悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

4 / 55
擁滅!

 アンデッドの制御権。それを成していたアイテムは『長老球(エルダーコア)』というらしい。

 それが失われて、今度は『不死根(デッドレス)』という……装置? オブジェクト? のようなものが現れ、現在のゾンビパニックを引き起こしている、と。

 

「ふーん、ですわ」

「興味が無いのか? 貴様が聞いてきたことだろうに」

「世界を救うとは言いましたが、その辺は結局闇属性魔法の手の届かぬ領域でしょう? であればあんまり興味ありませんわ」

 

 最早恒例となりつつある魔王との対話。情報落としてくれるからいいですけれど、一応乙女の部屋ですのよここ。

 

「加えて工房のように魔力特性を理解している云々では撤去に役立たぬ話でしょう。他に代替手段があるというのなら、まずあなたがやっているでしょうし」

「……その通りだ。『不死根(デッドレス)』に関しては覚醒した勇者の魂、そして魔力がないことには始まらない。私の魔力であれ貴様の浅知恵であれ、等しく無力だ」

「あら、私が無力かどうかはわかりませんのよ。手の届かぬ領域と理解はしていても、一度は挑んでみるつもりでもありますので」

「興味が無いのにか?」

「ええ。勇者が責や咎を負わなくて済むというのならそれに越したことはありませんし」

 

 昨日大衆浴場で話してみてわかったけれど、様々を経験していない状態のリベルタはまだまだ幼く危うい。シナリオ終盤の頃のリベルタであればゾンビパニックもなんのそのな精神性を獲得しているのだけど、今の彼女にそれはない。本当にただの女の子だ。少し気負いがちな、が頭に付くけれど。

 ともすれば……どこかでぽっきり折れかねない。そういう印象を受けた。

 その辺のメンタルケアをするのも攻略対象たる四騎士の仕事なのでまぁそこまでの心配はしていないけれど、だからといって任せきりというのは性に合わない。

 いや、そう。

 なんだかんだとあーだこーだと理由を付けているけれど、結局のところ任せきり頼り切りが性に合わないから私がやるというだけの話だ。

 

 世界を救うのも、ゾンビを倒すのも、区画を奪還するのも。

 別に私一人で事足りる、なんて驕りを抱いているわけではないけれど、何もしていない状態が耐えられないだけ。じっとしていられないのですわ。

 

「娘。貴様の魂は凡百のそれと変わらない。太古の流れを汲むものでもなければ、使命に縛られるものでもない」

「そうでしょうね。だからこそ私は自由なのですし」

「だが、それでも世界は貴様を求めているように感じられる。あの四騎士共、勇者、そしてこの私でさえ……貴様の在り方に惹かれている」

「あら、本格的に告白ですの? リベルタにフラれて傷心気味だというのならそう言えばいいですのに」

「貴様は鮮烈だ。死をも厭わぬ蛮勇は……その自信は、どこから湧いてくる。何を志せば、貴様のように強く在れる?」

 

 ま。……それについては私が二度目だから、というだけの話。

 前世を充分に謳歌したから、二度目はやりたいことだけをやろうと考えている。ただそれだけ。

 常人には理解できない感覚ですわ。

 そこへもしもう一つ理由を付け加えるというのなら。

 

「王城の方にも生存者がいますの。その中には私の家族も含まれているはずですわ。──私が四騎士や勇者と共にこの事態を解決できれば、彼ら彼女らの生存率も上がりましょう。戦う理由も強く在る理由も、たったそれだけで構わないのですわ」

「……守る者、か。貴様は……太古の勇者と同じ言葉を吐くのだな」

「まるで当事者みたいな口振りですけれど、貴方その頃まだ生まれていないのではなかったかしら」

「『魔王の精神』は『勇者の魂』とは違う。時折世代を超えて記憶を共有する場合がある。その一例が私だ」

「ああ、だから貴方まだ若いのにジジ臭いんですのね」

「……魔族の容姿は年齢と比例しない」

「でも貴方高々五十年ほどしか生きていないでしょう? 十二分に若いですわ」

「貴様はまだ十数しか生きておらぬだろう」

「無為に引き延ばされた生を送る魔族と鮮烈で凝縮された生を選ぶ人間を一緒にしないでくださいまし。貴方なんか人間換算精々二十歳くらいですわ。若い若い」

「それでも貴様よりは年上だろうに」

 

 前世含めたらP歳だからね!!

 

 あ、そうだ。

 

「そうでしたわ。一つ聞きたいことがありましたの」

「なんだ」

「魔族もアンデッドに噛まれたらゾンビ化するんですの?」

「以前まではしなかった。だが暴走してからはするようになった」

「それらアンデッド化した魔族への制御や統治は」

「当然利かない」

「……ということは、アンデッド化した魔族が人間領へ入り込むケースも考えられる、と」

「可能性はある。私の部下や腹心がアンデッド化した場合は私が手ずから葬っているが、そうでない魔族は管理下にないからな」

 

 アンデッド……というかゾンビは素体となった生物に大きく影響される。

 ブレインゾンビやボムゾンビなんかは肥大によって機能を付け足されているからあまり関係ないけど、ノーマルゾンビは多種多様だ。

 聖騎士がなれば剣を使ってくることもあるし、アサシン職であれば跳躍力や速度が高い、ということもある。幸いにして魔法は使ってこないので魔法使いがアンデッド化した場合のみ無力だけど、前線で戦うのはどうやったって騎士が多い。伴ってゾンビも騎士が多くなる。

 そして魔族や魔物がなれば……。

 

「こちらからも留意はしておこう」

「ま、ゾンビとなれば元の魔族の知能が消えることだけが救いですわね……」

 

 とはいえ気休めだ。身体能力の点においても、種族特性の点においても、人間は魔族に大きく劣る。

 それでも人間が今まで魔族と渡り合えてきたのは勇者や四騎士の存在が大きく、太古であれば光属性の魔法が理由になっていた。

 魔族は軒並み光属性が弱点なのだ。別に闇属性魔法で強化されるということもないけれど、威力は半減する。闇属性魔法不遇過ぎませんの?

 ……主人公パーティに存在しない属性なので妥当な扱いではある。攻略対象として仲間になった魔王が闇属性魔法を使うけど、基本剣で斬った方が強いし。

 

「そろそろ時間だな。……そうだ、娘。私からも問うておきたいことがある」

「貴方からの問いは受け付けないと言ったはずですが」

「興味があるのなら、貴様を魔王領に連れていくこともできる。意味があるのかは知らないが『不死根(デッドレス)』に挑むも良いだろう」

「考えておきますわ。こちらがまだまだ予断を許さない状況にありますから、今私が離れるわけにはいきませんの」

「容易に受けず、断らず。良い姿勢だ」

 

 消えていく魔王。……あ、ワイン残して行きませんでしたのね。私とのお話代はワイン以外だと高くつきますのよ。

 

 

 生徒会室のコルクボード。そこに貼り付けられた王都地図。

 第三、第四、第五、第六、第七の地区に「Safe」の文字が書かれている地図だ。

 

「いよいよ折り返し地点だ。奪還した地区は計五つ。残り五つを奪還することで、少なくとも王都からはアンデッドの脅威を取り除くことができる」

「一度取り戻してしまえば終わり、ということはないでしょうが、それでも希望が見えますのね」

「うん、そうだね。……残る区画は王城のある第一、貴族街のある第二、最も狭いけれどアンデッドの最も密集している第八、面積が広い上に入り組んでいる第九、そして……アンデッドが侵入したと思われる第十になる」

 

 ちなみに学園は第三区にある。……見事に中間をくりぬく形になったんだなぁ。

 

 第一区。噂程度でしかないけれど、まだ生存者が……王族や高位貴族たちがいるとされている場所。準ではない聖騎士が数多く在籍しているのだ、守られていてほしいとは思うけど……。

 

「次はやはり第八区ですの?」

「ああ。ボムゾンビやクラフトゾンビが隠れている可能性があること、そして面積の狭さなどを理由にここは潰しておきたい。よって第八区への攻略は俺、パリス、リベルタで出る」

「僕、モーモン、ラファは第十の調査だよ。あくまで調査だからね、ラファ」

「従うかどうかはわかりませんが、承知していますわ」

「それ承知したって言わないんだけどなー」

 

 第十。ゾンビが入ってきたとされる平民街。いや、正直貧民街といっても過言ではない場所だ。

 治安の悪さも衛生の終わり方も折り紙付き。浮浪児は平時からゾンビと見分けがつかないと言われていたほどの場所。

 

 工房が作られている可能性は十二分にあるし、『不死根(デッドレス)』ほどと行かないまでも、なにかゾンビの生産施設がある可能性もある。

 調査……とは言われているけれど、可能ならばそういったものは破壊しておきたいところだ。

 

「……しかし、私達が第八、第十へ向かうとなると、ここの守りが手薄になりますわ。いくら拠点を強化したからとはいえ……」

「準聖騎士全員で警護に当たるし、第八区へそれほど長い時間をかける気もない。終わり次第パリスをそちらに向かわせ、俺とリベルタはここへ戻る」

「そう言って前回は増援に来てくださいませんでしたのよ、モーモン様もパリス様も」

「あー」

「それほど第七の事態が困窮していたのさ。実際に工房もあったんだ、意は汲み取ってくれるだろう?」

 

 嘘吐け。寝坊していたモーモンとリベルタにしか興味の無いパリス。

 イジスとエスタは私にも気を割いてくるけど、この二人は究極的に言うと人類にあまり興味が無い。現時点ではただ自身らの犯した罪を償いたいだけの人だ。

 シナリオ中盤あたりでその意識も変わってくるけど、今はその程度の人達。期待するだけ無駄である。あ、無駄ですわ。

 

「とにかくだ。作戦決行は午前十時を予定している。各自それまで英気を養ってくれ。それとラファ、少し残ってくれると助かる」

「はい? 構いませんけれど……」

 

 なんだろう。普通にショベルの素振りをしようとしていたのだけど。

 

 

 エスタと私以外の全員が生徒会室を出た。 

 

「何用ですの?」

「用件は二つある。一つはリベルタのことだ」

「はあ、惚気は聞きませんのよ?」

「お前はすぐそちらへ話を持っていくな……」

 

 実は私のいないところでは君付けで呼んでいたりハグしあったりしていることは知っていますからね。

 原作知識だけではなく、感知として。四騎士の感知は甘いままですけれど、私は地中にいるゾンビまで感知できるのですから、壁の一枚や二枚を隔てた向こうの部屋の様子だってわかりますわ~。

 

「……知っての通り、リベルタは光属性の魔法使いだ。光属性は現代の人間には珍しい属性で、それゆえに資料や手本が少ない現状にある」

「ああ……なんでしたっけ、消退病、でしたっけ?」

「なんだと……。ラファ、お前の知識には目を見張るものがあると思っていたが、そこまでのものだったのか」

 

 マズイ、先取りし過ぎたか。

 でもイベントと台詞がほとんど一緒だったから……口をついて出てしまった。

 

 吐いた言葉は撤回できない。

 

「遥か昔のこと過ぎてほとんど覚えていませんが、禁書庫の医術書で見た覚えがありますの。光属性の魔力の性質は拡散と斥力、そして思念。それを身に宿すがゆえに"思念の拡散"という症状が現れることがある、と」

「ああ、その通りだ。……今はまだ兆候程度だが、リベルタにもその病の気配が現れている。これを治療する最も効果的な方法としては、ファルカナイルスの霊山にあるクロムクロノの花を食べる、というものがあるが……今の世界ではそれが難しい」

 

 イベントではそれを取りにいくことになっていた。その際リベルタが戦闘に参加できなくなるため、ヒーラーなしの状態で霊山に挑まなければならず、四騎士の中で育っていないキャラクターがいるとそこから一気に崩される、という事態に陥る仕組みとなっていたはずだ。

 

「よって代案を取る。あまり知られていない手法だが、闇属性の魔法使いに精神の安定性を保ってもらう、というものがあるんだ」

「なる、ほど? だから私、ですのね」

「ああ。ただし……精神への働きかけである以上、リベルタがお前を受け入れている必要があるし、俺達も信頼できる相手にしか任せたくはない」

「あらあら、悲しいことですわ。私、信頼されていませんでしたのね」

「話は最後まで聞け。……施術にはリスクが伴う。リベルタにも……そして施術する魔法使いにもだ。だから──」

「それを聞いて私が嫌がるとでも? くだらないことにびくびくしていると、いつの間にか大切なものが手の内から零れ落ちてしまいますのよ」

 

 ……ともすれば。

 本来その役割は、魔王が担っていたのかもしれないな。彼も攻略対象の一人だから。

 

「施術決行日までに手法について聞かせてくださる? 流石に知識なしで行うことは怖すぎますわ」

「……ああ。……礼を言う」

「リベルタはあなたの子供ではないのですから、勝手に背負って勝手に礼を、というのはおかしな話ですの。お礼は施術をしたリベルタから直接貰いますわ」

 

 それで。

 

「二つ目の用件、というのは?」

「……この流れで聞くのは申し訳ないとは思う。だが、聞いておかなければならないことだ」

「はあ」

「ラファ。……俺達四騎士の秘を、どこで知った?」

 

 あ。結局報告したんだ、モーモン。

 煽るためだけに開示し過ぎた私が悪いのはそれはそう。それはそうですわ~。

 

 ……さて。

 なんと答えたものか。

 う、うーん。

 う~~ん。

 

 ……えーっとぉ。

 

「教えませんわ」

「ラファ」

「これで私の信頼がなくなるというのでしたら、他の闇属性魔法使いを探してくださいまし」

 

 秘技、リベルタを盾にする──!

 悪役令嬢らしい外道行為である。ですわ。

 

 消退病についてはまだ言い訳ができた。光属性を有する人間は珍しいとはいえ居はする。それに関する研究書が残っているのはギリギリ不思議じゃない。

 けど、知識の根絶まで為された四騎士についてを私が知っているのは……今思えばあまりに怪しいことでしたわ。

 

 皮肉や軽口のためだけに不用意に知識をひけらかしてはいけない。ラファ学びましたの。

 

「……別にお前を糾弾したいわけじゃない。だが、知識源によってはお前自身に危害が及ぶ。だから──」

「それでも教えませんの。私には私の秘密があるのですわ」

「そう……か」

「要らぬことを知っている私を殺しますの?」

「どうしてそうなる。糾弾したいわけじゃないと言っているだろう」

「なら、放っておいてくださいまし。四騎士相手以外にはその秘密を喋ることもありませんので」

 

 よし。

 なんとか誤魔化せましたわ!!

 

 

 作戦決行である。

 リベルタ、エスタ、パリスは第八区へ。生存者がいないことがわかっているため、外側から一切合切を無視して広範囲殲滅魔法を叩き込んで奪還するらしい。

 

「いいかい、ラファ。僕とモーモンが両翼に追従するから、君が行きたいところへ行ってほしい」

「あら、私の采配でいいんですの?」

「最も感知に優れるのが君だよ、ラファ」

 

 確かに。

 ならまずは。

 

 

 屋根を伝って見下ろすは王都正門の様子。比較的小奇麗なここはゾンビの被害が少ないように見える。

 その理由は。

 

「成程……なだらかですが、メインストリートは坂になっているんですのね」

「そのようだね」

 

 正門から続く道。その両脇に第十区があるのだけど、そこの地面とメインストリートの高さが違う。 

 非常になだらかな傾斜だけど、確かにこうしておけばゾンビたちはメインストリートから外れていくだろう。人間でもいない限りは踏ん張っていられないのがゾンビだから。

 

「国づくりをする時に……こうしておくメリット、ありますの?」

「無いと思う。馬車の車輪が引っかかったら面倒だし、転倒者が多発しておかしくないし、雨水は変なたまり方をするし」

 

 雨水を避けるため。

 それは少し盲点だった。メインストリートから雨水を避け、不要な第十へ流すためだとしたら納得も行く……が。

 そもそもの話を言うなら、第十が貧民街になったのは結果的の話であって、建国当初からそうだとされていたわけではない。

 

「ラファ、何考えてんだー?」

「……あなた達は、リベルタの村を焼いた下手人を知っていますの?」

「また唐突だね。で、それは勿論魔王だよ。間に合わなかったけど、彼がリベルタを殺そうとしていたんだから」

「撃退したけどなー」

 

 違う。現時点の四騎士はそうだと勘違いしているけれど、リベルタの村を焼いたのは王国貴族だ。

 荒唐無稽な推測だけど、もしこの王国貴族が……此度のゾンビパニックにも関わっているとしたら。建設時にも口を出していたとしたら。

 

「侵入ではなく発生の可能性も出てきましたわね」

「考え過ぎだと思うけどなー」

「杞憂だったら杞憂でそれでオッケーですの」

 

 もし、初めから狙って作られた国なのだとしたら。

 

 ……お父様たちが危ないかもしれませんわ。

 早く……第一区を取り戻さなければ。

 

 

 その後。

 第十区には、工房や『不死根(デッドレス)』の類はなかったものの、壊れている外壁も見つからなかった、という調査結果が出ることになる。

 

 やはり外で発生したものが侵入してきたわけではなく、内側より生じたのだ。

 あるいは……魔王領の『長老球(エルダーコア)』さえも破壊したとみられる謎の人物が、生み出した。

 

 一番怖いのは人間のパターンね。はいはい、ですわ~。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。