悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい!   作:レッドアリーマー

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憶滅!

 寂れた映画館。名画座のような雰囲気の場所。席は四列しかなくて、真ん中の道を分けて左右にも五席ずつしかない……そんな、本当に小さな場所。

 映写機がジジ……という音を立てながら光を吐き出す。スクリーンに映るは緑の鬱蒼と茂る竹林。左上に映し出されるは「煌歴4187年」の文字。

 

「あ、そんな前の話は結構ですの。何よりジャンルが違ってしまいますので、スキップで」

 

 フィルムが回る。

 そうして始まったのは、地球での思い出……ダイアリー形式なそれだった。

 

 いやまったく。

 何を見せられているのかという思いもあるけれど、過去(記憶)と向き合うのも確かにお約束ですわよね、なんて嘯く。「悪役令嬢」のお約束というか、「悪役令嬢転生」のお約束だ。

 なんだかんだ言って地球では親友がいたとか、理解者がいたとか、そういう子に友情を叫ばれるようなそんな展開。けれど生憎と。

 

 ──"そうして彼女は、独り、若くして亡くなったのでした。"

 

 ナレーションの言葉に少し笑う。

 友人がいなかったとか引き籠っていたとかではないけれど、親友や相棒と呼べるような相手はいなかった。最後……あちらで最も親友に近しいところまで来たお友達から言われた言葉は、「熱量が高すぎて気後れしちゃう。疲れちゃうよ」だったか。

 もう一つ前の世界は文明が未発達……詳しく語るつもりはないけれど、あっちでいう中世頃の文明到達且つ和中華みたいな世界だったから、地球における様々が新しすぎて新鮮すぎて……そして若返った身体のバイタリティにかまけて、とんでもない熱量で物事に当たる少女だった。それがまぁ、孤立とは行かないまでも、周囲に人を寄せ付けない熱気になっていたのやもしれない。

 英雄や英傑と呼ばれるような人間ではなかったけれど、それらと同時代を生きたものとして、平和すぎる現代に適応できなかったと……ただそれだけのことなのだけど。

 同時にだからこそゲームは良かった。オンラインゲームじゃない、完全オフラインのノベルゲーム。他者と温度感を合わせる必要がないのもそうだけど、コミュニケーションが数値化されるから私でもやりやすい。選択肢にない行動はできないから、こっちの熱量がどれほど高まろうが枠をはみ出さずにいられる。映像媒体の鑑賞や読書なども同じだ。

 閲覧する分には、閲覧者がどういう精神状態であれ上にも下にもぶれない結果を出力してくれるそれらは、私という人間と酷く相性が良かった。

 

 ──"ラファ・ダルクエルデとして生まれた彼女には、様々な想いがありました。今度は自由に生きてみたい。遠くへ行ってみたい。シナリオを観劇したい。リベルタと友達になってみたい。"

 ──"しかし彼女は、誰に咎められたわけでも、躓いたというわけでもないのに、自らその想いに蓋をしてしまいます。"

 ──"公爵家。前も、その前も、爵位を持つような貴い地位に生まれたことのなかった彼女は、それが在るための現実を理解し、夢を抱き沈めてしまいました。"

 

 別にそんな崇高な話じゃあない。現実を見ただけだ。

 私がこの立場を放り出せばどうなるのか。誰かが私の穴埋めをするのか。私の世話をする人々が何を求めているのか。私の食事に使われるすべてがどこから来ているのか。

 ルドガーにも言ったけど、私はやっぱり、私という存在を生み繋いでくれた全てに恩返しがしたい。本当にそれだけなのだと思う。

 

 ──"ゆえに彼女は、記憶の一部に封印をかけることにしました。それを知っていると行動に翳りの出かねないものを知らないことにすることにしたのです。"

 ──"魔王ルートのバッドエンド。リベルタが魔族になるエンドにおける、最終スチル。"

 ──"シェディン・バクム・エメトゲル=ナナ=ペレトメギスカト。人魔の混血リアファルの子孫にして、真なる勇者の覚醒者。保有していた『魔王の精神』が『勇者の魂』の伝承を阻んだため、『勇者の魂』は初代勇者と同質の魂の性質を持つ者を依代とした。リベルタが滲み出る侵蝕の影響で魂をも魔に窶した時、魔王と勇者の均衡が崩れ、彼の勇者としての資質が覚醒する。リベルタから離れた『勇者の魂』は当然の顔をしてシェディンに宿るが、一つの身体に『魔王の精神』と『勇者の魂』を宿すことなどできない。それぞれは反発し合い、シェディンの精神と魂を奪い合うようにして引き裂いてしまった。"

 ──"歴代最弱。平和を望む魔王。人魔に横たわる溝を理解しながらも、自らならば架け橋になれると信じた彼の最期は、彼自身を人と魔に引き裂く裁き。"

 ──"もし、誰かが彼にリベルタより前に手を差し伸べていれば、あるいは。"

 ──"あるいは、彼と共に魔を統べ、人を統べ、千年王国を築き上げることができたかもしれない。"

 

 見覚えのない一枚絵。内側から裂ける魔王と、狂気的な笑みを浮かべるリベルタ。

 もし私がこれを知っていたら……確かに、公爵家の地位を捨てて、魔王のもとへ行っていたかもしれない。魔王が可哀想だからではなく、リベルタの力を借りずに魔王を無害化できる方法だから、だ。

 献身精神というか、この世界で起きる問題は「魔王の問題」と「ゴルズィオの問題」と「アレハンドラの問題」に大きく分けられるため、その一つを自らの手で潰せるのなら()()という合理だ。この方法ならば「自由に生きてみたい」も成立するし。だから……そういう意味では逃げだったのかもしれない。

 逃げ。逃げの選択肢に走らないように、私自らが封印した択。

 

 ──"オスカルルートのバッドエンド。全てがアレハンドラの意のままになるエンドにおける、最終スチル。"

 ──"オスカル・グランセ・ノルブカクルト。ノルブカクルトの正統継承者にして、自らの運命に立ち向かった者。彼の崇高なる魂は、権力の欲に溺れたアレハンドラの手によって沈められ、光を灯さなくなる。もう彼に希望はない。友を失い、恋人を失い、家族をも失った。今の彼に残るものは、学徒の全てが無駄と切り捨てられた学園の、かつて彼女らがいた部屋だけ。ああ、運が良い。いや、最悪だ。彼はそれを見つけてしまう。刃の潰された、儀礼用の剣。それでも硬く、それでも尖っているもの。失意の底にあった彼は、逃避するようにしてその剣を使う。台座に立てた剣に、倒れ込むようにして、自らの生を。"

 ──"まだあったかもしれない希望は自ら潰してしまった。逃避。向き合いし者の末路に最も相応しき結末だろう。"

 ──"もし、誰かが彼にリベルタより前に手を差し伸べていれば、あるいは。"

 ──"あるいは、彼と共に人を統べ、王国史における最盛期をものにできたかもしれない。"

 

 これまた見覚えのないスチルだ。けれど、そうか。ゲームにおいてはこれがあったから伏線になっていたのか。

 必ず戦闘から逃げることのできる剣。その使われ方がこれほどまでに"末路"と称するに相応しいものだったとは。

 私があの時儀礼剣を取りに行った理由は「必要になるかもしれないから」だったけど……無意識下では、「必要になられると困るから」だったのかな。

 この記憶の封印は、まぁ、正しかったように思う。アレハンドラ相手にもオスカル相手にも……余計な勘繰りや深読みをしてしまいそうだから。特に心が弱って自殺してしまうような相手だという前提知識は……政界においてはあまりにも邪魔過ぎるから。

 

 ──"クランパネリテルートのバッドエンド。同じ道化のゴルズィオに負けて、彼の全てが没収されるエンドにおける、最終スチル。"

 ──"ハイネケン・フェン・クルダ=トァン=テテネトネリケ。道化、あるいは銀、世界との心中を目論む者。大嫌いなこの世界を好き勝手できる力を手に入れた彼は、あれほど執着していた恋人をも捨て去り、世界の敵となる道を選ぶ。世界は彼の望み通りの滅茶苦茶を描き起こした。それは彼が飽きても、疲れても、止まらなかった。気付くだろう。気付いただろう。これは彼の力ではない。世界を好き勝手できる力を手に入れたのは彼ではない。そのことに気が付いた時、彼はようやく見ることになる。それでもなお、そうなってもなお彼を思い続けてくれた恋人の、見るも無残な姿を。彼は悔いる。彼は恥じ入る。観客の悲喜交交を操る道化であったつもりが、自らの意図しないままに笑われ者となる道化になってしまった。力も、世界も、なにもかもを没収された彼は、その肉体の所有権すらをも失って……ある一体のゴーレムとして、目を覚ますことになるのである。"

 ──"自らでは身体を動かすことのできない石人形。意識だけが鮮明に残るその地獄は、大罪を抱いた者には相応しき結論だろう。"

 ──"もし、誰かが彼にリベルタより前に手を差し伸べていれたとしても。"

 ──"彼女以外には振り向かなかっただろうし、彼女以外には己を打ち明けなかった。そういう意味では、まぁ、幸せな最期なのやもしれない。"

 

 ……主観においては唐突に出てきたがゆえにヒルベルトの方へ異物感を覚えがちだけど、ミルグドリヒだってゲームには出てきていない人間だ。

 トァン・マックアィレル。トゥアン・ミヒャエル。あの後彼がどうなったのかは知らない。知る由もない。けれど、その前においても知らなかった。

 いや……多くは語るまい。これに関してはかもしれないなどではなく封印して正解だ。余計な感情が過ぎるから。

 

 映写機は回る。

 残る主だった謎は、良からぬ気配とデイラリちゃん。これらは完全に新規のもののように思えるけれど、さて。

 

 

 ──"リベルタが誰のルートにも入ることのなかった場合にのみ閲覧可能なエンド。ルート名「蕾は未だ開ききらず」。"

 ──"このルートにおける最後の敵は、セイブル・グランセ・ノルブカクルトになる。"

 ──"誰とも恋をせず、勇者の試練だけを打ち破って帰ってきたリベルタを待っていたのは、おかしくなってしまったセイブル王による凶政だった。自分たちの行いがおかしいとわかりながらも従うことしかできない聖騎士。学園は閉鎖され、貴族たちは互いに疑い合い、国民にはどんな決定も開示されない。そのおかしさに──狂気に陥ったがゆえのおかしさではないとリベルタが気付いた時にはもう、すべて手遅れだった。"

 ──"贅沢の限りを尽くした罪でアレハンドラが処刑された。自らの血筋を偽っていた罪でオスカルが処刑された。魔王は彼女に討滅され、その道すがら愚悪賢者も討ち果たされた。偶然を司る商人は機を察して姿を晦ませ、すべてを知っていた反乱軍の手を取る機会も逸してしまっている。" 

 ──"あるいは誰か一人でも四騎士がそばにいれば、事が実行に移されることはなかったのかもしれない。ただ、残念ながら、リベルタの周囲に頼れる者は一人もおらず──。"

 ──"「王国とは存在自体が間違いである」。目覚めの時には冷たい牢獄の奥底へ封じられていたリベルタに彼の王が投げかけた最後の言葉。その目に映るは狂気でも暴走でもない、理性的な光。"

 ──"こうして王国は静かな終焉を迎える。国民は一夜にして魂が抜けとでもいうかのように「そのままの姿で」息絶え、その場に居合わせたはずの勇者もなにもできずに死した。後に残るは、一人、縛るものを全て脱ぎ捨てた、何も知らないふりをし続けた男が一人──。"

 

 ……。

 なんですの、これ。

 

「これ……は、流石におかしいですわ。これは……封印すべき記憶なんかじゃない。持っていないと……警戒しないといけない記憶のはず」

 

 映写機がカラカラと激しい音を立てる。

 戻しているのか、進めているのか。

 

 ──"セイブル? 来てくれたのは嬉しいが……お前、王族という立場を忘れていないか?"

 ──"相変わらず頭が固い、クリソゴヌス。ランディが生まれた時は立ち会えなかった。私が遠出をしていたからだ。しかし今私は王国にいる。ならばすべての公務をかなぐり捨てて、娘……ラファの顔を見にくるのも当然だろう?"

 ──"はぁ、なにが当然なのか全くわからない……。宰相殿に苦言を呈されるのは私なんだぞ、わかっているのか?"

 ──"そこは上手く躱せ。できるだろう、ダルクエルデ公爵家当主殿?"

 ──"……わかったわかった。我が愛娘の顔でも見て、日々の疲れを癒していけ。"

 ──"はは、話の分かるやつでよかった。なんせ王家には女の子が生まれなんだ……いやオスカルも可愛い子なのはそうだし、これから生まれる予定のカイウスも必ず可愛い子にはなるだろうが"

 ──"誰も疑っていないから言い訳は要らない。……待て、カイウス? これから生まれる予定? なんだ、もう第二子を儲けたのか?"

 ──"いいや、まだだ。だが、これから生まれる子にはカイウスと名付ける予定なんだ。"

 ──"……その子が女の子になる可能性もあるだろうに。"

 ──"はは、やもしれぬなぁ。"

 

 これは……私がまだ赤子の時分の記憶か。

 見上げる形にある、まだ年若いお父様とセイブル王。けれど、セイブル王のこの引っかかる言い方は。……それにこのシーンを私が覚えていないのは。

 

 ──"少し……出てくる。ラファと遊んでいてやってくれ、セイブル。"

 ──"勿論良いが、ラファが父親より私を好いてしまった時は許してくれよ?"

 ──"安心しろ。その時は終局魔法を叩き込む。上手く躱せ。"

 ──"堂々と国家転覆宣言とは驚いたなぁ。"

 ──"任せたぞ。"

 ──"あいわかった。"

 

 お父様が出ていく。ばたんと閉じた扉を数秒見送って、振り返ったセイブル王のその顔は──酷く冷たい、無機質なもの。

 

 ──"今の会話の全てを理解しているだけではなく、私を認識した瞬間から私を警戒していたな、ラファ。"

 ──"君は将来傑物になるのだろう。人々を導くような存在になる。王族など消えてしまえと思っている私とは利害が一致する。だから警戒を緩めてはくれないかな?"

 ──"……ハハ、クリソゴヌスと似て頭が固い。少しの融通も利かせられんか。そうかそうか。──ならばその記憶、奪うしかあるまいよ。"

 ──"……なんだ、これは。……これはまさか……世界の未来……まさか、未来視……そうか、そうかそうか!"

 ──"おっと、あまり大声を出すとクリソゴヌスが帰ってきてしまうな。──おやすみ、ラファ。次に遭う時の私は、優しいだけの、何の変哲もない王様だよ。"

 

 ……。

 他は封印したものだけど、これは……奪われたもの、とでも。

 

 ──"おお、よく来てくれた、ワインデルデ伯爵、ソイルエルデ伯爵、マルトムルガ男爵。"

 

 シーンが切り替わる。

 今までは私の視点だったけど、隣にソイルエルデ伯爵とワインデルデ伯爵が並んでいるあたり、これはマルトムルガ男爵の?

 

 ──"そなたたちに極秘の計画を伝えたい。この王国が辿るとされる未来と、それを覆すための計画だ。"

 ──"これはとある未来視の力を持つ協力者より授かった、この国の辿る歴史(運命)。少し先の計画になるから、その間に起きるすべてが合致していることを己が身で体感すると良い。"

 

 羊皮紙に認められた全ては……恐らく私の記憶から抽出したこの国の歴史。描写されていない部分はそもそも書かないことでクリアしたか。

 三人は熱心にスクロールを読み込んでいる。そこからシーンが矢継ぎ早に変わっていく。流れるように、しかしスクロールに示された通りのことが起き続ける歳月を。

 そして、勇者の覚醒まで……ぴたりと言い当てたその予言書を。

 

 シーンが切り替わる。皆今と同じくらい老いた姿で、四人、酒を嗜んでいる様子だった。

 

 ──"ついに、ですねぇ。"

 ──"ああ、明日。愚悪賢者の手によりアンデッドが暴走する。世界がめちゃくちゃになる。"

 ──"儂や先祖の遺した未完成品が潰える様を直に眺められないことは惜しいが、喜ばしきことだ。"

 ──"乾杯をしようではないか、協力者諸君。それぞれの目的は違えど、我らは世界の真理を知る者として──人類の新たな幕開けを、ここに宣言しよう。"

 

 乾杯の音が鳴って。

 しばらくして、ワインデルデ伯爵とソイルエルデ伯爵が眠りについた。

 その様子を見て私……マルトムルガ男爵に振り返るセイブル王。

 ──彼の首元には、木立のマークが。

 

 ──"ふむ……一服盛ったのかね?"

 ──"へい。なんせアタシにゃ王国を害する理由が無いもんで。交通が麻痺しちまえば商人もできなくなりますし。"

 ──"そうか。ではやはり、飲まなくて正解だったな。"

 ──"いえいえ、そんなことありませんよ、セイブル王。こうして種明かしをする以上は勝ちを確信してなきゃあならない。──もう仕込み済みってやつで、はい。"

 ──"……こ、れ……は……。なぜお前が使える……! これはノルブカクルトの秘法だぞ!"

 ──"アタシの商会から王家に献上されるものの中で、アンタだけが口にするもの、全てにある薬を混ぜ込ませていただきやした。毒見が食っても害のないものでさぁ。なんせノルブカクルトの魔力にだけ反応すんだから。つまり、そんなものが調合できるってこた、その魔力が使えるってことでね。"

 ──"ワインデルデ伯爵もソイルエルデ伯爵も腹に黒いモン抱えた野心家だった。だからアンタが集めるにゃ最適だ。けど、なんでそこにアタシを含めたのか、アンタは忘れちまったでしょう。──ま、理由なんて無い。アタシは無理矢理そこに自分をねじ込んだだけ。予定外の未来を知っちまったアンタを野放しにしちまうと、ノルブカクルトの魔力で好き放題ができちまうんでね。ヘンリースミスの影として鳴りを潜めていてもらわねえと。"

 ──"そうして、自身は、高みの見物か……イシドルス……!"

 ──"アンタがしようとしていたことを代わりにやるだけですよ。……おやすみなさい、陛下。アンタが不当に奪ったあれそれは、アタシが持ち主に返しておきますんで。"

 

 映像が終わる。

 暗い名画座。スクリーンの前に立っているのは、マルトムルガ男爵。

 

「ま、こんなところですかね」

「……私についていた良からぬ気配というのは、セイブル王のことですの?」

「というより、セイブル王が施したノルブカクルトの魔力による洗脳……暗示のようなものでさぁ。残念ながらそれをとっぱらうことがアタシにはできない。お嬢さん自らがセイブル王の元へ赴き、打ち破るしかない」

「……わかりましたわ。それで……結局あなたは誰なんですの? 私の記憶が形作った存在、というわけでもないようですけれど」

「元来。アンタの辿るすべては、セイブル王の掌の上でおきる全てに成り代わる予定でした。いえ、予定というより、そういう未来になっていた。そういう未来から、民を想ったアンタが『脚本(たなごころ)』を用いて"よく似た世界の過去"に飛ばしたものが、アタシやデイラリちゃん。前回の経験から、たとえ飛ぶのが自身の世界の過去でなくとも、別の世界の自身が同じことをしてくれると知っていましたからね」

「あなたは……ゴーレムか何かなんですの?」

「いえいえ、人間ですよ。ただ、書き換えられた過去が巡り巡って結実した存在というだけ。ヘンリースミス侯爵家と同じで、過去改変による未来の書き換え。その第一号がアタシ。アタシには生まれた時からアンタのサポートをするための知識が備わっていたし、この世界でおきるすべても知らされていたってわけです。薬の知識もノルブカクルトの魔力も両親含む血族の誰もが使えない。アタシにだけ発現する古来からの仕込み」

 

 そうなるように組んだ。恐らく……リリーガのような存在の力を借りて。

 あるいは、さらにさらに先のリリーガ本人かもしれない。その辺は……確認しようがないか。

 

「それの一環が、デイラリちゃんですの?」

「ええ。デイラリちゃんは元々『愛されるが故に死して』の公式マスコットキャラクターですよ。『愛されるが故に死して』の英題……『Death Is Love's Reason』から名付けられたキャラクター。セイブル王の掠め取った記憶の一つ。それを見れば多少は思い出すだろうと踏んだ未来のアンタからの贈り物。ま、お嬢さんは気付きやしませんでしたけれどね」

「忘れているのだから気付くもなにもありませんわ。……じゃあ、この後は」

「ええ。セイブル王をどうにかして終わり。どうするかはアンタの手に委ねられていますが、アタシは手を貸せる。必要ならミルグドリヒ男爵家も、ヘンリースミス侯爵家も。……王殺しの咎を背負う以上は、この国にいられるかはわかりませんけどね」

「それは問題ありませんわ。そのための誓約書ですし」

 

 そうだ。思えばそのためだったのやもしれない。

 ……じゃあ、行くか。殺す殺さないは、あとで決めよう。言われるがままに動くのは性に合わないから──しっかり話した上で。

 

 セイブル王。セイブル・グランセ・ノルブカクルト。

 王城の上階で未だに踊る狂いビト。

 

 物語の全てに、決着を。

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