窓際軍人と気弱な提督のヨーロッパ紀行   作:舞葉

4 / 14
ハセガワの1/700金剛の主砲に悪戦苦闘しながらの投稿となります

え?理由?主砲塔に旋回機能と仰角調整機能持たせようとしたら思ったよりしんどくてですね…
紙テープ丸めてボンドで固定する作業もう二度とやりたくねぇ(なお後三隻残っている模様)


パラシュート降下はいつでもどこでもどんなシチュでもしんどい

オリエント急行の一等車からトリエステ中央駅に降り立ち、三十分ほどの停車時間ののちに黒煙を吐き出しながらホームを旅立つ列車を見送った二人は、一服する間もなくどやどやと現れた男達に先導され、駅から徒歩五分ほどの距離にある、EU海軍トリエステ司令部の正面ゲートを潜った。

 

准将という名の代将扱いだったウォースパイトは少将位を授与され、正式にEU海軍の将官となり、正式に提督を名乗れるように。久遠は昇進こそしなかったものの、准将相当の権限と軍事情報へのアクセス権を与えられ、二人はそれぞれ艦隊副司令と作戦参謀長に就任した。

 

トリエステ司令部の面々の二人への反応は、やや予想出来ていたことではあるが、あまり芳しくなかった。

 

「失礼するわね。中尉、あのファイルを取ってもらってもいい?」

「ご自分でお取りになれるのでは?私も忙しいのですが」

「生憎と、私の足は古傷のせいで余り調子が良くないの。それで?」

「ハァ…こちらです…よっ!と」

「あら、乱暴なのね」

 

「少尉、重油タンクの場所に案内してくれないか?残量を確認したいんだが、何分着任してから日が浅いもんでな」

「…地図はこちらです。あとはご自分でお探しになってください。小官には小官の職務がありますので」

「あ、っちょ…ハァ」

 

万事が万事こんな調子である。その上、艦隊司令長官の反応も微妙だった。

 

「だから、君たちの提案は受け入れられないといっているだろう!私がイタリア海軍司令部から与えられている命令は、現状維持だ。再編などと下手なことを成せば、イタリア海軍の態度を硬化させるぞ!」

「しかし、小官と副司令長官に与えられた任務は艦隊の再編であります。イタリア海軍はヨーロッパ連合委員会の海軍執行部の下部組織です。命令の優先度は小官にあるかと」

「黙れ!これは上官命令だ!現状を、維持しろ。いいな?」

「…イエス、サー。失礼します。……ハァ、ままならんものだな」

 

良く言えば軍政家、有り体に言ってイエスマン。最近は珍しい、安楽椅子将官だ。数カ国海軍を纏めるという意味では軍政家を送り込んだイタリア海軍の慧眼は認めるが、地中海はアフリカ沿岸に跳梁跋扈する深海棲艦の巣窟である。今必要なのは『調停者』ではなく、断固たる意志を持った『作戦屋』ないし歴戦の作戦参謀二人を支えられる練達の『兵站屋』なのだ。とは言え、実態はどうであれドイツ海軍参謀本部からパラシュート降下してきた二人は、司令長官による風評被害も相まって、艦隊の兵員からすらも白い目で見られている。そんな状況で艦隊の再編など、土台無理な話だ。大体、引き継ぎ資料すら碌にないのである。戦艦六隻を筆頭とする艦隊(大規模な軍事組織)を動かす事など、ほぼ不可能に近かった。

 

結果として、暇を持て余したウォースパイトと久遠は、二人にあてがわれた執務室で貴重な日々を無為に過ごさざるを得なくなってしまったのだ。定例業務が片づけば、その後の時間は二人の自由。開き直った二人は、毎日毎日ひたすら机上演習に明け暮れた。二人の経験の厚みと才覚に気付き、その忠誠を艦隊司令官から二人に向けた将校達も居るにはいたが、全体で見ればほんの少数。

 

「主席参謀殿、今日こそアンタを負かしてやる!」

「やれるもんならやってみろ。ほらお前のPC持って来い」

「副提督閣下ぁ、何がいけなかったんですかねこの戦術」

「どれどれ…あぁ、ここの砲台の射線管理と防衛が甘いわね。これならコマンド部隊に乗られるわよ?」

「うわマジだ…ありがとうございます、閣下」

 

古ぼけた駒と地図を使い続ける二人を見かねて、EU海軍の開発した艦隊戦術シュミレーションプログラムを使うよう二人に提案したのは、イタリア海軍とユーゴスラビア海軍、そしてギリシャ海軍とトルコ海軍を主力とする欧州連合海軍の地中海艦隊内ではやや外様に当たる、赤色海軍出身のスヴォーロフ大佐。黒海艦隊として独自の戦力と指揮系統を有する赤色海軍荒野出向将校ながら、なぜか艦隊の兵站参謀次長を務めており、艦隊の将校の中ではローカルネットワークランキングトップ2を突っ走る二人に喰らい付いていた唯一の男でもあった。

 

自然と二人の執務室はゲーム部屋の様相を呈し、ファンタやフルーツジュースなどのソフトドリンク、だれが持ち込んだか大量の酒類と軽食、果てはそれらを長期保存するための冷蔵庫などが次々とどこからともなく持ち込まれ、業務後の溜まり場のような雰囲気を呈してきた頃、転機は訪れた。

 

「副提督、EU執行委員会から、提督宛に封緘命令*1が届いていましたよ」

「ただ事じゃないわね、それは。スヴォーロフ、こっちに回してちょうだい?」

 

久遠の同僚に当たる大佐から渡された命令書には、唐突な突撃命令にすら眉ひとつ動かさない艦娘のウォースパイトが、お淑やかに飲んでいた紅茶を吹くレベルの命令が記されていた。

 

「ふ、副提督閣下!?大丈夫ですか?」

「けほっ、けっほ、けほ…ええ、私は平気よ、スヴォーロフ。それと、今すぐこの司令部に居る少佐以上の全将校を大講堂に集めなさい。それと、私は今から…いえ、これは今はいいわね。とにかく、最悪クドウ大佐だけでも呼んでちょうだい。必要ならば暴力に訴えても構いません」

「…イエス・マム。大至急呼んで参ります」

 

終わ祖日が終わったことを察したスヴォーロフは、全力疾走で久遠が居るであろうドックエリアへ走り出し、ウォースパイトは封緘命令書とやっとこオフィス一式を使えるくらいにはなったパソコン、それにシンプルな黒檀と鋼鉄のステッキを手に、大講堂へ向かった。

 

 

辿り着いた大講堂には、所狭しと各級将校がつまらなさそうに座り、最高司令官を待っていた。壇上に上がったウォースパイトの姿にも、大した興味を示すことはなかった。

 

が、彼らの態度はすぐに一変することになる。

 

「紳士の皆さん、静粛に。紅茶、或いはコーヒーを飲んでいる方々は早急に飲み干しなさい。目の前にある大事なパソコンを壊すわよ」

 

そう前置きした彼女は、各々のカップが空になるのを待たずに話し始めた。

 

「まず、大規模な人事転換の話よ。ヴィルジニオ・フォスカレーリ中将が、艦隊司令官を解任されたわ。後任はメルフィ公クラウディオ・“アエガテス”・ドーリア提督よ」

 

コーヒーを飲み遅れた何人かのパソコンが煙を吹き、大講堂がどよめいた。ターラントに並ぶ現代イタリア最大の海軍都市メルフィの長にして大貴族ドーリア家の当主であり、1500年代に地中海を暴れ回ったかのアンドレア・ドーリア提督を先祖に持っているドーリア大将は、イタリア海軍きっての猛将として知られ、アエガテスの二つ名は古のローマ海軍による海戦に由来する。その彼が艦隊司令官になったということは、そのままイタリア側の意志表明につながる。

 

【 イタリアは、やる気だ 】

 

大講堂の面々がそう悟るのに、さしたる時間は掛からなかった。

 

地中海方面の人類艦隊は少し複雑な編成になっており、地中海艦隊が二つ存在する。

一つは久遠とウォースパイトが所属する『EU海軍の』地中海艦隊、通称東艦隊で、ギリシャ、ブルガリア、ソ連などが徒党を組んでいる。艦隊司令官は軍政派のフォスカレーリ中将。東地中海の哨戒と邀撃が主任務だった。

そしてもう一つが『イタリア海軍の』地中海艦隊、通称西艦隊であり、ヴィットリオ・ヴェネト級現代戦艦を中核としている。艦隊司令官は先述のドーリア大将。ヨーロッパ人類の誇る、強力な打撃艦隊である。

東艦隊にもイタリア海軍艦は所属しているが、コンテ・ディ・カブール級やカイオ・ドゥイリオ級などの比較的旧世代の戦艦がほとんどであり、それも先の大海戦でそれぞれの一番艦を残して根こそぎ戦没してしまっていた。

 

「ですがウォースパイト閣下、ドーリア提督が到着するということは…」

「ええ。流石にイタリア海軍の戦艦は無理だったけれども、フランス海軍の戦艦は数多くこちらに回航される予定よ」

 

ウォースパイトをして紅茶を吹き出させたのはその規模。リシュリュー級戦艦二隻を筆頭に、リヨン級にガスコーニュ級、果ては新造されたばかりのアルザス級までよりどりみどり。

 

西艦隊の総指揮をとっていたドーリア提督が、唐突に大量の艦隊を引き連れて東艦隊の司令長官に収まったというのが今回の事件の大まかな顛末だ。

 

「それと、ドーリア提督は私に私信を寄越したわ。クドウ大佐、読み上げてちょうだい」

「ハッ。えー、コホン。『発、クラウディオ・ドーリアイタリア海軍大将。宛、ウォースパイト少将、及びリュウジ・クドウ大佐。来年の秋に行われるイタリア半島奪還作戦に備え、現行戦力、及びイタリア海軍より派遣される特務海兵師団を指揮し、スエズ運河、及びシチリア島を奪還されたし』…とのことです」

 

久遠が読み上げると同時に、大講堂の映画館ばりに巨大なスクリーンに、東地中海の地図が大写しにされた。

 

「すべての足がかりとして、私が第一攻略目標に定めたのはここ、クレタ島。東地中海に浮かぶ、天然の航空母艦ね」

 

かつてはトルコ共和国が支配していたクレタ島を制圧することは、それ即ちエーゲ海とアドリア海の制海権を手中に収めることに繋がる。戦艦サラミスを始めとする有力な艦隊を持つギリシャ海軍や、中東で唯一抵抗を続けるトルコ共和国にとっても、大きなアドバンテージをもたらせるはずだ。

 

「作戦総指揮は、この私。主席作戦参謀と兵站参謀は、それぞれクドウ大佐とスヴォーロフ大佐が務めるわ。作戦決行予定は一ヶ月後よ。いろいろと、覚悟しておくことね」

 

そう言って、ウォースパイトは堂々と演説を締め括った。

 

「大丈夫ですか、閣下?」

「いいえ。なんだか疲れたわ…緊張するものね。冷や汗が気持ち悪いわ」

 

ただ一人久遠を除いて、その緊張に荒れ狂う心中を誰にも悟らせずに。

*1
目を通せる人物が限られており、正確に伝わらないとえらいことになる命令。大抵は厳重に梱包され、読後の処分が義務付けられている




EU海軍製シュミレーションプログラム

お察しの通り海戦限定のHo○4のようなもの。ただし開戦前演説や兵装搭載量、燃料のやりくりや兵站線の管理に軍民間の折衝まで盛り込まれた驚きのリアル再現度で、Ste○mでリリースされようものなら圧倒的低評価間違いなしのアルティメットクソゲー。世界最大のクソゲーたる現実を再現しようとしたらまぁそうなる。佐官以上に支給されるゲーミングPC顔負けスペックのパソコンでのみプレイ可能であり、基地内のローカルネットワークを使用した対戦も可能。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。