ツインターボに脳を焼かれたウマ娘は、大逃げで世界一を目指す 作:223系新快速
次の日、私は基礎能力を測るために走っていた。
パン「ど、どうですか?」
南坂「1600m,1分40秒0。デビュー前のタイムとしてはそれなりに速いですね。レース教室でそれなりに鍛えていたのが分かります。」
パン「じゃあ…。」
南坂「いえ、まずはじっくりと、です。」
パン「え?」
南坂「パンサラッサさん、貴方のスピードは目を見張るものがあります。スタミナも、ターボさんよりはある分、最後まで粘れる。ですが、一つ決定的に欠けているものがあります。」
パン「何ですか。思いつかないです。」
スピードもスタミナもあって、コーナリングなどの
南坂「体の丈夫さです。貴方の走法は、常に限界一杯まで使い切るので、体作りが先です。これを怠ると、故障を繰り返し、志半ばで引退せざるを得なくなります。そう、トウカイテイオーさんがそうなりかけたように。」
パン「それは嫌ですね。それで、どれくらいかかりますか。」
南坂「そうですね、既に本格化の兆候は見え始めているので、ちょくちょくレースには出るとして、クラシック戦線は諦めるくらいでしょうか。」
パン「ええーっ、そんなに!?」
クラシック路線を捨てないといけないとは、想定外だ。コントレイルとクラシック戦線で張り合うのを楽しみにしていたのに。
ターボ「気を落とすなよパンサラッサ。トレーナーは、ターボの経験を踏まえて言っているんだ。」
パン「ターボ先輩の?」
ターボ「ターボはね、兎に角良いレースで走りたかった。だけど、ターボの同期には、テイオーを始め、強力なライバルがいた。だから、走りたくても賞金の関係で除外されて走れなかった事がある。」
イクノ「仮に体力が万全でも、実績の問題があります。パンサラッサさんの走りは、例え完成しても不安定なものとなるでしょう。そうなると、実績の観点から、重賞に挑んだ際に除外されるリスクがあります。」
ネイチャ「それに、パンサラッサの夢は、誰かを感動させる走りをすることでしょ?自分の走りをするのが先決で、レースの大きさはその次に考えるべきことじゃないかな。最初から無理に上を目指すのではなく、少しずつ実績を積み重ねるのが、回り道ではあっても夢を叶えることに繋がるんじゃないかな。」
パン「…、そうですね。テレビだと、GI, GIIといった重賞ばかり扱うので…。」
ネイチャ「あそこの舞台に立てるのは、本当に上澄みの一握りのウマ娘だけ。」
その後も鍛錬は続く。だが、チームメンバーの中で1人だけ時期が違うため、完全に別メニューだ。まあ、2000mを本気で走ったら、5秒以上の差がついて、楽々タイムオーバーになってしまうのだから仕方ないが。ダッシュ本数も、タイヤの重さも、体が出来上がっていないから軽減され、その分伸びは小さくなる。
⏰
ある日の朝。食堂に行くと、スペシャルウィーク先輩とオグリキャップ先輩がチャレンジ盛りを食べていた。食堂のご飯のつぎ方には段階がある。
小盛り
並盛り
大盛り
山盛り
特盛り
チャレンジ盛り
とあって、チャレンジ盛りは漫画の如く積み上がっている。なお、使う茶碗が大きいので、小盛りでも人間の普通盛りくらいの量がある。見た目で少ないと侮ると、撃沈する(一敗)。
パン「おはよう、コントレイルさん。」
コン「おはよう、パンサラッサ。」
タクト「おはようですわ。あら、そちらの方は?」
テソーロ「あたしはウシュバテソーロ。」
タクト「あら、よろしくお願いしますわ、ウシュバ、テソーロさん。」
テソーロ「よ、よろしくお願いします、デアリングタクトさん!」
タクト「あら、どうしたのですか?」
テソーロ「初対面であたしの名前の区切りを間違えない人、そんなに多くないから…。」
タクト「あら、そうですの。では、時間もないことですし、早く取りに行きますわよ。」
私が鯖の煮付け定食山盛り、コントレイルがトースト山盛りセット、デアリングタクトがステーキセット特盛り、テソーロがハンバーグ定食山盛りだ。
テソーロ「デアリングタクトさん、そんなに食べるのですか!?」
タクト「私、スペ先輩に似て、大食いですの。これくらいは食べないと持ちませんわ。」
パン「そうなんだ。ところでコントレイルさん、チームに所属してどうですか?」
コン「流石は東条トレーナーですね。私の得意な差しを基本に、好位追走も出来るようにトレーニングを組んでくれます。自分でも気付いていないことを指摘されたときには、まだまだ未熟だと痛感しました。ディープ先輩には、入って直ぐに気付けることも、問題点を直ぐに修正出来ることも才能で、そういうところも自分に似ているって感心されましたけど。」
パン「凄いなあ。私はまだ自分らしい走りを追求するのに手一杯で…。」
コン「東条トレーナー曰く、普通はそうらしいです。だからこそ、私は無敗の三冠を狙えるわけですけど。」
パン「らしい?ディープ先輩が目標の割に、執着していないね。」
コン「初日に叩きのめされたら誰だってそうなりますよ。」
パン「一体何があったの?」
コン「あれはリギルの入部テストのことでした…。」
⏰
ハナ「今年の入部希望者は以上だな。では、試験前に、ルドルフから話がある。」
ルドルフ「改めて、シンボリルドルフだ。コントレイル、その実力、確かめさせて貰うぞ。」
コン「???」
いきなり自分が名指しされたことに、流石に理解が追いつきませんでした。エアグルーヴ副会長の言葉を聞くまでは。
グルーヴ「入学式の発言に責任を取るということだ。東条トレーナーの許可は出ているから、そこは気にするな。」
コン「そ、それって…。」
グルーヴ「お前がリギルに相応しいか、この場で会長がテストするという事だ。相応しくなければ、その時点で不合格だ。」
流石の私も血の気が引きました。だけど、言ったことは取り消せません。頭が真っ白なまま、模擬レースが始まり、そして終わりました。正直、どこをどう走ったのか、全く覚えていません。ゴールにも気付かず、東条トレーナーの笛の音で漸く我に返るくらいでした。
⏰
テソーロ「うわ、えげつない。」
パン「それで、その後どうしたの?」
コン「リベンジを挑みました。頭真っ白で走るのと、考えて走るのと、どっちが面白いか、と言って。」
タクト「怖いもの知らずですわ。」
パン「それで、結果は?」
コン「大差負け。それも、自分の走りの上位互換を見せられました。」
テソーロ「一番屈辱的な負け方じゃないか。」
コン「うん。流石の私も、心が折れました。けど、あることがきっかけで立ち直ったんです。」
テソーロ「あることって?」
コン「タクトが来た事です。」
パン「どういうこと?」
⏰
ハナ「コントレイル、今の貴方の入部を認めるわけにはいかないわ。」
終わった...。
タクト「あの、東条トレーナー。」
ハナ「あら、デアリングタクト、どうしたの。」
タクト「A案件ということで、リギルに体験入部したいのですが。」
ハナ「分かったわ。」
東条トレーナーがこちらに向き直る。
ハナ「今から、デアリングタクトが併走するわ。それを見て、自分も同じ事が出来ると思った者だけ残りなさい。」
虚ろな目のまま、デアリングタクトがエアグルーヴ先輩と併走するのを見る。だが、見ている内に走りたいという気力が湧いてきた。
ハナ「さあ、今のを見て、それでも生き残れると思った者は残りなさい。」
「む、む~り~ぃ~!」
「諦めて他のチームに行こう。」
他の皆が立ち去る中、私は残る。
ハナ「あら、自分を見失ったのに、もう立ち直ったの?」
コン「はい。先輩が自分以上の走りをしたから動揺しましたが、もう大丈夫です。」
ハナ「なんだか申し訳ないことをした気分ね。」
コン「私は別にそう思っていませんが。」
ハナ「いえ、デアリングタクトの方よ。まるで当てウマ娘じゃない。」
タクト「じゃあ、後日スピカに体験入部するということで手打ちにしますわ。」
⏰
パン「そうだったのか。やっぱり強いな、コントレイルは。」
コン「それはいいんだけど、スピカってやっぱり曲者揃いです。リギルで良かったと思います。」