悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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自滅!

 すべてを打ち明けた。私の抱えているものすべてを。

 お父様は、自らその真っ白な首筋を見せてきた。私からは言い出し難いと考えたか、そうでもしなければ話し合いの相手足り得ないと考えたか。

 そして。

 

「ラファ。牙を見せた時、牙を見せ返してくるのは、捕食者の自覚がある者だけだ。敵がそうでない場合、牙を剥けば直ちに無害を装い、あるいは隠れてしまう」

「……わかっていますわ。だから調査を先にしていましたのよ」

「さらに徹底しなさい。敵は小物でも、被捕食者でも、考える頭を持つ人間だ。その首元に迫るまでは牙を剥いてはいけない。隠して、押し殺して、隠し通して、平然を装う静かな夜闇のように振る舞う。そうして現れた気の抜けた獲物を静かに仕留める。……恐らく邪な考えを持つ者は、私の前では正体を現さないだろう。だが……お前の前ならば」

「なら……問うておきますわ、お父様。私はゴルズィオの協力者以外にも、この国の建国者……そして王都の設計者にもアンデッドに纏わる何かをしていたものがいるのではないか、と考えていますの」

 

 いつかした考察。メインストリートが奇妙な坂の形になっている話。

 そして、第十区には「壊れている外壁」が見つからなかった、という話。

 

「……」

 

 疑惑部分はともかく、第十区の話はイジスらと共に発見したこと。だから当然知っているものと考えていたけれど……今のお父様の表情を見るに、どうやら違うらしい。

 四騎士は引き継ぎらしい引き継ぎをしていかなかった? それとも、引き継ぎを行った兵士が死している……あるいは口止めされている?

 彼らは人類救済など眼中にないけれど、そういうところは割としっかりしている。エスタ、パリスあたりはその辺うやむやにして出ていったりはしないはずだ。

 

「仮に……その話が伝達の齟齬により伝わっていなかったとしても、その後幾度となく行われている調査で事態は明るみに出ていたはずだ。……第十区、及び外壁調査チームを指揮していたのは……ソイルエルデ伯爵家とサイグドルヒ子爵家だな」

「最有力候補、ということですわね。彼らは建国には」

「土属性の大家であるソイルエルデは建国の中心だったはずだ。だが、これに関しては憶測の域を出ない。それよりも十区外壁の話は……十二分な理由になり得る。当主会で議題として提出するに足る。……私はすぐにでも自らの目で確かめてくる。すまないがラファ、お前の言だけでは」

「ええ、わかっていますわ。それよりお父様、エスタ様たちが見つけ、持ち帰ったこの国の建国誌についてご存じありません? 復活地点を潰すために使われたはずなのですけれど」

「それも、ソイルエルデの元にあるはずだ。彼らは平民らの仮住まいを作ることにも尽力している」

 

 成程、民衆の大意を得ているのですわね。

 賢いですわ~。

 

「敵は尋常の外側にいる愚悪賢者の協力者。事実に勘付いた私とお父様を狙って刺客を差し向けてくるという可能性もありますわ。どうかお気を付けて」

「ああ、十二分の用心をしよう」

 

 言って出ていくお父様。

 ……さて、私も……本当に教えられた魔力の潜め方の練習をしておきましょうか。

 

 

 そうして、特に欠落者もおらず、当主会が始まる。

 出席者は生存している貴族全爵位の当主と王族。王城の大ホールで行われるソレを守るはほとんどが聖騎士。

 ヘンリースミス侯爵の手によって捻じ込まれた私とヒルベルトだけが準聖騎士。それに緊張を覚えるような私ではないけれど、ヒルベルトの方は……ガックガクですのね~。

 

 だから議会が始まる前に、ヒルベルトにあるものを手渡しする。

 

「……これは?」

「緊張を和らげる秘薬だ。私の一族で、初めて殺しに手を染める者が使う」

「とんでもなく物騒だけど助かった……。……!?」

 

 始まる前でも厳かな空気のそこに、微かな苦悶が零れ……ない。おお、我慢したか。

 アスノトリド。王国に広く分布する果実であり、熟す前と後で見た目も味もガラっと変わることから「生まれ変わり」を象徴する迷信がいくつも転がっている果実。ゾンビパニックの世界になる前から自身とのシンパシーを感じていて調べ尽くしていたものが自室に残っていたので持ってきた。ちなみに特に魔法的価値はなかった。

 味。熟した後の味は非常に甘美。しかし、熟す前の味は……渋柿の渋さを八十倍くらいに濃縮した味、かな。体感。果汁だったそれを粉薬にして、さらにそれを丸薬にしたものですわ~。

 その味が舌にある間は緊張なんてしている暇はないだろう。まぁ会議に集中もできないだろうけど。

 

「──すまない、遅くなった。僕以外は……皆揃っているな」

 

 現れたのはオスカル。……アレハンドラでもセイブル王でもありませんのね。果たしてその辺どう落ち着いたのやら。

 ああ、いけないいけない。ラファは鳴りを潜めなければ。

 

 見る。まずは見やすい対岸……大ホールは円卓、奥側に座っている属性五家から。

 火属性大家、フレイエルデ侯爵家。お父様より十歳ほど上だったはずですけれど、それでもわかる活力。筋骨隆々にして戦好き。マークは……無し。

 水属性大家、ウォルテルデ侯爵家。ここは女性当主。彼女は典型的な魔法使いであり、身体を鍛える、ということ自体を嫌うタイプ。マークは無いが、リベルタ関連の主犯の一人。

 土属性大家、ソイルエルデ伯爵家。要注意。首筋の隠れる服もそうだが、……気のせいでなければ、武器を隠し持っている、ような。腹部の膨らみが……気妙だ。要警戒。

 風属性大家、ワインデルデ伯爵家。魔法の関係上伝達や斥候を担うことが多く、だから平民との距離も近いとされている家。マークは……見えない。首元の隠れる服を着ている。要警戒。

 そこに加えてダルクエルデ公爵家。本来は光属性のナムトカルガ、あるいはもっと純粋な光属性がいたのやもしれないが、太古崩壊より光属性が見つかり難くなったために衰退。闇属性大家のみが残っている。

 

 次、此岸。

 感知や結界を得意とするサイグドルヒ子爵家。要注意。アンデッドに関する哨戒は専らこことワインデルデが担当してるらしいから、穴は開け放題だろう。首筋にマークは見当たらない。

 優秀な聖騎士を多く輩出しているミルグドリヒ男爵家。魔法を扱うに至らない魔力量しか持てない血筋なれど、身体強化を伸ばしに伸ばしてきた血筋。彼らは生傷の絶えない生活を送っているから、正直見分けるのは難しい……木立のマークに該当しそうなものは無し。

 こっちにいるのはリベルタの村を焼いた主犯貴族が四つと……マルトムルガという商家か。よく生きていたな、ここ。戦闘能力の乏しい家のはずなのに……。首元の隠れる服だ。要警戒。

 

 最後がヘンリースミス侯爵家と王族。二人ともマークは無し。……ヘンリースミス侯爵家の座る位置、王族の隣(そこ)なのか。成程、ノルブカクルトの表面と言われるだけはある、のか?

 

「次に、ダルクエルデ公爵から議題に上げたいことがあるそうだ。公爵」

「承りました。──では、時間も限られているため、手短に。ソイルエルデ伯爵、サイグドルヒ子爵。あなた方は外壁調査のチームを率い、第十区外壁の調査及び補強工事を行っていた。そう記憶しているのだが、ここに間違いはあるか?」

「間違いは無いが、私達サイグドルヒ子爵家はソイルエルデ伯爵家に人員を提供することしか行っていない。実際の施工に関する諸々はソイルエルデ伯爵家が担っている」

「相違ない。それがどうした、ダルクエルデ」

 

 おっと議会が踊り始めた。

 ……どうにかして室温を上げて……いやいや流石に怪しまれるだろう。なんとかして見えない彼らの首筋を見たいものだが。

 

「とある筋から情報を受けて、今朝、私は外壁の全てを見て回ってきた。しかし、外壁のどこにも破壊された痕跡はなかった。補修工事を行っている様子も」

「当然だ。そも、我々ソイルエルデがメンテナンスを行っていた外壁ぞ。アンデッドがいくら群がったところで壊されはせん」

「ほう。ではソイルエルデ伯爵、此度王都を襲ったアンデッドはどこから侵入したものと見ている?」

「……ふん。正門からでも用水路からでも、アンデッドなどどこからでも入ってくるだろう」

「それについては否定させていただくぞ、ソイルエルデ伯爵。私達サイグドルヒ子爵家は城壁に感知の結界を敷いている……否、今となっては敷いていたが正しいか。あのアンデッド襲撃発生の際、その結界は破られていなかった。外からの侵入はあり得ない」

「サイグドルヒ子爵、今外からの侵入はあり得ないと言ったか?」

「ええ、言いました。オスカル王子……失敬、オスカル王」

「つまりアンデッドは王国内部……王都内部で発生したと、そういうことか?」

「はい。……今更でしょう、こんな話。共通認識では……」

「いや? 私達は知らないわぁその話」

「俺も今聞いたぞ。王都内部でアンデッド発生? どういうことだ、何があればそうなる?」

「これはこれは……また幼稚な伝達ミスがあったようですねぇ」

 

 俄かに騒がしくなり始める当主会。

 サイグドルヒ子爵家は議題に上げなかったのではなく皆が知っている前提で考えていたから動かなかった……というのはまぁ後付けでどうとでもなる部分だが。

 ソイルエルデ伯爵の苦虫を噛み潰したような顔は、これはどっちかな。管理不足に関してか、失言に関してか。

 

「静粛に。……サイグドルヒ子爵。アンデッドは外部から侵入したものではない。それは君達サイグドルヒ子爵家の全員が知るものか?」

「いえ、オスカル王。恐らく子供達は知りませぬ。知っているのは私や外壁管理に携わっていた傍系の者達となります」

「君達の中で、それについての結論……何があればそうなるかについての結論は出ていたのか?」

「いえ……いつか当主会で話すものだと……その、主体性を失くしておりました」

「ソイルエルデ伯爵。君は外壁の破壊をあり得ないものとし、アンデッドの侵入は外部からのものと断じた。しかしこうしてそれが否定された今、アンデッドの内部発生の可能性を認めるだろうか」

「……ええ、そういうことならば。サイグドルヒ子爵、そちらの腕を疑うような発言、誠に済まなかった」

 

 あら……思った方向に進まないものだな、こういうのは。

 が、今のソイルエルデ伯爵の「我が意を得たり」とでも言わんばかりの顔は……。

 

「待て待て待て。そんな簡単に片付く話かよ。何をどうやったら王都内で魔物が発生する。今みたいに復活地点になってるんならともかく、あの日までは王都に魔物が、なんて無かっただろうが」

「議会で使う口調ではない、というのはフレイエルデに言っても仕方のないことだけれど、主張は同意ねぇ。……でも、考えつくならとーっても簡単なアンサーがあるわ」

「ウォルテルデ侯爵、また陰謀論ですか?」

「またとは失礼ね。──簡単よ、内部犯がいた。誰かが王都内部でアンデッドを発生させた。アレが勝手に発生したって考えるより、ずっと現実的でしょう?」

「やっぱり陰謀論じゃないですか。まず、アンデッドの発生はネクロマンサー……一部の魔族にしか使えない魔法です」

「どうとでも考えられるでしょう。魔族が隠れ住んでいたのかもしれないし、死霊魔法を覚えた誰かの仕業かもしれない」

「無理です。人間は魔族の魔法を覚えられません。が、魔族が隠れ住んでいた説は……あるかもしれませんね」

 

 ……あー、こういう流れで……もしかしたら別世界の私は身を追われたのかもしれない。

 魔族の疑いがかかるとしたら、こういう疑惑がどこかで生まれないといけないから。まぁあっちはゾンビパニックがまず無いのだが。

 別に魔族人間関係なく魔法は習得できる。属性の幅が狭いだけだ。ああいや、転移なんかのロストマジックは無理みたいだが。

 

「良いですかい? 魔法に関しちゃ平民に毛が生えたほどと言っていいアタシ達から魔法使い皆さん方に質問があるんですがね」

 

 動いた。マルトムルガ……さて、どんな発言をする。

 

「皆さんは普段魔族と人間をどう見分けているんですかい?」

「……異形かどうか、だ」

「それだけですかい。んじゃあ身体検査でもしたらいいんじゃないですかいね」

「まさかこの中に魔族がいることを疑っているのか、マルトムルガ男爵」

「いえね、ダルクエルデ公爵の話の切り出し方が、どーにもアタシ達の中に内部犯がいるとでも言いたげな口調でしたんで、だったらお互い疑う余地のないほどまっさらになっておくべきだろうって話ですよ」

 

 ……わからないな。

 一聴してマトモなことを言っているように聞こえる。疑う余地がない。

 自ら肌を晒して……潔白を証明しようとしている? いや、それは私達が木立のマークを探していることを知っていなければならないが……。

 

「それとも、服の下に見せられねえ異形でも飼ってる方がいるんですかい、この中にはァ」

「ダルクエルデ公爵家は賛意を示す。人類の脅威はアンデッドだけで充分だ。魔族の脅威など、今は目を向けていられない」

「ウォルテルデも構わないわ。それで疑いが晴れるっていうんなら。ただ……身体検査、なんていうからには、しっかりした扱いをしてもらいたいものね」

「フレイエルデ、賛成する。渋る意味がねえからな」

「……ワインデルデは、ウォルテルデが反対したら反対しようと考えていましたが、賛成しましょう」

「なによ、乗っかり?」

「僕もあまりみだりに他人へ肌を明かしたくない派閥にいましてね」

 

 ちら、と。

 なぜか私を見てくるウォルテルデ侯爵。……なんだろう。

 

「ふん、断る。商家風情がそのような疑いを向けてくること自体不敬。やはり男爵家になどするべきではなかったな」

「ミルグドリヒ男爵家は反対させてもらう。任意でいいんじゃないか? 疑いたいやつも疑われたいやつも勝手にしておけばいい」

「サイグドルヒ子爵家、賛成です。此度の話には私の落ち度が多分に含まれているようですし」

「ヘンリースミス侯爵家、賛成だよ」

「話題を出したアタシも勿論賛成にございます。おやおや、何かが浮き彫りになりましたかな?」

 

 その他の貴族も賛成を出した。

 反対はソイルエルデ伯爵家とミルグドリヒ男爵家のみ。他は全員賛成……か。

 ミルグドリヒ男爵家はどちらかといえば中立だから、マルトムルガの言う通り浮き彫りにはなかった……けど、ライン切りされたように見えなくもない。

 

 その後も二、三の議論が行われる。お父様の出した議題については後日調査をすることで落ち付いた。その前に検査を、と。

 

 

 して、ウォルテルデ侯爵の身体検査になぜか私が抜擢された。

 

「……では」

「どうして自分が、って聞かないの?」

「私は準聖騎士。侯爵の決定に逆らえるものではありません」

「じゃあ教えてあげる。あなた女の子でしょう」

「……通報しますか」

 

 準聖騎士、聖騎士共に男性しかいない。女人禁制だ。

 学園から出た貴族女性で魔法使いに至れなかった者は皆花嫁修業に移行する……聖騎士になっている暇なんてないから。

 

「いいえ、こんな世界でわざわざ前線を選んでいるあたり、面倒な背景があることは確定しているし。ヘンリースミス侯爵家が自分の息子とあなたを警備にねじ込んだあたり、察するところも多いし」

 

 ウォルテルデ侯爵。王都唯一の女性当主。

 そして、リベルタの村を滅ぼした貴族の一人。

 

「見た通り、当主会は男所帯でねぇ、気を遣えないやつらばっかなのよ。あなた、これからも貴族のあれそれに付き合ってくれない? そのまま私のお世話係もしてほしいわぁ」

「お見逃しいただいたところ申し訳ない。この身は準聖騎士に捧げたもの。ただ……私が聖騎士となった時、お取りいただければ、あるいは」

「ああその手があったわね。じゃあちゃっちゃと聖騎士になっちゃって」

「……聖騎士になる条件をご存知でしょうか」

「知らないけど」

「学園卒業が必須にございます。まずは世界を救い、王都を復興させて、学園を再開しなければ」

「この戦いを生き残った準聖騎士は年齢問わず聖騎士に上げられると思うけどねえ。功績有り余る、でしょ」

 

 ラファの時、彼女とはあまり交流が無かったけれど。

 なんというか……普通の人だ。……だからといって私の手が鈍るとかそういうことは全く無いのだが。

 

「身体検査、始めさせていただきます」

「あら、振られちゃった? でも実際欲しいのよ、聖騎士で女の子。ミルグドリヒ男爵家にかけあってみようかしら」

 

 結果、彼女の身体のどこにも木立のマークは無かった。

 ……他の貴族も聖騎士が担当したのなら……そこから情報収集するのはアリ、かな。

 

 あなたの断頭台の刃は私じゃない。リベルタだ。

 未来の展望など──無意味だよ。

 

 

 夕刻、ヘンリースミス侯爵家前の庭。

 

「ヴァラー……オレ、見つけちまった」

「そうか。誰だった?」

「……」

 

 ずっと口を開いては閉じてを繰り返していたヒルベルト。どうせそのことだろうな、と待ち構えていれば、想像通りの話。

 

「言ったら……殺しにいく、んだよな」

「前にも言ったが、そいつが意思を発せない姿になっていれば生死はどちらでもいい」

「……」

 

 口を閉じて俯いたままのヒルベルト。

 じゃあなんで声をかけてきたんだ、と思わなくもないけれど……まぁ光属性なりに色々あるんだろう。

 地面の小石を拾い、茂みに向かって投げる。

 

「おっと、感知がさらに上達しましたねヴァラー」

「どわっ、み、ミルグドリヒ!? なんでそんなところに……」

「友人同士のじゃれ合いはあとでやれ。ミルグドリヒ、ヒルベルトの担当した貴族は?」

「担当貴族はフレイエルデ侯爵ですが、ヒルベルトがちらっと見てあからさまに態度を変えていた視線の先にいたのはソイルエルデ伯爵でしたねぇ」

「お前、なにを……!」

 

 ふむ。

 黒い所が黒かった、か。……サイグドルヒ子爵、マルトムルガ男爵は白……なのか。怪しいだけ?

 あと確認していないワインデルデ伯爵もどうにかして確認しなければ。ゴルズィオは相手が一人とは言っていなかったし。

 

「わかってんのか、ミルグドリヒ。それはお前」

「殺人の加担、ですか? ではアンデッドを引き込んだ貴族を野放しにしておけと?」

「ミルグドリヒ。お前の父親も首筋を晒すことに反対した一人だ。私の手を煩わせるなよ」

「ああ、父は違いますよ。昨日の内に私が確認してあります。それと、もし今日でお別れの場合、あなたのショベルは学園のあなたの部屋に安置しておきましたので、取って出ていってくださいね」

「……オレたちと……同じくらいの女の子、だぞ。ヴァラーは……そんな子に、人殺しを……」

「面白い言葉を吐きますね、ヒルベルト。その方、血も涙も無ければ心もないとまで謳われた指導者の概念の具現ですよ。それが全体の益を損なう一部を切り捨てることに、どんな反論がありますか?」

 

 誰が謳ったのか。

 謳ったのはあなただけでは?

 

「オレは……だったら、オレはヴァラー、お前を止め──ッ!?」

 

 剣を抜いたヒルベルト。そんな彼に切りかかるは、ミルグドリヒ。

 ああ、そのために来たのか。……ふん、余計な世話を焼くものだ。

 

「何すんだよ!」

「このままだと私の親友が凶手ヴァラーに殺されてしまいますので、まだ人間味のある私があなたを止めているのですよ。──さ、ヴァラー。どうぞ、あなたの考える正義を為してください」

「正義だとも大義だとも思っていないが、言葉に乗せられてやる。──ではな、ヒルベルト。ミルグドリヒが斬りかかっていなければ私がお前の喉を裂いていた。そうなっていれば今もこちらを狙っているヘンリースミス侯爵や夫人と戦わねばならなかっただろうし、()()()()()()()()()()()()にいるダルクエルデ公爵やフレイエルデ侯爵とも刃を交えなければならなかった可能性がある。親友に感謝を述べておけよ」

「流石にその全員と戦ったら死にますよね?」

「さぁて、身体に穴が開こうとも戦いを止めない自信はあるが、確かに勝てたかどうかは謎だな」

 

 剣戟を背に。

 ヒルベルトの制止の声を聞き流して──向かうは、ソイルエルデ伯爵家。

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