悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい! 作:レッドアリーマー
不滅!
「──育まれる刃。火を追う蛾の群れ。すり寄り手を揉む不浄の商人。焼けつく
静かに魔力を高め──手を翳す。
「終局魔法:
放たれるは闇属性の魔力による「巻き込み」。掻き抱くようにして全てを巻き込む闇色は闇属性無効のアンデッド以外の全てを破壊する。
ただの沼地など、恐るるに足らず。
そうして抉り取られた元沼地と、その底面に刻まれた魔法陣らしきもの。そして安定性を失ったらしい『
「……まさか本当に人工物だったとは」
「信じていませんでしたの?」
「『
「見た目に騙されていては良い女性も捕まえられませんわよ」
「軽口を叩く暇があるのか?」
「あら図星でしたのねごめんなさい」
……本当は下の術式ごと吹き飛ばすつもりだったのに、術式の魔力に弾かれたような感触があった。
もしかしないでも闇属性で編まれていますわね。無効はされていませんけれど耐性がありますわこれ。
まぁいいですわ。安定性保持のための術式が上手く作動していない今が『
ナイトクローを纏わせる感覚でショベルに付与するはブラックネット。感覚の違い過ぎるものを纏うのは中々至難でしたけど、これならなんとかなりそう。
なのでそのまま──殴る!
ガツ、と。ミリ……本当に小さくだけど攻撃が通った感触があった。
吹き飛ばされることも追加で。あ、魔王が空中でキャッチしてくれましたわ。
「ありがとうございますの。……しかし、アプローチはこれで正しいようですわね」
「あくまでアプローチ、か」
「ええ。破壊するためにはもっと本質の魔力に迫らねば無理そうですわ」
破壊、あるいは機能停止。
そのためには「敵意を操る魔法の根源」、「アンデッドの視界を司る魔力」を理解し、それを纏わなければ。
「しばらく私はこの本と格闘しますわ。魔王、あなたはブラッド含む火属性持ちの火力バカを呼んで、この沼地の術式を吹き飛ばす工事を進めてほしいですの」
「ああ、すぐに招集しよう」
リリーガがまとめてくれたサンプルデータ。後は私がこれを読み解いてさらなる実験を重ね、必要な根源を発掘できれば……勝ち。
簡単な話ですわ~!
そのまま、多分一ヶ月が過ぎた。
……本が難解なわけではない。魔法の発掘に手間取っているのだ。
すでに沼地の術式は破壊されているため、際限なく沼地より這い出てくるアンデッド、というのはもうなくなっている。
アレは『
また『
夜明けは確かに近付いてきている。けれど詰め手に欠ける。
正直に言えば……行き詰まっている。
闇属性の魔力の持ち主は当然魔王、そして魔族もそうだ。だからフナリエ老も研究を重ねているらしいのだけど、単一属性に慣れ切った現代の魔族だと、魔力の中から特定の魔力を見つけ出す、という行為は至難を極めるらしく、人間の私よりさらに進みが遅いらしい。
人間で、闇属性で、そして過去の空気も知っている。
私が一番の適任、ということですわ。
……その私が行き詰まっているのですけれど。
今までのアレソレがスムーズに行っていただけに、この遅々とした進みは苦しみさえ伴いますの。
もっと視覚的、体感的に捜索できないものかしら。
とりあえず気分転換に散歩でもしてみようか、なんて。
「*あれ? また会ったね、お嬢さん」
そう思って足を踏みだした一秒後、クランパネリテに遭遇した。
……確率としては確かにそうなることもありますけど、最早転移ですわねこれ。
「*何か入用かい?」
「……ええ、少し商品を見せてもらっても?」
「*勿論さ」
あんまり魔法という印象のない彼に何を聞いても無駄だ、と。数秒前までは考えていたけれど。
彼の移動商店、そのラインナップは、「その時最も欲しているもの」になることを思い出した。
今の私が欲して止まないもの。つまり闇属性魔法についての理解、あるいは深奥への足掛けが売られているかもしれない。
そう思ってラインナップを覗けば……。
「……『闇の黒網石』」
「*そんなものが欲しいのかい? それを使うと、周囲の魔物が寄ってくるようになるよ。本来はお金のない人に売る用なんだけど」
視覚的、体感的に捜索するための……アイテム。
「これ、あるだけ買いますわ」
「*前も言ったけど、変な人だね。それでも買ってくれて嬉しいよ」
研究再開ですわ~。
二つ、わかったことがある。
一つはこの『闇の黒網石』の産出地について。これほどの量を用意できることと、いつでも狙った効果を出せること。その両方から見て、安定した産出地があるのではないか……と考えた私によるぶらり魔王領黒網石探しの旅三か月コース。それによって見つかった、仮称『黒網洞窟』。恐らくここの石が『闇の黒網石』になっていると思われる。
二つ目は、魔力というものは高密度に圧縮した上で高速回転させることで物質化するらしい、ということ。その『黒網洞窟』の探索中に感じた魔力流と鍾乳石の異常な速さの伸びからわかったことだ。実際に自身の魔力でも試したけれど、私の掌の上ででも闇属性魔力の結晶を作ることに成功した。
つまるところ、ここ『黒網洞窟』には私の欲して止まない魔力が流入している可能性が高い、ということだ。そのものであるかどうかはまだわからないけれど。
「ア゛あ゛──」
「ああもううっさいですの!」
ショベルを振るってアンデッドを倒す。
当然の話だけど、ブラックネットを凝縮したようなものである『闇の黒網石』、その産出地『黒網洞窟』は、数多くの魔物を誘引している。それが全てアンデッドになっているのだから、当初の内部はそれはもう腐肉だらけの酷い場所だった。
それを粗方掃除してからの調査。そしてこうして今も残党が辺りをうろついている、と。
……アンデッドの視覚。
それこそが本当に欲しいものだ。欲しい魔力の情報だ。
リリーガの研究データからパターニングは掴めたけれど、やっぱり肝心の部分は──。
……?
すとん、と……今しがた襲ってきたアンデッドの首を断つ。
首だけになっても口をパクパクさせているソレ。だから、その目のところに手をやって。
ぞぶ、と。指を突き入れる。
心の内でざわめくアティアに「静かに」と言って、目を閉じて「感じる」。
眼球が潰れてなおもアンデッドは私を見ている。
どうやってだ。そこには必ず魔力の動きがあるだろう。
洞窟という、敵意を司る魔力の塊の中ででも、私を判断して襲い掛かってくる。そこにはどんな魔力が働いている。
──捉え……た!
すぐに魔力組成を真似て結晶化する。忘れないようにするために。
出来上がるのは青緑色の結晶。そしてこれを再度真似て……自身の目に流す。魔力視認と同じ感じで行うわずかな強化。
これによって見える世界は。
「……こ、れは」
美しい。あまりにも美しいものがそこかしこにある。
あの輝きに身を委ねたくなる。あの美しさに掻き抱かれたくなる。
この苦界を抜けて、あれを口にして、世界を抜け出してしまいたく──……。
魔力を止める。
「……成程。仲間を増やしたいとかではなく、単純に自分たちの逃避でしたのね」
アンデッドの首を放り、ショベルで割断。
恐らく。この魔力で『
そのまま結晶化させてしまえば私が離れても良くなる。
当面は確かにそれでいい。
ただ問題は、ゴルズィオが結局野放しであるということと、封印とでも呼ぶべきそれは誰かの手によって解かれかねないということ。
できれば破壊したい。
吸引する宝珠の破壊方法が「魔力を吸い出しながら圧力を加えること」だったことから、操る切り株の破壊方法は……「逆に操って焼く」とかでしょうかね。
……思考はこれくらいにしよう。
当面でいい。とりあえず『
魔力結晶化のプロセスを経て、『
琥珀色の結晶。その中に入った二股の切り株。心なしか色あせたような気もする。
「ふぅ……」
「……娘。やるならやると言いにこい」
「え? あぁ魔王。……ヤですわよ魔王城遠いし」
振り返れば魔王の姿が。ただ魔力をほとんど感じないあたり、分身ですのね。
「終わったのか」
「とりあえずは、ですけれど。ゴルズィオを倒さなければ新たなアーティファクトが作られて終わりですし、できれば破壊したいですし」
「そうか。ならばどうする。これが終われば貴様は国へ帰るものと思っていたが、また魔王城に来るか?」
……うーん。
確かに戦力は必要だ。対アンデッドのみならまだしも、ゴルズィオを相手に私一人でなんとかなるなんて思い上がりはない。
ゲームでだってフル装備フルパーティでかなり苦戦させられるのだ。魔王ルートや魔王が敵対しない──和解する──ルートにおいてはゴルズィオがラスボスになるから、それに見合うスペックを持っていると言える。
「外に目を向けている余裕、ありますの?」
「このままアンデッドの脅威が去らぬのなら難しいと言った。だが、当面がもう大丈夫なのであれば、すべての原因を叩きたいと名乗りを上げる魔族は多いだろう」
「ああ、逆に団結すると」
「そういうものだ、魔族とは」
……勇者パーティはまだ別のことでかかりきりだろうし、王都へ戻って支援要請なんて無理が過ぎる。
なら魔族が一番か。
「じゃあお願いしま──は?」
魔王へ向き直って。
直後、視界が闇に飲まれた。
……ここは、ゴルズィオの空間?
「困るナ☆ こんなに早く諸問題を解決してしまうなんテ☆」
「あら、お久しぶりですの。顔の怪我はもうよろしくて?」
「……出会い頭に煽ってくるのそろそろやめないかナ☆ 会話にならないだろウ☆」
「"今あなたを殴りましたけど会話にならないので殴り返さないでください"、なんて道理が通用すると思って?」
全ての原因。そして彼女と私の殺し合い。その凄さによって殺し合いにはならなかったけれど、死者を叩き起こしたあなたを許すつもりはありませんわ。
「そっカ☆ じゃあ本題を述べてしまおウ☆ ──ボクには王都の貴族に協力者がいるんダ☆ そっちを叩かずにボクの方へ来てしまっていいのかイ☆」
……。
「リベルタ・オスロ・ナムトカルガの村を滅ぼしたのとは別口の計画☆ キミが見つけられなかった水面下の悪意☆ それが全ての原因サ☆」
「仮に本当だとして、別にあなたを殺してからでも調べられますわ」
「そうかナ、どうかナ☆」
ただの命乞いだとは思わない。
魔族の力を結集させたとしても、彼にはそれらと対等かそれ以上の力がある。
だからこれは、もっと単純な話。
みすみす逃しちゃうのは勿体ないよ、という……好奇心でしか動かない【愚悪賢者】の親切心か。
「その貴族の、名は」
「ごめんネ☆ 有象無象の名前を覚えられるほどボクのキャパシティは寛容じゃないんダ☆ けれど、首筋に木立のマークがあったかナ☆」
「木立……Eadhadhですの?」
「そだヨ☆」
Eadhadh。オガム文字だ。「ᚕ」のマーク。
首筋とはまた面倒なところに。遠目で確認できないじゃありませんの。
「他、伝え足りないことは? 見逃しコンテンツ、もうありませんの?」
「うーん☆ そうだなァ☆ あア☆ そういえバ☆ まだ王国に辿り着けていなイ☆ 最後の綺羅星のいる村ガ☆ もうすぐ滅びそうだヨ☆」
最後の綺羅星。まだ王国に辿り着けていない。
……旅路の旗か。そうですか、彼、いないいないと思っていましたけれど、そもそも王国まで来れていませんのね。
確かに見逃しコンテンツと言えばそう。最後の攻略対象、ルドガー・モーディ。
ただ協力者の話と違って無理をしてまで助けにいく相手かと言われたら……うーん。
「ま、気には留めておきますわ」
「それがいいヨ☆ キミも人間ダ☆ すべてを救うことなんてできないからネ☆」
「民であればなりふり構わず助けに行きましたけれど、そうではないのなら、まぁ無事を祈るくらいですわ」
「ドライだネ☆ 流石だヨ☆」
それで。
この空間から出るには……またカオスワールドしますの?
「これは起きている時に見る夢のようなものサ☆ さようなラ、【昇格者】☆ 次にボクらが見える時ハ、決戦の舞台だといいネ☆」
「ネックをウォッシュしてウェイティンプリーズですわ~」
パチン、と黒い世界が泡のように弾け……元の場所に戻る。
目の前には魔王。
「どうした、娘」
「じゃあお願いしますわ」
「ああ、わかった」
どこかの空間で「エ☆」という声が聞こえた気がしないでもない。
いやだって、他のコンテンツとあなたの討滅は並行できるでしょう。別にそこに私がいる必要ありませんし。
「私は少しやり残しを片付けに王都へ戻りますの。まぁ帰るというより暗殺しにいく、が正しいのですけれど」
「何か必要なものはあるか?」
「なんでそんなに親身になってますの? あなたもっとツンケンしていませんでした?」
「曲がりなりにもお前は今しがた世界を救ったのだぞ。アンデッドの暴走によって苦汁を飲んだものであれば、その行為に敬意を表す。当然だろう」
「……じゃあ、身を隠せるローブを一つ。それ以外は要りませんわ」
「すぐに用意しよう」
なんか。
ちょっと、やりづらいな、とか。
二週間後。
草木も寝静まった頃合いに立つは王都の城壁。
風に棚引くローブ。見る人によっては私、死神みたいに見えるでしょうね。
さて、まずは現在の王都がどうなっているかの確認を──ッ!
ロングソードの横薙ぎ。それを躱して距離を取る。
「へぇ、避けたか。じゃあアンデッドじゃねーなアンタ」
勝気な声。なんか知っているような知らないような。そんな声だ。
……ショベルや口調で正体が露見してはあまり意味がないので……仕方がない。
「ここは私が敢えて問うが……何者だ」
「いやホントにな。どー考えてもオレの台詞だろ。ま、いいや。名前を聞かれたからには答えてやる。オレの名はヒルベルト。ヒルベルト・ムエナ・ヘンリースミス!」
……知らない。知らないけど……顔つきは、以前私が脅して準聖騎士に押し付けた子供に似ている。背丈が全然違うけど。
そして魔力の質は……アーダルプレヒトに似ている、ような? ……喋り方はアムエナの亡霊にいた彼だけど。
そもそも姓持ち? リベルタのような特例でないのなら、貴族……だけど私の知らない家名なんてあるはずがない。
「んじゃ改めて。アンタは?」
「ヴァラー」
「……へえ? こりゃ驚いた」
「何がだ」
「その恰好に名前、んでもって現れる時間! ウチに伝わる『死を纏う凶手ヴァラー』にそっくりだから」
こ……れ、は。
「世界も国もこんなんになっちまってるけど、オレ達は腐っても貴族なんでな。侯爵家としての務め、果たさせてもらうぜ」
もしや"再起源"……適用済み、なのか?