悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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罪滅!

 夜。中天の月が美しい時間帯。

 ソイルエルデ伯爵家はその執務室に、そんな美しい月を憎々しげに眺める老人がいた。何を隠そう、ソイルエルデ伯爵である。

 この世に六つある属性のうち、それぞれを司ると言われるほどにまで特化した血を有する属性大家がソイルエルデ。中でも歴代最優と言われるほどだった彼には、その巧みな土属性魔法の操術から【造形師】という称号まで与えられている。この国にある巨大建造物のほとんどに彼は携わっているし、彼の血筋もまた王城や王都そのものの建造に深いかかわりをもつものばかりだった。

 無論のことながら、彼はそれを誇らしく思っていたし。

 勿論のことながら、彼はそれを目障りに思っていたのである。

 なぜなら──。

 

「感傷に浸っているところ申し訳ないが」

「ッ、アイアンスキン!」

「おっと」

 

 首筋……肌を撫でる槍の一閃。人体の出せる威力をゆうに超えたその一撃は、金属同士がぶつかり合うような衝突音と共に弾かれて終わる。

 目に入るは真っ黒なローブ。体格と声からして女。そこまで判断した上で、ソイルエルデ伯爵は十二分な距離を取り、さらに己が手に長剣を生成した。

 その間約一秒。貴族とは戦闘者の別名であり、【造形師】である伯爵は他家の引退魔法使いと違って常日頃から魔法を使っている。これくらいは造作もない。

 

 ただし、その侵入にも接近にも気が付くことができなかった……その観点から距離を取ったし、出方を窺っているのだ。

 果たして。

 

「成程、牙を見せ返してくるどころか、か。それは予想していなかったな」

「……何者ぞ」

「ヴァラーという凶手だ。【愚悪賢者】の犯行への関与の疑いにより、お前を殺しにきた」

「奴め、下手を打ったか。……いや、それで儂の名が出る、だと? まさか……売りおったか」

「繋がりを誤魔化しすらしないとは恐れ入る。それと、情報の売買などアレの興味を引くものか。あれの原動力は無限に湧き出る好奇心だけ。誰にも知られずに終わるのは勿体ない──そういう理由での情報提供だったよ」

「……気狂いめ。やはりあんなものと手を結んだのは愚策だったか」

 

 会話をしながら魔力を錬る。この伯爵家は彼の造形物、つまり巨大な魔法造物(マジックアイテム)であると言える。マジックアイテムの生成には起点こそ存在しても、終点は無い。いつでも手を加えられる……加え、修正し、造形し直すことが可能だ。

 それは当然この家にも適用される。凶手、凶手。ああけれど、その姿はどこまでも矮小だ。

 あの凶手は知らない。自らが今、竜の鼻先に止まっていることを。その顎が隣人のように手を広げていることを。

 

「二つ、問う。一つはなぜアレと手を組んだか、だ」

「今なお問答の主導権が自らにあると考えているあたり、凶手というより道化ぞな」

「沈黙を選ぶか? それもまぁいいだろう。二つ目の問いは、共犯がいるかどうかだ。無論献身的に自分だけが悪だと吐露するのも良いとは思うがな」

 

 凶手の座る窓枠。丁度いい、あそこを顎としよう。

 伯爵は──顔色一つ変えずにそう決心して。

 

「二つ目も無言か。手間を省こうと考えただけなのだが、上手くいかないものだな」

「死──」

 

 ──絶命した。

 

 

 屋敷全体に走っていた魔力が引いていくのを見て、安堵の溜め息。

 流石は属性大家の現当主。とんでもない魔力量だし、とんでもない干渉力だ。まさか家全体を武器にしてくるとは。

 まぁそっちに意識が行っていたので本体の心臓を突いて終わりだったのだが。アイアンスキンの効果時間や効果量は把握している。得られる防御力が特大な分効果時間も少ない。だから雑談で効果時間を削って切れた瞬間を狙っただけ。

 集中している時と会話している時では体感する時の流れが変わってくるから、そのあたりの知識不足ですわ~。

 あと、こんな接近戦の距離でまず魔法を頼ろうとするのがな。折角剣を生成したのだから斬りかかってくればいいものを。そっちの方がまだ苦戦したぞ。

 

 先程叩き切り損ねた首筋のマークを見る。

 ……どうしてゴルズィオという気狂いと手を組んだのか。冥途の土産に話してくれればいいものを、黙秘を決め込むとはいや全く。

 

 次。

 

 

 風の魔力の動き的に察知されているらしかったので、正面玄関を蹴って突き破る。

 ずらりと並ぶは聖騎士──ではなく、その鎧を風で繋いだもの。さしずめアーマーウィンドゴーレムとでも言ったところか。

 

 踏み込み、一閃。

 狙うは鎧同士の間。本来ならば文字通り「空を切る」だけの斬撃は、しかしガシャンガラガラと鎧を崩す結果を齎す。

 ガタンとは上階から。まるで理解できないことに驚いて立ち上がってしまった、とでも言いたげだ。

 

 阻むものがいなくなったので、そのまま上階へ。階段を上っている最中にきた風の塊はすべて沈黙させてきた。

 

「……驚きましたね。一階のリビングアーマー、どうやって倒したのですか?」

「斬って、だが」

「ご冗談を。あれに中身はありませんよ」

「あっただろう。お前の魔力という中身が。私はそれを断ち切ってきただけだ」

 

 王都に着いてから影の薄さに拍車がかかったでおなじみアティアさん。

 忘れられがちだけど、アティアを纏えばミスリルと似た効果を引き出せる。即ち、魔力を物質として掴む、ないしは干渉する、という行為が。

 流体の魔法は大抵これでなんとかなる。装甲になるわけではないのであの風に鎌鼬みたいな効果があったら違う方法も考えた。が、なんでもない風だったので切断して終わり。

 

「それで……僕に何の用でしょうか。ああ、お気を付けください。この場での発言はすべて外にいる者たちにも聞かれますので、慎重な発言を」

「私はヴァラー。今しがたソイルエルデ伯爵を殺害し、その足でお前に会いにきた凶手だ」

「……!? ……本当に……死して──?」

「凄いな。今の一瞬で確認したのか」

 

 ……申し訳ありませんわ、お父様。お父様の言うやり方のほうがずっとスマートなのでしょうけれど……私、そこまでスマートな人間じゃありませんの。

 無理矢理逃げ場を失くして、その首を掻っ捌く。その方が性に合っていましてよ。

 

 なんて。

 

「どう……して、僕を狙うのですか?」

「【愚悪賢者】ゴルズィオ・ヴィリジオニティカ。お前には彼との関与の疑いがかかっている。ソイルエルデ伯爵の方は認めるどころか自供してくれたが、お前は無理か。なんせ今全員に聞かれてしまっているものな」

「疑いだけで、殺人を?」

「それだけの価値がある」

「……これだから……暴力の信奉者は。けれど、いいですよ。あなたがその気ならば、こちらもそういう手でお相手してあげましょう」

 

 轟と渦巻き始める暴風。

 ローブのフードが飛ばされないようにだけ気を付けよう。それ以外はそよ風だ。

 

 いや本当に、ソイルエルデ伯爵といいワインデルデ伯爵といい、案外そのマークを隠さないのな、という印象。

 まぁ私が嗅ぎまわっているとは気付かなかったのだろうし、あのゴルズィオがわざわざ情報を明け渡すとも考えなかったのだろう。その点は私と同じ解釈をしたんじゃないかな。

 即ち、通常の損得勘定では動かないだろう、と。

 

「悪いが本当に興味が無いんだ」

「ッ!?」

 

 槍を突き出す。風など関係がない。それは一切を阻むことなく、その首に穂先が──む。

 

 槍を引っ込めてバックステップ。

 一瞬遅れて、業火と共に大剣が降ってきた。

 

「っとぉ! 間に合ったか、ワインデルデ!」

「あ……あぁ。ありがとう、フレイエルデ侯爵」

 

 フレイエルデ侯爵。それなりの歳のはずだけど、ブラッドと同じくらい大剣をぶん回せるらしい。

 ただしブラッドは大剣のみ、彼はバックラーのようなものを腕につけている、という違いがあるが。魔族はね、基本防御とか考えないから。

 

「守るか」

「ま、それが貴族なんでな。その愚悪なんたらとコイツにどんな関係があって、どんな関係があると殺されるに足るのかは知らねえが、それが裁きだってんなら調査含めてこっちに任せな。部外者が殺していい存在じゃねえんだよ、貴族ってのは」

「知っているさ。だから私が来た」

「あん? そりゃどういう意味だ」

「私も王国関係者だ。──邪魔をするのならお前も殺そう。構わないか、フレイエルデ」

「聞きてえことがわんさかあるが、構わねえよ凶手!」

 

 ううん火属性。良くも悪くも純粋になるのが光属性なら、良くも悪くも戦好きになるのが火属性特化である。属性は割とちゃんと性格へ影響するのだ。

 

 なんでもない槍と多分名有りの大剣が衝突する。

 膂力は……ブラッドに及ばない。まぁオーガに膂力で勝る人間がいたら流石の私も魔族認定する。

 

 激しく火花を立てて弾かれるは両者の武器。……一方的に弾き飛ばしたつもりなのに、こっちも弾かれた。技ありか。

 

「へぇ、気付かなかったが、魔力持ちか! 王国関係者ってのは、まさかどっかの没落貴族か!?」

「少しは頭を使え、侯爵。お前が子供の頃から王国内では貴族の没落は起きていないだろう」

「だが何代も前ならあり得らァ!」

「何代も前、という点だけ正しいか、それで言うなら」

 

 再度合わせ、弾く。今度はあちらだけを弾けた。

 成程、インパクトの瞬間に敢えて引くのか。推進力は魔法に任せて……疑似的に柔を以て剛を、に近いことが起きている。

 

「ハッハァ! いいね、若さに関係なくとんでもねえ殺気だ! わくわくする! 年甲斐もなく楽しんじまうぜオイ!」

「こ、侯爵? ここは一応僕の家だということを──」

「あ? まだいたのかよ。戦えねえやつは下がってな、邪魔だ!」

 

 大剣が炎を纏う。その肉体を魔力が強化していく。

 本当に年甲斐もなく、だ。はしゃぎすぎて、既に所々が焦げ付き始めているじゃないか。

 

「──蒸発してくれんなよ。一撃、耐えきってみせなァ!!」

 

 灼烙を湛える大剣。瞬間的に鉄をも熔かし得る温度になったとでも言うのか、まだ打ち合っていないはずのこちらの槍まで赤熱し始めている。

 そんなものを人間が持っていても大丈夫なのか、とは当然の疑問だが、なぜか大丈夫なのが魔法というもの。まぁなぜかもなにも、「とある万能」にとっては些事だから、なのだけど。

 

「炎竜閃牙ァ!」

 

 名は体を表ナントカ。

 ドラゴンの頭のような形を取った炎がフレイエルデ侯爵の正面、その全てを灼き尽くす。

 全てだ。ワインデルデ伯爵家の壁なんかも全て消滅……もとい焼滅し。

 

「……ふぅ、やり過ぎたか?」

「後ろだ、フレイエルデ!」

「ッ!?」

 

 お……っと。

 まさか止められるとは思っていなかった。

 

「っぶねぇ……すまねえ助かった!」

「確かに僕には君達のような火力は出せないけどね、だからこそ感知やサポートでは負けるつもりはないんだよ」

「おう、もう邪魔とは言わねえからよ、しっかり俺を助けてくれ!」

 

 なんか友情爆発しているけれど、本当に年甲斐もないなアンタら。どっちも五十前後だろうに。

 ……流石に時間をかけ過ぎたか。

 外、結構な人数が集まってきている。炎に風が加わったこともあってローブが焼けないとも限らないし。

 

 仕方がない。かくなる上は──。

 

「問いを」

 

 悪寒。──全力の防御と共に、回避!!

 

「おっとっと……そ、そんな怖い顔して睨まねえでくだせえや。アタシみたいな戦う才の無ぇモンは、そんなに凄まれちゃあ怯んじまいますよ」

「あ? 何しにきたんだよマルトムルガ男爵。ここはあぶねえぞ、絶賛俺のせいで」

 

 今のは……お父様やティナに感じた、達人の……。

 ヒルベルトに色々聞いてから、一応私側でも調べ直してのこの暗殺だ。その上でマルトムルガ男爵は白だった。ただ厚い服を着ているだけだった。

 だと思っていたけれど……なんだ、何が私をここまで怯えさせる?

 自称している通り、戦闘能力なんか欠片もないのに。

 

「それで、問い、いいですかい」

「……なんだ」

「いえね、ワインデルデ伯爵の魔法の力で、ここでの会話はしっかりアタシらにも聞こえていたんでさ。それで、結局アンタの言うナントカ賢者との関与がどういう罪になるのか知りたくてですね?」

「捕まえた後で聞き出しゃいいだろ。今じゃねえよ、マルトムルガ」

「捕まえるどころかそのまま炭化させちまいそうだから言ってんですよ。それで、アンタにとってどんな罪を犯したら、ワインデルデ伯爵は命を狙われるってな展開になるんでさぁ」

 

 また、だ。

 また……こちらの有利になるような発言。当主会の時も、彼の言葉があったから木立のマークが見つけやすくなった。

 そして今回も……?

 

「……【愚悪賢者】ゴルズィオ・ヴィリジオニティカは今世界を襲っているアンデッド暴走の主犯。そしてソイルエルデ伯爵とワインデルデ伯爵はその共犯者だ。その思想は殺すこと以外では止められない。故、殺しにきた。それだけだ」

「なんですって!? いやぁそれが本当ならフレイエルデ侯爵も守っている場合じゃありませんよ、大犯罪者じゃないですか!」

「ん……だが、王国貴族の罪は王国が裁く。正体不明の暗殺者に殺されました、はい終わり、ってわけにはいかねーだろ」

「おや? ということは、フレイエルデ侯爵もワインデルデ伯爵に罪がある可能性はお認めになられているので?」

 

 わざとらしく驚き、わざとらしく聞き返すマルトムルガ男爵。

 それに対し、フレイエルデ侯爵は「ああ」と短い返事をする。

 彼の返事に一番大きなリアクションを見せたのは、当然、今しがた友情を確かめ合うようなことを言っていたワインデルデ伯爵である。

 

「そん……い、いや! 僕がそんなことに関わっているわけないじゃないですか。第一理由がない!」

「確かに理由は考えつきませんね。自国をこんなんにするどころか、世界中をひっくり返しちまうようなコトをやらかす意味がわからない」

「そうだろ──」

「──ところでアタシの手元にはとある文がありましてね。いやさ()()()()()()故人より宛てられた文ですから、こんな喧噪に満ちる場で読み上げるのは心苦しいんですけれど」

 

 言いながらマルトムルガ男爵が懐より取り出すは、丁寧に封の為された羊皮紙(スクロール)

 この世界ではまだ紙がそこまで普及していない。余程大事なことにしか紙は使われない。

 

「"罪の意識。日を追うごとに強くなる苛念に筆を執る。私、アウディアス・ソイルエルデは罪を犯した。今この瞬間も胸の奥に沈殿し、こびり付き、離れないものがある。即ち、アンデッドの大量発生とそれに伴う人類の歴史の冒涜である。一見して災厄にしか思えないこれらすべては、【愚悪賢者】を名乗る存在と、それを手引きした二人によって引き起こされた人災である。そしてその二人の内の一人が私、アウディアス・ソイルエルデだ。"……なんて書き出しから始まる、計四ページに亘る罪の告白文」

「……なん……そんなものが……」

「ここで全てを読み上げるのは長いので、あとで皆さんで確認してほしいんですけどね? 曰く、ソイルエルデ伯爵は建築家として扱われるのが嫌だったそうで。王族への非難の文と一緒に、王城で発生するアンデッドによって王族がいなくなれば、みたいな発言も書かれていまして……あちょっと、文ですよ!? アタシが言ったんじゃないですよ!?」

 

 なんだそれは。

 そんなものを……あの老人が、本当に?

 

「で、まぁ、この中にはしっかり書かれてんですよね、アンタ……ワインデルデ伯爵の名前が」

「ば……馬鹿な……そんなのでたらめだ! いくらでも偽造できる!! そもそもどこからそんなものを……!」

「確かに。じゃあソイルエルデ伯爵と付き合いの深かったサイグドルヒ子爵らにしっかり筆跡鑑定もしてもらいましょうか。──そんなわけでして、疑いは充分なんでさぁ、凶手さん」

「……退け、と?」

「ええ。フレイエルデ侯爵の言う通り、王国貴族の問題は王国が片付けなきゃあならない。勿論被害者という意味じゃあ世界じゅうの人間に復讐の権利があるたぁ思いますがね。それでもただ殺すだけじゃ、そうだなぁ、後世において、アンデッドとの戦いによって殉死、なんて書かれ方をするかもしれない。まるで名誉の死みたいに。そりゃ嫌でしょう?」

「どうでもいい。私は再発を防ぎたいだけだ。個人の小さな野望一つが世界破壊のトリガーになってはいけない。ゴルズィオにはその力がある。だから私達は奴を殺す。そのための全てを用意した。その過程で共犯者がいることがわかったから、そちらも殺しにきた。ソイルエルデ伯爵やワインデルデ伯爵にその力があるかはどうでもいい。その意思があるかどうかだけが重要だ」

「はぁ、なるほど、一度やった以上、二度はあるし三度もある。彼を牢獄に入れたとて、看守に何かを語りかけて、新たな世界崩壊の一助とするかもしれない。それを防ぐのならば殺害が最も手っ取り早いと」

 

 考えは、まぁ、正しい。正義も大義もない、というのは戯言ではないのだ。

 正しい法のもとに裁けるのならそれが一番だ。この私刑は殺人でしかないのだから。ヒルベルトだってずっと正しかった。

 

「では凶手さん、良いことをお教えしましょう。いやね、王国刑法において、獄中死についての記述はそこまで数が無いんですよ。囚人の自殺は認めない。囚人同士の争いによる殺人は認めない。看守による囚人の殺害も認められちゃあいない──たったこれだけ。外部から何者かがやってきて、看守の知らぬ間に囚人を殺してしまっていた、は……他国じゃあ罪に問われるのやもしれませんけど、現時点の王国ならば問題がない」

「おーいマルトムルガー? ここでの会話は全体に聞かれてるって忘れてねーよなー?」

「問題ありませんよ、先程ワインデルデ伯爵が魔法を中止したのが見えましたから」

「ほーぉ、魔法の停止がわかるのか」

「魔力、毛ほどとはいえあるにはありますからね、アタシたちにも」

 

 ザク、と。 

 槍を床に突き刺す。

 

「っと……申し訳ありません、放置してしまって」

「二度手間だ。今殺しても後で殺しても変わりがない」

「いやいや、しっかりと法で裁かれたって記録が残るのは大きいですよ? アタシら商人なんかはそういうの大事にしますからねぇ」

「そも、王国の法で奴を裁けるのか? 国内で魔物を発生させた罪の立証、国家転覆を目論む外部勢力と共謀したことの立証。他にも様々あるが、かつての王国ならいざ知らず、今のこの国にそれをやり遂げる力があるとは思えない」

()()()()()()()()()()()()()()()()──違いますかい?」

 

 ……なんだ、その確証を持っているかのような口ぶりは。

 本当に……なんだ、こいつ。ゲームじゃ名前すら出てこなかったのに。

 

「聞く感じ主犯者、最大の原因とも言えそうなナントカ賢者ってのの殺害の前に寄り道をしているあたり、それについちゃあ既に手は打ってあんでしょう。そんで……これはアタシの商人の勘ってやつですがね、誰かしらが元凶さえも解除してくれている。本当に世界からは腐肉と死臭の化け物がいなくなっていっていて、人類の夜明けはすぐそこにある。……どうですかい」

「……フレイエルデ侯爵」

「あん?」

「王国貴族は王国が裁く。それが筋だと言ったな」

「ああ」

「今はそれどころではないから、などと言って後回しにしているようなら、今度こそ殺しにいく。──その槍はお前に預ける」

「おうよ。それと……戦闘中のアレソレでなんか勘違いさせたかもしんねーがな。──俺の最愛の娘とその家族を奪ったこのアンデッド騒動、その元凶に与したやつを許すつもりなんかサラサラねぇんだよ。まだ疑惑の段階だからそこまでの殺意を向ける気はねえが、罪の確定次第、俺がボロ炭になるまで焼き尽くす。お前の出番は無いぜ、ヴァラー」

「ひ……!」

 

 そこでたじろぐ時点で、だが。

 ……獲物を逃す、か。

 らしくない。ああ、これだから人間相手は。寄って斬るで終わらせるのが一番早いだろうに。

 

 それもこれも──。

 

「あれあれ、話をつけたのはアタシな気がするのに、アタシには預けてくれないんですねぇ……」

「手を抜くなよ」

「ええ、勿論ですよ、()()()()

 

 ……退くか。

 さ、ショベルを取って帰って……ゴルズィオを殺しにいきますの~。

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