悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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詐滅!

 第一次、第二次までの産業がゴーレム、という話の通り、砂糖を売っている店もゴーレムが経営していた──なんて驚きの暇もなく。

 トァンが会計を済ませた、その時のことだった。

 魔力の波がカカラパラゾ全体に広がり──脳裏に「警報発令:滲み出る侵蝕による大規模侵攻が観測されました。国民の皆様におかれましては全仕事を切り上げ、直ちにご帰宅なされますようお願いいたします。警戒状態解除までの間、どのような理由であれ外出された皆様の安全は保障できかねます」という文字が。

 して──プチパニックが起こる。当然ですわ?

 

「不幸ですわ~まさか買い出し中にこんなことになるだなんて」

「そうですね。どうなされますか? 警報が早すぎたあまり、まだ逃げる時間は残されているようですが」

「逃げ遅れの捜索とか、故あって逃げられない方の介助とか、そういうことをする存在に見えますの?」

「私はまだ何も言っていませんよ、ラファお嬢様」

「あぁごめんなさい幻聴が。それで、まだ逃げられる、でしたか。そうですわねー、じゃ、逃げましょうか」

「ええ、では速やかに──と?」

 

 にこやかなトァンを蹴り飛ばし、その()()()から彼を逃がす。

 振るうはショベル……だけど無理だと判断して身を躱せば、私が今までいた場所に黒金の棒が突き刺さった。

 

 文字通り空を叩き割って降りてくるは見知った姿のお猿さん。

 

「再戦にしては早すぎませんの? って……聞こえていませんわね。というか、まさか過去くんだりに来てまでまーたですの?」

 

 カチ割れた頭蓋。ところどころにあるパッチワークのような皮膚。感じない鼓動(ねつ)

 

「アンデッドロード。死して尚魔王の肉体には利用価値がある。反対する四天王を押し切ってまで作り上げたコイツには働いてもらわないとならんからな──まずは旗印を潰すのが戦略として正しいだろう? なぁ、人間の頂点よ」

「私より強い人なんて沢山いますわ? それより突然出てきてペラペラしゃべるのはやめてくださいまし、まず誰が話しているのかの判別に時間がかかって内容が入ってきませんでしたわ」

「減らず口を叩けるのもそこまでだ! 行け、アンデッドロード! 意識が消えたことで技術は失われたが、失って余りあるタガの外れた筋力を見せてやれ!」

 

 振り下ろされる戦棒。あらあらせっかちですわね。まだ声の主がどこにいるかもわかっていませんのに。

 避ける。地面に広がるは罅。たったそれだけで無人となった商区層の建物が半壊した。

 

 ぞぶ、と……腐肉に突き刺さるはショベルの刃。

 

「意識が消えたことで技術が失われた。それを補って余りある筋力が得られた。あなたはそう仰いましたけれど」

 

 振り下ろされた腕を上って、その首にショベルの刃を突き刺して。

 

「その馬鹿みたいな筋肉を、巨体を、余すことなく使い切っていたのはかの魔王の技量あってこそ。彼は自らの肉体のポテンシャルを認知していなかったのではなく、故意に出さなかったのですわ。やれば自滅するとわかっていたから」

「お、おい、どうしたアンデッドロード! 早く武器を引き戻せ! 肩に止まった羽虫を振り払う程度にどれほどの時間をかける!」

 

 声の主の命令に、ぐ、と腕へ力を入れるアンデッドロード。

 あーあ。そう言っておきますわ。

 

 ぶちぶちぶち、と……肉の千切れる音を背後にして。

 

「あなたの敗因はまぁいくらでもありますけれど、最たるものは二つ。私を侮り過ぎたことと、魔王を侮り過ぎたこと。まったく意味は違いますけれど過ぎたるは猶及ばざるが如しですわ状況証拠だけで」

 

 ぐんと飛翔するは黒い腕。それはアンデッドロードとは関係のない茂みへと突っ込み、そこにあった地面ごと隠れていた魔族を引っ張り出す。

 何か言おうとしていた、口を開きかけた魔族。グラヴィティハンドによる引き寄せとすれ違うようにしてショベルを振り抜けば、開いたままの口付きの首がポーンと飛ぶ。伴い、ドシャァと崩れるアンデッドロード。成程、アンデッドになったというより死体を操っていただけですのね。

 

「利用価値なんて恐らくゴノさんもわかっていましたわよ。あなたはただ、眩しさに目がくらんだだけ。利用価値がわかっていなかったのはあなただけですわ~」

 

 容赦を失くすと言った彼だ。もし本当にこの肉体が利用できるのならしてきただろう。

 反対をしたということはそういうことだ。

 

 さて、エクストラステージは終わりですけれど……いきなりこんな場所にまで侵入を果たすとか、貴族の防御態勢はどうなっていますの?

 それとも保身に走り過ぎていて人手不足とか。あるいは主戦場にはもっと大変なものが投入されている?

 

 あとトァンはどこへ。強く蹴り過ぎたかしら。

 

「おーいそこの人! 逃げ遅れたんなら……って、……そのショベルは、ヴァラーか!?」

「ええ、先日振りですわねフラウィス」

 

 さてどこへ向かいましょうかね、なんて考えていた私に声を掛けてきたのはフラウィス……と、数名の青年たち。彼らがフラウィスやディエゴの属する秘密基地のメンバーと見ましたわ。

 

「うわ、なんだこの死体!? で、でけぇ……」

「侵入してきた滲み出る侵蝕ですの。上に穴が開いているでしょう? そこからの侵入ですわ」

「……上は親父たちが封鎖してるはず……まさか親父たちに何かあったのか?」

「あら、あなた家族いましたのね。自分は貴族の血筋争いに関係ないという口ぶりでしたから、孤児なのだとばかり」

「あー、いや、まぁ」

「あんまり興味ありませんので話さなくても結構ですわ。それより、あなた達はなぜ避難誘導を? 仕事が割り当てられているのかしら」

「いや、俺たちにも避難命令が出てる……けど、ちっとはやれるからさ、前線で戦えないまでもなんかの役に立てるんじゃないかって、逃げ遅れた人がいないか見て回ってるんだ」

 

 ……褒められるべきスタンスではありますけれど、実際問題は邪魔ですわね。

 その「ちっと」しかやれない戦力にうろちょろされると守護るのがダルいですわ。

 

「正直に申し上げますと邪魔ですわ。二次被害に繋がりかねませんし」

「けど、救難信号が届いたんだ。少なくともそれを出した奴を助けるまではこの活動はやめねえよ」

「救難信号……商区層から?」

「ああ」

 

 ……。

 

「それ、いつの話ですの?」

「えっと……十分くらい前だよ」

 

 アンデッドロードが出現してから五分も経っていない。

 それより前は……まぁ警報が出たくらいか。それまでに商区層への被害らしい被害は無かったはず。

 

「その救難信号とやら、偽ることは可能ですの?」

「難しいと思う。警報と同じで、幾つかの魔法的手続きを済ませないといけないから」

「救難信号なのに? 緊急事態にパッと出せない救難信号に何の意味が?」

「予め手続きをしておくんだよ。出すこと自体はすぐにできる。子供とか……あと、魔法の技量が平均に比べて劣る奴とかが登録するんだ」

 

 成程、申告制の救難信号なのか。

 それは偽装が難しそうだ。同時に。

 

「申請しておけば誰でも出せますのね」

「ある程度の審査は必要だよ。……出た時間がおかしいって言いたいんだろ? 俺たちもそれは考えたけど、だとしても本物だった時がマズいから見に行こうって話になってて」

「……」

「場所はほら、あっちの倉庫街の中で」

「一つ聞きますけれど、あなた方の秘密基地……あそこに通じていた穴。あれ、あなた方に一切悟らせずにあそこまで掘り進めることができるものですの?」

「えっと……それは、どうだ?」

 

 後ろの青年たちと話し合いを始めるフラウィス。

 あの場所を頻繁に使っていたという彼ら。彼らに一切悟られることなく地下を掘るというのは……。

 

「難しいと思う。俺たちがいなくなる時間を完璧に把握してるとかでもない限り、誰かが気付く」

「あなた方がいなくなる時間を完璧に把握できていた方はいますの?」

「……考えつかないな。……けど確かに、だとするとどうやってあの穴を掘ったんだ?」

「では、あなた方全員をいなくならせることができる方はいますの?」

「俺たち全員をいなくならせる……。……それは、いる。前に話したけど、『国営財産管理局』だよ。あいつらが見回りをする時が月何回かあって、その時は大事を取って誰も秘密基地へは近寄らないんだ」

「救難信号の申請を手続きする場所に務める者と『国営財産管理局』の局員が繋がる、ないしは同一人物になる可能性は?」

「まぁ充分にあるんじゃないか? すべての国営局は横のつながりが太いって聞くし」

 

 前に私は魔王へ問うた。どのようにして人間と魔族を区別しているのかと。

 彼は「手法など無い」と答えた。そしてそれは人間側も同じだ。二つを見極める方法など存在しない。異形だったら魔族、そうじゃなかったら人間。

 わざわざ人間の中で生活する魔族がいないから成り立つ手法でもある。魔族は正々堂々を好むから、そういう狡いことはしてこないのだと。

 だけど、並行世界の私は身に覚えのない魔族関与の罪を問われていたらしいし、「人間社会に魔族がいた」という例は公表されていないだけで実はあるんじゃないかと考える。

 それがここでも、ということは十二分にあるだろう。なんせ今の魔族には正々堂々を良しとしない者も含まれているのだから。

 

「色々考えましたけれど、その救難信号やっぱり怪しいですわ。穴と同じで人間を内側から崩そうとする策に見えますの」

「……けど」

「私が確認しにいってあげますわ。だからあなたたちは戻りなさい」

「大丈夫だって、今こうやって話している間も侵入者なんてねぇんだし、」

「じゃあ殺しますわ」

「は──」

 

 フラウィスの足を踏み、上体に膝を当てて彼を倒し、その首にショベルを突きつける。

 あまりの早業に二の句が継げぬ彼とそのお仲間たち。

 はっと弾かれたように動いてフラウィスの上から私を退かそうと張り付いてくる彼らですけれど、そんなことは意にも介さない。

 

「邪魔ですの。確認しにいくのも最大限の善意ですので、これ以上を期待しないでくださいまし。あの時も言ったはずですのよ。対価が無ければ動かないと」

「ぐ、ぅ……」

「戦場から邪魔がいなくなること。それを今回の対価としますわ。──この後私が退いて、それでもなお食い下がるようであれば、一切の容赦なく首を落としますの」

 

 何を感じ取ったのか。

 一歩、また一歩と……私から離れていく青年たち。

 

 フラウィスの上から退く。

 

「三秒あげますわ。三、二、一」

「行く、行くから、だから頼む──」

「頼み事は聞きませんの。カウントゼロ。殺しますわ」

 

 振るショベルは……空を切る。

 彼らが一目散に逃げだしたから。……それでも髪を少し裂いた感触がありますのね。

 

 ──"意外と優しいな"。"少し感心したぞ"。

 

「あなたも大分麻痺してきましたわね」

 

 ──"?"

 

 さて、どうにも怪しい救難信号のもとへ行ってみましょうか。

 

 

 来た。倉庫街。その名の通り生産された様々が収められている場所のようで、作るのもゴーレム売るのもゴーレム、なら店舗の形を成している意味ありますの? と半ば疑問を抱きながらの捜索を開始。

 ものの数分でソレを見つけることとなる。

 

「……杖、ですわね」

 

 壁に架けられた杖。その先端にある宝石が明滅しているけれど、周囲に人影はない。

 どう見ても罠ですわ。……背後に魔力反応。

 

「まさかこんな見え透いた罠に引っかかる奴がいるとは……。それも見た感じ結構位高い家の令嬢か? いやーラッキーといえばいいのかもうちょい戦力っぽいやつが引っかからなくて残念といえばいいのか」

「確認しますけれど、あなたは国営局の局員で、滲み出る侵蝕に唆されて彼らを手引きし、ここへのこのこやってきた正義の味方な魔法使いをも殺すつもりだった……そんな感じでよろしくて?」

「うぉっと、喋るのか。結構余裕ある感じ? じゃあ強いのが釣れたのか?」

「もしかして話すことはできるけれどリスニングに難ありな方ですの? それは失礼しましたわ。聞き取りやすいようゆ──く──り──しゃ──べ──て──あ──げ──ま──す──わ──」

「え、これオレの声聞こえてんの? うわ気まず」

 

 振り返れば。

 ……特にこれといって特徴のない方が。男性。中肉中背。……なんていいますの? デフォルトキャラクターというか、デフォルトアバターというか。

 そんな感じの容姿の方ですわ。

 

「あーっと……そう! のこのこやってきたカカラパラゾの職員! お前を殺すから覚悟しておけ!!」

「おかしなところから声が聞こえますわね。それに音質が微妙に悪いような……。……セルマ=ラグティアの投影技術を使ってそこにアバターを投影している感じですの?」

「話聞かないのそっちもじゃん!」

 

 デフォルトキャラクターっぽい、というのは失礼な感想ではなかったと。

 

「……まーいいや。じゃあな、もう顔を見ることもないっしょ。スリーピングサイン」

「避けますわ~」

「は?」

 

 私に同じ魔法が通じると思いまして?

 

「……不可視の波に近い魔法を避け……はぁ?」

「魔族に与しているかはともかくとして、カカラパラゾに不利益を齎したい方である、というのは伝わりましたの。他、何かやっていませんこと?」

「うへぇ……これオレの失態になんのか? はーやだやだ。あのさアンタ、お互いなにも見なかったってことで、そこにある杖破壊してくんね? それでヨシにしよーぜ」

「調べられたらマズいものを敵地に置いたのですわ? 馬鹿ですわ?」

「いやホントな。この罠もそれも、どうして策を練るような……現場を盤面で見るような奴はこういう馬鹿ばっかなのか、ホント理解できねえ」

「ああ、あなたは下っ端でしかないのですわね」

「おうよ。お、やっと話通じた? まぁあれだ、お偉いさんにでも言っといてくれ。アムエナの亡霊が出たぞ、って」

 

 ……ふむ。

 アムエナ=カカラパラゾ。その名前が意味するところは、察するにアムエナとカカラパラゾが併合しましたよ的な名前だったりしますの?

 だから首都の名前にアムエナがない、みたいな。

 

 ま。

 

「私、カカラパラゾに縁のある人間ではありませんので、そのお願いは承服しかねますの」

「いやいやあからさまに貴族じゃん。何言っちゃってんの」

「生憎と本当ですわ。……そして、もうあなたは用済みですのよ」

「なに、本命でも到着する感じ?」

「逆探知が終わりましたの。あなたの本体は随分と深い所……いえ、ここは『永世盤久の宝珠』のある場所ではありません?」

「……おいおい魂影の逆探知って、専用の機材がないとできねーはずだろ」

「大気中に満ちる魔力の中からあなた個人のものを見つけ出すだけでいいのですから、誰にでもできますわ」

「できねーよ!」

 

 ショベルの背で杖の先端の宝石を壊す。

 明滅を終了させる杖。

 

「ではごゆるりとお待ちくださいな、テロリストさん。罪は山のようにあると思いますけれどご安心を。なんなら私も裁かれる側ですわ?」

「ハッ、残念ながら警備ゴーレムは全員こっちの手中なんでな、突破できるもんなら突破してみやがれっての!」

「あなた達の手中に無い時に一度突破しましたけれど、それより強くなっていると面白みがありますわ~」

 

 どうやら最初のアンデッドロード以外貴族たちも頑張っているようで、他の侵入者はゼロのようであるし。

 リベルタ、クオン、お父様やティナ、あとアーダルプレヒトたちの奮闘を祈りつつ、私は内憂を潰してあげましょうかね。

 

 それが終わったらリベルタを連れてあの墓所へ行って未来へ直帰ですの。そろそろ長居しすぎというやつですわ~。

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