悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい! 作:レッドアリーマー
顔を上げる。鼻につくは湿った土の匂い。
「な……何が起きたんだ?」
「『
「いやモーモン、別に見たまんまを説明しろと言ったわけではないが」
耳に聞こえるは懐かしい声。咄嗟にショベルの柄を掴んだのは……恐らくその内の一人から向けられる微かな殺気に反応してか。
「……戻ってこれたんだ」
「だから言ったでしょう、問題ないと」
「でも一度目は失敗したんだから、怖がるのも無理ないって思ってほしいかも」
「一度目のも失敗ではないのですよ」
時間の指定などは特にしていない。このアーティファクトには時を超える力は備わっていないと聞いていましたしね。
「さて。積もる話もあるでしょうから、私はこのあたりで」
「……行っちゃうの?」
「まさか私にあなた達の旅へ同行しろと? あなたが良くても四騎士が良い顔しませんわよ」
「何があったのか、どうして突然ラファが現れたのかについてはしっかり聞きたいところだが、俺は別に良い顔をしないということはないぞ」
「俺もー」
「異論はないな」
エスタ、モーモン、パリスがそう続いて。
「……僕も、構わないよ」
数拍遅れてイジスがそう賛同する。
構うじゃありませんの。
「お断りしますわ。『
「アーティファクトを……壊そうというのか? ただの……人間の身で?」
「『永世盤久の宝珠』は壊せましたし、行けるでしょう」
「……いつの時代の話をしているんだ。それに、あれは壊したというより壊れたという方が正しい」
「あぁ、あなた達の罪の話ではありませんわ。別の世界で私がやってきたデモンストレーションの話ですのよ」
「いつにも増してラファの言葉が分からん。リベルタ、これは」
「エスタくんたちが無知なだけだから、大丈夫だよ」
「り……リベルタ? どうした、機嫌でも悪いのか?」
……機嫌、と言えば。
ドラゴンたちは「これから行われる再起源で」という言い方をしていたような。
鍵や錠のことを何もせずに帰ってきてショベルがどうにもなっていないので私の行動に問題はなかったのでしょうけど……逆に言えば、この世界の過去も「別世界のラファ」によって書き換えられている可能性があるのでは?
そこで私が『行く末の鍵』のことを私に託したり、ドラゴンを生み出したりしたのでは?
タイムパラドックスや歴史改変を多少は恐れていましたけれど、この世界が「既に書き換わっている世界」なら……それがゴルズィオの行動に繋がったりしますの?
だって彼は原作にいたのにアンデッドの暴走なんか起こしませんでしたわ。この世界線において彼の気が変わった理由がどこかにはあったはず。そう考えるとその歴史改変が原因な気がしてきますのよ。
……何をするにもまずリリーガですわね。別世界とはいえ未来視持ち同士。何か言葉を交わし合っていておかしくありませんし。
やっぱりリベルタの旅に同行するとかいう暇人行動はナシですわ。
「──こんなところにいたのか」
瞬時にバックステップして距離を取る。
遅れてリベルタ、四騎士が続く。……クオンと行動して、リベルタの経験値入りまくった感じですわね。レベル制の世界じゃないことが悔やまれますわ~。
「な……魔王!?」
「……魔王」
「喚くな。此度の私の用は貴様らには無い。……娘、エルレビが泣きついてきたぞ。あまり無茶をするな」
「あら……いいんですのそれ、バラして」
「何がだ。彼女は元より心優しい子だろう」
「わかっていて言っていますのよね? まさか天然じゃないですわよね?」
普段の媚び媚びなエルレビ。裏側の苛烈なエルレビ。どちらもが彼女だとは思っていたけれど、魔王にはどちらも通じていなかったのかしら。
心優しい子。泣きついてきた。……いつかまた相まみえる時のからかいカードとして残しておきましょう。
「ラファ、どうして魔王とそうも親しげに話している」
「こっちも色々あったのですわ? とはいえ根っこの部分で魔族と親しくするつもりはありませんのよ。滲み出る侵蝕は根本的な侵略者であり人類の敵。和解の道はありませんの」
「また……懐かしい呼称を使うな」
「ああけれど、丁度いいですわ。魔王、私を『
「……私は便利な移動魔法ではないのだが」
「じゃあ私に転移魔法を教えてくださいまし~」
今魔王がいる場所。空間を切り裂くようにして現れた彼の、その裂け目に……足を掛ける。
思ったよりもしっかりとした感触が返ってきたので、そのまま体重を預ければ。
「ラファ!」
「そういえば結局伝わりましたの、アレ」
「アレ、とは?」
「あなたがリベルタの村を滅ぼしたわけではない、という話ですわ」
「え……」
「何度か言ったが、そのたびに遮られてきた。まるで世界が私と勇者の間に横たわる勘違いという壁を助長したいかのように」
リベルタの村を焼いたのは王国貴族であって魔王ではない。その焼かれた村を見て『勇者の魂』を覚醒させたリベルタの気配を察知して魔王が現れた、という時系列であり、魔王はまだリベルタに対して何もしていない。
史実においてこの勘違いが解けるのは中盤の後半。が、ゾンビパニックの世界じゃもう順番とか関係ないのでここで解消させておくべきだと判断しましたわ。
このようにするっと言ってしまえばおかしな邪魔も入らないでしょうし。
「それは……どういうことだ、ラファ」
「本当に何度か言っていますのよ彼は。毎回流されるか遮られるかしていましたけれど」
「どういうことかを聞いている」
「そのままの意味ですわ? リベルタの村を焼いたのは魔王ではなく王国貴族。あなた方四騎士の知る『勇者の魂』に纏わる伝承……というかジンクスを知るのはあなた方だけではないのですわ」
伝承。『勇者の魂』保有者が窮地に陥った時、秘められたる力が覚醒する……そんなありきたりな話。
故に王国貴族の一部はある画策をした。『勇者の魂』保有者を追い込んで覚醒させ、「心の壊れた戦力」として確保し、魔族との戦い、ないしは自分たちの私兵にしてしまおうと。
そのためだけに滅ぼされた村であり、魔王も四騎士も何も関係がない。これが真相だ。
「……うそ」
「仮にそれが本当だとして……ラファ。君はなぜそんなことを知っている。──まさか、加担していたのかい?」
「あなたの望ましい結論を推測のように話さないでくださいます? 私はそれを企てた貴族を誅殺するつもりで調べていたのですわ。アンデッドの懸念が去った王国で、尚も巣食う膿。それらがある限り私の望む未来が得られないというのなら、殺害や処刑という手段を取りますのよ。そしてそれを凶行にしないために事実と証拠の収集をしていたのですわ」
「じゃあなんだよ、あの城にいた生き残りの中に、リベルタの仇がいんのかよー」
「ええ、いますの」
断言する。そして「いるかもしれない」ではなく──私は名前まで把握していることを表明する。
「……ラファ、その貴族の名前、教えて」
「お断りしますわ。勇者の凶行になっては意味がありませんし、然るべき時に殺さねば余計な被害が生まれるというもの。一網打尽にできなければ逃げられるやもしれませんしね」
「ラファ!」
「落ち着け、リベルタ。此度はラファが正しい。……エスタとイジスも気を落ち着けたまえ」
「あなたが宥め役をするのは珍しいですわね、パリス」
あと私の隣で「何を聞かされているのだ、私は」という顔をしている魔王。もう少し待ちなさい。
「二つ、問いたいことがある。構わないか」
「ええ」
「一つ。まだ明言が得られていない。リベルタの覚醒に纏わる計画……その全てにおいて、ラファ。あなたが加担していたという事実はない。何かに言葉を誓えるか?」
「ダルクエルデの名に誓っても信用は薄いでしょうから、そうですわね。私という存在、私の目指す道、……あー、じゃあ、このショベルにでも誓いますわ。私はリベルタの村焼き計画に加担していませんの」
「悩みに悩んでそれなんだ……」
「ええ、愛用の武器ですし」
「よろしい。では二つ。度々何かを知る言葉を吐くあなただが、その正体が魔族であるということは無いのか? そこな魔王よりも長き時を生きる魔族である、ということは」
「私のお父様とお母様を侮辱する気ですの?」
「成り代わっている可能性も捨てきれないだろう」
「魔族と人間を区別する手段が身体的特徴しかない以上、その疑いは悪魔の証明ですわ。それに、長き時を生きて物知りであることが疑いの要因なのであれば、あなた方四騎士も魔族の可能性がありますわ。どう否定するおつもりで?」
「……成程、失言だったな。問いの二つ目は忘れてほしい」
「ちなみに魔王のあなたから見て私は魔族ですの?」
「魔族を代表して言わせてもらうが、貴様と同類扱いはさしもの私も怒りを露そう」
あら、結構仲良くなったつもりでしたけれど、嫌われてしまいましたわ~。
私からも願い下げですけれどね。
「俺からも一個いいか、ラファー」
「いいですわよモーモンー」
「リベルタと魔王の確執が無かったのだとしてもさー、『勇者の魂』は『魔王の精神』と敵対する関係にあんだよなー。どこで、いつで、ってのはわかんないけどさー、いずれその時が訪れたら」
「私はどちらの味方もしませんわ。そして……王国に仇為す存在となった瞬間、それがどちらであろうと刃を向けますの。答えはこれで満足ですの?」
「……おー」
ではインタビューはこのあたりで終わりでいいか。
一番何か言いたそうにしている一人には一切触れずにいくけれど。
「じゃ、魔王。転移お願いしますわ?」
「潜在的に未来の敵であるという宣言をされた者相手に運んでやる義理はないだろうに」
「アンデッド問題を解決してやるって言ってんですのよ。つべこべ言わずにキリキリ働きなさい」
身長差的に上下で溜め息。あ、下はアティアですわ。
それでは、皆々様方。
アデュー、ですの。
かいつまんで起きたことを話した。
転移先を『
「派生世界の過去……初代魔王に姫巫女……」
「究極こっちの世界には関係のない話ですわ」
前もやったように、飛翔する魔王に連れられての旅。
眼下に広がる光景はもう懐かしい。ゆらゆら動く人影。散らばる腐肉。黒くこびり付いた血影。
「……私の持つ『魔王の精神』には記憶がいくらか封入されている。その中には初代魔王が初代勇者と楽しげに語らい合っているものがある」
「え。……そんな関係性でしたのね、初代同士って」
「ああ、初めてその光景を見た時は私も驚いたものだ。だが、純粋に力を信奉する魔族と純粋に力の強い勇者だ、そこに此度のような第三者の悪意さえ絡まなければ、そういう関係性になるのもわからないでもないだろう」
確かに。種族的に絶対相容れないとはいえ、魔族の多くはブラッドのような性格だ。あっさり、さっぱりしていて、強きを好む。ブラッドはそこに兄貴肌が加わっているのでさらに善良に見えるけど、大抵の魔族も狡いことが嫌いで正々堂々が好きという性質なので、まぁどちらかといえば善良寄りだろう。
エルレビやクラウスはかなり珍しいのだ。フナリエ老はただ老獪なだけだし。
「そして……その語らいの中で、初代勇者は自らの師について言及している。『魔王の精神』より受け継がれる記憶の中で、初代魔王がその師と邂逅したとされるものは無いが、言動から察するにその師は」
「別世界の私……である可能性は高そうですわね」
「ああ」
先程の考察の裏付けだ。
やはりこの世界は改変済みだったのだろう。あるいは"再起源"が起きたことで「そう」なったか。
別世界の私、余計なことをしますわね……と考えかけたけど、あの世界の後世においてはなぜか「ラファ」や「リベルタ」の名が受け継がれていたり、初代勇者が剣と杖とショベルに適性があった、みたいなことになっていたりするのかもしれない。そしてその世界に転生した私からは同様のことを想われていることだろう。
「問題は、別世界の貴様が……果たして過去で何をやらかしているか、だな」
「やらかしている前提なのやめてくださいません? まぁ私もその線で追っていますけれど」
魔王にはもう一つの話もしてある。即ち、バンシーの牢にかかっていた魔法と、その下手人たるゴルズィオの話だ。
「【愚悪賢者】ゴルズィオ・ヴィリジオニティカ。……称号だけは知っている。だが、実物を見たことはないな」
「あれは好奇心の塊ですからね。面白そうではない場所には現れませんのよ」
「だが、百代魔王の件、『
……ふむ。
「あれからまだそう時は経っていませんし、位置情報が変わっていないのなら……ゴルズィオの住処、わかるかもしれませんわ」
ハウルエルの花畑、ないしはシュトゥーラ4-79。それは当然無いにしても、大陸の形や丘陵、森や洞窟から場所の特定はできそうである。
というか……。
「……あの実験室の上に建っていますのね、魔王城は」
「なんの話だ」
「いえ、あっちの世界の話ですわ」
最後、私達が魔族を埋めた実験室という名の洞窟。
墓所や大陸の形から位置を察するに、あの洞窟のあった場所に魔王城が建てられている。……時間凍結の解除に差があって、仕方なくあそこを拠点にした、とか。魔王城は別に昔から同じ場所に建っているということはないので、偶然今代の魔王城があそこになったというだけでしょうが……。
……だからこそ、もしかしたら……あの地下牢の更に下には実験室がそのまま……?
「娘、着いたぞ」
「ああ、ありがとうございますの。……この後は如何しますの? 私はリリーガと二、三話をしたあと、『
「方法を得ているのなら私に言え。貴様がやるより確実にできるだろう」
「偉業を掠め取るのはいただけませんわ~」
「……分身を残しておく。ああそうだ、エルレビに伝言はあるか?」
「泣いてまで心配してくれて感無量ですわ~、とでも伝えてくださいまし」
「ああ、わかった」
ぴょい、と降りる。
体感ではつい先日出てきたばかりだから、感慨深さはないけれど。
「あ、そうだ。魔王、あなた名前は? あ、ラストネームの方ですわ」
「……私と貴様は自己紹介をし合わない仲、なのだろう」
「うわ、確かにありましたわねそんな話。でも不便じゃありません?」
「どうだかな。……私は気に入っている。ではな、娘」
あ、行ってしまいましたわ。まぁ無理矢理聞こうと思えば分身にも聞けるのですけれど……。
初代魔王や百代魔王が話題に上ることが増えて、単に魔王だと判別が難しいかな、と思っての話でしたのに。気に入っているのなら続けてあげますわ。
「ラファ」
声は……聞き馴染みのあるそれを、しわがれさせたもの。
なんだか不思議な話ですわ。遭ったのはこちらが先ですのにね。
「リリーガおば様」
「よしなよ、おば様だなんて。私とあっちの子は記憶を共有している。リリーガでいい」
「では遠慮なく。そして……であるならば、私が訪れた理由もわかっていますわね?」
「ああ。アンタが欲しがっていた研究レポートは作ってあるよ」
頼んでいたわけじゃない。欲しいと明言したわけでもない。
それでも動いてくれたのは……少なくない感情が彼女にもあったのか。こっちのリリーガは過干渉する気がないと聞いていたのですけれどね。
「正直動く気は無かったさ。けど、アンタ私を王国案内に連れていくんだろ? ひっひっひ、年甲斐もなく言うけれどね。前に言っていた茶会の事も含めて……ああ、楽しみだよ。……そんで、その楽しみを実現させるためだ、それなら……多少は動く理由にもなる」
「素直にお礼を言っておきますわ」
リリーガが投げ渡してくるのは、羊皮紙で編まれた紙の束……本になりかけているもの。
「アンデッドの視認、視覚に関するサンプルデータだ。本の半分以上は白紙だから、そこへはアンタが好きに書き込むといい」
「……受け取りましたの。……そして、リリーガ。問うておきますわ。もう一度、ですの。──この世からゾンビが……アンデッドの暴走が収まる未来は、存在するようになりましたの?」
「ああ。ついさっき、恐らくアンタが戻ってきたタイミングで分岐した。たったの一本じゃない、複数の枝にアンデッド暴走鎮静の兆しが見えている」
「ただし、全体からみればまだまだ小さな可能性、かしら」
「その通りさね。……ラファ。私からも……問いをしていいかい?」
「あなたに知らぬことがあったとは驚きですけれど、いいですわよ」
未来に見えた光芒。
ああ、良い言葉だ、本当に。
「──新しく増えた未来の分岐。その中にゃ確かにアンデッド暴走の収まった未来もあったが……どこを探してもアンタの姿の見えない未来もあった。……死ぬつもりは、欠片もないと、今ここで言えるかい」
「状況に依りますわ」
「……」
「そんな悲しい顔をしないでくださいまし。私が死するのは、私の死が私の大切なものの益になる時だけ。……そしてこれは別の世界の過去で吐いた言葉ですけれど、私は自らの死と肉体の死を同義にするつもりはありませんのよ」
「……思い出に残っている限り死なない、みたいなクサい話かい?」
「ええ。私によって影響された人間は、私を保有しますの。縁とはそういうものですわ。片方が千切ってももう片方が持っている限り、繋がりがあった、という事実は残り続けますの。そしてそれは重しになるし背押しになるし、善悪にかかわらず心に影を落とすもの。私は私を魅せたすべての存在の心にこびりついて、その背を押し続けますのよ」
それが消えない限りは死なない。
肉体が死んだ程度なんだ。私は消えないぞ、と。
「そうかい。……これ以上は野暮かね」
「もう一度お礼をは言っておきますの。この続きは、再建した王国でしましょう」
「ああ、楽しみにしているよ」
それでは。
リリーガ。再会を喜びますわ。
あなたは大切なお友達ですからね──なんて。
言葉には出さないのが、ラファ・ダルクエルデのいじらしさ、ですわ~。