悪役令嬢転生かと思ったらゾンビパニックかい! 作:レッドアリーマー
泣きつかれた。
曰く、いなくなってしまったかと思った、と。
う、うーん。
「ここは王都。私が守るべき臣民を残して逃げることはありませんのよ。それは私の貴族たる矜持への侮辱ですわ」
「……ごめんなさい」
「謝らないでくださいまし。そもそも悪いのは余計なことを言ったエスタ様ですの」
「いやだが、タイミングがタイミングなだけにな」
「あなたとの言い合い程度で嫌気が差すほど子供ではありませんし、仮にそうなったら逃げるなどせず正々堂々あなたを負かしますわ。果たし状をつきつけますの」
なんでも、私がいなくなった原因はエスタが強く言い過ぎたからなんじゃないか、と……エスタ本人が自嘲気味に呟いたことが発端らしい。
よく考えればラファがあんなことをするはずがなかった、浅慮にも叱ってしまったことが事態を招いた、と……反省ができるのは良いことですけれど、思い込みも激しいですわね、と言わざるを得ない話。
そこまで回る頭があるなら初めから怒らないでくださいまし。ま、咄嗟に頭が回らないからあなた方は罪人となったのですけれど。
「そんで、結局ラファはどこ行ってたんだー? パリスが見つけられなかったってことは、いなくなってたのは事実なんだろー?」
「ええ、少し夢渡りの相手に話をつけにいっていましたの。あなた方ならば綰摂の御姫、という名に心当たりがあるのではなくて?」
「……本気で言ってんのかーそれ」
「統御の姫がまだ生きていた、と?」
やっぱり知り合いですのね。太古出身は大体知り合いなんじゃないかと思っていましたけれど、ゲームに出てこない存在は本当に私知らないのでご勘弁願いたいですの~。
「統御の、姫……お姫様?」
「ああ……うーん、なんて言ったらいいかな。本当のお姫様ではないんだけど、昔も昔にそういう役割みたいなものがあって、それを"姫巫女"と呼んでいてさ。で、綰摂の御姫、統御の姫、って呼ばれていた……凄まじい精度の未来を見得る巫女がいて、ラファが会ってきたのは多分その人なんだ」
「俺達と同じじゃないってんなら、とんでもないぞーそれ」
「私にとやかく言うくせにあなた達も隠すつもり無いんですのねその辺」
「知っていなければ意味の分からぬ話だからな」
俺達と同じ。
つまり、何度も時を超えている存在でなければ、という意味だ。新事実、四騎士は時間旅行者だった──!
「その方曰く、私の周囲に良からぬ気配があったから、お守り代わりにフランメルジュの花を持たせた、と」
「なんつー危険物を持たせてんだよー」
「……良からぬ気配、というのは?」
「さぁ? 詳しく聞いてきませんでしたので、さっぱりですの」
「今からでも良い、詳しく聞いてきたほうが身のためだよ、ラファ。彼女ほどの人物の言う良からぬ気配なんて、ただ事じゃないだろうから」
いつも通り穏やかに諭すように言うイジスだけど、その声はどこか強張っている。
ふーむ。想像以上に想像以上な方でしたのね。
けれど。
「遠慮しておきますわ。フランメルジュの花の一輪で事足りる良からぬ気配。ならば私の指先一つでも問題ありませんの」
ゲームグラフィックにおける『フランメルジュの花束』は……朧気だけど、八輪ほどで花束扱いだった……と思う。つまり超ダメージ+燃焼状態の八分の一で撃退できるものということ。
恐るるに足りませんわ。
「ま、そういうわけなので、文句や主張は彼女にどうぞ。私はむしろ後顧の憂いを断ちにいっただけですのよ」
「お前の行動の意図がどうであれ、心配をしたことまで悪とするつもりか?」
「それについては感謝をしておきますの。ただ、たかだか三時間いなくなった程度で大騒ぎし過ぎですわ。一日経っていたらようやく大騒ぎなさい」
「世界の現状を把握していてそれを言うのか」
「もしアンデッド化していたら騒いだところでどーにもなりませんのよ。騒ぐ意味があるということは助かる余地があるということですわ」
「物事の前後が逆だろうそれは」
なんにせよ、ですの。
「第九区も取り戻せたことですし、いいじゃありませんの。順調ですわ」
「……これは、反省していないな。仕方ない、リベルタ」
「うん。……ラファ」
「はい? ですの?」
ぎゅ、とされる。
いえあの、ですから私同性は別に。
「ラファ。お前を明日のこの時間までリベルタで拘束の刑に処する。当然のように明日俺達はアンデッド退治に行くが、まさかリベルタを怪我させてまで出撃しようとはしないだろうな?」
「休日だよ、ラファ。君、休日表を誤魔化しているだろう。先日の大衆浴場の件で休んだことにして、連続出撃してる」
「ワーカホリックもほどほどになー」
……。
……はぁ。お人好し集団め。
「アンデッドの殲滅は人類の急務ですのよ? 加えてまだ王城に手が届いていない現状。休んでいる暇などありませんの」
「第二区の貴族街は耐魔素材がこれでもかというほどに使われている。つまり今までと違って魔法が使いたい放題であるということだ。そこにお前のような接近戦くらいしか有効打を持たぬ者が居たら邪魔だ。違うか?」
「リベルタは今日魔力を使い過ぎたからね、お休みも已む無しさ」
「風を纏う弓の威力を知らしめてこよう」
聞き分けのない子供をあやすかのような口調の四騎士。
……面倒ですわね、本当に。私一人なら……なんて。
我慢も必要、ですわ。
夜。闇魔法イノセンスで私とリベルタの汚れを消し飛ばす。これ、私が心身ともに健康な状態だから確定で汚れを飛ばせていると思っていたのですけれど、リベルタという心身ともに不健康そうな女の子に使っても汚れが飛びますのね。今度ちゃんと調べるべきかしら。
リベルタは宣言通りずっと私に引っ付いている。普通に暑苦しいですわ。食事を摂る時まで抱き着こうとしてきたので流石に諫めましたの。邪魔ですわ。
ところで、私という人間は、一人だとほとんど喋りませんの。まあ誰しもがそうだとは思いますけれど。
そしてどうやらリベルタもそうであるようで……ええと、つまりは。
沈黙──ですの──。
天使が超高速で数百匹くらい飛び交ってますわここ。天使って数え方匹で合ってますの?
「あ、あのね、ラファ」
「はい?」
「ぅ、その……えと、……だから」
「別に逃げも隠れもしませんから、落ち着いてくださいまし」
「……あ、っと。……その、おやすみ……みたいな」
「もう寝ますの? 私、これから日課の素振りをしようと思っていましたのに」
「す……素振り?」
素振り。
ショベルの、素振り。
いやだって、こんな世界になるだなんて思っていなかったのだ、数日前までのラファ・ダルクエルデちゃんは。
だからロクに筋肉なんぞつけていなかった。踊れる程度、護身術を扱える程度にはあるけど、騎士に並ぶかと言われたら首を横に振る。
よってその不足分を補い周囲に追いつくため、毎夜毎夜ショベルを素振りしている。どっかですっぽ抜けたりしたらコトだし。
「……私も剣、頑張ろう、かな」
「人には向き不向きがありますわ」
「ぅ……そんな、頭から否定しなくても……」
原作シナリオでもリベルタが剣を持つシーンがある。まさに四騎士たちに憧れて。まぁパリスは弓遣いなんだけど。
そしてその際……あっちへふらふらこっちへふらふら、すっぽ抜けた剣が回転して上空へ行って、昼寝をしていたモーモンに刺さりかける、というコメディシーンが描写される。
これ、ここ限りのギャグ要素なのかと思ったら、リベルタが杖以外の長物を持つとどれであれなんであれ悲惨な結果を引き起こす……武器音痴なるものであるという診断が最終的に下されるのだ。
ゲーム『愛されるが故に死して』におけるリベルタは勘違いお花畑主人公ではなく不幸リアリスト健気成長キャラだった。だからアンチが生まれることなく古き良き名作ゲームになったけど、これが頭ポワポワ系だったら一部の「絶対に受け付けない層」……無能嫌い層が生まれていただろうことは想像に難くない。
攻略対象と同じくらいには愛されていたリベルタの持つ数少ない欠点の一つ。それが武器音痴なのである。
「では聞きますけれど、武器に集中しながら魔法が使えますの?」
「それは……。でも、ラファはできてるし」
「使うのが妨害魔法か補助魔法だから、ですわ。私でも闇属性の大魔法を使う時にショベルをぶん回す、なんて無理ですのよ」
これは実際にそう。魔法というものが想像を魔力が食らうことで発動する、という仕組みである以上、大破壊を引き起こす想像は完璧なものでなくてはならない。
四騎士ですら大魔法を使いながらの大立ち回りはできていない。エスタやイジスの詠唱の時間は毎回魔法を使わない誰かが稼いでいるし、素早さが売りのモーモンはほとんど大魔法を使わない。パリスは例外。彼の魔法はほとんど精霊が発動させているから。その分気紛れで威力分散が激しいんだけど。
「憧れるのなら、憧れた対象が何をしているのかしっかり見極めなさいな。存在しない思い込みや強迫観念が産み出した虚妄に囚われていては、身体が悲鳴を上げるだけですのよ」
「でも……」
「でももケモもありませんわ。アンデッドに特効のある光属性を扱えるのがあなただけである以上、あなたが磨くべきは武器ではなく魔法。お分かり?」
「ぅぅ」
納得していない様子。
……仕方ありませんわね。
「リベルタ。あなたの適正は杖ですの」
「え、杖……? 持ったことないよ……?」
「でしょうね。四騎士に杖使いはいませんし、魔法使いも武器など滅多に持つものではありませんから。……ただ、私には、そうですわね。先程話に出てきた綰摂の御姫ほどではないにせよ、時間を見通すチカラがあるのです。未来はほとんど見えませんが、過去を」
「……それ、ほんと?」
「ええ。だから四騎士の秘密や『勇者の魂』についても多少の知識がありましてよ。まぁ本当に多少の、ですが」
この間エスタに言いかけた設定をここで吐く。
リベルタならみだりに言いふらさないだろう読みで。
「ですから……あなたは快く思わないかもしれませんが、初代勇者が杖を持っていたことも知っていますの」
「初代の……勇者」
「ええ。その杖の名は、『聖杖レムリアティア』。魂を映す水晶を湛える杖ですの」
同時にリベルタの最終武器ですの。魔剣ソウルアティアの対になる杖ですのよ。
リベルタは光属性しか使えないしリベルタ以外で杖が武器種のキャラクターはいないのに、全属性威力四十パーセントアップとかいう無意味なぶっ壊れ性能をしている杖ですわ。ゲームではいませんでしたけど、四倍特効のアンデッド魔族に光属性魔法撃ったらどうなるか試してみたいですわ~。
「杖は魔法の指向性を高めたり集中力を上げたりするための武器ですけれど、頑丈なものなら当然殴る叩くに使えますの。それならあなたのお眼鏡にも適うのではなくて?」
「……第四区の商店街に、武器屋さん、あったよね」
「完全に火事場泥棒ですけど、まぁ持ち主もアンデッド化しているのならさもありなんですわ」
問題はアンデッドに破壊されていないか、だけど。
ま、全部が全部ってことはないか。じゃあ。
「明日は武器選びデート、だね」
「デートと言われると些か首をひねりますけれど、まぁ二人で行くならそうかもしれませんわ。……さ、予定が決まったのなら、早く部屋に戻りなさいな」
「ダメ。今日はラファと一緒に居るから」
「ここだとブンブン音がして眠れませんのよ?」
「ラファが寝る時に一緒に寝ればいいから」
「そうですか。なら好きにしてくださいな」
これ以上言い合うつもりはない。
……魔法実験はまた今度ですわ~。
奇跡的に武器屋は無事だった……なんてことはなく。
「何もかもが瓦礫の下。これじゃ棒切れなのか杖なのかわかりませんわね」
剣や槍はわかるけど、杖となると厳しそうというのが所感。この世界の杖は先端に水晶がくっついているタイプだけど、それも割れちゃっているんじゃないだろうか。あ、かしら。
「魔力もほとんど感じませんし、まぁ学生御用達の武器屋ということを考えれば、粗悪……とは言わないまでも、質の良い武器はなかったのかもしれませんわね」
「私も……ここからは何も感じられないや。……でも」
「リベルタ?」
緩慢な動作で王城の方を見るリベルタ。
「呼ばれて……る……?」
ふらりとそちらへ歩いていこうとしたリベルタの手を掴み、引き留める。
……ゲームでは『聖なる燧石』が彼女を呼びつけるような描写は無かった。少なくとも学園へは一ヶ月の間在籍していた彼女は、その月の終わりになってようやく『聖なる燧石』に出会う。厳重に守られていたソレは、しかし現れた魔王の手勢によって一度は奪われ、それをリベルタ+四騎士で取り返し、王族から「太古より禍を呼び込む石でしかなかった。『勇者の魂』の管理下にあるというのなら、安心だろう」と言われ、晴れて燧石を譲り受ける……という流れで入手する。
この守りは封印に近く、『聖なる燧石』が本来出していた聖なるチカラをも遮断するものだったはず。呼び声なんてものがあるのだとしても、届くとは思えない。
つまり……良からぬ気配、という奴ですわね。
「リベルタ、しっかりなさい」
「……」
「憂いはゾンビだけで充分ですの──よっ!」
ヘッドバット。真正面からではなく、首を横に振りながらの頭突きである。
「痛っ……た~~い!?」
「目、覚めましたの?」
咄嗟に何か文句を言おうとしたらしいリベルタは口をパクパクと開閉させ……しかし周囲を見渡して、「え」という感嘆を漏らす。
察するに。
「先程まで違う場所にいた……とかですの?」
「あ……うん。……あり得ないのに、私の……故郷に、いた。みんながいて……壊されてなくて、燃えてなくて……」
一瞬夢関連かとも思ったけど、リリーガおば様ほどの使い手でも快眠状態の魂しか引っ張ってくることができなかったあたり、先程まで普通に起きていたリベルタを眠らせて連れていく、というのは夢渡りの役割に無いのだろうと思える。
別口だ。ちなみに闇魔法にも洗脳とか催眠は存在しない。感情への働きかけはできるので、似たことはできなくもない……はずだけど、どれもこれも禁呪になっているだろうから私は知らない。
加えて闇の魔力も感知できないから……というか魔力の痕跡が無いから……だから。
「魔族、ですの?」
残る可能性は、種族特性くらいか。無論アイテムの線も消えてはいないけれど。
溜息を吐く。盛大に。
「行きますか、リベルタ」
「えっ……どこに?」
「声のした方、ですわ。あなたを呼びつけた相手は今地団駄を踏んでいることでしょう。あなたを意のままに操れなかったことは痛手でしょうから」
普段からできるなら普段からやっていておかしくない。
恐らく四騎士がリベルタから離れるタイミングを狙ったのだろう。四騎士……特にパリスは精霊という超常存在の加護もあって、そういうものに気付きやすい。
彼の目のなき内に済ませておきたかった、という感情が伝わってくるかのようだ。……そう考えると内通者の線も頭の片隅で追っておきましょうか。
「罠……でしかないんじゃ」
「罠というのは仕掛けた者にとっての最適なタイミングで獲物がかかるから機能するのです。埒外のタイミングで来た獲物に対しては、その場しのぎの対応しかできなくなるものですわ」
「……エスタ君、じゃない、エスタ様たちに連絡は、しなきゃだよ」
「ええ、しておいてくださいまし。ミルグドリヒ」
「構いませんが、したらエスタ様たちは第二区攻略を放り出してあなた方のもとに駆け付けると予想しますよ」
「ぴっ!?」
突然聞こえてきた声に変な声を上げるリベルタ。四騎士もですけど、感知がまだまだ育っていませんのね~。護衛にと学園からずっとつけられていましたのよ。
順調にパシリへと成長しているようでなによりですわ、ミヒャエル・ミルグドリヒ男爵家子息さま。
「駆けつけてもらって問題ありませんのよ。後続がいる、というのは安心にもなりますし。……ああ、あなたが私の周囲にいる良からぬ気配でなければ、の話でしたか、これは」
「私があなたの良からぬ気配なのであれば、裏切るタイミングはいくらでもありましたね」
「ええ、フランメルジュの花の一輪が無くとも撃退できていた些事でしたわね」
一瞬のアイコンタクト。
「──承知。それではリベルタ様、くれぐれも無茶をしないよう。そしてラファ様の無茶を止めてくださいますようお願いいたします」
「あ……う、うん。そうだね、私はそれをやんなきゃだった」
「リベルタに止められるほどヤワな猪じゃありませんのよ私」
「自覚あって尚、ですか。素晴らしい。──では、またあとで」
去っていくミルグドリヒ。
「じゃ、私達も行きますわよ。行き先は王城……第一区」
「危なそうだったら引き返すから、ね?」
「私の進む先に危険などありませんのよ。すべての障害は私に首を垂れるのですから」
それと、もし可能であれば……生存者のことも気に掛けたい。
最悪のパターンはその生存者の中にリベルタを操ろうとした奴がいる場合ですわね。その場合凄惨な処刑ショーが開催されてしまうかもしれませんわ。
遠隔で他者を操る悪意ある存在など、生かしておく意味ないですもの。
はてさて、今まではアンデッド相手でしたけれど……私って、殺人には躊躇いを見せるのかしら?
なーんて。