窓際軍人と気弱な提督のヨーロッパ紀行   作:舞葉

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- 前世が艦艇なら、人並み以上の艦隊指揮能力は持って生まれているんじゃなかろうか
- 弾薬や燃料、装備の製造ラインはどうなっちょるんじゃろか
- そもそも妖精ってなんなんじゃろか

この辺を加味して構成されています


2023/4/12
誤字修正・加筆を行いました


2020年10月
欧米仕様の服は日本人の体格だと着るのが結構しんどい


旅行がしたい。

 

すべての始まりは、そんな些細な願望だった。

 

この世界に生れ落ち、大佐の階級章と千人余りの命を背負ってからもう六年になる。

延々続く戦争によって、世界のシーレーンは崩壊。スエズやパナマといった海峡はそのことごとくが破壊され、民間機の旅行どころか、軍用機による日本海横断すらままならない。

だから、それはただの願望だった。願望で終わるはずだった。

 

「ヨーロッパ旅行に行きたい」

 

ヴェルサイユ宮殿の壮麗な建築を、ビッグベンの重厚な鐘の音を。かなわぬ望みと知っていながら、それでも彼はつぶやいた。

 

それが、地獄への片道切符だったとも知らずに。

 

 

 

 

 

ポツダム宣言を日本が受け入れ、国際連合が設立された直後に奴らは――深海棲艦は現れた。

が、人類では歯が立たない…と言うわけではなかった。姫級と後に呼ばれることになるいわばエース・オブ・エースとて、アイオワ級の十六インチ砲はおろか、ニューヨーク級の十四位陳地方でもあっけなく轟沈する。一時は日本に布かれた軍政は瞬く間に解除され、修復された長門や榛名、中途半端に終わった航空戦艦から再び戦艦に改装された伊勢や日向、サルベージされた大和型戦艦や金剛型戦艦は、戦時体制を継続するアメリカが総力を挙げて建造したアイオワ級戦艦とともに太平洋を縦横無尽に駆け回り、かつての無念を晴らせとばかりに深海棲艦相手に猛威を振るった。

 

しかし、連中の数は人類の想定を大幅に上回っていた。

 

沈めても沈めても、水平線の向こうからわらわらと湧きあがってくる黒い影に、だんだんと人類は押され始めた。月三隻の割合で正規空母を建造するまでになったアメリカ様(リアルチート野郎)ですらもかなわない物量作戦を前に、一国、また一国と、国々が食われていった。太平洋ではオーストラリアが、ヨーロッパではスペインとアフリカ植民地領が真っ先に陥落した。

 

パナマとスエズは崩壊し、喜望峰や南アメリカの先端、はたまた大西洋に浮かぶポルトガル領近辺には大艦隊が常時遊弋。一枚岩だった人類は、1960年代半ばには物理的に寸断された。アジア・太平洋とヨーロッパをつなぐのは、赤軍極東管区とカザフ管区が決死の覚悟で守り抜いているシベリア鉄道か、ほぼ博打頼みの単座戦闘機による空路だけになり、1980年代に入るとアメリカの東海岸までもが食われ始めた。

 

 

 

そして現代。アメリカ合衆国は、ロッキー山脈以東、すなわち中西部から東部にかけてのすべてのエリアを喪失し、首都をカリフォルニア州のサンフランシスコに移転。中国は広東省を中心に南半分を失陥し、政府機能を北京から広州市に移して戦争指導を行っていた共産党政権は崩壊。台湾に存在した民主党政権が望まぬ形で北京に舞い戻り、戦争指導を担う形となった。

 

そして、このタイミングでようやくポツリポツリと歴史に現れ始めたのが、艦娘と妖精という存在だ。西暦2000年台になって出現した彼女らは、第二次大戦時に戦った船の名を名乗り、自分の意思で艤装を展開し、深海棲艦を打ち滅ぼすための能力を持っていた。

 

本当ならここで救世主になるところだが、ここまで一進一退の戦いを続けてきた人類にとって、彼女らの立ち位置は大変面倒臭いものになった。

 

第一に、人類は切り札を必要としていない。現状の人類と深海棲艦の戦いは、獅子に対する軍隊アリの群れのようなものであり、既に四本脚と二本の牙で大立ち回りを演じ続けている獅子の手足や牙が一本二本増えたところで、大した戦局の変化には繋がらない。なるほど確かに彼女らは強い。イージスシステム搭載型の重巡洋艦数隻でやっと倒せる戦艦ル級を、彼女らはたった二人か三人で完封できる。

 

だが、だからどうしたと言うのだ。重巡数隻で倒せるのならば、戦艦四隻と改エセックス級にF/A-18を載せて、アウトレンジからシバき回せばいい。足りない資材は集積地棲姫のメガネを叩き割って押収すれば、チャラどころか大黒字だ。

 

弾薬の生産ラインは?艤装の整備と製造は?彼女達を保守・管理する部署は?燃料の管理は?人権上の立ち位置は?

 

ソフト(兵員)のロスは少なくても、ハード(艦船)は止まらない出血のように失われてゆく。金剛型戦艦を見たまえ。すでに改十六α『Aegis』model-IIに突入し、シリーズ総生産数は既に70隻、戦没は26隻だ。ミリオタの脳味噌が凄い事になっている。

 

このような情勢下で、彼女らに叩き付けられた現実は残酷だ。

彼女らは、在りし日の大和型戦艦になってしまったのである。

 

一度出撃すれば燃料と弾薬(の生産ライン)をドカ食いし、万が一戦死でもされようものなら世論に批判の嵐が吹き荒れる存在に。

 

また、見た目が若々しい女性だったことも災いし、出撃する機会はほとんどと言っていいほど与えられなかった。なにぶん、平均年齢50歳の将軍達にとっては娘のような年頃である。出撃を渋るのも、無理は無かった。

 

「いっそのこと、普通に民間人として暮らしてもらうのがいいのでは?」

 

そう言う話もあった。が、それは情勢が許さない。

長い議論の末、本人達の希望もあり、妥当な地位に彼女らは落ち着いた。

 

「提督、升岡隊がお手柄です。空母機動部隊を発見しました。レ級が6、ヲ級がElite、Flag合わせて7、それに護衛艦隊が合計60との事です」

「全く、どこからそんな戦力が湧いてくるのでしょうね」

「如何いたしますか、提督?」

「大久保隊と米澤隊を出しなさい。機種は…F-22、F/A-18、Su-33。それと、一機だけF-4を。機数の比率はいつも通り。戦艦部隊にも砲撃準備をさせなさい。鎧袖一触よ。ついでに、五航戦のあの子も呼んでおきなさい。」

 

「蔵っち〜、どしたの?」

「北上閣下、またこんな所で昼寝を…艦娘とはいえ、風邪をひきますよ?まぁいいです。南鳥島の第百二十五島嶼砲兵大隊司令部から救援要請が。艦砲射撃と爆撃を受けているようです」

「艦砲に爆撃であの海域…ってことは、たぶんC15編成だね。主砲の弾薬を半分に減らして、その分レギュラスとトマホークを載せるよう伝えて。あと、万が一のために龍驤さんにも一報いれといてね。さーて、艦隊ばっびょ〜。今日もほどほどにがんばろー」

 

<閣下!敵揚陸部隊、撤退して行きます>

「の、ようでありますな。心配せずとも、こちらからバッチリ見えているであります。まったく、揚陸艦として生まれたはずの私が、こうして防衛側の陸戦隊を率いるのは、いささか複雑でありますなぁ…。まぁ、閣下呼ばわりされるのも、それはそれで悪い気はしないのでありますが、たまにはこちらから叩き潰しに行きたいものであります」

<まったく同感ですな、閣下。それで、追撃は?>

「いつも通り、我々には無理であります。白露殿の艦隊に連絡を。残党狩りは、おとなしく彼女らに任せるのであります」

 

彼女らに与えられた地位は、各方面の艦隊の司令官だった。

そもそも彼女らの前世は艦艇である。全員が全員、自分の艦種に関して一家言持ちだ。この世に生れ落ちたときに纏っていた衣装をタンスにしまい、詰襟から改められたブレザータイプの軍服に袖を通せば、駆逐艦や海防艦だってその日から将を名乗れるだけの才覚を生まれつき持っている。

 

並の人間よりはるかに優れた指揮官達の登場により、アジア方面における深海棲艦の侵攻は押し留められ、2011年に行われた日中連合艦隊による大反攻、通称『オーバーロード・アルファ』作戦により、あきつ丸少将(当時)率いる日本海軍の海兵隊と、中華民国陸軍の上陸部隊が広州市を奪還。都市庁舎に掲げられた、黒地に赤の横一本線と白い錨を染め抜いた旗は引き摺り下ろされ、新しく建てられた2本の旗柱に、日の丸と中華民国国旗がはためいた写真は記憶に新しい。あの時は、アジア太平洋諸国の全てが、勝利と反撃の喜びに沸いたものだ。

 

が、その勝利をひっくり返すようなニュースが、つい去年日本にもたらされた。

 

『ナポリ以南のイタリアと、パリ以西のヨーロッパ大陸陥落』である。

 

赤軍極東軍管区の最高司令官経由でもたらされたその念書には、英、西、東西独、仏、伊の首脳と軍の最高司令官によるサインがされており、ソ連大統領による保証までされていた。

 

イギリスはスコットランドとアイルランドを失陥し、フランスではマジノ線から300キロの地点に、スイスからドーヴァーまでを繋ぐ長い戦線が張られ、ヨーロッパ諸国による連合軍がかろうじて戦線を支えている。戦争中盤に散々に叩かれた各国海軍は母港に引き篭もり、戦々恐々としながら滅びの時を待っている有様だった。

 

そして、巧妙に隠蔽された二重構造の裏側に入っていたのは、各国の艦娘達によるものと見られるサイン。どれもこれも、日米両海軍の情報ライブラリにある、艦名の元になった人物の筆跡や、最後の艦長の筆跡と、微妙な差異はあるものの合致する。ご丁寧にも、しっかりとボールペンで直書きされていた。

 

これを受けて日中米豪の軍首脳部は正式名称『欧州文書対応対策最高指導会議』、日本語に直すと『この手紙の扱いと返信どうすんべ相談会』を開き、最終的に日本海軍側から1人、艦娘関連に明るい高級将校を派遣することが決まった。

 

人材の選定はかなり難航した。艦娘に詳しい将校ということは、全線で大暴れしている艦娘らの指揮下で辣腕を振るっていることが多く、必然的に彼女らは手放したがらない。優秀な副官である上に、自らの艦隊で一番信頼のおける、いわば伴侶のような存在が、1人ヨーロッパに放り込まれることなど、軍人である彼女らが許すはずもなかった。

 

そこで、とある男に白羽の矢が立った。

 

艦娘に対する知識と理解では軍内の八割の将校を上回り、積み上げた姫級の首は数知れず。今でこそ参謀本部の薄暗い窓際(左遷先)でタバコを吹かせてはいるが、かつては軍中枢にこの人ありと参謀総長に言わしめ、並みの少将クラスを凌駕するほどの、強力な権限を握っていた。

 

記録抹殺刑に処されてなお、剝奪しきれなかった数々の略綬を軍服の左胸に張り付けた男の名は久遠隆二(くどうりゅうじ)

 

かつて、現連合艦隊司令長官である大淀と、第一戦艦打撃部隊の司令官である大和の右腕を歴任しながら、過去の大規模作戦の失敗の責任を取り、大淀と大和の強硬な反対にもかかわらず左遷された、『忘れ去られた英雄』である。

 

 

<<ガーディアンズ、離陸完了しました。いつでもいけます!>>

「わかった。パッケージ01、これより離陸する。申し訳ないな、私の護衛に付き合わせてしまって」

<<それは言わない約束ですよ。それより大佐殿、戦闘機動かせるんですね>>

「腐ってもパイロット上がりだ。まだまだお前らには劣らんよ」

 

北西に機首を向けた、五機のF-22戦闘機と一機のSu-57で構成された編隊は、わずかな見送り人の敬礼を受けながら、静かに飛び立っていった。

 

<<イルクーツクまでは私らが護衛します。大佐殿にはそこで空中給油を受けていただき、そこからはソ連の航空機が護衛につきます。イルクーツクからはモスクワ、ワルシャワと飛んで、ベルリンに到着する予定です>>

「総距離一万キロってとこか。長い旅行になりそうだな」

 

フェリーフライト(武装を外しての回送)飛行ではあるが、最低限の自衛のために機銃弾は搭載してある。航続距離は多めに見積もって、時速1,200キロで5,000キロといったところだ。

 

〈敵機直上!オレンジの光…エリート機です!〉

〈クソッ、カザフスタン方面の奴らは何をやっていたんだ!〉

〈同志大佐殿、我々を盾にお逃げください!〉

『諸君らを盾にするほどに、私も鈍ってはいないさ。これでもパイロット一本で中佐まで上がったんだよ。そうだな、撃墜数の競争をしようか。君らのうち1人でも私にスコアで勝てたのなら、私の荷物から一本好きなのを1人づつ進呈しようか』

 

ミサイル等をフル装備した護衛機と、機銃一本の久遠機。勝負の結果は、果たして久遠機の勝利に終わった。

 

『いやぁ、すまんね君たち。恨むなら君らのところの若きエース君を恨んでくれ』

『どうなってんだよ、あのオッサン。Elite級の一個航空隊、機関砲だけで半分以上落としやがったぞ』

『酒でまだ良かったな、お前ら。下手すると機体ごと持ってかれてたぞ』

 

燃料が怪しくなった為に急遽立ち寄ったエカテリンブルクにて、飛行場要員を震え上がらせるという一幕もあったが、彼は無事にモスクワからワルシャワ、そしてベルリンへと降り立った。

 

「Guten morgen、クドウ大佐。ソ連海軍から話は聞いているよ。私はフリードリッヒ・ケスラー、連邦共和国国防海軍の海軍憲兵少将だ。貴官の案内をさせてもらう。よろしく頼むよ」

「よろしクお願いしまス、閣下」

「うむうむ。しかし、日本人の話すドイツ語は面白いものだな」

「錆び付いタドイツ語(Deutsch)と、笑っテもらっても構イませんよ。軍大学以来でスので」

 

ケスラー少将の運転するベンツに乗り込み、久遠は海軍参謀本部の一角、忘れ去られたように存在する搬入用の小さな出入口をくぐり、更衣室に案内され、本国で言われていた通りにドイツ海軍大佐の上着に袖を通す。

 

「む…少し大きいな」

 

丈は問題ないのだが、久遠自身痩せ型な為、ドイツ人仕様のサイズでは肩幅や腰回りが大きい。やむなく不恰好な上着はそのままに、ベルトをきつく締めて対応する。

 

古い上着から略綬を外して新しいものに付け直し、程よく糊の効いたワイシャツのネクタイの上から、用意された2000年代仕様の二等海軍鉄十字章――白地に青縁の、連邦共和国軍のカーブのついた鉄十字の紋章の真ん中に、帆船のマストが浮き彫りにされたもの――を装着。

 

「ドイツ海軍特務大佐、久遠隆二完成…ってとこか」

 

黒髪の上に濃紺の制帽を被り、更衣室の頑丈なドアを苦労して押し開け、ケスラー少将とその従兵と合流した彼は、新たな上官の待つ部屋へと向かった。

 

 




> やむなく不恰好な上着はそのままに、ベルトをきつく締めて対応する
中の人の実話。昔から痩せ型のため、体型が落ち着くまで結構苦労しました。

提督とその副官について

例えるならば平均的な艦これ作品時空における提督と艦娘の契約に近い。提督たる艦娘が全幅の信頼を置くポジションで、衣食住どころか執戦職儀まで全てを共にするケースがほとんどで、激戦区のコンビほどよく左手の薬指に指輪が嵌っている。
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