実はゲームのラファはそこまでですわですわ言ってなかったりする……というか台詞数がそんなに多くないとも言う。

 序盤も序盤の学園編、その中の別に処刑されるまで行かない悪役令嬢がラファ・ダルクエルデですからね。台詞数はそんなに割り振られていませんわ。

 

「それで、リベルタ」

「うん?」

「あなたは? やり直したいと思ったこと、ありませんの?」

「……私は、みんなほどたくさんを経験してないから。……でも、村のみんなが……戻ってきたら、嬉しいとは思うよ」

「死者の蘇生がお望みでしたの? だったらリベルタの村が壊滅する前にアンデッド暴走が起きればよかったですわね」

「そういうこと言ってくると思った。……死んだ人に生き返ってほしいって思うのは、そんなにおかしなことなのかな」

「……たとえば。今生きている者を殺して死者にしたいと思う心は、許せないし、唾棄されるべきもの。この感覚はわかりますの?」

「うん、もちろん」

「それと全く同じですのよ。今死している者を生き返らせて生者にしたい。それは死者への冒涜ですし、死そのものへの冒涜でもありますわ」

 

 私達は生者だから、生を最良としがちだ。

 けど、そうではないのだと……私は死に二度と巡った立場から言う。

 

「それが悲劇の死でも、そうなの?」

「ええ。ま、死者が生き返りたいと望んだのなら話は別ですわ? 生者が死にたいと思う心を止める手立てが感情くらいしか無いように、その者の生き死にへの願望を前に立ちはだかることのできる存在はほぼいませんの」

「ラファは……死んだら、生き返りたいって望むのかな」

「さぁ。先程も言いましたけれど、私は超人でも聖人でもありませんわ。……起床の微睡とうたた寝や居眠りが心地いいように、人はそもそも状態の転換に快楽を見出すのやもしれません。変容という名の自殺に眩しさを感じるのでしょうね。私もその快楽に惹かれるのやもしれませんが……一つだけ言えることは」

 

 目的地が見えてきた。だから言葉を締めくくる。

 

「私は自らの死と肉体の死を同義にするつもりはサラサラありませんのよ」

「それはどういう……」

「あとはご自分で考えなさいな」

 

 ミスリル。その鉱脈の露出点。

 周囲にドラゴンの影は……当然無いですわね。

 

 さて……どうやってこれで錠前を作りましょうかね。ですわ。

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