悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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腐滅!

 それはリベルタたちと合流した村でのこと。感知したアンデッドの残党退治に出ている時、背後から近づいてくる魔力があったので、溜息と共に振り返った。

 

「なんですの、闇討ち?」

「……そういう風に思われるのも、仕方のないこと、だね。……アンデッド退治は終わっただろうか」

「まだ感知を育てていませんの? あと三体ほど地中にいますわ。闇討ちでないのなら手伝っていただけません?」

「ああ、勿論だ」

 

 イジス。なにか、どこか……憑き物が落ちた、みたいな顔をしている彼が、そこにいた。

 

 

 やっぱり魔法があると殲滅速度が段違いですわねー、なんて感想を抱きつつ、最後のアンデッドの首を圧し折って、ショベルを地面に刺す。

 水魔法。高圧水流や凍結が主な攻撃手段だから他の属性に比べて火力は劣る……のだけど、彼自身の剣と共に水を迸らせるスタイルがその火力を補っている。対アンデッドだと実力を発揮しきれないのだろうけど、対人は恐ろしく強いはずだ。

 

「それで、わざわざこんなひと気のないところで何用ですの。愛の告白ならばお断りですわ」

「謝罪を」

「……はい?」

「謝罪をしたかったんだ。……王国にいる時……僕ら自身の目的を……その、遮ってくるような感覚があって、随分と……邪険に扱ってしまった。君は、あるいは人類にとって最重要なまでに必要な存在で……ああいや、そういうことを言いたいんじゃない……だから、まぁ……僕が子供すぎて、それを恥じ入って……同時に、謝罪をしたくなった」

 

 あ、あら~?

 何があったのかわかりませんけれど、シナリオ中盤後半から終盤にかけてのイジスになっていますわ?

 仄暗い部分やにっこり怪しい系が鳴りを潜めて、「ああ、この人もただの子供だったんだな」って思ってしまうような……ともすれば幼稚さとさえ表現できる、そんなイジスに。

 

「君からすれば、なんのことやら、かもしれないけれど。……僕を含めて、四騎士は……その、この世界を」

「この世界を間違いだと断定し、一からやり直そうとしていた、でしょう。過去……というか別の世界でリベルタから聞きましたわ」

「ああ……そうだったね。うん、そうだ。でもそれが間違いだということにも思い至れた。……このアンデッドに塗れた世界が正しいとは結局思えなかったけれど、それさえも君がどうにかしてしまった」

「私がどうにかしたと知っていますのね」

「クランパネリテという商人から色々聞いたよ。【愚悪賢者】の名前は僕らも知っていたからね。彼を討滅したのが……君と、そして魔王であることもわかっている。あ、でも、そうだそれも。……僕ら……四騎士もリベルタも、もう魔王への敵意はもっていない。『勇者の魂』と『魔王の精神』の関係上どこかで衝突するのかもしれないけれど、僕らの間に横たわっていた厄介な誤解はすべてほどけたと思ってくれていい」

 

 別に困るのはシェディンなので私は気にしていないのだけれど。

 クランパネリテは……罪滅ぼしだったそうだけど、なるほど、全部見ていて、どこにも手を出せなかったから余計に罪悪感が増した感じかな。

 

「謝罪は受け入れてあげますわ。そうしないとあなた、潰れてしまいそうですし」

「……ありがとう」

「ただ、謝罪だけですの。お礼とかお返しとかは要りませんからね」

「そういうところもお見通し、か。……ラファ。あの時の僕が君を疑った理由の一つに、君が博識過ぎたことがあったと思う」

「ですわね」

「君は……リベルタと共に平行世界の過去へと飛んだ。そう聞いている。ただ……僕らがあの時君の嫌悪に近いものを抱いたのは、ある人物と君を重ねてしまったからなんだ。言い訳……になってしまうけれど」

「初代勇者の師、でしょう?」

「……! それを知っているということは、やっぱり君は」

「私とは別人ですけれど、別世界の私である可能性は高いですわね。そして……まぁ、説明が面倒なので色々省いて言いますけれど、私は多分夢という形でそれを受け取っていたのですわ。ええと、ですから、初代勇者の師であった別世界の私の記憶を」

「……そうか、夢渡り」

「ええ、そんな感じで」

 

 それが私ですの、と捏造してしまうことも考えたけど、知り合いである可能性がある以上はやめておいた方が良いだろう。

 丁度リリーガが夢渡りという技術や未来視を通じて記憶のやり取りをする、という荒業があることを教えてくれていましたから、全のっかりしますわ。

 

「今の私に時空を超えるような力や未来を夢見る力はありませんの。ただ、過去にいたという別世界の私にはあったみたいですわね。それが理由であることを明かせなかったのは、多少の遡及性で……まぁ色々あったのですわ。だから、怪しい言動を繰り返した私も悪いということで、その話は水に流しません?」

「そう言ってくれるのなら、うん、そうしよう」

 

 よし。実はパーヒャクで私が悪いのですけれどなんとかイーブンにしましたわ。

 

「……ここからは雑談なんだけど、いいかな」

「ええ、いいですけれど……聞かれたくない話でないのなら、村に戻りながらにしません?」

「そうしようか」

 

 感知は怠っていないけれど、単純に行き来の時間問題の話である。

 

 

 雑談。

 

「改めて……どうして王になりたくないのかを聞かせてほしかったんだ。君の求心力なら、言い方は悪いけれど、()()だろうに」

「なりたくないというか、困窮の時代に求められて王になるのは私の理想と違う、というだけですわ。ルドガーはそういう方を求めていたし、私にその能力があることもわかっていますけれど、私は私のつけた足跡を道として、その後ろをついてくる民を守る王になりたい。用意された椅子に座りたくないだけ」

「ああ……リベルタが頻りに"待ち構えちゃダメ"と言っていたのは、そういうことかな」

「理解度ほんと高いですわねー。別にあっちの世界でもそこまで長い時間を共に過ごしたわけではありませんのに」

 

 それとも『勇者の魂』が何かを見せているのかしら。

 それこそ……初代勇者の師という私を。

 

「あ、そういえばさっき嫌悪感とか言っていましたけれど、初代勇者の師な私との面識はありましたの?」

「いや、会ったこと自体はなかったよ。初代勇者とは何度か顔を合わせていたけれどね。そして……話に聞く限り、酷く暴虐な人間性で、話を聞かず、やることなすこと突拍子もなくて、けれど光よりも眩しいなにかがある……そんな人」

「わー他人事の気がしませんわー」

「はは、本当にね。……これは……もう過ぎた話だし、僕らが悪いんだけど、古代……首都ティルト=ヴィスタに僕らがいた時は、その……持て囃される存在が苦手だったから。君は知っているだろうけど、僕らは問題児だったから」

「あー」

 

 そして、そう。ゲームの方で聞いていた古代都市の名前はそっちだ。カカラパラゾに聞き覚えがないわけだ、本当に。

 その時点で別世界認定するべきだった……いやいや、無理ですって。

 

「ただ、初代勇者は思ったよりちやほやされて育ってきた人、という感じでもなかったな。だから……初代勇者とその師が嫌いなカテゴリーにいて、初代勇者だけ心象が良くなったから……」

「悲しき勘違いがあった、ということで」

「そうだね、そういうことにしておこうか」

 

 あ、そうだ。

 

「初代勇者の名前ってわかりますの? というのも、別世界にはその初代勇者がいなかったもので」

「アナンタ・エメトゲル=カーラ=アムンメギスカトだよ」

「……エメトゲルでメギスカトなのは変わらないんですのね」

「ああ、その辺も知っているのか。そうだね、メギスカト家とエメトゲル家の間に生まれた不義の子……。ああ、そういう意味では、僕らと似た境遇だったんだな……」

「その……知らないことも結構ありまして。たとえばあなた方古代人の名前の法則もよくわかっていませんわ」

「古代人って……。まぁそうだけど。……基本は"名前・母方の家名=魂の色=父方の家名"という作りをしているかな。母方も父方も全く同じ場合……つまり、同じ家だけど分家だから違う名前という場合ですらない、兄妹や姉弟から生まれた子供だけが"名前・魂の色・家名"という作り方になる」

「つまり、純血の子」

「うん。……僕らの場合は少し異なるけどね」

 

 ああ、なにか蔑称のようなものがついているのだったか。

 ティナさんがそうこぼしていたのを記憶している。

 

「……魔王の名前、あなたは知っていますの?」

「いや、知らないな。それが──」

「シェディン・バクム・エメトゲル=ナナ=ペレトメギスカト。それが魔王の名前だそうですわ」

「なんだって?」

 

 まぁ、そういう反応になりますわよね。

 

「初代勇者の子孫……且つ、別世界の勇者、クオン・エメトゲル=ナナ=ペレトメギスカトと同じ魂の色、ですわ」

「いや、同姓に関しては確率は少ないけれど発生することはあったんだ。僕らの時代にも、数百年前の先祖と同じ、みたいな人が何人かいたよ」

 

 ……まぁ幾つかの同じワードの組み合わせと魂の色なるものが理由なら、被ることもあるか。

 

「それよりバクムの方だ。それを子供に……しかも魔族の子に名付けるなんて」

「どういう意味なんですの?」

「……直訳すると、陽光。でも、エメトゲル(光芒)メギスカト(魔力光)と合わさると、バクム(星光)という意味になる」

「あら、素敵じゃありませんの」

「ああ……そうか、現代では星辰魔法が廃れているから、この驚きが伝わらないのか」

 

 星辰魔法。「*現代には廃れてしまった魔法が幾つかある。言霊魔法、転移魔法、星辰魔法、アニメイト魔法……」みたいな台詞でリストアップされた記憶しかありませんわね。

 

「シェディンは影という意味だ。魔族の王につけるにはもってこいな名前だけど、後ろにバクムがあると、"星光の落とす影が映し出すナナ(栄華)"になる。光属性が弱点な魔族につける名前ではまずないし、星光の落とす栄華はむしろ勇者を意味するものだ。初代勇者は生まれた後に勇者になったからね、その意味を持っていないのさ」

「……えーと、つまりどういうことですの?」

「リベルタの名前の意味は知っているかな」

「古代の詞詩(ことば)で新たな一ページを描く羽筆……でしたわよね」

「そう。リベルタの名前には勇者を意味するものが一つも無いんだ。オスロでさえ託すという意味しか持っていない。だから僕らはギリギリになるまで彼女を見つけられなかった」

 

 ……確かにおかしな感じがしますわね。

 名付けなんて親のセンスですからどうとでもなる気もしますけど、魔王の方が勇者らしい名前を持っていて、リベルタの方はそうでもない、だなんて。

 

 というか、あれ?

 私……どうして魔王の名前を知らなかったんですの? ……ゲームに出てこなかった……なんてことあるかしら。攻略対象一覧の中には魔王とだけ記載されていた覚えがあるけれど、彼の攻略ルートでは普通に名前が出ていたような。……あれ。

 記憶の欠落? ……転生したから?

 

「名前というものは強い意味を持つ。もし……もし、リベルタが……"『勇者の魂』を受け継いだだけの一般人"だった場合、覚醒が使えない可能性さえある」

「覚醒……に関しては大丈夫だと思います、わ?」

 

 その名前のリベルタがゲームではしっかり覚醒していたし。

 ただ……既にすべてがゲームと同じとは言えなくなっている状況でもある。

 

「まぁもう戦いらしい戦いはないのですし、良いのでは?」

「どういうことだい? ……『勇者の魂』は『魔王の精神』と衝突する運命にあるんだ。けど、今のリベルタじゃ、僕らが力を貸しても魔王には勝ちきれない」

 

 おっとしまった。ゴルズィオがいないから後半の章ボス軒並みいないようなものじゃありませんの、が出てしまった。

 

「仮にリベルタが勇者ではなかったとして……『勇者の魂』を受け継いでしまっただけの何の関係もない誰かであったとして、あなた達はリベルタを置いてどこかへ行きますの?」

「そんなことはしないよ。最初こそ……『勇者の魂』を目印に集まったのかもしれないけれど、今はもうリベルタという個人を僕らは見ている」

「ならいいじゃありませんの。今のままでは弱いというのは私も認めますし、時間はまだまだあるのですし、強くしてあげたらいいのですわ。覚醒などに頼らずとも魔王を倒せるところまで」

「……それしかないね。……うん、そうだ。じゃあこうしてはいられない。すぐに帰って対策を──」

 

 ピシ、と。石のように固まるイジス。

 何事かと前方を見れば──。

 

「仲良さそうだね、ラファ、イジスくん!」

 

 何かとんでもない雰囲気を纏ったリベルタが仁王立ちをしていた。

 

 

 誤解ですわ~みたいなやり取りは面倒なのでイジスに押し付けて、ルドガーのいる家を訪ねる。

 

「どうした、ラファ。何かあったか?」

「そろそろ出ようと思いまして。一応挨拶に来ましたの」

「……いや昨日の今日が過ぎるだろ。もうちっとゆっくりしていけよ」

「魔王領のアンデッドは大体駆逐しましたけれど、人間領がまだまだですわ? こちらには魔族も入ってくることができませんので、早めに取りかからないと年単位が光陰矢の如りますわ? だから、ご飯は美味しかったですし、柔らかいベッドも嬉しかったですけれど、そろそろ行かないといけませんの」

「……大陸にいるアンデッドをすべて……一人で片付ける気、なのか?」

「ええ」

 

 無茶を言っている自覚はない。

 できる。もう増えないのだから、できる。王になるだの貴族のゴタゴタだのは正直その後だ。

 私は貴族なのだから、一刻も早く民へ安全を届けなければならない。

 

「……一日、遅らせることはできないか」

「引き留めようったってムダですわ?」

「違う。準備をしたいんだ」

「準備?」

 

 ルドガーは……ニカッと笑う。

 

「あんたについていくための準備だよ。目が覚めた。そうだよな、自分たちの世界は自分たちで取り返さなきゃダメだ。……『旅路の旗』を再結集して、あんたについていく。おれもアンデッド退治をする!」

「準備に一日もかけるとか、貴族の婦女でももう少し早いですわよ」

「……ってことは、良いってことか?」

「断る理由がありませんもの。私はこの身と武器のショベル一つで充分ですけれど、荷物とやらが必要な皆様方はきっちり一日で全てまとめ上げてくださいですわ。一日経ったら私、たとえ何があっても出発しますので」

「おう!」

 

 問題ない。それは……まぁ、願ったりかなったり、でもあるから。

 

 じゃ、私も、一日ばかり多くの英気を養っておきますわ~。

 

 

 

 そこから、一年が過ぎた。

 アンデッドを見つけたら狩って、感知して殲滅して、アンデッドの痕跡を見つけたら辿って、調べて殲滅して。

 王国以外の生き残っている国も沢山見かけたし、その逆……亡んでしまった国も沢山通り過ぎた。

 彼ら『旅路の旗』は元々貴族へのレジスタンス……だから魔法使いが一人もおらず、ショートカットの一切できない旅だった。だから一年もかかったとも言う。

 けれど、ようやく。

 魔王領と同じで……山の頂上から地上を見渡した時、目に付くアンデッドが一体もいない、というところまで漕ぎつけることができた。

 

 残念ながら、一年ぽっちじゃ減った人口は増えない。増えないけれど、行く先々で赤子の声を聞くようにはなったので、まぁそういうことだろう。

 人類はまだ諦めていない。再興を目指している。

 ……そして、これまた行く先々でリーダーになってほしいとか留まってほしいとかのお誘いを受けたけれど、当然お断りした。リベルタの訪れていない国々も結構多かったから、勇者扱いもされた。一応誤解は解いて出てきたけれど、果たして納得してくれたかどうか。

 

 そんな折、である。

 

「ラファ! よかった、ここにいたのか!」

「なんですのルドガー。またシュナがお腹でも壊しましたの?」

「そういうのじゃない! 今行商人から話を聞いたんだけどよ、オスカル王子が」

「ああ、アレハンドラを処刑するという話。知っていますわ」

「いや……知っていて……無反応、なのか」

「特になんとも思いませんもの。ついでに言うと、多分その後のシナリオはオスカル王子自身もなんらかの告発を受けて王子の座を降ろされる……で、雲隠れ、ですわね。セイブル王はもうダメですから、後釜には貴族が座るのでしょう。一番近いのはダルクエルデ公爵家……つまりお父様な気はしていますわ」

 

 行商人。アンデッドの脅威が減ってきてから増えだした商人という存在。これが国交を回復させ、そして情報網にもなっている。

 クランパネリテとは相変わらずフィールドでしか出会えないけれど、彼も壮健らしい。この世界のルートは果たして誰ルートなのやら。

 その中で聞いた、「困窮のさなかにおいて贅沢の限りを尽くし、いたずらに民を疲弊させた罪」でアレハンドラの処刑が決まった、という話。罪状的にはテロ罪、ないしは国家転覆罪になるのだとか。

 ちなみにワインデルデ伯爵が処刑されたことも知っているので凶手ヴァラーはもう現れないだろう。

 

「行かなくていいのか、王国」

「王になる絶好のチャンスだから、ですの? 前にも言いましたけれど、用意された椅子にはそも興味がありませんのよ、私」

「だが……あんたの言うあんたの民は、今を一番不安に思っているはずだ。暴虐ですら耐え、耐え、耐えてきた彼らは、いつかオスカル王子がより良い国を建て直してくれると信じ切っていた。それが……もしあんたの言う通り、雲隠れになるというのなら」

「……」

 

 まぁ。

 ……そう、ですわね。

 どうせもう……外にいる必要はないのですし。

 

「はあ、じゃあ、帰りましょうか。『旅路の旗(あなたたち)』はどうしますの?」

「勿論ついていくさ。王国貴族がおれたちの知る貴族なら、改めて『旅路の旗』を建て直さないといけなくなるかもしれないし」

 

 ……なら、帰ってすぐ……リベルタ関連の貴族の粛清をしましょうか。

 私が暴虐の化身であるうちに。王となってしまえば権力は増しますけれど、自由に動くのが難しくなりますからね。

 

 ……王に。お父様、お母様、お兄様を差し置いて……私が。

 

 んー。……ま、あとは野となれ山となれですわ~。

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